ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
イヴちゃんの後援会移動は派閥争いの表面に小さなさざ波を立て、クラスの中でも小規模な動揺と噂話、根拠の無いゴシップを駆け回らせた。ティーパーティー本部ではもっと大きな話になり、百合園セイアさんが聖園ミカさんを煽る種に使っているらしいというのは、昼休み後に戻ってきたティーパーティー所属生徒の発言。
さて、放課後。皆が部活に向かう前に、報野モユルさんが宇沢レイサさんグループを招集した。
「大人気イベント、和楽姫のチケット8人分もあるんだよ!そろそろ期限切れちゃうし、次、全員分取れるかわからないよ!」*1
という報野モユルさんの発言に納得し、みんな頑張って予定を調整してその週末の部活の休みを取った。
そして当日早朝、宇沢レイサさん、下江コハルさん、円堂シミコさん、伊落マリーさん、朝吹ソフノさん、報野モユルさん、そして我らがイヴちゃんの全員が浴衣をレンタルで着付けてもらって土曜朝一の百鬼夜行直通特急に乗った。
宇沢レイサさんは本人の強い要望でイチジク、逆にイヴちゃんが星柄モチーフのものを着ている。友達のモチーフのものを着るのいいよね。今回は何だかやましい動機のようなものを感じるけど。
下江コハルさんは鳥の翼と羽、円堂シミコさんは本とペン、伊落マリーさんは猫、朝吹ソフノさんはグラウンドと青空とランニングシューズ、報野モユルさんは本と栞(円堂シミコさんとは地の色も違って、印象は別物だ)
8人分のチケットのうち残りの1枚は、報野モユルさんの彼女の分。4人がけのボックス席2つに陣取った宇沢レイサさんグループで、にやにやと嬉しそうに報野モユルさんが王子様のような凜々しい少女の映った待ち受け画面を見ている。
「馬鹿みたいににやけちゃって」
「色ボケよ、色ボケ」
まあまあ、と生暖かい表情で、冗談半分でツッコミを入れる朝吹ソフノさんと下江コハルさんを宥める円堂シミコさん。苦笑いしながら伊落マリーさんはそれを見ている。
今日の朝ご飯は、この直通便名物の駅弁、鶏釜飯だ。トリニティからだからトリという安易さなんだろう。*4
ほかほかの釜飯は出汁が効いていて、鶏肉もごろごろ入った贅沢なものだった。皆で舌鼓を打ち、食べ終えて会話が一段落すると、前日の礼拝堂清掃を休む分頑張ったという伊落マリーさん、同じく訓練を倍近くやってきたという下江コハルさん、留守にするにあたって準備が大変だったという円堂シミコさんの順でうつらうつら船をこぎ始めた。
宇沢レイサさんもイヴちゃんの右手を取って、肩に寄りかかる。が、多分だけどこれは寝たふりだな?頬が赤いし、落ち着く位置を探してごそごそしているし。
イヴちゃんはそんな宇沢レイサさんの手を握ったまま、そっと膝枕の姿勢にしてあげる。宇沢レイサさんは耳が真っ赤だが、イヴちゃんは気付かずそっと優しく頭を撫でてあげている。
頭を撫でるリズムで自身も眠たくなったのか、イヴちゃんもうつらうつらし始めた。自身も昨日の練習疲れで眠そうな朝吹ソフノさんに、報野モユルさんが本来は2人に聞こえない程度の小声で、しかし弾んで楽しそうな声色で話しかける。
「いや、これで付き合ってないって本当?浴衣の柄の選び方も虫除けじゃん」
朝吹ソフノさんは苦笑いして答える。
「2人には2人のペースがあるんだから、焚き付けたりしないでよ」
「わかってるって。2人とも大事な友達だし。それに焚き付けなくても恋バナは自分で摂取できるし」
「はいはい、ご馳走様」
「それで、ソフノはどうなの?例の先輩とさ――」
2人の話は朝吹ソフノさんの恋愛事情に話が及ぶ。友達の保護者としてちょっと興味はあるものの、盗み聞きは避けるとしよう。話から意識を逸らすと、イヴちゃんの眠気に引っ張られて、僕も眠たくなってしまった。僕まで眠気でぼんやりした状態で何かあったら困るし、僕も少し寝ておこう。
本格的に寝入ってしまっていたらしい。到着まであと5分で、朝吹ソフノさんが皆を起こしている。狸寝入りだったはずの宇沢レイサさんも爆睡していたようで、涎を垂らしていたりしないか心配した素振りを見せている。濡れた感触はないので多分セーフ。
(イヴちゃん、もうすぐ着くよ)
(……んん、起きる……)
ふにゃふにゃと目を覚ましたイヴちゃんは宇沢レイサさんのつややかな*5髪の感触をぼんやりと撫でて楽しむ。宇沢レイサさんはカチコチと固まり、起きるタイミングを逃してしまった。
宇沢レイサさんは荷物が鞄一つとショットガンだけと少なかったからギリギリに起きるので間に合った。釜飯やおやつのゴミを列車内のゴミ箱に捨てて、ホームから改札を通ると、百花繚乱の青い制服を着た王子様然とした女の子と、髪を三つ編みにした陽気そうな少女、灰色の長髪のどこか気弱そうな少女の3人、そして先生がいた。
王子様然とした少女に目を輝かせて走って飛びつく報野モユルさん、先生がいることに少し嫌そうな顔をする下江コハルさん、先生に嬉しそうに挨拶する円堂シミコさん、伊落マリーさん。
「"やあ、みんな。おはよう。偶然だね"」
何でも、先生は今回の和楽姫を招待してもらったついでに、エデン条約の時の教訓を元に、治安維持組織と生徒会に相当する組織と連絡網を作っておこうと思っていて、百鬼夜行に関しては、緊急時に限ってスマフォで位置を共有する仕組みはもうできたらしい。百蓮にこっそりミレニアム製GPSシールを貼らなくて済むようで安心した。
「初めまして、百花繚乱の七稜アヤメ。委員長をやってるよ。よろしくね!うちのオミナが世話になってるみたいで」
ひゅう、と口笛を吹いて抱き合う2人をからかう七稜アヤメさん。なるほど陽キャって感じだ。
「同じく御稜ナグサ……よろしく」
「2人は忙しそうだから紹介しとくね。こっちのは
輝くような明るい笑顔の七稜アヤメさんと、半歩後ろに隠れるように挨拶する御稜ナグサさん。
「トリニティ自警団の宇沢レイサです!!!」
「……自警団、御蔵イヴです……」
「正義実現委員会、下江コハル。よ、よろしく」
宇沢レイサさんもイヴちゃんも人見知りがかなりマシになって堂々と挨拶できるようになったなあ、と保護者面してしみじみしてしまう。下江コハルさんはまだイヴちゃんの後ろにちょっと隠れ気味だ。
「図書委員会の円堂シミコと申します。この度はそちらの図書館と資料館にお世話になります」
初めての業務としての他校訪問に上気した嬉しそうな笑顔で挨拶する円堂シミコさん。
「シスターフッドの伊落マリーと申します。よろしくお願いいたします」
小さくお辞儀をする、清楚なのに謎の色気がある伊落マリーさん。
ちらりと抱き合っている2人を見て、まだ2人の世界に浸っているなと判断したイヴちゃんが口を開いた。
「……こちらの友達は、純文学部の報野モユルちゃんです……」
自警団の宇沢レイサと御蔵イヴ、と聞いて、御稜ナグサさんが目を丸くする。
「狐坂ワカモを捕まえてくれた、あの自警団?」
「はい!!!といっても、あと一人、頼れる先輩がその場にいましたが!!」
無言で小さく頷くイヴちゃんと、イヴちゃんとしっかり手を繋いでドヤ顔をする宇沢レイサさん。
「凄いね……2人とも強いんだ」
「狐坂ワカモって矯正局常連の?あの人相手に勝つのは相当だね」
ニコリと晴れやかな笑みを浮かべる七稜アヤメさん。どこか何かを羨んでる節があるような気がするのは気のせいだろうか。
明日はNargarothのライブ、明後日はまどマギ映画を見に行く予定なのでお休みです。