ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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(前話のあらすじ)
 生命に支障の無い怪我を負った先生を飛行能力で護衛中、イヴはヒヨリの銃弾で左目を、サオリの拾ったnonfireナイフで左手を失ってしまう。ジルは意識を失い、先生はゲヘナが回収するまで廃屋に隠されることとなった。


見知らぬ、車両

<<イヴ視点>>

 両膝をついた私はそのままぺたりと座り込む。もう立てない。

 かぶりを振った女性が立ち上がり、銃をこちらに向ける。

「終わりだな。御蔵イヴ。お前のヘイローも破壊するのに手間がかかると思ったが、今なら楽に終わらせられそうだ」

 ヘイローを、壊す。これ以上痛いのかな。目も、背中も、脇腹も、もう痛いを通り越して痺れみたいになってきているけど、苦しいのは同じだ。

 どうしても聞きたかった問いが、二つ。

「……殺したいほど、私達を、憎い……?それと、私を殺す人の名前を、教えて……?」

 目の前の女性が目を閉じてたっぷり30秒は動きを止めた。

「錠前サオリだ。憎いとも。それを今から証明してやる」

 錠前さんがnonfireを捨てて、引き金を引くその瞬間、聞き覚えのあるショットガン(シューティング☆スター)の銃声と、宇沢レイサさんの怒りと憎しみの雄叫びが、私の最後の緊張を折った。私のために、憎まないで、レイサちゃん。言葉は声にならなかった。意識が黒い泥の中に沈む。

 

 左半分が壊れたモニタ、ガタの来たデスクトップパソコン。棚は倒れていて、本やCDが撒き散らされている。私は椅子から激痛で動けない。足下に、途中で切れたLANケーブルが刺さっている、私の上半身ほどの、私自身をデフォルメした大きなぬいぐるみが転がっている。これがジルの言う「コトダマ空間」なんだろう。きっと、触れば、ぬいぐるみが夢の中でいつも撫でているジルだっていう事がわかる。でも、ジルが喋ってくれないことを確認することにもなってしまう。怖い。今は、動けない理由の激痛に感謝した。

 

 左腕、背中、そして脇腹の激痛が私を「コトダマ空間」から現実に引き戻した。ほんのりガソリン臭、ゲヘナのマーク。埃と泥まみれの私の盾とウッドペッカー(30mm機関砲)が壁に固定されている。看護師さんのような人。確か、夜の繁華街で美食研究会を引き渡した人。

 私自身はベッドに寝かされていて、隣に先生が座っている。nonfireが腰に戻っていて、誰かが拾ってくれたんだなと安心する。

 そうだ、こういうとき、ジルは何て言うと場が和むって言ったっけ。思い出した。咳き込みながらも、何とか言葉を紡ぐ。

「……知らない天井だ……」

「"イヴ、大丈夫?本当にごめんね"」

 私が意識を取り戻したのに気付いて、深々と頭を下げる先生。先生のせいじゃない。謝らないでほしい。声を出すのが苦しい。げほ、ごほ、と痰が絡む。

「先生、死体、もとい、患者に返事をさせないでください。背中の弾片を12個取って、他も処置しています。イヴさんもしばらくは喋らないで」

「"ごめん、セナ"」

 セナさん、と呼ばれた看護師さんが私の瞳孔にライトを当てる。

「喋らないで。意識がはっきりしてるなら、瞬きを4回してください」

 私は言われたとおりにする。セナさんは沈痛な表情で告げる。

「良いですか。落ち着いて聞いてください。背中の弾片の処理は行いました。左の眼球と、左手首から先は発見できず、消毒と止血、麻酔の処置だけをしています」

 ああ、やっぱり夢じゃなかったんだ。目はまだ見えるけど、左手は、ギター、弾けなくなっちゃった。ジルとの繋がりがまた一つ消えてしまった気がして、私は残った右目から静かに涙が出るのに任せた。ジル、寂しいよ。

 

 30分ほどして、やっと麻酔が効いてくれたのか、少しずつ痛みが薄れて身体が動くようになってきた。

「……もう、話しても……?」

「少しだけなら」

 セナさんが頷く。

「……まず、先生は大丈夫、ですか……?」

「"私は本当にかすっただけで平気。イヴが隠してくれたんだよね、ありがとう"」

 私も小さく頷く。

「……レイサちゃんは……?」

 先生が顔を曇らせる。

「"相手の指揮官、サオリを追いかけて行った。止めたんだけど"」

 どこに行ったかわからない、ってことかな。

「……先生は、これからどうしますか……?」

「"身体が動くようになったから、包囲されてる正義実現委員会と風紀委員会、近衛師団と親衛隊、シスターフッドの包囲を解く"」

「……私も、連れてってください……」

「主治医としては反対です」

「……戦うのは、無理です……それでも、お願いします……レイサちゃんを、止めないと……」

 先生は1分くらい考えこんで、頷く。

「"わかった"」

「先生」

「"セナの専門家としての見解はわかる。でも、必要な事なんだ。歩けなかったら、私が背負っていくから"」

 セナさんは渋々、本当に渋々という顔で頷いた。

 

 乗せられているのはゲヘナの救急車、あの繁華街の夜の時のと同じ車両らしい。セナさんは下りて先生の指揮下で戦うからと、物陰に車両を止めて、先生と一緒に出て行った。

 窓から様子を見るのは歯がゆいけど、仕方が無い。戻ってきていた正義実現委員会や自警団の子達、そしてセナさんを指揮して聖徒会を排除していく先生。アリウス分校生の数は随分減っているみたいだけど、聖徒会の人数は減ってないみたい。そんなにたくさんいるのかな。

 

 古聖堂から、正義実現委員会、風紀委員会、近衛師団、親衛隊の皆が出てくる。怪我をしたり気絶している生徒も多いようで、救急車の周りが救護キャンプみたいになった。まだ聖徒会が攻撃してきているみたいで、救護キャンプといっても銃声は途切れない。

 誰かにベッドを譲ろうかと思ったけど、「一番怪我が酷いのはあなたなので」とセナさんにやんわり断られた。

 皆に心配されちゃうかな。目は包帯が巻かれているだけだから、どうなってるかはわからないだろう。左手は隠しようがないけど。

 レイサちゃんから返事が無いスマフォをぼんやり見ていると、陰が差す。

「くひ……」*1

「イヴさん、気を確かに持たれてください」

 心配そうなツルギさん、ハスミさん。ハスミさんはツルギさんを軽く睨む。何て言ったんだろう。

「……大丈夫です。また、ミレニアムにお願いしますから……」

 安心させたくて、にこりと微笑む。

 怒ったように顔を歪める*2ツルギさんと、泣きそうな顔をするハスミさん。

「本当は付き添いたいのですが、まだユスティナ聖徒会の攻撃が続いているので、我々は戻ります」

「ひひ……」

 これは翻訳されなくてもわかる。『お大事に』だ。

「……アリウス分校は減りましたが、聖徒会、随分多く無いですか……?」

 小声で、ハスミさんが囁く。

「他の子達には内密に。気付いている生徒もいるでしょうが、恐らくあれは無限に発生してきます」

 無限湧き。モモイさん辺りに言わせれば「クソゲー」だ。それで解囲できなかったのか。

「それと、先生の支援がないと、スマフォは確実には使えません。電波妨害と基地局の破壊が行われています。我々側も臨時の基地局を建てているのですが」

 先生を隠した時に通じたのは、運が良かったのか、先生の持っていた何かの機材のお陰だったのか。レイサちゃんにはいずれにせよ連絡は通じないみたいだ。

 

 気を遣ってくれた二人に礼を言った後、聞き覚えのある爆音がゆっくりとこちらにやってくる。スケルチの音だ。遠目に見ると、ボロボロになったスケルチには同じくボロボロのマシロさん、アズサさんが乗っている。そして補習授業部の皆がついてきていた。

*1
イヴにはわからないが、ツルギなりに配慮して今後の治療の話をしかけたものの、今する話では無いと、あえてハスミは訳さなかった

*2
心配している時のツルギさんの顔。




 本世界線のゲームだと、この解囲戦は正義実現委員会モブ2人、自警団モブ1人、風紀委員会モブ1人、スペシャルにセナを指揮してアリウス分校生(少数)とユスティナ聖徒会(主力)を撃破して、包囲されているヒナ、アコ、ツルギ、ハスミを助けるイベント先頭になります。

 本作において、キヴォトスは医師と看護師兼業が普通で、セナは看護師っぽい服装してるけど医師として処置できると解釈しています。ハナエとか看護師っぽいけど手術(?)している描写がありますし。
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