ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
I've remained by your side
In chains, entombed
Placed inside
Safe and sound
(Deftones - "Entombed")
スケルチで高速道路を飛ばすことしばし。イヴちゃんはミレニアムのエンジニア部、正確にはエンジニア部の射爆場にやってきていた。開けたフィールドに、イヴちゃんの背丈の半分ほどの金庫が一つ置いてある。
宇沢レイサさんも一緒に来たがったのだが、自警団のシフトの都合で来られず、イヴちゃん一人での来訪になった。
エデン条約テロの時に酷使した翼をフルメンテしてもらうために翼を外し、神経接続部にはカバーをつけてもらった上で、トリニティのワイシャツの上からミレニアムのジャケットを羽織っている。トリニティの校章が入った腕章*1に、肩口にゲーム開発部のマークが入った逸品だ。
応対してくれてるのは白石ウタハさんと、同席しているのは白石ウタハさんに呼ばれたらしい先生。射爆場でスケルチや盾、翼と内蔵装備の使用感をひとしきり聞いてから、バイク(?)の映像を見る。
「これは、うちが作った試作バイクだね。車椅子に変形する機構の一番格好良くかつ邪魔にならない変形方法を検討中に、盗難に遭ってしまった。犯人はわかっているんだが、セミナーの方で対処することになっていてね。鍵は追加したから心配しないでほしい」
スマフォで監視カメラの録画映像を見せてくれる白石ウタハさん。ピンク髪ツインテールの生徒が、エンジニア部のセキュリティを無かったかのように解錠して乗り逃げする姿が映っている。えーと、黒崎コユキさんだっけ?数字周りのセキュリティを無効化できる。
「シールは、跳びはねるものを意識して、発注者に選んでもらう予定だったんだ。兎、人参、カンガルー、トビウオ、鮫、滝の水滴なんかを準備してたんだが」
鮫?鮫もまあ、跳びはねるかあ……。シールを物色している犯人の手元、どう見ても台風に乗っている鮫の写真から僕は目を逸らした。
白石ウタハさんはメッセージで言っていた「相談したいこと」、について話し始めた。
「先生とイヴに相談したいのは、その金庫の中身の事なんだ」
開いてみると、鉄屑の中に一体のロボットが鎮座していた。深海魚のような、タコのような、夜の底から浮かび上がってくるような何かを思わせるフォルム。周りの鉄屑は同じロボットの残骸で、完品はこれだけということらしい。うわ。出た。何だっけ、忘れられた軍隊?
遠くからヴェリタスとゲーム開発部の皆が歩いてくる気配があるが、まだ時間がありそうだ。早めに金庫を閉めてしまいたい。
「"これは?"」
「廃墟の探索チームが発見したものでね。過去にも出現していたみたいなんだけど、完品を捕獲したのは初めてなんだ」
(……ジルが、「アリスさんに触らせるな」って言ってたやつ……?)
(そう、これだよ。イヴちゃん、代わって喋っていい?)
イヴちゃんの許可を得て、僕が口を開く。
「以前お伝えしたとおり、これは天童アリスさんが触らなければ何事も――」
「イヴ、アリスが何ですか?!」
とんでもない速度で走り寄ってきて抱きついてきた天童アリスさんにびっくりする。そうか、僕がイヴちゃんを強化してるのと同じ様に、視覚や聴覚も元々人並外れてる可能性があるのか。
僕は行儀が悪いけど足で金庫を閉めて適当にダイヤルを回す。
「アリス、知ってます。これ、は――」
天童アリスさんが僕の制止をすり抜けて、何かに憑かれたような目付きで、金庫のノブをねじ切った。不味い。
奇妙なロボットが起動し、紫の光を纏って天童アリスさんの前に飛び上がる。天童アリスさんの目も紫色に輝く。
「……起動開始。」
射爆場の隅のスクラップ置き場から、中大破した同型のロボットが2体現れる。
「コードネーム『AL-1S』起動完了。プロトコルATRAHASISを実行します」
「敵です、先生!指揮を!」
僕は叫びつつ、向かい合って光の剣をチャージし始めた天童アリスさんの左こめかみ目がけ飛び跳ね、躊躇無く全力の回し蹴りを叩き込んで、そのまま空中でタコ型ロボに
天童アリスさん(?)は立ち上がると、光の剣を僕目がけて発砲した。くそ、翼が無いから重心が――。
盾を地面に右斜めの角度をつけて叩きつけて、ヂィ、という耳障りな擦過音を立てて弾丸を逸らす。
「痛ぁ?!」
跳弾が才羽モモイさんに命中したらしい。先生からの指揮問合せが入り、僕は「承認」を目の隅で選びつつも、独断で盾を光の剣の上に叩きつけ、砲口を押さえつけつつそのまま金属を削る音を立てつつ盾ごと体当たり。
視界の隅、2体の中大破したロボットは早々に誰かが撃破したのを確認。後は天童アリスさん(?)だけだ。
「シィィッ!」
「ぐっ……?!」
軽装甲車くらいなら吹き飛ばせる僕の体当たりに抵抗しきれない天童アリスさん(?)。全力の腕相撲だと良い勝負、天童アリスさんがやや勝ち越しなので、向こうも十全なら止まってただろう。まだ身体の制御に慣れてないらしい。このままたたみかける。
そのまま、盾の左上角を使ってこんどは右こめかみを抉るような一撃。
「……有機体の生存を確認。反撃を実施し――」
「寝て、ろ!」
盾をぶん回してもう一撃、左こめかみに盾の縁を叩き込み、ようやく意識を奪えた。短く息を吐き、残心。『再起動だと?あり得るのか、こんな生徒が……』されたら堪らないので、盾と左腕上部を繋いでいる鎖を外して、入念に縛り上げる。 動揺する花岡ユズさんと才羽ミドリさん。ヴェリタスと白石ウタハさんも同様だ。僕が身体を動かしてるから判らないけど、イヴちゃんも相当動揺している。
「あ、ああ……」
「い、一体なに?アリスちゃん、何があったの?お、お姉ちゃんは……?」
天童アリスさんと、才羽モモイさんをイヴちゃんが担いで医務室に連れて行く。途中、白石ウタハさんが当然の疑問を口にする。
「なぜイヴは『ロボットが接触したらアリスがおかしくなる』とわかってたんだい?」
(イヴちゃん、僕が喋るね)
(……お願い……)
「トリニティには、未来予知の能力者がいます。その人から聞いていました」
うろ覚えのゲームプレイ知識で~す、なんて正直に言えるはずがない。困った時の
5分ほどしてから意識を取り戻したのは、元の天童アリスさんだった。本人が縛っておいてほしい、と訴えるのを、そういう訳にはという先生の判断で拘束を解く。
泣きじゃくる天童アリスさんを宥めることしばし、30分ほどして才羽モモイさんの目が覚めた。
「うう、痛たた……今のでシナリオの天啓が下りてきたら良かったのに……」
幸い、たんこぶが出来た程度らしい。2人とも頭を打っている、というか天童アリスさんに関してはしこたま殴ったり蹴ったりしたのは僕なんだけど、ので、念のため2人とも頭部の精密検査を受けることになった。
2人の検査結果が出るまでは一旦解散で、となり、僕はエンジニア部に翼を取りに戻り、ゲーム開発部員皆は検査に付き添い。先生とヴェリタス、白石ウタハさんは爆発事故の報告をセミナーにしに行った。
その足で廃墟探索の時に押収したデータが関係あるかも、と、廃墟探索の時にデータ移行して、そのまま置きっぱなしになっているタブレットの中身を確認しに行くらしい。
(……結局、あれは「誰」なの?ジルみたいな、誰かがいるの……?)
(廃墟の中で見つけたコンピュータの中身が、僕みたいに天童アリスさんに入ってる、はずなんだけど。それをどう証明したものかな)
イヴちゃんも、「なぜ僕が知っているのか」疑問に思ってるはずだが、聞かないのはきっとイヴちゃんの優しさなんだろう。
校舎内のタブレットに挿してあるmicroSDカード内にKeyがいて、モモイが手元に持っていたゲーム機よりかなり距離がありますが、不可解な軍隊のロボットが接触し、アリスが受信可能にさえなればKey→アリスへの転送は距離があっても出来るという解釈で書いています。睡眠ポッドとKeyの入っていたPCに距離がありましたし。