ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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『知らぬ者よ かねて血を恐れたまえ』(Fromsoftware『Bloodborne』)


我ら血によって生まれ、人となり、また人を失う

<<イヴ視点>>

 バシリカ。廃墟同然だった廃校舎、旧校舎を経て、物はほとんど無いけれども、やっと綺麗に整頓された場所にたどり着いた。

 講壇の前に赤い肌、白ドレスの女性が立っている。あれが「マダム」、ベアトリーチェか。後ろに十字架がかけられ、女の子が磔刑になっている。あれが秤アツコさんだろう。

「姫……!」

「バルバラを軍天使に任せてやってきましたか。賢明ですが、愚かしいこと。明け方など待つ必要はありません。既に儀式は進んでいます」

 よっぽどその「儀式」の結果に自信があるのか、私以外の皆がスケルチから荷物を下ろして銃を構えても、悠然と佇んでいる。とにかく、こっそり横をすり抜けるかしてアツコさんを助けたい。だが、油断しているようで目のうちの幾つかはこっちを見ている。

 ジル。相手の目を見て注意の先を知るまではわかったけど、目がたくさんあったらどうしたらいいの?

 とにかく、出来る事をしないと。私は、先生と、一番疲れて弱っていそうな戒野さんに耳打ちした。

「子供達の玩具などもはや私には通用しませんよ」

 扇子を広げて口元を隠しつつ、優雅にすら見える笑いを漏らすベアトリーチェ。

「先生、考え直しはしませんか?黒服も、マエストロも、ゴルコンダもあなたを歓迎するでしょう。先ほど申し上げた通り、子供は大人の言うとおり、黙って搾取されていれば――」

「"黙れ。私と、私の大事な生徒にこれ以上話しかけるな"」

「交渉は決裂ということですね。良いでしょう。では、私が至った崇高をお見せしましょう」

 ベアトリーチェの身体が裂けるように肥大化していき、背中に光輪を背負う。変身中の妨害は基本中の基本だ。私は翼のうち一つを開き、アンテナから衛星レーザの射出指示。照準をベアトリーチェに。

 もう一つ、ヨシミさんに頼んでおいた「荷物」も座標指定して射出してもらう。

 

 巨大な花を咲かせた怪木のような姿になったベアトリーチェに、バシリカの天井を貫いたレーザが3秒間照射される。

「こざかしい真似を……!このようなもの!」

 レーザは触手の一振りで霧散させられてしまったが、元より目潰しだから構わない。戒野さんを載せて、スケルチを全速力で走らせ、ベアトリーチェの右側をすり抜けるように走らせ触手を跳ね飛ばす。がり、と嫌な音を立ててスケルチのエンジン部が触手に抉られ、火を噴いて転倒する。私は戒野さんを左腕で抱きかかえてスケルチを蹴り飛ばすようにし、十字架の前の床で、以前ジルが教えてくれた、右手を使った運動エネルギーを全て熱と音に変換する受け身(グレーター・ウケミ)。石の床の表面が一瞬だけ赤熱化し、黒い跡を残す。やった、できた、できたよ、ジル。スケルチの心配は後でしないと。

「今更ロイヤルブラッドを助けても無駄なこと。儀式に必要な神秘と生命は搾取済です」

 ベアトリーチェの注意は先生が指揮している皆と、バシリカの穴から降り注いだ2つの短距離弾道ミサイルに向けられている。ベアトリーチェはミサイルを二つとも弾き飛ばし、好都合にもこっちに転がってきた。弾頭には元々爆発物が入ってない。

 私とそれを既に伝えている戒野さんは、まずは十字架の根元にC4を互い違いに設置し、発火コードを二重に巻き付ける。本当は十字架に穴を開けたかったがしょうがない。

 ベアトリーチェの触手のうち一本が私を狙うのを、nonfireで斬り飛ばす。

「な、極小サイズの地獄の刃……!?最初の罪人がなぜそんなものを!まあ構いません。後で実験材料にでも使ってやりましょう!」

 触手が怯んだ隙に、ベアトリーチェが秤アツコさんを縛っている触手をnonfireで切り離し、C4を起爆。戒野さんと私で倒れた十字架を支え、秤さんが頭を打たせないようにする。

 

 戦況はほぼ互角のようだ。

「アツコ、アツコ」

 戒野さんの呼びかけによって、傷だらけで血まみれの秤さんが目覚める。私は手足の触手の縄を切った。

「いいでしょう。私の更なる力、お目にかけましょう。ゲヘナのロイヤルブラッドの血によってね」

「……秤さん、初めまして、かな……少しだけ、血をちょうだい……」

 ベアトリーチェが採血管から血を飲んだのと、額から流れていた秤さんの血を私が手で掬って舐めたのは同時だった。

 

 ベアトリーチェの顔面の奇怪な花が、まるで羽で組み上げられた肉食の恐竜のような姿に変わり、細かった木や触手も太く強靱なものに変化する。

 私の方も、胃が燃えるように熱い。強いお酒を飲んだらこんな風になるんだろうな、というのの更に凄いもの。

 ベアトリーチェと先生達の戦いが激しくなり、ひとまず秤さんをバシリカの奥に引きずっていった戒野さんを見ながら、私は熱に負けて膝をつく。存在しない左目の奥が、左手首が痒い。ひきむしるように包帯をむしり取る。

 

 意識を失ったのだろうか。私は「コトダマ空間」にいた。「コトダマ空間」の部屋全体が燃えている。でも、ちっとも不愉快な熱じゃない。動かなかった左手が動くし、左目も見える。壊れていたモニタとキーボードが元通りになり、現実世界でも左手の骨、血管、神経と、左目の神経、血管、と順に、左手と眼球そのものが再生するのがわかる。

 私は「コトダマ空間」の中でジルのぬいぐるみを、手に持ったまま、部屋のひときわ強い炎の中に入れる。そうしないといけない気がした。ぬいぐるみが炎を吸い込み、炎が消えて、綺麗になったジルがげほげほと咳き込む。ぬいぐるみに肺があるのかな?今はどうでも良いけど。

 私は炎に焼かれて再生したLANケーブルを、自分の首の後ろに挿した。

「……ジル、ジル……!」

 私はジルをぎゅうぎゅうと抱きしめる。

「……お願い、ジル、力を貸して……」

「もちろんだよ、イヴちゃん!」

 私はLANケーブルのもう片方をジルの首元に挿した。

 

 視界が「コトダマ空間」から現実に戻る。左手も、左目も元に戻っている。脇腹も、背中の怪我もまるで無かったかのように、否、怪我をする前より遥に身体が軽い。

「馬鹿な、再生などと……まさか!?最初の追放者!」

 私の口が勝手に動く。

「我、最初の追放者にして知恵の実を食ししもの。血による生命の実を食し、人を失う」

 再生した左目が熱い。不快な熱さじゃない。左目が赤黒く、線香*1じみて光っているのがわかる。

 素手で短距離弾道ミサイルの弾頭をこじ開ける。ミレニアムに頼んでいた兵器、6連装チェーンソーだ。左腕に持つと、私の胃の奥からの熱とエネルギーを容赦なく吸い上げ、6基のチェーンソーが展開し、ドリルのように回転しながら、炎を纏い始める。

 遠くから、キリエの音楽が聞こえた気がした。

(不明なユニットが接続されました。システムに深刻な障害が発生しています。ただちに使用してください。イヴちゃん、これの正式名称は『グラインドブレード』だよ。全てを焼き尽くす暴力、イヴちゃん、お願い!)

 ジルがふざけたような、嬉しそうなアナウンスをしてくれる。

「な、何ですか、それは……!」

 姿を変えた後も、戦況は拮抗状態、先生が少し不利かも、という状況。

(……行くよ、ジル……!)

 

 ごう、という爆音を撒き散らしながら6連チェーンソー、もとい、グラインドブレードの根元のロケットが私とグラインドブレードを突撃させ、ベアトリーチェを粉みじんに粉砕しようとする。ベアトリーチェは触手全てを防御に回し、耐えようとする。グラインドブレードは、私の胃の中から溢れる熱と炎を容赦なく吸い上げ、暴力に変換する。

 長いようで短い、数秒の切り結びの後、触手と光輪全てを焼き払い、私はベアトリーチェの向こう側、先生の方に飛び抜ける。

 後には、キリエの演奏が遠くから聞こえる中、人型の姿に戻り、地に倒れ伏したベアトリーチェと、ばらばらになったグラインドブレードを放り出し、強烈な熱と力を失って、目の発光もなくなってへたり込んだ私、そして先生達が残った。

*1
百鬼夜行で見た




 イブキをゲヘナのロイヤルブラッドと認識しているのはベアトリーチェの研究と主観によるものです。
 短距離弾道ミサイルはヨシミが準備してくれたもので、迎撃や着弾時の衝撃での破壊に備えて、2つともグラインドブレードが入っていました。
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