ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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入れ子構造の夢

<<イヴ視点>>

 睨み合う私達の中から、ミカさんが一歩前に出た。

「行って。先生、皆。私、こう見えても結構強いんだから。こんなの一人で全部片付けてすぐ追いつくからね」

「……ミカさん、あれらは無限に湧いてきます。スタミナの配分にだけ、気をつけて……」

「わお☆クソゲーって奴じゃんね?じゃあ、先生に急いでもらわないとね」

「"急ぐけど、それまで頼りにして良い、ミカ?私の困った不良生徒で、お姫様"」

 こっちを見ていたミカさんの顔がボッと赤くなる。慌てて向き直る。

「やっぱり全部潰しとくから。任せて☆」

 この中で今、一番元気で強いのは間違いなくミカさんだ。私達は旧校舎からバシリカへ急ぐ。

 

<<ジル視点>>混濁した夢、幻覚

 全身が痛い。イヴちゃんが抱き上げて撫でてくれたときどれだけ気が紛れたか。痛みと痺れ、高圧電流を全身に流されているような苦痛と、LANケーブル端子部分の焼け焦げたような痛みが僕を苛む。意識が混濁する。

 これは幻覚なのか、夢なのか。

「――せんせ、先生ったら、聞いてるの?」

「ん?ああ、あたしをあだ名で呼ぶなって話まではした、よな?」

「ちい先生はちい先生だし」

 小さい先生だからちい先生らしい。本名に微塵も掠ってない。日本人女性平均より小さめの身長、気にしてるんだが。

 杉板をたたき割れるくらい鍛え上げた拳も、装甲のように鍛えた身体も、問題を何一つ解決してくれない。いや、1年生の担任自己紹介で杉板を素手で割る演武をしたのに、こいつら怖がりもしないんだよな。

 今年先生になったばかりだから舐められてるんだろうか。舐められてるんだろうな。

 まあ、私が生徒を殴るような人間じゃないと信頼されていると思うと悪くないかもしれない。

「で、文化祭の打ち上げにカンパだろ?わかったわかった。打上げ出ない子にもちゃんとジュースか何か奢れよ」

「ちい先生さっすがー!」と群がる女子高生どもを追い払う。私立のお嬢様女子校という恵まれた環境でも、別に暇な訳じゃない。仕事は山ほどあるのだ。それに、仕事が終わった後に空手道場にも行かないといけない。

 

 4月に担任になってから1年間、色々な事があった。女子同士でも恋愛沙汰はあるし、いじめとまではいかなくても派閥だの喧嘩だの家出だの、果ては近くの別の学校の男子との子供の妊娠だの。

 

 3学期の終業式。この学校だと、毎年クラス替えもあるし、そもそもあたしが2年の担任教師をやるとは限らない。なので、お別れムードに当てられて泣く子も多い。

「別にあたしが辞める訳でも無し、泣くなよ」

「でも、でも、4月からも、ちい先生がいいよぉ……」

 ほんの少し乱暴に背中を叩いて慰めてやる。

 終業式の日は多分こうなる、と他の先輩教師に聞いていたので、仕事を片付けておいてよかった。昼過ぎにクラスの皆が満足するまで付き合ってやったが、正直なところ悪い気はしなかった。誰だって、「お別れしてせいせいする」と言われるより惜しまれる方がいいだろう。あたしだってそうだ。

 

 仕事が終わってから、あたしは空手道場に向かう。

 いつも通り、鍛錬に汗を流す。あたしは元々フルコン系にいたから、伝統派のこの道場では人一倍やらないと、いつまで経っても身につかない。

 道場が終わってから、掃除を済ませてシャワーを借りる。この道場の師範であり、私が恋愛的な意味でも家族的な意味でも大好きな○○(ねえ)が親戚だからこそ許される行為だ。

「○○(ねえ)、お疲れ様」

「××ちゃんもお疲れ様。一番古株の△△さんから一本取れたの、凄かったね」

「ううん、結局前の道場のやり方のままだったから。あれじゃ、ここの流派的にはまだまだ」

 二人ともシャワーを浴びてから、髪を乾かしつつ、缶ビールを開けて乾杯する。肩までの私はともかく、腰までの長髪の○○姉は乾かすのがいつも大変そう。

 いや、そんなことはどうでもいい。言うんだ。1年間、新卒社会人として、教師として生徒達を何とか2年生まで送り出せた今日。○○姉が好きだ、付き合って欲しいって。

「××ちゃんに聞いて欲しいことがあるの」

「ひゃい?!」

 口を開こうとした瞬間、機先を制された。もじもじと頬を赤らめる○○姉。まさか。ひょっとして、という期待。

「私、結婚することになったんだ。△△さんと」

 

 見知った天井、スーツをだらしなく着崩した状態、歩いて15分の自宅、その自室で目が覚める。ビールを5本開けたところまでは覚えてる。頭がガンガンする。やけくそ気味に水を1リットルほど飲み、スマフォを確認する。○○姉からは「無事に帰れた?」というメッセージだけ。勢いに任せて告白だけはしなかったらしい。「帰った」というメッセージだけを送り、適当にスーツを脱ぎ捨てて下着でベッドに入り直す。子供の頃から大好きだった○○姉。いつから△△さんと付き合ってたんだろう。

 あたしが恋心を自覚したのは高校1年の時。その時から、ずっと理由をつけて告白を先送りしていた。去年、道場を移ったのも、本当は「就職を機に告白しよう」と思ったからだったんだ。本当は関係が変わるのが怖くて先送りしていただけ。もっと早く告白していたら、違ったんだろうか。胃に鉛を流し込まれたような気分だ。そう思いながら、眠気を待つ。

 全然眠れない。半端に寝てしまったからか、アルコールの酩酊はあるのに、眠気だけがどこかに行ってしまっている。仕方なく、あたしはやる気も起こらないゲームを起動した。青が基調の、普段なら○○姉に似てて可愛らしさを感じるキャラクタも、今は苦痛でしかなかった。ゲームを起動したもののプレイせずにすぐに終了し、スマフォを適当に放り出す。

「馬鹿みたい」

 何に対しての言葉なんだろう。

 

 寝返りを打ったと思った途端、意識を取り戻した。コトダマ空間を現実と言うのは不思議な気分だが、現実では僕は寝返りどころか身じろぎ一つできないくらいの激痛で麻痺している。

 今さっきのは夢なのか、過去の記憶なのか、全然関係無い幻覚なのか。身体の痛みから逃れられたと思ったら、心の激痛を味わわせられ、僕の情緒は滅茶苦茶だ。自分自身を含めて固有名詞が何一つ出てこなかったってことは夢か幻覚なんじゃないかと思うんだけど、確証が持てない。とにかく痛みが過ぎ去るのを待つしか無いんだけど、それがいつか判らない。仮に痛みが過ぎ去ったところで、動けるのか。ぬいぐるみの身体(?)なのをこれほど恨めしく思ったことはない。脂汗すら出ないから、身体が機能するどうかすら判らないのだ。

 イヴちゃん、大丈夫だろうか。左目と、多分だけど左手も怪我しているみたいだ。イヴちゃんが大変な時に、痛みを引受けられてるのかすらわからないのは不安でしょうがない。

 信じても無い神に祈るしか無い。このキヴォトスに、すがれる神がいるかはわからないけれども。

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