ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
アリウス分校生の掃討が全て終わって、残党掃討段階に移行した時点で、イヴちゃんと宇沢レイサさんは先生達と合流した。聖園ミカさんはさっきまでつけてなかったアクセサリを羽につけていた。何でも下江コハルさんがテロの時に焼け残ったものを保存しておいてくれておいたらしい。流石、やるときはやる子だなあ。
降伏した、あるいは捕縛されたアリウス分校生の前で、錠前サオリさんが秤アツコさんを横に連れて演説をしている。演説は初めてなんだろうな、支離滅裂と言っていい内容だけど、熱意と趣旨だけは伝わる。「トリニティに合流したいものは受け入れてくれる。アリウスに残りたい者は残って構わない。物資の支援がトリニティからされる」というのがその趣旨だ。聖園ミカさんだけでなくて、羽川ハスミさんが演説を止めないことから、物資の提供は合意事項と見て問題無さそうだ。
現地で救護や武装解除*1を行う正義実現委員会を後に、僕達はアリウス分校を後にした。
聖園ミカさんの聴聞会には、補習授業部の一件は直接関係なく*2、疲れ切ったイヴちゃんと宇沢レイサさんは出席を求められずに済んだので、1人ずつシャワーを浴びて同じベッドで眠りについた。
宇沢レイサさんがイヴちゃんをぎゅっと抱きしめ、何度も何度も、眠っているイヴちゃんの左手首と、左目をまぶたの上から軽く撫でて眠りについた。
イヴちゃんが起きたときにはもう夜になっていた。宇沢レイサさんがぎゅうぎゅうと抱きついているのを起こさないように器用に抜けてスマフォを確認するイヴちゃん。
先生からのメッセージで、「"アンブロジウスとヒエロニムス、ユスティナ聖徒会、巡航ミサイルという物証が効いて、ミカの処分は『強大で危険な大人から脅迫を受けた結果の行動と見なし、パテル分派の代表は継続したまま、奉仕活動2週間』になったよ。本当にありがとう。イヴの左手と左目は、ナギサ、セイア、サクラコ、ミネ、ツルギとハスミにだけ本当の事を説明して、対外的には「無事発見できた本人の手と眼球を接合した」という話にしてもらうことにした。スクワッドにも黙っておいてもらうようお願いしておいたから。救護騎士団に精密検査を定期的に受けさせてもらうように頼んでおいたので、お大事に。追伸:アリウススクワッドとの話し合いは別の日に調整しよう。立ち会うから"」
寝起きでメッセージを見てしばらくぼんやりしていたイヴちゃんは、ハッと思い出したかのように自撮りして、早瀬ユウカさんとエンジニア部に「左手と左目は無事見つかって接合できました。ご心配おかけしました」というメッセージを送る。
途端に早瀬ユウカさんから電話が掛かってきて、エンジニア部からメッセージが送られてくる。宇沢レイサさんを起こさないように、小声で、涙声で「ギターは弾けるくらいなのか」とか、「ちゃんと見えるのか」とか、お説教混じりで喜ぶ早瀬ユウカさんと、電話を替わったエンジニア部、そして居合わせたらしいゲーム開発部の皆に心配をかけたお詫びを言うイヴちゃん。口元も目元もほころんでいて、僕もほっと一安心。あわせてスケルチの修理を頼む。イヴちゃんが座標を伝えておくだけで、早速、エンジニア部が依頼した業者さんが引取に来てくれるらしい。仕事が早いね。
(そうか、全然うっかりしてたけど、キヴォトス人も手とか目って生えないんだよね)
(……多分だけど、生えないと思う……)
(宇沢レイサさんには口裏合わせてもらわないとね)
(……隠しておかないと、危ない……?)
(実験材料になんかされたら怖いからね)
(……なるほど……)
ティーパーティーの人間に知られてるのは嫌だけど、こればっかりはどうしようもないよな。キヴォトスにおいてもこれが「奇跡」の類になっちゃうのは想定してなかった。
起きた宇沢レイサさんと晩ご飯を食べるイヴちゃん。今日は疲れててそんな凝ったご飯が支度できないから、トーストを焼いて、サラダにレタスを千切るだけ。
「……レイサちゃん、私の手と目の事なんだけど……」
「何か具合が悪いですか?!救護騎士団を呼びましょうか?!」
わたわた心配してくれる宇沢レイサさんに首を横に振るイヴちゃん。かくかくしかじかで、手と目は繋ぎ直したことにして欲しいと伝える。
「あんまり嘘は言いたくないですけど、確かに実験台なんかにされたら困りますもんね!わかりました!」
笑顔で頷いてくれる宇沢レイサさん。良かった良かった。
後は定期的な検診で変な事が無いことを祈るばかりだな。この辺の話、どこまでしといたら良いんだろう。
(あ、そうだ。これも先生に頼んでもらうようにしよう)
脳内で頷くイヴちゃん。
「……それと、左目と左手のことで、入院とかになったら、先生に連絡してくれない……?」
「もちろんです!」
役に立てるのが嬉しい、と顔に書いてある宇沢レイサさんはニコニコで頷いてくれた。
イヴちゃんの個人的なネットワークや、治安維持アプリからの情報を総合すると、アリウス分校生のうち、トリニティへの転校を望む生徒は旧第18校舎*3を含む旧校舎群で収容することになったらしい。
治安維持アプリには『正義実現委員会とティーパーティー近衛師団、シスターフッドを中心に清掃作業を実施します。お手すきの方はお手伝いお願いします』と締めくくられていた。
「イヴちゃんは……その、掃除、行きますか?」
宇沢レイサさんはさっきまでのニコニコ笑顔が一転、暗い顔で聞く。「左手も左目も治ったからオッケーだよ☆」という簡単な割切りは出来てないんだろうな。
「……うん、行くつもり。スクワッドとの話し合いは、また別の日にする、らしいから……」
「そうですか。私は正直なところ、行きたくないです。行きたくないですけど、あのベアトリーチェって人が悪いんですよね」
「……許すか許さないかは、レイサちゃんが決めていいんだよ……仮に、私が許したとしても、レイサちゃんが許さないなら、それはそれで良いと思うんだ……。許さないけど、掃除はする、でも良いし……許さないからしない、なら、それはそれで良いと思う……」
きょとんとした顔でイヴちゃんを見る宇沢レイサさん。
「……子供の頃、喧嘩やいじめられて『謝りなさい』『謝られたら許しなさい』って言われたけど、謝罪を受け取るのと、許すのは別のことだと思う……」
(あー、わかる気がする)
イヴちゃん、この辺結構ドライというか、しっかり考えを持っていて偉いなあって思う。
「……それに、謝罪をまだ受けてすら無いし、私……だから、掃除は掃除として手伝いに行こうかなって……」
くすりと笑うイヴちゃん。
「私が行かなくても、その、軽蔑したり、しないですか?」
「……しない……私のために、そこまで怒ってくれるのは、変な言い方だけど、嬉しい……」
イヴちゃんは再度、小さく微笑んだ。ホッとした顔をする宇沢レイサさん。まあ気持ちはわかる。僕なら絶対掃除とか手助けに行かないわ。悩むだけ、宇沢レイサさんは良い子なんだろうな。
翌日は事件の影響で臨時休校となり、体操服のイヴちゃんは旧校舎の掃除にやってきていた。宇沢レイサさんはイヴちゃんの部屋でお泊まりして一晩考えて、結局、「イヴちゃんと一緒にいたいけどアリウス分校生のために掃除はしたくない、でもそれは正しい事なのか?大人に騙された被害者でもある人を助けないのは自分の正義に合うことなのか?」と思い悩んだ末に、掃除を手伝うことにしたそうで、同じく体操服を着てついてきていた。宇沢レイサさん、真面目だなあ。あと、2人とも水着じゃ無くて本当に良かったよ。
「……レイサちゃん、ありがとう……」
「いえ!これはイヴちゃんが心配だからついてきたついでですから!」
大怪我をした事を救護騎士団の入院時に同室で知っていたらしい人達がギョッとする視線を受け流し掃除するイヴちゃん。そこまで親しい人とたまたま会わなかったから、これも怪談か何かになったりするのかな。積極的に「拾えたんです」なんて言って回るべきなのか。それも怪しいよな。
なんて思っていると、肩をがっちり後ろから掴まれた。
「イヴさん?何でお掃除なんてされてるんですか?ミネ団長の救護対象になる前に、検査を受けに来てください」
鷲見セリナさんだった。目が全然笑ってない笑顔で、イヴちゃんは即座に抗弁を諦める。宇沢レイサさんはさっき宣言したとおり、イヴちゃんが第一だからと掃除道具を片付けて救護騎士団の本部に着いてきてくれた。
心配そうな目で、無言で検査を見守る宇沢レイサさん。脇腹の問診にも当然のように着いてこようとして追い出されていた。えっちな目的というより、心配でしょうがない保護者という感じだったが、それはそれとして駄目ですよ、と窘められてしょんぼりしている姿はちょっと同情してしまった。
精密検査は2時間ほどかかった。鷲見セリナさんは先生から話を聞いているようで、左手と左目の細かい話についてはあえて触れないようにしてくれているのがわかる。
すぐ結果が出る部分については脇腹、左手、左目全て完全に健康、異常なしということで、まずは胸をなで下ろした宇沢レイサさんと僕。イヴちゃんも喜んでいるんだけど、精密検査の疲れからか判りづらい。僕と宇沢レイサさんはもちろんわかる。
治安維持アプリを見たら、もう旧校舎の掃除は終わっているらしく、宇沢レイサさんが嬉しそうに提案する。
「お祝いに何か美味しいもの食べに行きましょうか!やっぱりお肉ですかね!」
イヴちゃんもこくりと頷く。ちょっと奮発して、良い焼肉を食べに行くことになった。2人とも手を繋いで嬉しそうだ。肉はいいよね。肉はキヴォトスが生み出した文化の極みだよ。百合の次くらいにいいもの。