ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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やっぱりどんな分野でも勉強って大事なんだな つまりイヴちゃんは賢くて可愛い

 エンジニア部で、騒ぎを聞いてないらしい猫塚ヒビキさんと豊見コトリさんに事情を軽く説明しながら、翼を再度装着してもらう。

「そうですか……アリスが……」

「困ったら、助けに行こう。ミドリ達にも伝えておいて」

「……うん、私も、そのつもり……」

 翼の内蔵装備の強化の予定もあったのだけれども、天童アリスさん絡みの諸々があったので沙汰止みに。

 イヴちゃんがゲーム開発部の部室に戻ると、天童アリスさんが先に検査が終わったらしく、部屋に駆け込んで扉を閉めた。

 イヴちゃんがドアをノックするが返事が無い。ドアノブを捻ると鍵が掛かってなかったので普通に入るイヴちゃん。部室の隅で体育座りしている天童アリスさんの隣に、2人のマグカップに熱い紅茶にミルクと砂糖をたっぷり淹れ、女の子座りで腰掛けるイヴちゃん。しばらく無言で、2人が紅茶を飲む音だけが部室に響く。

「イヴ、が、私を止めてくれたんですよね」

「……そう。私なら止められるから、私は、アリスさんの隣にいても大丈夫だよ……」

 ぶわっと涙を溢れさせ、イヴちゃんに抱きつく天童アリスさん。イヴちゃんの身体のあちこちがミシミシ言ってるが、気にせず同じく強く抱きしめ返すイヴちゃん。僕は念のため天童アリスさんの様子を確認する。うん、文字通り目の色も変わってない。泣き腫らして真っ赤ではあるが。

「モモイを……モモイに、怪我をさせてしまいました」

 しばらくあやすように背中を叩いていたイヴちゃんが、天童アリスさんの背中側に回って抱きしめた。

「……百鬼夜行には、『身固め』っていうおまじないがあるの。抱きしめて、悪い物が入らなくなるおまじない……」

「アリスには、もう知らないセーブデータが入っているかもしれません」

 イヴちゃんがうろ覚えの真言を呟きながら、天童アリスさんの頭をあやすように優しく叩いてあげる。実際の身固め、多分僕のライブラリに資料があるけど、正式にやっても安心感がちょっと増えるくらいだろうな。

 部室のドアがノックされて、先生とゲーム開発部の皆が入ってくる。白石ウタハさんとヴェリタスの皆は一旦解散したらしい。

「"アリス、もう大丈夫?イヴも、ありがとう"」

 天童アリスさんもイヴちゃんも首を振る。もちろん、2人の首を振る意味は真逆だが。

「モモイ、ごめんなさい」

「え、何が?」

 ぽろぽろ泣く天童アリスさんが一瞬きょとんとしてしまうくらい才羽モモイさんは普通だった。

「ああ、たんこぶできたくらいだから平気平気!それより、さっき先生とも相談したんだけど、何でこんなことが起きたのか、対策を考えなくっちゃ!安全なクエストのための攻略法だよ!」

「お姉ちゃん、結果に問題無かったけど、頭打ったんだからあんまりはしゃがないで」

「あ、あの、アリスちゃんは、大丈夫だった?」

「……ばんばん殴ったり蹴ったりしちゃったから。ごめんね……」

 まあばんばん殴ったり蹴ったの僕なんだけど。大盾を使う西洋剣術研究会とか機動隊とかにいたのかな。トンファー辺りの応用で、沖縄空手とか伝統派の流派習ってたのかもしれないけど。ま、僕の事はどうでもいいや。

「シールドバッシュって現実にやられるとハメ技だったんでしょ?」

 才羽モモイさん、空元気かと思いきや、結構素でテンションが普段通りに戻ってる可能性があるな。メンタルのタフさ半端無い。

「わ、わかりません……」

 しょんぼりする天童アリスさんのために、一同を一旦宥める先生。

「アリスの中に、まるで知らないセーブデータがあったみたいです。あのロボットを見て、気がついたら頭が痛くて、イヴの鎖でがんじがらめに縛られていました」

 先生曰く、タブレットの中に入っていたはずの、Key.exeファイルは影も形も残って無くて、念のためヴェリタスに持帰って調べてもらって何もなかった、廃墟にあったパソコンを再度調べたけど、やっぱり何も無かったらしい。

「とにかくあのロボットが鍵になるんだよね?イヴかC&Cの誰かについててもらうとか?」

「い、イヴさんはトリニティにそのうち帰らないといけないから……」

 完全にゲーム開発部の一員として扱われているのがちょっと嬉しそうなイヴちゃん。ただ、最初の1回目は向こうが不慣れだったから初心者狩りに近くて、相手が慣れたらイヴちゃんか僕が絶対勝てるとも限らないんだよな。

 そういえば、天童アリスさんの健康診断というか脳の診断ってどうやったんだろう。アンドロイドなんかと同じ扱いだったのか、ヒト(キヴォトス人の構造は基本的にヒトと同じだ)と一緒なのか、それとも誤魔化せるようになってるのか。まあ、騒ぎにならなかったということは、問題無かったってことだな。ヨシ!

 

 ううん、と悩んでいると、再度ドアがノックされた。「どうぞ」と応える才羽ミドリさん。人が増えすぎて不安になってきたのか、花岡ユズさんはロッカーに戻る。

「お邪魔するわ。私は調月リオ、千年探題、星を追うもの。先生には別の形で挨拶したかったのだけど」

「何か聞いたことあるような?」

「お姉ちゃん、生徒会長だよ!」

 弛緩しかけた雰囲気を、先生が挨拶することで引き締め直す。

「"よろしくね、リオ。今日来てくれたのは、アリスのことかな?"」

「ええ。今日の顛末は、たまたまエンジニア部射爆場の近くを捜索していたC&Cから聞いているわ。ネル、入りなさい」

「チビメイド先輩……」

「チビは止めろ」

 天童アリスさんに律儀にツッコミを入れる美甘ネルさん。こほん、と咳払いして続ける調月リオさん。

「あなた達は先ほどの事件で一つの考えに到達したのでは?友人だと思っていた彼女が見せた異なる姿。同時に発生した混乱。『今まで友人だと思っていたものは、そうでないのかもしれない』と」

 真っ先に反応したのは才羽姉妹だった。

「お姉ちゃんみたいな独自設定を勝手に付け加えるのやめてください!」

「そうだよ、アリスはアリスで、ってミドリ酷くない?!」

 揶揄のような反論に、顔をしかめて続ける調月リオさん。

「少女の外見を備えた『ソレ』は普通の生徒ではないわ。あなた達がアリスと名付けたそれは、未知から侵略してくる『不可解な軍隊(Divi:sion)』の指揮官であり、『名もなき神』を信仰する無名の司祭が崇拝した『オーパーツ』であり、古の民が残した遺産。『名もなき神々の王女AL-1S』」

 再度笑い飛ばそうとした才羽姉妹の表情が固まる。

「やっぱり、脳内の独自設定じゃないですか」

 才羽ミドリさんが震え声で反論する。

「配慮が足りなかったわね。ゲームで例えると、アリス。あなたはこの世界を滅ぼすために産まれた魔王なのよ」

「あ、アリスは魔王ではありません……アリスには、勇者の証、光の剣があります」

 ぶるりと震える天童アリスさんを宥めるように、イヴちゃんが更に力強く、背中から抱きしめる力を強くする。

 先生が庇うように調月リオさんと天童アリスさんの間に立つ。

「"それが真実だとして、私達はどうすべきだと、リオは思っているのかな?"」

「爆弾は安全な場所で解体すべき。つまり、ヘイローを破壊――」

「……それ以上は言わないでください。2つ、聞きたいことがあります……」

 僕も意外なことに、イヴちゃんが調月リオさんの発言を遮った。

「……アリスさんがおかしくなる条件は、あのロボット、不可解な軍隊、でしたか。に接触したときでいいのですよね?ロボットはどこで、何体見つかりましたか?……」

「一つ目の問いは、他の条件もあり得るという仮定付で『はい』よ。二つ目の問いは、廃墟でのみ発見されているわ。今日の接触は、廃墟の探索事業で持帰り、分離分類しておいたロボットと、同じく廃墟で撃破した機体、合計3体のみ」

「……なら、アリスさんを何とかしなくても、廃墟を何とかすればいいんじゃないですか?……」

「廃墟は小さな自治区1つ分はあるの。あなたがエンジニア部、ヴェリタスと協同して調査を進めてくれたのは知っているし、あの調査事業は4kmは進んでいるわ。逆に、4kmしか進んでないともいえる」

「……射界清掃という概念を、ご存知ですか?……」

 イヴちゃんは小さく、僕はもちろん、ゲーム開発部の皆、先生にもわかるように笑った。

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