ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
七稜アヤメさんが、大人数の一同を見て口を開く。
「今回の和楽姫は、一番標準的なもの。チセさんが最終的に『誘拐』されて陰陽部公演会場にたどり着くまでに、色々なアトラクションをやってもらうことになるのは、パンフレットで見てるよね?」
皆が頷く。和楽姫は観客に飽きが来ないよう、催しの形態を変えることは有名だ。一番スタンダードなのは今回の、「和楽チセさんが『誘拐』*1され、観客が救出する」参加型アトラクション。
アトラクションは何も無く、単に席は抽選で決まり、和楽チセさんの前座に他の人が公演するという回や、アトラクションはあるが観客同士の競争がメインという回もある。
「アトラクションに挑むチームの最大構成人数が4人なのも知ってるよね」
これも皆が頷く。宇沢レイサさんグループは、当日その場でチーム分けをしようという話になっていた。
青竹オミナさんが、申し訳なさそうに口を開く。
「百花繚乱として、警備のためにアトラクションの詳細を知っているから、僕が参加するのは不公平だと思うんだ」
「じゃあ、私も抜けるね。ごめんね、みんな」
てへ、と舌を出しながら青竹オミナさんの腕にぎゅっと抱きつく報野モユルさん。微塵も悪びれてない態度に苦笑いする皆。
普通なら3人と3人で分かれて、最大戦力のイヴちゃんと宇沢レイサさんを別々に配置する形になるかなと思ったところで、報野モユルさんが朝吹ソフノさんに目配せして、朝吹ソフノさんが口を開く。
「多分、銃撃戦とか、身体能力を問われるアトラクションがあると思うの。だから、イヴちゃんとレイサちゃんの2人と、それ以外の4人でチームを分けない?こっちのチームにはコハルちゃんもシミコちゃんもいるし」
「しょうがないわね。頼ってもらっていいから!」
「はい!力がいるアトラクションならお任せです!」
エリートとして頼られる喜びと少しの心配を表情によぎらせる下江コハルさんと、どんと胸を叩いてから、報野モユルさんと朝吹ソフノさん、そしてイヴちゃんと宇沢レイサさんを見てからにっこり微笑む円堂シミコさん。伊落マリーさんも全員を見てから頷く。
いや、明らかにイヴちゃんと宇沢レイサさんを2人にしようって肚やないか。
(イヴちゃんはいい?)
(……戦力の分け方としては、非合理的、かな……?私とレイサちゃんは別々の方が――)
宇沢レイサさんが飛び跳ねるように、いや、本当に小さく飛び跳ねて、大きな声で「はい!」と返事をして、イヴちゃんの手を嬉しそうにぎゅっと握る。
七稜アヤメさんが苦笑いして補足してくれる。
「あくまで『アトラクションを早くクリアして早くたどり着いたら席が先に選べる』だけで、最悪、アトラクションを1つもクリア出来なくてもチセさんの公演は見られるから」
なるほど。要は良い席を取れるかどうかだけなんだな。じゃあ、強く反対する理由もないか。
「ただし、気をつけてほしいのは、今回の和楽姫は、ゲヘナ学園との交流会のテストケースを兼ねてるってこと。今回来ているのは万魔殿、生徒会の面々だけって聞いてるけど」
トリニティとゲヘナの伝統的な不仲を心配してだろう、七稜アヤメさんが助言してくれる。イヴちゃんが頷いて答える。
「……大丈夫です。万魔殿の皆さんとは知り合いなので……」
好意的な驚きを隠さない陽気な顔で、ひゅう、と再び口笛を吹く七稜アヤメさん。うーん、やっぱり陽キャだな。
チーム決めが無事に終わったところで、先生は「"忍術研究部と会う約束がある"」と別件の約束があるということで各自バラバラに分かれることになった。
(あっ、イヴちゃん!忍術研究部の皆に会っておきたいから、先生に着いてってもらっていい?)
(……?先生がいいなら……。それに、私も忍術研究部の動画、好きだし……)
「……先生、レイサちゃん。忍術研究部、私もファンだから、着いていってもいい……?」「"もちろん、構わないよ。ただ、用件によっては挨拶だけになるかもしれないけど、いい?"」
「もちろん私は構いません!」
穏やかに頷く先生と、ぶんぶんと握った手と首を振りながら首肯する宇沢レイサさん。
百花繚乱の一同は引続き駅の警備に。青竹オミナさんと報野モユルさんはこのままデートに行って、和楽姫の公演は一番後ろで見る予定。朝吹ソフノさん達は先に和楽姫の参加受付を済ませてからお茶をするということで一旦解散。
陰陽部公演会場の手前、渦巻映画村入口。久田イズナさん、『少女忍法帖ミチルっち』でお馴染みの千鳥ミチルさんと、これも動画でお馴染み、大野ツクヨさんだ。
「あっ、主殿!レイサ殿とイヴ殿も!」
満面の笑みの久田イズナさんと、少し人見知りが発動しているのか、緊張気味な他の忍術研究部の2人。
「先生、お越し下さってありがとうございます」
「先生、1週間ぶり~。えっと、そちらの方々は?」
イヴちゃんが動画サイトの『少女忍法帖ミチルっち』の登録9人目画面を見せる。
「……ファンの、御蔵イヴです……」
「その友達の宇沢レイサです!!!」
お互いのモチーフの浴衣をアピールする宇沢レイサさん。
自分達の動画チャンネルの古参ファンと知って一気に相好を崩す忍術研究部の2人。忍術動画の感想や改善案などでイヴちゃんと千鳥ミチルさんが初対面とは思えないほど盛り上がり、宇沢レイサさんがイヴちゃんの手をきゅっと握る中、僕は申し訳なく思いつつイヴちゃんに代わって欲しいと頼む。イヴちゃんは快く代わってくれた。
「あの、ファンとして一つ、贈り物があります。受け取ってくれますか?」
スマフォの画面を切替えて見せたのは、ミレニアムのエンジニア部製、BGM-109トマホーク巡航ミサイルに似たミサイルに、座席と手綱、着陸用のソリを括り付けただけの代物の動画だった。
「こ、これは一体……?」
さっきまでの動画の話題の盛り上がりから一転、ギギギと擬音がしそうな硬い動きをする千鳥ミチルさん。
「ニンジャとはミサイルをも乗りこなすものだと、聞いています。万が一の時に使ってほしいのです。百鬼夜行の危機の時に。何も無ければ使わなくて大丈夫です」
ジェット航空機は連邦生徒会法によって生産が禁止されているので、苦肉の策で『じゃあ巡航ミサイル*2を航空機として使おう』という発想でエンジニア部に作ってもらったのだ。僕のうろ覚え過ぎる原作知識ではもうはっきり思い出せないが、人命救助に急いで使える足が必要だった気がするんだよな。
何とか3機分を受け取ってもらう約束をしてから、和楽姫の運営側に回るという先生と忍術研究部と別れた。僕もイヴちゃんと交代する。
「……レイサちゃん、お待たせ。受付、行こっか……ソフノちゃん達と合流できそうなら、始まるまで一緒にお茶してもいいし……」
「は、はい!」
忍術研究部と盛り上がっていた時には寂しそうだった宇沢レイサさんは再び小さく飛び跳ねて、イヴちゃんの腕に抱きついて喜びを全身で表す。
ちなみに、モモトークで朝吹ソフノさん達に連絡したところ「お茶屋さんが超満員で席が無いから、2人で楽しんでて。ごめんね」という返事だった。謀ってくれた喃、とも一概に言いがたい混み具合だ。和楽姫、やっぱり大人気なんだな。
和楽姫の内容が変わる(場合がある)のは、原作に比べてキヴォトスの各学園の交流が活性化しており、来客が増えていることからです。
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