ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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青春の記録(Blue Archive)

 朝からしとしとと雨が降り続く気候の中、古聖堂再占領作戦「トーチ(たいまつ)」が始まった。

 傷がまだ治りきってないとはいえ、ツルギさん、ヒナさんと、逃げ回って力を温存していた便利屋68、美食研究会、そして今日応援に来てくれたばかりのアビドスを中心とした、正義実現委員会、風紀委員会、近衛師団、シスターフッドの力で、攻守を変えて、残存するアリウス分校生とユスティナ聖徒会を撃破、あるいは降伏させていく。これが古聖堂を中心として9時方向からの攻撃。

 ゲヘナの親衛隊は「諸事情により」攻撃に不参加、何らかの捜索活動に入っていて一悶着あったみたい。*1戦車数両が、学園内の空港に向けて出発していった。

 

 アズサさん、ヒフミさん、ハナコさん、レイサちゃん、コハルさん、私と、私のためについてきてくれた救護騎士団のセリナさんがアリウススクワッドの撃破のために、先生とともに3時方向から回る。ユスティナ聖徒会は昨日より大きく数を減らしているせいか、ほとんど遭遇しない。

 回り込んだ私達は、防御を指揮していた錠前さん、黒髪マスクの女性(おそらく戒野ミサキさん)、ヒヨリさん、そして昨日言っていた「巨人」がいた。尖った冠、青白く光る首飾り、大きな人型、なるほど、巨人だ。

 錠前さん、ヒヨリさんは私から目を逸らし、アズサさん、そして先生を睨みつける。

「来たか。だが、ユスティナ聖徒会は無限に喚べる。お前達をすり潰す」

 アズサさんが反論する。

「昨日より数が減ってないか。アツコはどこにいる?アツコに何かあったんじゃないのか?」

 その一言で、あからさまに動揺するアリウススクワッド全員。考えたくなかった事を指摘された、という目だ。

 

 私はほぼ戦力にならない。片目だと奥行きもわからないから、クラリオン(ショットガン)を後ろから適当に撃つしかできない。ほとんど手応えもない。それでも、私の存在自体が少しは牽制になるみたいだ。錠前さん、ヒヨリさんは、むしろ私を視界に入れないようにしている。私が歩くだけで、狙いが甘くなる。巨人は見かけ倒しだったのか、既に傷ついていたのか、あっさり倒れて消えた。

 

 ユスティナ聖徒会のうち、防衛に回っていた以外の全てがこっちに集まりつつあるみたいだ。戦況は先生の指揮をもってしても拮抗しており、錠前さんが激昂して叫ぶ。

「アズサ、お前だけが手を汚さず綺麗なまま、正しくあろうとするのか!教えを思い出せ!全ては空しいと言うことを!」

 梱包爆薬を投げつつ、アズサさんが反論する。

「空しいからといって、努力をしないという理由にはならない!」

「この世界は苦痛に満ちている!見るが良い、御蔵イヴを!我々はお前達全てを否定する!」

 私を引き合いに出されて、レイサちゃんと、遂にヒフミさんがキレたみたいだ。

「誰がイヴちゃんをこんな目に遭わせたんですか?!許しません!!」

「ふざけないでください!自分達で怪我させておいて、それが世界の苦しみの証明になるんですか?!」

 ヒフミさんはペロロのバッグと銃をそっと置いて立ち上がる。

「私は普通の生徒です。何の取り柄も無い、変わったところもない生徒です。でも、あなた達の『全ては虚しい』という考え方は大嫌いです!私は苦しいことがあったら慰めあい、皆で助け合い、努力して勝利する普通のハッピーエンドが大好きなんです!私達の、青春の記録は否定させません!」

 ヒフミさんが天を指して宣言すると、さぁ、と雨が止み、雲が引いて青空が広がる。「馬鹿な」と錠前さんが呟く。

 先生が古聖堂の戦況を見て、朗々と響く声で宣言する。

「"私達がエデン条約機構だ。古聖堂、正義実現委員会、風紀委員会、シスターフッドは私の指揮下にある"」

 驚愕する錠前さん。

「馬鹿な……!」

「まずい、ユスティナの統制が乱れてる」

「苦しいですね、辛いですね……」

 錠前さんはまるで泣き出しそうな、怒りと悲しみに満ちた顔で吼える。

「認められるか、こんなことが……お前達全てを、必ず否定する!」

 ハナコさんが呟くように言い、コハルさんが続ける。

「そんなことはできません」

「私達が試験で合格したのも、古聖堂を奪還したのも本当だもん!無かったことにはならない!」

 レイサちゃんがリロードしながら、大声で答える。

「毎日の積み重ねが、明日を産むんですよ!その毎日は、無くなりません!そして、あなた達がしたことも!!」

 アズサさんが発砲しながら堂々と答える。

「例え虚しくても、私はそこからまた立ち上がる。努力しなければ変わらないからだ」

 私はゲーム開発部の皆の言葉を思い出して、小さく笑って呟く。

「……ふふ、『死ななきゃ安い』よ……」

 一瞬アリウススクワッドを含めてギョッとする一同。ちょっと、ブラックジョークが過ぎたかな。

 

 傷ついてふらつくアリウススクワッド達。こちらも、昨日から連戦が続いてふらふらだ。

「お前達だけが、青空の下に残るのか?そんなことはさせない……」

「リーダー、もう無理だよ。ユスティナも……」

 無言で私と錠前さんを交互に見るヒヨリさん。私はヒヨリさんの目をじっと見る。気まずそうに目を逸らしつつも、私を見るのを止めないヒヨリさん。

「まだだ、まだ地下にはアレがある」

 手榴弾を大量に投げて煙幕を作り後退していくアリウススクワッド。

「せ、先生、まだ何か切り札が、けほっ」

 ヒフミさん、ハナコさん、コハルさんはもう限界のようだ。

「"皆、頑張ってくれたね。ありがとう。アズサ、それと、レイサはまだ大丈夫?"」

「ああ、決着をつけよう」

「一人でも追いかけるつもりでした。行きましょう」

 いつも通りアズサさんが淡々と頷く。いつもの元気さじゃなく、怖いほどの冷静さでレイサちゃんが呟くように答える。

「……レイサちゃん、アズサさん、先生……無理は、しないで……」

 レイサちゃんが慎重に、言葉を選んで答える。

「ありがとうございます!きっちり、その、捕まえてきます!」

「ああ、努力する」

「"ありがとう。イヴ達は正義実現委員会と合流して治療をちゃんと受けて"」

 アズサさんとレイサちゃんだけが先生に続く。私も行くか、セリナさんに先生に着いていってもらいたかったけど、どちらも「一番の重傷者はイヴさんですから」と止められてしまった。

 

 私も緊張が切れたのか、地面にごろりと寝転がってしまった。そのまま意識を失ってしまったらしい。

 また見覚えの無い天井、消毒液の匂い。

「……知らない天井だ……」

「イヴお姉ちゃん!!」

「イヴちゃん!!目が覚めましたか!?」

 今度は二人分の体重が肋骨に掛かっている。うう、と小さく呻く私。おまけに「知らない天井だ」はウケなかった。ジル、どうしよう。

「……レイサちゃん、イブキちゃん……?」

「イブキね、イヴお姉ちゃんに健康診断で呼ばれて来たんだよ!イヴお姉ちゃん、私の注射より痛かったよね?」

 ぽろぽろと泣きながらぐりぐりと抱きついてくるイブキちゃんと、同じく強く抱きしめてくれるレイサちゃん。痛いとは到底言えない雰囲気だ。これもまた、死ななきゃ安い、なのかもしれない。

 イブキちゃんはわざわざトリニティで、エデン条約締結日に健康診断を受けて、血液採取もされたらしい。不思議な話だ。

 

 レイサちゃんと、後から来た先生が説明してくれたところによると、アリウススクワッドに秤アツコさんが合流したうえで、また別の巨人が現れて、全員に逃げられたらしい。

 レイサちゃんが右手を握りしめて呟く。

「絶対に、報いは受けさせます」

 私のために怒ってくれているのに、私の背筋が寒くなるくらい、冷静な声だった。

 雰囲気を変えたいのだろう、先生が場違いなくらい陽気に言った。

「"その巨人、今、イヴが着てるシャツのに似てたよ。色は違ったけど"」

 フードを被って顔も何も見えないメンバーが描かれているバンドTシャツ*2を部屋着代わりに着ていたのだけども、それのことらしい。

 くすりと私が笑ったことで、場の雰囲気は少し明るくなった。

*1
最終的にはヒナさんの「風紀委員会がその分を埋める」の一言で解決した。

*2
外の世界のBatushkaというバンドのもの




 執筆に当たって再読しましたが、やっぱり原作のこの辺りの下りは神がかってますね。
 ユスティナ聖徒会の数が減ったのは、マダムがアツコだけを呼び戻してアンブロジア完成のための実験をしていたからです。

 また、イブキはトリニティの戦闘が行われていなかった貴賓用飛行場の連絡機内で健康診断を受けています。健康診断を行ったのはアリウスの息が掛かった人間で、血液やデータは全てアリウスに持ち去られています。

 最後に触れたBatushkaはポーランドのバンドです。Youtubeで
"TRUE BATUSHKA" LIVE IN BANGKOK @Mr.FOX Live House
で検索すると公式のライブ映像が出てきたりするのでよろしければ。まあフードで顔が見えないってだけなんですが。
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