ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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終わりなき熱い追跡

 マシロさんがまず救急車に入ってくる。

「イヴさん、スケルチを傷つけ――」

 はっ、と私の左手を見て、息を呑むマシロさん。

 私は先んじて言う。

「……マシロさんのせいじゃない。逆方向に、伏兵がいた……」

 無言で頭を下げるマシロさんに、私は右手を振る。

 

 ついで補習授業部の皆が入ってきて、狭い車両はぎゅうぎゅうになったけど、何だか賑やかでほっとする。

「イヴ、私の活躍――イヴ?!手?!どうしたの?!」

 涙目になるコハルさん。抱きつかれて、麻酔越しの痛みが蘇る。ジルはこんな痛い思いをいつもしてくれてたのかな、と、二重の意味で涙が出そうになるのを堪える。

「誰にやられたんですか?」

 すっと、怖い目付きになるヒフミさん。こ、怖い……。

「……錠前、サオリさん、と名乗っていました……」

「サオリか。私達がサオリを仕留めていれば……」

「恐らくですけど、錠前さんと我々が交戦したのはイヴちゃんの後です」

 ボロボロの姿で目を伏せるアズサさんと、笑ってないハナコさん。

 

 皆、私を気遣ってくれる。嬉しいけど、いつもの私は、ジルと二人で一人だから、半分だけの私を気遣ってもらうのは、何だか悪い気がする。今の私は、半分しかないんだ。

 

 先生がユスティナ聖徒会戦を優位に進めているのを見たハナコさんが、情報交換と共有を提案する。私は頷いた。

 巡航ミサイルの迎撃をして、黒い奇妙な弾頭を1発被弾しかけたこと。

 先生を連れて脱出して、先生が脇腹に被弾したけど、内臓には当たっていないこと。

 マシロさんと分かれてこちらに戻ってきた時に、空中で地対空ミサイルと狙撃銃で撃たれて、背中と目を怪我したこと。

 先生を隠して、こっちに戻ってきたこと。

 自分の落としたナイフで左腕を落とされたこと。

 左目も左腕も、黒いドローンが空中で回収したこと。

「目も?!イヴ、馬鹿……馬鹿イヴ……」

 コハルさんにぎゅうぎゅうに抱きつかれて、正直なところそっちの方が痛いのだけど、言わない。コハルさんの涙と鼻水で汚れるの自体は構わないけど、セナさんに後で怒られるかもな、とぼんやり思った。

「目は、誰にやられたかわからないのですよね?」

 ヒフミさんの目の方が怖いです、と言えない、言わない私は偉いと思った。

 

 アズサさんを中心にして、アリウス分校のトップである特殊部隊、アリウススクワッドと戦った話を聞いた。

「錠前サオリは、チームのリーダーで、アリウスで恐らく一番強い相手だ。アリウススクワッドは、錠前サオリ、秤アツコ、戒野ミサキ、槌永ヒヨリで構成されるチームだ。私の、家族同然だ。すまない」

 謝るアズサさんを宥める。本当の家族だとしても、責任があるわけじゃない。

「……ヒヨリさん、って、水色の髪の、何となく自信がなさげで、でも押しが強い人ですか……?」

「知ってるのか?」

「……駅前で、ご飯をご馳走しました……」

「ヒヨリは要領が良いからな。あり得る話だ。話を戻すが、私達はハナコの推測で、スクワッドの一時的に使っているアジトを見つけて、トラップを張って交戦した。向こうはアツコがいなかったうえに、自警団の――」

「宇沢レイサちゃんです。レイサちゃんが加勢してくれました」

「だが、結局、向こうの増援に化け物が出てきたんだ。私達の倍はある巨人だった。勝ちきれずに、ヒフミの作りかけのぬいぐるみに大型爆弾を仕込んで逃走した。それなりにダメージは与えられたと思う」

「作りかけというか、失敗品というか……あはは……」

「ヘイロー破壊爆弾、恐らくイヴが喰らいかけたのはそれだ。私も1つだけ手元に持っていたが、使う勇気は出なかったし、あれは、使ってはいけないと補習授業部の皆と話し合って決めたんだ。正義実現委員会にさっき預けてきた」

「……私、聞いてない……私も補習授業部……」

「あ、す、すまない」

「……冗談……」

 ふふ、と笑う。涙声で私の胸元に顔を埋めたままのコハルさんが「何笑ってんのよ、馬鹿イヴ」と呻く。

 

 時系列を整理すると、錠前さんは、先生を追撃→私と戦闘→補習授業部と戦闘と連戦状態らしい。

「……レイサちゃんは……?」

「わからない。我々が後退した時には一緒にいたんだが」

「きっと、錠前さんを追いかけているんだと思います。私ならそうします」

 ヒフミさんの目がどんどん昏くなっていくのはきっと気のせいじゃないと思う。私自身より怒ってくれているんだと思うんだけど、怖い。

 

 正義実現委員会の顔見知りの子から耳打ちを受けたマシロさんが今戦える子の人数を各組織ごとに教えてくれて、とにかく情報交換は終わった。

 

 情報交換は終わった物の、これからどうすれば良いか。私は途方にくれてしまった。まずはレイサちゃんの安全を確保したいけど、そうするとアリウススクワッドとぶつかるかもしれない。

「……私は、レイサちゃんを、連れ戻したい……」

「ごめんなさい、先生、皆さん。今、根治療法だけでなくて、対処療法も必要です。そのためには、私と、正義実現委員会のお二人は後から追いかける形になります」

 ハナコさんはシスターフッドとティーパーティーに行かなければならず、マシロさんはユスティナ聖徒会との戦闘に加勢、コハルさんは正義実現委員会本部に様子を見に行く形になり、先生は頷く。

 アズサさんとヒフミさんが、ちょうど戻ってきた先生に一緒に声をかけてくれた。

「"アリウススクワッドが、作戦の司令塔でもあるんだね。なら、スクワッドを止めるのはこの状況収拾、ハナコの言葉を借りるなら根治療法に一番だ。アズサ、ヒフミ、イヴ、手伝ってくれる?"」

 私達は揃って頷く。

 

 先生のタブレットの効果か、治安維持アプリが一時的に動作を取り戻す。レイサちゃんの位置がざっとだけどわかる。

「"レイサが振り切られてる可能性もあるけど、まずはレイサと合流しよう"」

 

 先生に背負われる情けない状況だけど、私達はとにかくレイサちゃん達のいる方向に向かった。意外にも古聖堂のすぐ近く。近くと言っても範囲は狭くない。私は必死に耳を澄ます。ジルがいなくなって、目も、耳も利かなくなってしまった。でも、きっと去年からなら、レイサちゃんの愛銃の音を一番聴いてるのは私。

 

 銃声を頼りに見つけたレイサちゃん。ユスティナ聖徒会と戦いながら、古聖堂近くの地面を必死な表情で探し歩いている。もう片手には、正義実現委員会標準装備のショベル。

「……レイサちゃん……」

「い、イヴちゃん……イヴちゃん……」

 ショベル*1を放り出して、私の左腕にすがりついて泣くレイサちゃん。もう痛いのも段々慣れてきた。

「す、スクワッドのリーダーを倒そうと思って追いかけてきたんですけど、この辺りで消えたんです」

「レイサ、済まない。彼女が地下に潜ったのは間違いないが、古聖堂の下に古い合同墓地、カタコンベがあるんだ。カタコンベがアリウス分校に繋がっている。だから――」

 レイサちゃんがアズサさんにすがりつく。

「教えてください!すぐ追いかけます!」

「カタコンベからアリウス分校への道は変化する。私の知っている道では、今はたどり着けない。この辺りの入口はわかるが……」

 この世の終わりみたいな顔をするレイサちゃんを、私は左手の手首辺りで撫でてあげる。泣きそうな顔をするレイサちゃん。

「……レイサちゃん、大丈夫……司令塔なら、また、戻ってくるはず……」

「"入口がわかるなら、一度正義実現委員会本部に戻って、弾薬の補充をしてから行こう"」

 先生の提案に、レイサちゃんは涙目で頷く。レイサちゃんの目も、ヒフミさん同様昏くて、私は、私のために怒ってくれているのに怖いと思ってしまって後悔した。 

*1
どこかで拾ったんだと思う

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