ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
あまりに収容者が多すぎて、関係者以外は面会もできない状態で、私は廊下のソファに寝転がってソフノちゃんとモユルちゃんに電話していた。怪我の状態を包み隠さず伝えると、二人は一旦電話を切って、5分ほどしてからかけ直してくれた。ぐすぐすと鼻声になっているので、悲しんでくれているみたいで、こっちが慰める不思議なことになった。
その後、ユウカさんとエンジニア部、ゲーム開発部の皆から電話が掛かってきた。事情はもうレイサちゃんから聞いていたみたいで、皆泣いたり怒ったり、励ましたりしてくれる。
エンジニア部が義眼と義手を作ってくれるみたいで、目は前ほどじゃないけど見えるようになるはず、と聞いて嬉しかった。やってみないと判らないらしいけど。
義手は説明が難しくて半分くらいしかわからなかったけど、筋肉の電流を使って動かすのと、
私自身、目も左手も悔しいし悲しいし辛いけど、何だか現実感が無くて、皆が私の代わりに怒ったり泣いたりしてくれているみたい。変だとは思うけど、何だか嬉しい。
でも、私自身はジルがいないから、上手く怒ったり泣いたりできないのかな。寂しい。
歩けるから退院したいと言いたいけど、5分歩いたら15分休憩しないといけない状態で「大丈夫です」と言い切る勇気がなかった。
嬉しかったけど疲れたのでベッドに戻って寝ていると、ざわめきと共にティーパーティーの近衛師団4人を連れたナギサさんがやってきた。怪我人の慰問をしているみたいだ。
頑張って上半身を起こそうとする私をナギサさんが留める。
「御蔵さん、この度の補習授業部の件、そしてお怪我の件は本当に申し訳ありませんでした。ミカさんからも謝罪の言葉を預かっています。『こんなになるなんて判ってるならしなかった。ごめん』だそうです」
「……別に、怪我はナギサさんのせいでも、ミカさんのせいでもないです。ナギサさんは、大丈夫ですか……?」
「はい、瓦礫に埋もれそうだったところを彼女に助けてもらいました」
そう言ってちらりと横にいる近衛師団の子を見る。
「……大した怪我が無くて、良かった……」
そう言って微笑む*1と、ナギサさんは、私の左手*2と左目を見て、もう一度謝ってから深々と頭を下げた。近衛師団の子達や、他の横たわっている子達も小さくどよめく。
政治とかはあんまりわからなかったけど、ジルに言われてちょっとだけ勉強してた頼りない知識のお陰で、ティーパーティーのホストが
私の頭の中でゴーストが「これは面倒なことになった……」と囁く。ジルならきっとそう言うよね。
ナギサさんが帰った後、疲れ切った私は二度寝を決め込んだ。どっちにせよ、寝る以外やることはほとんどない。
寝るとコトダマ空間だった。モニタが半分割れているのと、キーボードも片側が無くなっている。部屋の左手は片付いてるけど、右手、ジル側は滅茶苦茶なまま、気が滅入る。私はジルのぬいぐるみを膝に乗せて撫でる。返事が無い。寂しい。
こんこんとドアがノックされた。白い服を着た、狐耳の人が入ってくる。
「イヴ、無事ではないようだね。言い訳にしかならないが、私の未来視には君が映っている場面が無くて、済まなかった」
済まなそうに頭を下げるセイアさんを私は止める。
「……セイアさん、そういう姿だったんですね……?」
セイアさんは小さく驚いた。
「なるほど、ジル言うところの『コトダマ空間』視認に目覚めたのか。それに意味があるのかは、わからないが」
写真のしかめっ面より、先輩に対して使う言葉では無いけれども、可愛らしくてくすりと笑う。
「……本当に、狐さんなんですね……」
「ああ、そうだとも」
優しく微笑むセイアさんは、私の左手と左目を見て表情を曇らせる。
「その、左手と左目は、ここでは見えて動くのかい?」
私は首を横に振る。コトダマ空間ではちゃんと左手も左目もついてるみたいだけど、動かないし見えない。
「……魂の方が、肉体に合わせるのに時間がかかるのか、それとも、完全には一致してないのか……」
私は動かない左手をぶらぶらと振る。
「イヴ、申し訳ないが、まだ君の力が必要らしい。といっても、私が頼まなくても君は先生についていくことになるようだが」
「……その未来に、私が映っていましたか……?」
「ああ。この悲劇にはまだ続きがある。忌々しいことにね」
「……先生の助けに、今の私がなるでしょうか……」
正直なところ、歩いてついて行ければ充分自分を褒められるほどの状況だ。
「わからない。しかし、ついていくことだけは確実だ」
「……それを、私が断ったら、未来がより良くなったりしますか……?」
今までのセイアさんの話では無理だろうなと思う。
「仮に救護騎士団の誰かが鎖でベッドに縛り付けたとしよう。そのベッドごと、現地に行くことになるだろうね」
私は小さく溜息をついた。こんな状態で、先生や誰かの助けになれるのだろうか。
薬を飲むために起こされてご飯を食べる。点滴や注射は痛いから、まだ食事の方がマシかな。とはいえ、あんまりお腹が空いてない。
セイアさんの言う事は事実だろう。少しでもたくさん食べて、リハビリも出来るだけ、明日からでもしないといけない。
<<セイア視点>>
(夢の中でもやはり、攻撃を受けた……!)
イヴの奇妙な相棒、ジルの助言「
(早く、早く目が覚めろ……!)
「逃がしません、預言の大天使……!」
目が覚めた。ゲマトリアなる団体の、あの赤い肌の大人、アレがアリウスを支配している。
「セイアちゃん、大丈夫?」
目の前に、ミカがいて再度飛び退きそうになった。そうだ、ミカと面会予定だったのだ。
冷や汗と脂汗、動悸が止まらないが、決定打の一撃はもらわずに済んだ。まだ喋れる。考えられる。
近衛師団4人、サンクトゥス分派とパテル分派それぞれ2名ずつと、正義実現委員の監視が2人、壁に控えている。彼女らは私達の護衛でもあり、監視でもあり、立会人でもある。
「先生が、先生がアリウススクワッドに狙われる!」
私は後ろの正義実現委員に向けて叫ぶ。こんな大声を出したのが何年ぶりかわからない。
「すぐに先生に連絡して護衛をつけろ!自警団にも連絡!」
慌てて退出する正義実現委員のうち1人。正義実現委員会は半壊、だが自警団はまだましなはずだ。
そして、目の前に、トリニティ最強の戦力の1人がいる。
「ミカ、いいか、よく聞け。先生も含めて我々は『聖園ミカは人外の怪物を操るアリウス分校に脅迫されてやむなく従ったものであり、反省の意を示しているため謹慎と奉仕活動の後、元の立場に復帰する』という筋書きを書いている」
「え、セイアちゃん、今、その話必要?」
「必要だ。今、動ける一番強い人間は君しかいない。ツルギは回復したと言っているが、まだ怪しいところだ。先生を守ることが、君自体の、ひいてはトリニティへの名誉回復に繋がる」
私は言葉を探す。しかし、適切な言葉が出てこない。
「御蔵イヴを連れて、先生を助けに行ってくれ。君と彼女の力が必要だ」
珍しく単刀直入な言葉に、これも珍しく、ミカは茶々を入れずに頷いた。