ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
エデン条約再度の調印式当日。イヴちゃんは対外アピール*1と偽装のため左目と左手首に白包帯を巻いたまま、先生の護衛の1人として付き従って参加することになった。身長よりでかい盾と銃を持って、先生に付き従うイヴちゃんは当然マスメディアの的になりそうだったが、先生が上手く捌いてくれて助かった。イヴちゃん、声掛けられる前にちょっと硬直しちゃってたしな。やっぱり精神的成長があっても、一朝一夕で何とかなるものでもないらしい。
ゲヘナ側の万魔殿要員は飛行船でやってきており、羽沼マコトさんが丹花イブキさんを伴って降り立った時点で、ゲヘナ側の安全は確保されたと見て、ゲヘナ側の警備責任者でもある空崎ヒナさんは胸をなで下ろしていた。一瞬だけ、マスメディアに群がられるイヴちゃんを心配してくれた後、先生に微笑んで戻る空崎ヒナさん、怪我と再度の式典準備の疲れだろうか、少しだけシナシナしているが元気そうで一安心。
届いた祝賀の花輪の山の中に、ミレニアムの調月リオ会長のがあった。前回も今回も祝電と花輪は送ってくれていたらしい。前回は「絶対何か起きる」のが判ってたから、緊張しててそれどころじゃなかったんだよな。
エデン条約は、桐藤ナギサさん、羽沼マコトさん、そして黙許者としての秤アツコさんの元、無事調印が終了した。平和条約と、相互の治安維持組織がより協力できるようになる。
祝典の礼砲が撃たれる中*2、羽川ハスミさんがイヴちゃんに小さく呟く。
「これから楽になる部分も増えますが、忙しくなる部分も増えます。お互い頑張りましょう」
イヴちゃんは羽川ハスミさんにも判る程度に小さく微笑んで頷く。
打ち上げはティーパーティー、万魔殿*3はティーパーティーの大会議室で、正義実現委員会と風紀委員会はファミレス*4の貸し切りで行われた。丹花イブキさんは残念がってくれたが、イヴちゃんがまたの機会にゲヘナに遊びに行く時に必ず顔を出すことを約束してとりあえず我慢してもらった。先生もファミレスの乾杯にだけ顔を出して、ティーパーティーの側に参加するらしい。
(……アツコさんは、大丈夫なのかな……)
(知り合い一人もいないし、和解委員会もまだ終わってないから帰るって言ってたよ)
結局、血をもらったお礼、といってもイヴちゃん曰く、意識が無かった時らしいのでお礼が正しいのかわからないけど、言えてないんだよな。アリウス側が何かの打上げに参加は考えにくいから一応気をつけて偉い人達の会話を聞いてたのだけども、まずは一安心だろう。
守月スズミさんは最初の乾杯だけ付合って「今日もパトロールをするので、皆さん楽しんで」と帰ってしまった。自警団はあまりこういう付合いが好きじゃない人の集まりだから、自警団員の参加者はまばらだ。もっとも、剣先ツルギさんと空崎ヒナさんはティーパーティー大会議室の方だし、羽川ハスミさんと天雨アコさん初め実務のトップクラスは、打ち上げなのにもう難しい顔で仕事の話をしている。イヴちゃんと宇沢レイサさんも最初は幹部として声をかけられたのだけども、ゲヘナにおけるトリニティ自警団の活動権限の細かい部分のツメがまだ終わってないからと早々に解放された。
実際には天雨アコさん曰く「自警団がトリニティとゲヘナの自治区境界を越えて追跡できるようになるのと、正義実現委員会と風紀委員会との合同訓練に参加できるようになる程度で、大きく変わらないでしょう」とのことだけれども。法的には結構変わってくるけど、実務上で言うと、確かに改めて打合せをしなくても通知で大丈夫そうではある。
そういえば、と、ドリンクバーで作ったグレープフルーツコーヒーを不味そうに飲みながら、イヴちゃんは宇沢レイサさんに訊ねる。
「……今まで、ゲヘナ境界近くだと、レイサちゃんはどうしてた……?」
「逃げられる前に倒してました!!!!」
流石自警団のスーパースターは伊達じゃないな。
レイサさん初め、自警団の顔見知りと料理を食べていると、多分知らない顔が多いからだろうけど、ちょっと緊張した顔で下江コハルさんがやってきた。
「イヴ、レイサ、私もバイクの免許取ってきたから!これでイヴと同じようなバイクに乗れる!」
緊張しつつもドヤ顔で見せつけられる下江コハルさんの免許証に『大型二輪』を見て、おお、と感嘆するイヴちゃんと宇沢レイサさん。
「……バイクは、買うの?……どこのにする?」
「やっぱりエリートとしては『スピードエリート』*5か『Shinobi』*6とか気になってるんだけど。そもそもイヴのあのバイクはどこのなの?ミレニアムのマークがついてるけど」
「……あれはミレニアムのエンジニア部の人が作ってくれたから……。似たようなモデルが欲しいなら、ミレニアムの会社が8,000ccクラス*7のバイク売ってるよ……」
「へぇ~。私も免許取ろうかな。ちなみに、あのスケルチの重量は何kgなんですか?」
「……ガソリン満タンで400kg、盾をつけたら900kgくらい……」
「そんなに重いと起こせないかも……」
眉をひそめる下江コハルさん。盾、バイク的には完全に単なる死重量なのに、あんな速度出るの、エンジニア部の技術恐るべしだな。
「……『スピードエリート』は250kgくらいだったよね……」
「お店でどっちも触らせてもらえたけど、起こせたわよ。後はお小遣いと相談かも」
実機をもう触ってるんだな、と感心したイヴちゃんは後者の言葉に小さく頷く。トリニティのお小遣い、成績に比例するから、イヴちゃんならぽんと買えても*8補習授業部に入る下江コハルさんなら尚更だろう。
「最初はレンタルでもいいんじゃないですか?」
「やっぱり『自分の愛車はこれ』ってしたいかなって」
なるほどなあ、と頷くイヴちゃんと宇沢レイサさん。
何て楽しいお喋りに花を咲かせていると風紀委員会側からも、イヴちゃんと宇沢レイサさんと合同訓練で一緒になった子達が声をかけてくれる。
帰りが余りに遅くなると困るし、治安の問題もあるから、そろそろゲヘナ側は撤収するらしい。
正義実現委員会と風紀委員会は合同演習を過去にしているし、顔見知りもお互い多いようで、学園を越えて会話が弾んでいて他人事ながら嬉しくなってしまった。
打ち上げが終わり、下江コハルさんは正義実現委員会の先輩達と二次会に行くらしく、イヴちゃんと宇沢レイサさんとはお別れ。
バイクの話をしていたから、イヴちゃんはツーリングがしたくなったらしく、スケルチを店の前に呼んでいた。イヴちゃんと、宇沢レイサさんが後ろに乗る。
高速道路を流しながら、ヘルメットのマイク越しに会話するイヴちゃんと宇沢レイサさん。
「……レイサちゃん、バイクの免許取ったら、後ろに乗らなくなる……?」
「いえ、やっぱり取らないです!!」
掌くるっくるやな。
「……レイサちゃんが運転して、私が後ろに乗せてもらうのもいいかも……」
「じゃあやっぱり取ります!!!」
掌くるっくる。くすりと笑う2人。高速道路は事故もトラブルもなく平穏だった。
大型二輪、現実でも普通免許あれば2週間ほどで取れるらしいので、キヴォトスだともっと早く取れるのではと推測しています。
条約に伴う後始末やタイトルの通り新しい仕事も増えてくるのですが、折々に触れていくことになると思います。