ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

20 / 208
昭和のドラマみたいな格闘戦 うんうんそれも青春だね

 決闘ってしたことあるかな?僕はもちろんない。巌流島*1の近くを船で通ったような漠然とした前世の記憶があるような、ないような、ニューロンの寄生虫、ジルです。

 ということでね、今日はなんと放課後にトリニティ自治区外れ、高速道路高架下*2で行われる決闘の立会人としてイヴちゃんが頼まれたのでやってきました。

決闘の申込人はもちろん果たし状のベテラン(?)宇沢レイサさん、相手は杏山カズサさん。

何日か前にイヴちゃんに相談を切り出した宇沢レイサさんに僕もイヴちゃんも「そんなん受けるやつおる???」って宇宙猫顔になってしまった。

でも意外なことに同意があったのだよな。同意とみてよろしいですね?

 

 今日は冬晴れの風がやや強い寒い日。日光はぽかぽか気持ちいいけど、風が吹くとうえ~寒い!ってなる感じ。決闘日和、なんだろうか?

 まだ春が遠く、寒さが増すばかりなのに、いつでも着てるお気に入りなんだろうなっていう、春用みたいな薄いコートも脱いで元気一杯、準備運動をしている宇沢レイサさんと、汚れないように柵にコートを引っ掛け、脱スケバンしてゲームで見慣れた格好になって、首をこきこき鳴らしてる杏山カズサさん。

2人とも可愛いけど滅茶苦茶寒そうだな……。杏山カズサさんは服に着慣れている感じがないので、スケバンと普通の制服の中間みたいな印象があって可愛いね。

「はー、寒いし下らない。さっさと終わらせよう」

「な、下らないだなんて……!私とキャスパリーグの長年にわたる因縁の終止符になんてことを!」

 はああ……と地を這うような溜息を吐いた杏山カズサさん。

僕達3人以外誰もいない高架下公園をぐるりと見渡したうえでちらりとイヴちゃんを見て呻く。

「大体さ、あんたも何でこんな下らないことに付き合ってるわけ?」

「イヴさんは立会人です!」

「……何でだろう……友達だから……かな?」

「イヴさんまで?!」

(何でやろなあ)

(……レイサさん、本当にやりたそうだったもんね……)

 ぽつぽつと言葉を紡ぎ、首を傾げるイヴちゃん。

宇沢レイサさん側からしたら心残りにケリをつける大事な案件ではあるのだけれども、スケバンから足を洗う前に捕まえられなかったのが残念でちょっとタイミングが遅かったかなぁ、なんて気はしなくもない。

正直僕も決闘とかいいんちゃう?と思わなくもないから、空気が弛緩するに任せていたのだけれども。

銃の引き金の軽さ、軽々に暴力に訴える習慣に繋がってぼかあ良くないって思うんだよネ。

まあ決闘とか果たし合いみたいな言い方すると武人みたいな感じもあるけど。血の気の多さは一緒だし。

 宇沢レイサさんが準備運動を終えて愛用のショットガン、シューティング☆スターの薬室に弾薬を叩き込んでいい音を鳴らした。銃は大切にね。

「今日という今日こそ、勝ちます!勝負!!」

「あーもう、面倒臭いな!!」

 文字通り火蓋が切られ、ショットガンと軽機関銃の火線が交差した。

 

 分隊支援火器とショットガンどっちが強いかなという謎の興味を持ってしまったが、考えるまでもなくキヴォトスちほーでの火力は弾丸質量×初速2乗×神秘量というふわっとした弾薬威力に対して被弾側の神秘による補正が入るので、銃や弾丸は重要だけど絶対ではないのだよな。なんて思っている内に激闘に決着がついた。

 先に倒れたのは宇沢レイサさんだった。聞いていた話とお互いの戦闘スタイルだと、奇襲による一撃必殺や罠や逃げ隠れしながらの反撃を特に得意とする杏山カズサさんに対し、正面からの殴り合いだとフィジカルに優れる宇沢レイサさん有利かなと思ったのだが。

 

 イヴちゃんが最初宇沢レイサさんを応援してたら「立会人なのに片方に肩入れすんの?!」と杏山カズサさんに怒られたり(それはそう)応援にテンション上がりすぎた宇沢レイサさんが空回りしたりしたのもあってペースが乱れてしまったのかもしれない。

まあでも、今日はきっと勝ち負けが大事なわけではないし、いいよね。

杏山カズサさんも結構ふらふらしている。宇沢レイサさんがぶっ倒れて立ち上がる気配が無いのを確かめてから、結構足腰までダメージが来ていたらしく、余裕なさげにどっかりとへたり込む。

「負けました!」

「はぁ……はぁ……今まで、私に勝ったことなかったでしょ……」

「そうですね!悔しいです!」

 大の字になった宇沢レイサさんは何だか嬉しそうだ。

「……笑ってんじゃん」

「えへへ……何ででしょうね……」

「ほんとに変な奴、あんた」

「……2人とも、ココア、飲む……?」

 決着が着いてから3人分のホットココアを自販機で買ってきてくれたイヴちゃんは気配りもできる天使の鑑。うーん、青春の雰囲気が眩しいね。

 

 ココアを半分ほど飲んで身体が温まり疲れもぼちぼち取れた2人はコートを羽織り直した。

 杏山カズサさん、宇沢レイサさん、イヴちゃんの順で3人並んでベンチに腰掛けて喋る態勢に。

「私さ、スケバン辞めようと思ってて」

「えっ?!」

「……うん……」

「舎弟の奴らに泣かれたり無理にでもって引き留められて……まあ大変だった」

「どうして辞めるんですか?!」

「いや宇沢さ、私のこと目の敵にしてたじゃん……?辞めて欲しくないわけ……?」

「いや、そうではないのですけど……!」

(うんうん、これがきっと2人の絆なんだね。わかるなあ)

(喧嘩が、絆ってこと……?)

 おっと、思わずイヴちゃんに聞こえるように考えちゃった。

(うんそう。喧嘩友達ってやつ?)

(……喧嘩するのに、仲が良いんだ……?)

 何だか納得がいかなさそうな宇沢レイサさんと、うんざりした様子の杏山カズサさんの騒がしいやりとりを心の目を細めてニヤニヤ眺めている途中で気付いた。

あっ。これイベント前倒しで喰ってない???放課後スイーツ部案件が1個片付いてしまった……か……?

 

 あ、今、杏山カズサさんが「普通になら別に、まあ、会うのが嫌ってわけじゃない」と口を滑らせたというかポロッと口にしたので無いとは思うけど、宇沢レイサさんがストーカーに急転換しないかだけは心に留めておかないとだな。

宇沢レイサさんが見事なタックルを決めて抱きついているのを剥がそうと苦戦している杏山カズサさんの様子を眺めているイヴちゃん。

「ちょっと!ぼーっと見てないで!」

「……私も……混ざったほうがいい……?」

「いや、そうじゃな「はい!!!!」あーもう!抱きつくな!邪魔!」

 イヴちゃんも混ざって遠慮がちにだけど杏山カズサさんに抱きついた。女子中学生団子可愛~!!

 

 晩ご飯を一緒に食べようかとイヴちゃんが提案したものの、2人はそれぞれ用事があるらしく解散になってしまい、ちょっと残念だった。

 気を取り直し、かねてからイヴちゃんが目を付けていたゲヘナ発、トリニティには初出店のチェーン店に行く事になった。

僕はチェーン店はあまり使わないが、イヴちゃんは結構好きらしい。僕はなるべく初めて行く店に行きたい派、イヴちゃんは馴染みの店を作って行きたい派と好みがまちまちなので、脳内じゃんけんだったり協議のうえ決めている。

本当ならイヴちゃんに全部譲ってもいいけど、新しい味の体験もしてほしいしね。

 

 ということでやってきました。魚介バーガーで有名なお店。チェーンにしては悪くない鮮度の魚も出るらしいし、いいと思うね。開店早々だからベテランスタッフが派遣されてるだろうし。

 

(美味しかったね、ジル)

(そうだねぇ。待ち時間凄かったのは参ったけどね)

すげー列でちょっと入る前から精神的に草臥れてしまった。盾に座ってたし脳内ライブラリで本読めてたし実際の疲労はゼロなんだけど。

 

 帰って来て寝る支度して、郵便物やらダイレクトメールやら処分する作業。

 あ、連邦生徒会から書面が来てる。

(……ビナー、だっけ……アビドスの装甲板と動画の返事、かな……?)

(見てみよ!)

 A4用紙1枚のペラ紙、官僚的で無機質な挨拶。

要約すると『今後の業務の参考とさせていただきます』だった。

(…………)

 『あ、そうなんだ。で、それが何か問題?』ってコト…?!

 珍しくイヴちゃんが怒ってる。まあわかる。

 僕は体の主導権を預かって、ノンカフェインのハーブティーを入れることにした。

 

 ハーブティーはルイボスティーにした。独特の、でもいい香りが部屋に広がる。

 お茶を入れてる間に怒りが呆れになって落ち着いたイヴちゃんに、違う話を振る。

(そろそろ引越しの準備しないとね)

(……面倒くさい……)

(最終日に半泣きになりながら業者さんと荷運びしたくないでしょ?)

(……うう……)

 イヴちゃんは今のところトリニティ高等部に進学する予定なのだが、トリニティは小中高と進学する度に寮を移るようになっている。

長いこと住んでて部屋ボロボロにされないようにというのと、成長にあわせて部屋を広くするという配慮らしい。

滅茶苦茶頑張って申請すれば元の部屋に居座れないことも無いらしいけど、初等部、中等部、高等部と校舎も変わり、当然学舎が遠くなるのでほぼそんな選択をする生徒はいない。

 引越し自体は学園が段取りを組んでくれていて、大型家電以外は段ボールに詰めておけば春休み中の指定された日に業者さんが運んでくれるのだ。

 イヴちゃんの部屋にはPCと小さいトースター機能付レンジ、あとは冷蔵庫くらいしか家電類がない*3のだけどね。

(千里の道もガンバルゾーだよ。僕も手伝うしさ)

(……はぁ……)

 別に汚部屋でも何でも無いんだけどなあ。

 環境が変わることに対する心理的な抵抗とかもあるのかもしれない。ちょっとずつ手を動かしていくしかないね。

*1
佐々木小次郎とミヤモト・マサシが決闘をした場所。なんか数百平方mくらいのパッと全体が見渡せる島、だった、ような……。

*2
夜になると治安が一気に悪化するエリアなんだけど、日中は特にというか、な~~んもない場所。一応コンクリ舗装はされて公園という名目になってるけど、不便な場所だし、実際大して使われてるわけではない。安っぽいベンチが何かの言い訳のように隅に置いてある。

*3
ランドリーは寮1階にあるので洗濯機は要らないのだ。トリニティまじで福利厚生が手厚い。ごく稀に「自前のが欲しい」とベランダに据える兵もいる。




 この時期、レイサがイヴの誘いを断りがちなのは、ティーパーティーがぐらついている余波での治安悪化で、自警団活動が多忙化しているからです。
レイサ的には心配させたくないので、特には言ってません。

 評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。

 紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.20
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。