ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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ヱホバ神曰たまひけるは視よ夫人我等の一の如くなりて善惡を知る然ば恐くは彼其手を舒べ生命の樹の果實をも取りて食ひ限なく生んと
(中略)
斯神其人を逐出しエデンの園の東にケルビムと自から旋轉る焔の劍を置て生命の樹の途を保守りたまふ(創世記3:22,24)



デカルコマニーって絵画技法の一つなんだよね、そういうこった

<<ジル視点>>

 必死で起き上がろうとするマダム。

 それより大切な事がある、と、秤アツコさんに駆け寄るアリウススクワッドの皆。

「まだです。私にはまだユスティナ聖徒会と、無限に再生するバルバラが……」

「いえ、あなたの実験はこれで終わりですよ、マダム。あなたの計画は全て、知る必要の無い舞台装置(マクガフィン)に終わりました」

 イヴちゃん、宇沢レイサさん、先生の元に戻ってきた聖園ミカさんが、突如現れた、首なし人間(?)が手元に後ろ向きの山高帽を被った人物の写真を持った存在に銃を向ける。

「先生、私はゴルコンダ、こちらはデカルコマニーと申します。以前お目にかかった可能性がありますし、挨拶は控えておきましょう。生徒達と共に私と戦おうとは思わないでください。あなたが持つ、ヘイローを破壊する爆弾も私の作品です。もっとも、実戦では一つたりとも破壊できなかったので破棄する予定ですが」

 ルネ・マグリット好きだけど、シュールリアリズムが実際に目の前に出てくるとこんなんなんやな、みたいな場違いな感想を抱いてしまう。

「しかし、『努力と友情で勝利する物語』ですか。私の求めていたテクストはもっと文学的なものだったのですが。やはり先生が介入すると、テキストそのものが書き換わってしまうようですね」

「"生徒の努力で勝ち取った成果だよ"」

「なるほど。では、我々はこれで失礼します。帰りましょう、マダム」

 未だに恨み言らしきものをブツブツ呟くマダムを連れて消えるゴルコンダとデカルコマニー。

「何あれ。変な大人?」

 大して怪我を負ってない、服が少し汚れている程度の聖園ミカさんの発言が、全てを総括していた。

 

 先生と聖園ミカさんがアリウススクワッドの皆に近づく。

「"皆、大丈夫?"」

 宇沢レイサさんは、嬉しさと不安さが入り交じった顔でイヴちゃんの左目と左手を見ながら、おずおずと伸ばした右手を、イヴちゃんが左手で握る。

「温かい、です!」

「……ふふ、大丈夫、ちゃんと私の手だよ……」

「目も、ちゃんと見えてますか?」

「……大丈夫……色とか、変わってる……?」

 ふるふると嬉しそうに首を横に振る宇沢レイサさん。左目が光っていたのはあの時だけらしい。

(いや~、無事にいって良かった。喉元過ぎたら痛いの忘れるってこういう事言うんだね)

(……血を舐めたら、凄い力が湧いたけど、あれはどういう事だったの……?)

(見立てによる、シスターフッドの古典の再現だよ。滅茶苦茶ざっくり言うとイヴちゃんのご先祖様の、同じ名前のイヴって人は、「知恵の実」と「生命の実」のうち知恵の実の方を食べて、エデンっていう楽園を追放されたんだけど。生命の実と知恵の実両方食べると神様になれるっていう説があるんだ。生命を搾取された(秤アツコさん)樹の実を食べる事によって凄い力が出るだろうって思ってさ)

 一瞬だけイヴちゃんが考えて答えてくれる。

(……でも、使い切るために、血だけにしたってこと……?)

(そう、さすがイヴちゃん。賢い。多分、指とか囓り取って食べたらもっと凄くなれたと思うけど、多分、キヴォトスにいるかわからない神の罰が下ったり、イヴちゃんがイヴちゃんじゃない何かになっちゃったら困るなって)

 僕は前と同じように、イヴちゃんの聴力を強化して、先生達とアリウススクワッドの会話が聞こえるようにする。

 イヴちゃんはアリウススクワッドは先生に任せることにしたらしい。スケルチの元に向かう。スケルチの車体に取り付けてあったいつもの盾も裂けているし、本来はトラックに使う用の馬鹿でかいエンジンも真っ二つになっている。

 悲しそうにスケルチを撫でるイヴちゃん。

(……あの状態のベアトリーチェ、強かったんだね……)

(グラインドブレード、用意しておいてもらって良かったね。スケルチはエンジニア部に直してもらおう)

 もう元気一杯なのでバイクを起こすイヴちゃんと、心配して手伝ってくれる宇沢レイサさん。

 

 先生とアリウススクワッドが話している。

「"サオリは、今まで皆の分の責任を負ってきたから、間違えちゃったんだよ。サオリは何か、なりたい職業とか、やってみたいこととか無い?"」

「考えたことも無かった……しかし、私達は責任を取らないといけない」

「"そうだね。でも、責任を取るのも一人じゃない。ミカが手伝ってくれる"」

「へっ、私?」

 イイハナシダナー、みたいな顔で見ていた聖園ミカさんがいきなり名指しされて少し慌てる。まあ偉いさんだし、そもそも聖園ミカさんが始めた物語だしな。

 遠くから銃声が聞こえてくる。それどころじゃなくて見て無かったスマフォの治安維持アプリが『アリウス分校への総攻撃:正義実現委員会、自警団、シスターフッド、救護騎士団』の通知と、味方と発見した敵の位置を送ってくる。

「"トリニティの皆も、手伝ってくれるよ。きっとね"」

 ちらりとイヴちゃんと宇沢レイサさんを見る。きゅっとイヴちゃんの左手を握って、左目を見てから錠前サオリさんを睨みつける宇沢レイサさん。目を逸らしそうになるのを堪える錠前サオリさん。イヴちゃんはスケルチを駐めて手を離してつかつかというよりふらふらと錠前サオリさんに近づく。

 イヴちゃんの左目が赤く光る。恐らく、最後の生命の実の一欠片がイヴちゃんを動かしている。恐らく詫びようとした錠前サオリさんの機先を制して、イヴちゃんが口を開いた。

「……苦しいですか?罪が何だか判らず、罪悪感に苛まれるのは苦しいでしょう。罪を癒やす方法はあります。知っているはずです。自分の罪を癒やす方法を。トリニティとアリウスの和解を進めるのが、その一つ。行きなさい、アリウスの中心へ。自分の影響力を使ってください。貴方が使うことに、意味がある……」

 ふっと目の光が消えて、イヴちゃんがトランス状態から元に戻る。

(……私、何か言った……?)

(上級天使って感じだったね、何となく)

 

 宇沢レイサさんとイヴちゃんは正義実現委員会か自警団辺りに合流するからと、アリウススクワッドの皆は「償いはきっとする」と詫びを一言イヴちゃんに伝えてから、聖園ミカさんと先生を連れてアリウス分校の校舎の方だろう、そちらに走って行った。

「……レイサちゃん、私達も、やるべきことをしよう……」

「はい!!」

 スケルチから裂け目の出来てしまった盾を取り外す。幸い、ウッドペッカー(30mm機関砲)は無事みたいだ。

 

 ベアトリーチェがいなくなったからか、ユスティナ聖徒会はしばき倒しても復活しない。無限沸きのクソゲーを脱した上で、マダムがいなくなって指揮系統が消滅し、大混乱に陥っているアリウス分校生を捕縛するのは、復活したイヴちゃんと宇沢レイサさんのコンビからすると、熱したナイフでバターを切るようなものだった。

 アリウス分校の校舎前で、秩序だった降伏をしたアリウススクワッドの指揮下に戻った最後の部隊であらかたは片付き、他には、ゲリラ活動をしようとするごく一部、少数の生徒の掃討だけが正義実現委員会とシスターフッドの任務に残された。




 イヴは一時的に知恵の実と生命の実両方を食べた状態になっていますが、時間が極めて短かったのと、生命の実の力はほぼ全てグラインドブレードが使い切ったのでセーフ判定になっています。
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