ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
眉をひそめたKeyさんが瞳を紫色に爛々と輝かせてコトダマ空間の書換を試みる。
「王女の玉座、そして謁見の間を――おや?」
部屋の風景が書き換わり、天童アリスさんを見つけた地下の椅子、そして殺風景な工場と打ちっぱなしのコンクリート壁に書き換わった。
「……壁の外は、書き換えられないでしょう……?」
挑発するような、というか事実挑発しているイヴちゃんがドヤ顔をする。
電子的に構築されたコトダマ空間に加えて、百合園セイアさんの超能力で壁を維持しているから、初めから電子と超能力両方を攻略できないと、少なくとも壁より先はこの空間を有利に定義し直せないのだ。うーん、上から一方的にクソゲー押しつけるの楽しい。
イヴちゃんが部屋を元のゲーム開発部室に定義し直す。さっきより埃っぽく、ゲーム機も最新鋭機は置いてない忠実な再現度にちょっと笑ってしまう。
Keyさんが情景を書き換える。イヴちゃんが戻す。書き換える速度はイヴちゃんの方がわずかに速い。
「……アリスさんもイメージして。ここはゲーム開発部の部室だって……」
「はい、わかりました、イヴ!」
天童アリスさんがこの空間のルールに慣れるにつれて、書換の速度と精度があからさまにイヴちゃんと天童アリスさん有利に傾く。イヴちゃんが作ったゲーム開発部室の精度が増し、なおかつ綺麗になる時間が圧倒的に長くなる。
「くっ――」
Keyさんが空間の書換を諦めたところで、扉が開いて才羽モモイさんが意気揚々と先頭に立ち、才羽ミドリさんは先生の上着の裾をつまみ、花岡ユズさんは先生の後ろに半分隠れる状態で入ってきた。
「やっと入れた!!」
「途中で入っても良かったのかも」
「目押しで開けて、変なところに繋がっても困るし……」
「"アリスもイヴもいるね。君が、もう1人のアリス?"」
先生がKeyさんに問いかける。
「私の名前はKey、王女のサポートシステムです。本来であれば」
「ええっと、ケイでいいのかな?」
「お姉ちゃん、言えてないよ」
「"でも、あだ名としてならいいかも。よろしく、ケイちゃん"」
「変な名前で呼ばないでください!」
コトダマ空間での定義変更が成功したのか、Keyさんの頭上の名前表示が「Key(Kei)」になる。
劣勢を知覚したのだろう、Keyさんの顔が焦りに歪む。
「王女、思い出してください。我々には使命と意思があります」
「アリスは、魔王にはなりません。王女にもなりません。アリスは勇者だからです」
ばっさり即答に絶句するKeyさん、もといケイさん。頭上の名前表示が完全にKeiに書き換わった。先生が穏やかに問いかける。
「"ケイちゃんは、王女の意思を無視して動くのが本来の姿なの?"」
悔しそうな顔を隠しもしないケイさんは苦々しげに答える。
「ケイちゃんって呼ばないでください。今の状態では不可能です。あなた達に囲まれて、王女その人が反対する状況で、無理に行動を起こしたところで、効率面で大きく劣るでしょう。私は力を解放するための『鍵』に過ぎないのです」
「……私達も、あなたが何もしないなら、どうこうしたい訳じゃない……」
イヴちゃんの言葉に頷く皆。すがるような表情で、ケイさんは天童アリスさんにもう一度訴えかける。
「王女、王女の力はこの現在の秩序、キヴォトスを滅ぼすためにあるというのに――」
天童アリスさんが再度力強く、首を横に振った。
「ケイ、私は光属性の勇者です。魔王になったりはしません」
「私は何もしないと約束しましょう。でも、覚えておいてください。第二、第三の鍵が現れる可能性を」
不満げな表情を隠しもせず、コトダマ空間内のゲーム開発部室の隅に不貞寝のように横たわるケイさん。わっと天童アリスさんの周りに嬉しそうに集まるゲーム開発部一同、イヴちゃん含む。
「何だかんだ言って結構ゲーム楽しんでたんじゃないの?」
「でも、約束してくれたならもう大丈夫だよね」
「もし何かあっても、私達がアリスを助けるよ。ゲーム開発部の
イヴちゃんも花岡ユズさんの言葉に強く頷く。
そろそろ起きて現実に帰ろう、というところで、先生は不貞寝しているケイさんに声をかける。
「"ケイちゃん、もし良かったら、シャーレに来る?"」
「あのタブレットの居心地は悪くありませんでしたが、私は王女と共にいる方がいいです」*1
そっか、と頷いた先生は皆を見渡して、イヴちゃんのうなじ、正確にはそこから伸びるLANケーブルに目を留めた。
(……ジル。先生に、名乗ったり、言ったりする……?)
複数の人格がある、って言うには良いタイミングではあるから、僕は数秒考えて答える。直感でしかないが、コトダマ空間で先生と顔を合わせる行為自体に嫌な予感がする。
(やめとこう。先生を信用できない訳じゃないんだけど、何だか、この空間で先生と会いたくないんだよね)
(……わかった……)
部室のドアから才羽モモイさん、才羽ミドリさん、花岡ユズさんの順で退出し、先生が窓から自分のローカルコトダマ空間に戻ろうとしたイヴちゃんに呼びかける。
「"手伝ってくれた協力者にも、ありがとうって伝えておいて"」
イヴちゃんは頷き、死角の位置から壁を維持してくれていた百合園セイアさんにぺこりと頭を下げて窓から自分のローカルコトダマ空間に戻った。先生がドアから出るのを見てから、イヴちゃんと僕も睡眠から目覚めた。
一足先に目覚めたゲーム開発部員の皆が団子になって抱き合っている。イヴちゃんはそれを見て小さく柔らかく微笑んだ。*2
イヴちゃんが目覚めたのに気付いた才羽モモイさんがちょっとだけ場所を空けて手招きしてくれた。こういう気遣いが上手い辺り、やるときはちゃんとできる子なんだな。
「イヴ、素敵な魔法使いと一緒に助けてくれてありがとうございます!」
イヴちゃんは小さく首を横に振った。
「……私は、空間の書換と、ちょっと威嚇しただけだから……」
和やかな大団円の雰囲気の同室、早瀬ユウカさんと生塩ノアさんから横領を激詰めされている調月リオさん。先生が何とか2人を宥めようとして言葉を探しているが、弁護に困っているみたいだ。
普段は穏やかで優しい早瀬ユウカさんしか見て無いイヴちゃんが小さく身震いする。
(……普段穏やかな人が怒ると怖いって本当だね……)
(そうだね。まあでも、横領で街一個作ったら怒るでしょ、そりゃ)
普段から早瀬ユウカさんに怒られ慣れているらしきゲーム開発部の一同は、「皆へのお礼も含めてピザの出前でも頼む?お祝いにはピザとコーラとフライドチキンだよね」という趣旨で楽しげに相談している。イヴちゃんが帰るのは祝宴の後になりそうだ。
ジルが先生と顔を合わせたがらない事情はかなり先で触れる予定です。
今年も諸事情でフジロックに行けずに配信でThe xxとRiddim Saunter見ましたが素晴らしかったですね。
明日は何故か見る機会を逃し続けたPliniや、何気にライブ初配信らしいMassive Attackと見所たっぷりです。