ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
結局、朝吹ソフノさん、下江コハルさん、伊落マリーさん、円堂シミコさんの宇沢レイサさんグループBとは合流できないまま、和楽姫の舞台となる渦巻映画村の入口から歩いて5分ほど、手頃なお茶屋さんで時間を潰すことになった。
和楽姫は先に入場できたチームが基本的に有利なので、渦巻映画村に参加者が入場する順番も抽選制になっているのだ。もちろんスマフォなどで抽選結果が見られるのだけれども、気の早い人達や、早く入れるのを謎に確信している人達は映画村入口前の大スクリーンが見える広場に集まっている。
イヴちゃんも僕もこの手の抽選には弱い方だし、宇沢レイサさんもそんなにくじ運が良い方では無いということで、スマフォの抽選動画を開いたまま、イヴちゃんが優しく宇沢レイサさんの手を取って和菓子の食べ方と抹茶の飲み方を教えている。過去に僕が教えた知識だけど、覚えててくれて嬉しいな。当の宇沢レイサさんがカチコチに固まってしまっているのは抹茶に対する緊張じゃないんだろう。
「……どう、美味しい……?」
「はい!その、凄く、味がします!」
とんちんかんな返事にも小さく優しく微笑むイヴちゃん。何だか気のせいかもしれないけど、イヴちゃんの他の人に対する面倒見が、エデン条約調印式の事件以来良くなってる気がするんだよな。イヴ・ニンジャって当然全ての人間の先祖*1って事になるので、イヴちゃんのママ味が引き出されちゃったのだろうか。まあイヴちゃんは元々親切な方ではあるけれども。
なんて思っていると、抽選結果が発表された。宇沢レイサさんグループは――全員が一番最初の入場枠だ。
「……こんなこと、あるんだね……」
「急ぎましょう!」
「……大丈夫、近いから、普通に行けば間に合う……」
急いで会計しようとする宇沢レイサさんにお手洗いを促して、自分で2人分をさらっと払っておくイヴちゃん。うーんスマート。
しきりに恐縮しながらも、きっちりイヴちゃんの右手と自分の左手を繋ぐ宇沢レイサさん。もう完全に定位置って感じに収まっている。
少しだけ急ぎ足の宇沢レイサさんに手を引かれて、それに逆らわず付いていくイヴちゃん。
ん、誰かつけてくる気配と足音。イヴちゃんの視界の隅を借りて確認すると宇沢レイサさんグループBの4人だった。反対する素振りを見せつつも興味津々という感じの下江コハルさん、困り顔ながらも同じく興味を隠し切れてない伊落マリーさん、ちょっと罪悪感を浮かべつつも多分初めての尾行も含めて好奇心が前に出ている円堂シミコさん、一応バレないようにというつもりかサングラスをかけている朝吹ソフノさん。いやバレバレだし。
こういう場合、僕はどうするべきだろうか。イヴちゃんの幸せを考えると、この企みに乗るべきなのかもしれない。宇沢レイサさんは良い子だ。それは間違いない。
(……ジル、皆、来てる……?)
(き、来ていないヨー。気のせいだったみたい)
僕が選んだのは乗っかり寄りの保留だった。嗚呼、何も決められない寄生虫って悲しいね。
とはいえ、最初の入場列ができる時点で宇沢レイサさんグループBの4人も並ぶのだから、尾行もへったくれもないのだけれども。
なるべく間に人を入れて隠れようとしているのがちょっとウケる。
(……チーム同士の連携って、駄目なんだっけ……)
(確か駄目なはず)
嘘は言ってない。結局時間が近い枠に割り振られて連携したらチーム人数の上限設定意味無くなるからね。うん、そう、それでいこう。僕は僕自身にそう言い訳することにした。
最初のグループの入場が始まる前に、飛行船からのリアルタイム映像を含めての今回のサプライズ。和楽姫の姫役が急遽変更になり、ゲヘナ学園の丹花イブキさんになったらしい。誘拐犯は魑魅一座の姿をしているし、凝ってるなあ。今回は普段より更に特別な当たり回なのかも。
「……イブキちゃん……楽しそう……」
映像ではドローンに気付いてずだ袋から身を乗り出して満面の笑みで両手を振る丹花イブキさんが映っている。小さく微笑むイヴちゃんにあわせて笑顔を浮かべながら、手をきゅっと握る宇沢レイサさん。他の女の子の話が出てちょっと複雑な心境なんだろうか。
VIP扱いなのだろう、開場時間を待たずに先生と忍術研究部の3人、それとあのもふもふなのは棗イロハさんだろう、合計5人が最初に通されるのが見える。小さく不満の声が漏れるが、「VIPチーム1チーム分、追加のグッズと最前列座席を用意しております」というアナウンスで場が静かになる。
宇沢レイサさんグループBの尾行になってない尾行を受けながら、イヴちゃんと宇沢レイサさんは10番目くらいの入場。
最初のチェックポイントは、百夜堂の河和シズコさんと朝比奈フィーナさんとの軽い撃ち合い。先生達はとっくに通過したのだろう、新しい弾痕だけが残っていて姿は陰も形も見えない。
「クッ……あんなに世話になったイヴとレイサに銃を向けないといけないなんて。これも渡世の仁義デス!」
「そういうの良いから。はい、もう良いですよ~」
数合の撃ち合いでイヴちゃんを含めた数グループは通過を許可された。
「あ、全力での撃ち合いはしないんですね」
「……毎回最後までやってると、2人がボロボロになっちゃう……」
それもそう、と頷く宇沢レイサさん。
ちらちら後ろを見ながら宇沢レイサさんグループBの様子を確認するイヴちゃんと、気にはしているけどそれ以上に隣のイヴちゃんが気になる様子の宇沢レイサさん。慎重に前進していくと前のグループがあっさり次のアトラクションに引っかかって失格になってしまった。
「失格になるとどうなるんですか?」
「……確か、座席を選ぶ順番が、最後の方になる……」
イヴちゃんがその気になればコネを使ってグッズを入手できる立場だから、悠然かつ冷静に動いているので、まとめて失格にならずに済んだ。
2つめのアトラクションは、眠り姫の春日ツバキさんの眠りが本当の睡眠か、狸寝入りかを見抜けるか。
「あ、イヴにレイサ……Zzz……」
「今か?今だ!あっ!?」
慌てて走り抜けようとした後続チームが被弾して、係員にあっさり連行されていく。
「……倒されなくても、当てられたらアウトなんだね……」
「どうしましょう?」
相談するイヴちゃんと宇沢レイサさん。
「さっきの忍者?凄かったね。聞き耳?の術だっけ?」
「あんなの真似できないよ~」
そうか、聴力を強化してるんだから、狸寝入りかどうかは判断ができるはず。
(イヴちゃん、宇沢レイサさんに境界線手前をうろついてもらって、イヴちゃんは寝息の違いを聞き分けて)
(……良いけど、わかるかな……)
後続グループがあっさり犠牲になっていく中で、10分近く時間をかけて、寝息の違いをイヴちゃんは掴めたようだった。イヴちゃんが小声で囁き、忍び足でラインを越える2人。
「……できた……」
「やりましたね!」
もう問題無く通れて声を忍ばせる必要が無いのに、小声で囁きあってくすくす笑う2人。可愛い。
イヴちゃん達に便乗して2グループほど通ったが、まあそれはそれでイヴちゃんに賭けたって事だから、連携扱いにはならないようだ。
とっくに追いついていたけれども、こっそり様子を伺っていた宇沢レイサさんグループBは別の方法で解決することにしたらしい。円堂シミコさんの能力で、春日ツバキさんの周りがどこからともなく降ってきた本で埋まっていく。視界自体を塞いで通る策らしい。
(……ああいうのがありなら、レイサちゃんを抱えて飛べば良かった……?)
(あ、その手があったか)
てへ、全然気付かなかったな。
円堂シミコさんだけオッケー、他は銃撃戦で、となったらしい宇沢レイサさんグループBの様子をちらちらと見ながら、イヴちゃんと宇沢レイサさんはしっかり手を繋いで次に向かった。
身体能力だけでニンジャやってるイズナ、リアルニンジャに一番近い生徒。
あれも神秘込みなのでしょうか。
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