ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
イエスは言われた。「あなたに言っておく。七回どころか七の七十倍までも赦しなさい。(中略)
あなたがたの一人一人が、心から兄弟を赦さないなら、わたしの天の父もあなたがたに同じようになさるであろう。」(マタイによる福音書18:21,22,35)
<<イヴ視点>>
カタコンベ、ミカさんが素手と足で邪魔な瓦礫や壁をどけてくれたので、スケルチは荷物を積んだまま、下りずに済んだ。
重苦しい沈黙の中、ぽつりぽつりとサオリさんが話す。
「旧校舎からバシリカに地下道があり、そこを目指す。廃校舎で30分ほどの大休止を取ろう」
私には特に反対する理由は無い。儀式は夜明けまで余裕があるらしいから、適切な休憩はあった方がいい。特に今の私は、スケルチに乗っているだけでもしんどいから、助かる。
廃校舎についた途端、サオリさんががくりと膝をつく。
「リーダー、酷い熱」
「無理をしてたからですね……」
「……頓服の解熱剤*1と、抗生物質がある。本当は、処方された人以外が飲むのは良くないけど……」
私はポケットに突っ込んでおいた薬を分けてあげて、自分も飲んでおくことにする。
「あ、ありがとうございます!リーダー、飲んでください……」
「そういえば、私達スクワッドはちゃんと名乗ってなかったね。宇沢レイサ、御蔵イヴは要注意対象リストに載ってたから、私達は一方的に知ってるけど」
そう口を開いたミサキさんもさっきのやり取りで名前を呼ばれていたので知ってはいる。錠前サオリさんは面と向かって戦ったときに聞いたし、ヒヨリさんは繁華街で会ったときに聞いた。
「私は戒野ミサキ。リーダーが錠前サオリ、そっちが槌永ヒヨリ。ここにいない、私達が助けたい『姫』が、秤アツコ」
「え、えへへ……。イヴさん、ご飯とお土産と雑誌のご恩がありながら、申し訳ありませんでした。言い訳になるんですが、頬を狙ったんです。本当は……」
卑屈な笑みを浮かべながら、ペコペコと頭を下げるヒヨリさん。
「あの時背中を撃ったのは私、悪かった」
「……ううん、運が悪かっただけ……」
目を撃ったのがヒヨリさんだと判って、
真っ赤になって怒っているレイサちゃんにきゅっと抱きつく。
「……レイサちゃん、私のために怒ってくれてありがとう。私も、何とも思ってない訳じゃないんだ……でも、先生を守るために、今はとりあえず、撃ち合いは止めよう……」
レイサちゃんの顔は赤いままだけど、納得してくれたみたいで、銃を下ろす。
「あははっ、私もだけどさ。一番借りのある子が一番聞き分けが良くて助かったね。私が同じ立場だったら、許さなかったんじゃないかな。後ろから追いかけて邪魔したかも」
聞き分けが良い訳じゃない。目も手もまだ実感が無いだけで、きっと凄く悔やむし怖いし、腹が立つだろう。それに、目と手より、ジルと喋れなくなってしまった事の方が怖いし怒っている。
「"イヴ、ごめんね。ちゃんと、皆と話をする席を設けるから"」
先生の優しい言葉に頷く。胸元に抱きつき返してくれたレイサちゃんを抱きしめる。鎮痛剤が効いてきたのか、眠たくなってきた。
<<先生視点>>
鎮痛剤と抗生物質が効いたのか、サオリは眠りにつき、イヴもうとうとしてレイサに膝枕されている。イヴの頭を撫でているレイサの顔が凄く緩んでいるのは指摘しない方が良さそうだ。
「"イヴは、今回の事件で一番被害を受けた生徒の一人だ。サオリとミカも含めて、皆ちゃんと話をしてほしい"」
頷くミカ、ミサキ、ヒヨリと、その言葉を聞いて昏い顔に戻ってしまうレイサ。
「"レイサ、一番の親友が大変な事になってしまって、辛いと思う。イヴがどう思ってるか判らないけど、レイサが支えてあげて欲しいんだ。頼めるかな"」
「はいっ!もちろんです!」
小さく、でも元気よく答えるレイサ。
明日、いや、もう日付が変わったから今日か。まずアツコを助けてから、査問会でミカの処遇を決める会議にも出る必要がある。前途は多難だけど、まずはお互いに話をしないといけない。今回の事件の教訓はそれに尽きるだろう。
「"ミサキ、ヒヨリ、アリウス分校での暮らしについて教えてくれるかな?さっき、この廃校舎にも来たって言ってたよね"」
ミサキとヒヨリがぽつぽつと語ってくれる。ずっと内戦が続いていたのを「マダム」という大人が鎮めたこと。アツコは初めから生徒会長の血を引いた
「随分、懐かしい話をしているな」
「リーダー、もう大丈夫なの?」
「後5分ほど時間が欲しい。そのついでに、聞いてくれるか。特に、ミカと、アズサの友達になってくれたイヴに。いや、寝ているなら無理に起こさなくて良い」
サオリは、決して心を折らず、アリウス分校の『全ては虚しいもの』という教えとも戦い抜いたアズサについて語ってくれる。
「だから、アズサを選んだのは、本当に……ミカの言っていた『和解の象徴』としてだった。工作のために我々スクワッドがトリニティについて学んでいたのは確かだが、それだけじゃなかったんだ」
「そうだったんだね……。元々は、本気、だったんだ」
ミカが目から涙をこぼす。
「あれ、おかしいな。別に悲しい訳じゃないのに」
「"嬉し涙だよ、きっと"」
自分自身の、心が通じていた嬉し涙だといいなという願望を多分に込めてしまったのは否定しない。
<<イヴ視点>>
うつらうつらしながら話を聞いていた。キヴォトスは貧富の差が激しくて、アビドスもそうだったから、貧しいことだけ自体には驚かなかったけど、戦うことしか教わらない場所が学校と呼べるのか、って誰かが言っていた気がする。
「"イヴ、起きられる?"」
レイサちゃんの膝が気持ちよくて起きづらい。レイサちゃんに手伝ってもらって起き上がる。
旧校舎まではやっぱりミカさん1人であっという間だった。レイサちゃんはともかく、私は本当に来る意味があったのだろうか。先生を助けたい気持ちはもちろんあるから構わないけど、今日ほど身体が辛いとベッドに縛り付けておいてもらって、スケルチで引っ張ってもらえばよかった、なんて突拍子も無い事を考えてしまう。
未来視で来ることが決まっているから来ないといけない、というのは、やっぱり卵が先か鶏が先か、みたいな納得しがたいところ。
そう思っていたら、アリウス分校生だけじゃなくてユスティナ聖徒会に遭遇して驚く私達。
「……エデン条約機構は、私達になったはずなのに……先生にも、反応が無いね……」
「"あの時のユスティナ聖徒会は、統制を逸脱しかけていた"」
「エデン条約機構が2つできていたからだ。マダムはエデン条約に無関係に、ユスティナ聖徒会を呼べるのか?」
その疑問に答えるように、赤いドローンが飛んで来て、ホログラムを映し出す。
赤い肌に白いドレス、目がたくさんある女性。オールドスクールデスメタルか、デスコアバンドのジャケットに出てそう、という感想。
『お初にお目に掛かります。通信で失礼、先生。私が本校、アリウス分校の生徒会長にして支配者のマダム、ベアトリーチェと申します』
「気付かれていたのか……!」
悔しげなサオリさんに、ベアトリーチェは嗤って答える。
『このアリウスの中で、私に知らないことがあるとでも?のこのこ戻ってきたルートも把握しています』
先生が前に出た。
「"初めまして、ですね。先生をしてます。今すぐ、アツコを解放してもらえませんか?"」
『これはまた不思議な事を。真実を都合良くねじ曲げて虚偽を混ぜ、子供を搾取するのが大人でしょう?アツコも同じです。今回搾取するのが生命というだけです』
「"そんなものを、大人のやり方だなんて認めない"」
『あらゆる奇跡を、審判を行えるあなたが認めないのはある意味損失かもしれませんが、まあ、いいでしょう』
旧校舎の壁を突き破り、ガトリングを両手に抱えた一回り大きなユスティナ聖徒会が現れた。
『私の再現した聖女バルバラと、パスを確立して使用可能になったユスティナ聖徒会、そして残りのアリウス分校生を突破して来られるなら、もう一度私のやり方を否定してみてもいいでしょう、先生』
意地悪く嗤ったベアトリーチェが通信を切り、赤いドローンも破れた窓ガラスから飛び去る。