ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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一等星の君へ

 夜中、静かに、お供も連れずにミカさんがやってきた。

「先生を助けるのに、手を貸して欲しいの」

 大部屋だからというのもあるだろう。ミカさんが小声で囁きながら、制服に着替えるのを手伝ってくれる。右手だけで服を着たり脱いだりするのは、まだ慣れてない。

「セイアちゃんが『絶対に連れて行け』って言うからさ。ごめんね、その、怪我、さ。私のせいでもあるんだよね……」

 私は首を横に振った。体調が万全だったら、こんな怪我は負わなかったかもしれないけど、それはたらればの話だ。長丁場になるかもしれない。頓服の鎮痛剤や抗生物質をスカートのポケットに突っ込む。

「……私も、先生は助けたいですし、セイアさんから、頼まれてます。スケルチ……バイクが自動操縦で動かせます。行きましょう……」

 

 先生の座標を先生自身に教えてもらって、スケルチを自動操縦で走らせる。片腕での運転に自信がないから*160km/h以下の速度で安全運転。あちこちに被弾して穴は空いてるけど、オイル漏れとかはなくてよかった。後ろに乗っているミカさんは何だか楽しそうだ。

「バイクなんて初めて乗ったから!」

 ふふ、と笑みがこぼれる。

 

<<先生視点>>

 ナギサ、ミカ、ハスミ、そしてイヴから「最寄りの正義実現委員か自警団員と合流してほしい」という連絡があった。

 私は夜中の時間に、呼出元不明の、指定された座標に向かっていた。治安維持アプリにはアロナがアクセス出来る*2し、この間怪我したばかりだ。誰かについてきてもらうのは悪くないかもしれないけど、私の推測が正しいなら、先に呼出者に会っておきたい。

「先生!自警団のスーパースターが来ましたよ!!!」

 普段ならホッとする声。顔見知りの親しいと言っていい生徒、レイサが疲れを隠しきれない、でも一等星のように明るい笑顔で駆け寄ってくる。

「先生はこんな時間にお散歩ですか?」

「"うん。レイサ。これから人に会う予定なんだ。レイサには申し訳ないんだけど、私が良いって言うまでは絶対に撃たないで欲しいんだ"」

「??わかりました!勝手に撃ったりしません!」

 

 指定座標に着いた頃には、にわか雨が降り始めた。指定座標はレイサ曰く、権利が錯綜していて再開発が滞っていて、不良も寄りつかないような地域らしい。

「先生……と、宇沢レイサ?」

 現れたのは予想通り、サオリとヒヨリだった。さっきまでニコニコしながら話していたレイサの表情が抜け落ち、がしゃりとショットガン(シューティング☆スター)を操作し、安全装置を解除する。

「"レイサ、ごめんね。少し話をしたいんだ"」

 レイサは無表情だが、瞳は激怒を、そして今にも泣きそうだ。銃口をサオリに向けたまま、小さく頷く。

 

 サオリは銃を放り出して、手と膝を地面について跪く。ヒヨリも地面に正座する。

「先生、先生だけでなく、トリニティの皆に怪我をさせた我々がこんな事を頼むのは恥知らずだ。罵ってくれて構わない。後にどのように処罰や報復を受けても構わない。頼む、夜明けまでに姫を……アツコを助けるのを手伝ってほしい。もう、先生しか頼れる人がいないんだ」

 サオリが言っても立ってくれないので、私も膝をついてサオリの話を聞く。アリウス分校からも追われていること、アリウス分校は「マダム」という大人に支配されているということ。夜明けにはアツコが生贄になってしまうということ。

 話を聞きながら、横に立っているレイサの様子も見る。最初はぴったりとサオリの左目にあっていたレイサの銃口の照準がふらふらと揺れ始めている。

「"スクワッドの後一人、ミサキを迎えに行こう。場所はわかる?"」

「助けて……くれるのか?」

「"レイサもお願い。嫌だと思う気持ちはわかる。わかるけど、人の命がかかってるんだ。手伝ってくれない?"」

「わ、私は……私は、イヴちゃんに怪我をさせたこの人は絶対に許せません」

 サオリはレイサに向き直り、もう一度深く頭を下げた。

「さっき言ったとおりだ。御蔵イヴへ与えた怪我と同等、いや、それ以上の報復をしてもらっても構わない」

 ぐっ、と言葉に詰まるレイサ。その時、大型の真っ黒なバイクが静かに滑り込むようにやってきた。イヴの愛車、スケルチだ。私は慌てて手を大きく振って無事を伝える。

「やっほー☆先生、助けに来たよ!」

「……先生、ご無事ですか……?」

「"待って!撃たないで!襲われたりはしてないんだ!"」

 イヴとミカがやってきてくれた。私のために動いてくれてるんだろうけど、気まずい面子になってしまった。案の定、固まるミカ。イヴはアリウスの2人を見ても眉を小さくひそめただけで、その後に、レイサの方を見て嬉しそうな顔をしている。

 

 とにかく時間がないので、ミサキを迎えに行きながら2人に説明をする。自動操縦のスケルチがイヴを乗せたまま、スクワッドの荷物を全部積んで歩く速度でついてくる。

 スケルチから下りて歩きながら話を聞いていたミカは渋い顔をする。イヴは、そうなんだ、という感じの無表情。

「もちろん私も悪い、っていう前提はあるけど。人を殺したかも、ってずっと思い悩まされてさ、テロまでされて。セイアちゃんのお願いは『先生を守って』だけだったから、ここでこの2人を倒しちゃって、先生を無理矢理トリニティに引きずって連れて帰ってもいいんだけどな」

 ミカは悪戯っぽく笑う。

「でもさ、サオリ。覚えてる?私が最初にしたかったことは『アリウスとの和解』なんだよね。もちろん、私も、そしてサオリ達アリウスもやったことの償いはしないといけないんだろうけど。私は『奉仕活動と謹慎』の予定なんだよね。その対価に友達を助けるのは先生は関わらせないし勝手にやれ、っていうのは重すぎるかな。ここは先生に借りを返すために一時休戦、私は手伝うよ」*3

 ミカの強さは身に染みて知っている。「一時休戦」という言葉は不穏ながら、ほっと胸をなで下ろしてから、イヴとレイサを見る。レイサはイヴの左腕に抱きついて、不安そうな子犬のような目でイヴを見ている。

「……私も、セイアさんに先生を頼まれました。目と手はともかく、許せないこともありますけど……今は、手伝います……」

「"ありがとう、ミカ、イヴ、レイサ。ちゃんと、話をする場と時間を作るから"」

 目でも手でもない、友人を傷つけられたことだろうか。こちらも「今は」だ。レイサも当然だけど、イヴもしっかり話を聞かないといけないな。

 

 ミサキは放棄された橋の上にいた。自死を仄めかすミサキを、サオリが「無理矢理にでも助ける」という物理的な説得をしてから無事合流するミサキ。

「日が変わるまでにカタコンベに戻らないといけない。カタコンベの通路は、毎日構造が変わる。私達の知っている道は、日付が変わると使えなくなる」

 ミサキの説明に「……風来の試練、みたい……」*4と頷くイヴと、不思議そうな顔をするレイサ。うえー、走るの、って顔をするミカ。

 スケルチがイヴに加えて全員分の荷物を積んでも平気だから、身体一つで走れるのは助かる。スクワッドの皆が栄養失調からか、少しふらついているのが気になるけど、とにかく防衛についているアリウス分校生を、指揮するまでもなくミカが一撃で鎧袖一触する。

「さ、早く行こ☆」

 ミカが敵に回らなくて良かった。心底そう思った。

*1
自動操縦でも緊急時は手動で動かさないといけない

*2
ハッキングで無く、アクセス権をもらっている

*3
借りというのは処分をなるべく軽くするよう嘆願と弁護をした事だろう。

*4
キヴォトスのゲームはこの表記が正しい




 原作のミカ、ホラーゲームの追いかけてくる型ボスっぽいですよね。
 拙作では皆の細々した行動が積み重なり、ミカは『魔女』にはならないので、道中に関しては難易度が下がります。
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