ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
イヴちゃんは先生に陰陽部との回線を開いてもらい、連れて行かれた誘拐犯役の人達と元の持ち場に戻った勇美カエデさんを除く、その場にいる全員を集めて「いたずら」の詳細について話し始めた。天地ニヤさんのニヤニヤ笑いが深くなる。
「なるほど、なるほどぉ。特別が続く回だから、最後も特別な演出で締めようということですねぇ。うーん、今回の参加者を考えると、20枚ってところでしょうかねぇ?チセは大丈夫です?」
「んー……いいよ~」
答えると、和楽チセさんは色紙を取り出して俳句とサインを書き始める。即興で作っているらしきそれは流れるような美しさで、文字の散らし方も見事なもの、可愛らしいイラストも添えられている。
見てるだけで眼が喜ぶような代物だな。あれ後で宇沢レイサさんグループ全員分を追加で作ってもらえないかな。コネはどこまでも浅ましく使うのがジル流に御座いますれば。
1時間ほど、準備時間と、普通の和楽姫としてのゴール順が、落とされた橋*1の手前で記録され、座席をその場で決める。
和楽姫のトリ、和楽チセさんの舞踊と歌の会場である陰陽部公演会場はこの橋の先で、手前にはティーガーがほぼ無傷*2で、でんと鎮座しているが、誰も気に留めてない。
その戦車の裏、視界を遮る位置でイヴちゃん発案の「いたずら」は着々と進んでいく。朝吹ソフノさんから「今どこ?何してるの?大丈夫?」というモモトークがイヴちゃんと宇沢レイサさんに来たが「運営のお手伝いをしています」と返信を送る。
和楽姫のトリが始まる1時間前に、予定通り「いたずら」が始まった。中継・アナウンス用の飛行船のホロ画像右側には色紙を描き終えて大福をつまみながらお茶を飲んでいる和楽チセさん。左側には少し緊張した、しかし楽しそうな面持ちの丹花イブキさん。
「今回の和楽姫で姫を務めた丹花イブキといいます!今回、和楽姫は楽しく終わりましたが、このまま終わっていい?まだもっとみんなで遊ばない?」
ずびし、というか、ちょこんという感じで、丹花イブキさんが撮影用カメラを指さす。
画面には『※イベント上の演出です』というテロップがでかでかと流れる。ざわつき始める参加者達。
「今回のイベントで、イブキは正式な和楽姫にそ、即位……なります!」
原稿を書いたのは僕とイヴちゃんだ。姫に即位っておかしいと思いつつ書いたので、言い換えてくれて却って良かったかも。
それを聞いてなぜか「おお~」と拍手する和楽チセさん。和楽チセさんから天地ニヤさんに画面が切り替わる。テロップの『※イベント上の演出です』は当然そのままだ。
『ルールは簡単。先生が指揮する戦車チームが参加者を全滅させればイブキさんがトリとして歌と踊りを披露します。逆に戦車チームが負けたら、普通の和楽姫トリが開催されます』
えっ、聞いてないという顔をして驚く丹花イブキさん。
「"大丈夫、イブキのできる歌と踊りをすればいいからね"」
先生に頭を撫でられ、手櫛でイヴちゃんに髪を撫でられて落ち着く丹花イブキさん。
『ただし、対戦車装備を持ってきている方は少ないと思いますので、戦車のダメージは先生の判定式とします』
ああ、
『そして何と、参加者の中から抽選で20名様に、チセ直筆の俳句とイラスト入サイン色紙をプレゼント!』
おお~!と一気に場が盛り上がる。まあ僕も欲しい逸品だしな。そら皆欲しいよね。
ティーガーチームの内情は、忍術研究部の3人と宇沢レイサさん、最初から戦車に乗った状態の棗イロハさんと丹花イブキさん、そして後方から火力支援と戦車の盾役*3をするイヴちゃんの7人を無理矢理6人に詰め込んでお届け。
生徒を戦車に最初から乗せておけば指揮人数を圧縮できるんですね。
ティーガーが道を塞ぐような場所だと、戦車側が有利すぎるということで、陰陽部公演会場前の広場に移動。宇沢レイサさんグループBの皆がいて、こっちに手を振ってくれる。うーん、参加者は大体200人くらいかな。
活躍して勝ちに貢献すると息巻く下江コハルさんのような血の気の多い人達と、抽選で色紙が欲しいから参加だけしとくかという空気の2グループがいる。まあそりゃ、皆撃ち合いや、どつきあいが大好きとは限らないよね。
戦闘の序盤は宇沢レイサさんがとにかく目立って、パルクールで自由自在に移動するのを反射的に追いかけている参加者達が多数、忍術研究部に「そろそろ狩るか……♠」されてしまう。
宇沢レイサさんの強さと人目を引くことをよく知っている下江コハルさん達が、もっと統制の取れた急造集団を作って抑えにかかるうちに、円堂シミコさんの本で臨時の塹壕を作って接近するチームと、更にその逆側から修行部を先頭に押し立てた急造集団によって飽和攻撃を受けて、20分ほど粘ったものの、ティーガーは履帯を中心に攻撃され、片方の履帯をまず『破壊』されて、『撃破』されてしまった。
「随伴歩兵がもっといないと駄目でしたかね。虎丸はもっと頑張れると思ったのですが」
「先生、みんな、おつかれさま!」
「"みんなお疲れ様。でも忍術研究部が本気出したら大抵の子は近づけないしね"」
「何か凄い事言われてる~」
もっと粘るつもりだったらしく渋い顔の棗イロハさん、『撃破』されても楽しそうな丹花イブキさん、先生、へにゃりと困惑顔の千鳥ミチルさん。
パルクールで一番運動していただろう宇沢レイサさんと、大きな盾を持って走り回っていたイヴちゃんに、冷たい水のペットボトルがぽんと軽く放り投げられる。下江コハルさんが汗だくで立っていた。礼を言ってから水をごくごく飲む2人。
「ふふ、今回は私達の勝ちね!」
「もっともっと目立って人目を引きつけたかったですね!」
「……次にこういう機会があれば、もう少し上手くやりたい……。本物の戦車との協同に役立つかも……」
(イヴちゃん、何でも糧にしようとする気持ちは大事だけど、戦車は盾にするもので、盾になるものじゃないからね)
(……そういえば、そう……)
集まってきた朝吹ソフノさん、伊落マリーさん、円堂シミコさんとにこやかに握手をかわす。いや、いい「いたずら」になったんじゃないかな。
皆が服装を整え直し、陰陽部の呼びかけで空薬莢やゴミを拾って片付けると、トリの和楽姫が始まるまでちょうどいい時間だった。さっきの戦闘で出来たての弾痕がキヴォトスだなあと思いながら陰陽部公演会場に入る。
先生は「"1人でも一番前で見られるように"」と、最前列は辞退して、後ろの方の関係者席で見せてもらうことにしたらしい。最前列中央の一番良い席に、忍術研究部の3人に楽しげに連れて行かれる棗イロハさん、丹花イブキさん。イヴちゃんと宇沢レイサさんはその右隣だ。
「イヴお姉ちゃん、とっても楽しみだね!」
「……うん。イブキちゃん、お腹減ってない……?」
「さっきもらったキャンディ食べたし、イロハ先輩にチョコもらったから大丈夫!」
そう、と優しく、ほんの僅かに微笑んで丹花イブキさんの頭を優しく撫でるイヴちゃん。子犬のように嬉しそうに頭を擦り付ける丹花イブキさん。宇沢レイサさんは微笑みながら、イヴちゃんの右手の甲を撫でている。
トリ、和楽チセさんの歌も踊りも素晴らしいものだった。ほぼ全てが和楽チセさんオリジナルの中、1曲だけ、外の世界の曲のカバーがあった。
「らっきー。ライクズィス」
TOWA TEIの"Radio"だ。ぶったまげている間にも曲は進む。和楽チセさんの「らっきー」が可愛い。
「ピンのボケたチャイナ ゲルハルトのリヒター ワン ネイション アンダーアサン 届けられる テレパシックな君」
「れーでぃおー」とコーラスを務める3人の陰陽部員らしき顔触れの中に桑上カホさんがこっそり混じっているのを見て2度ぶったまげた。究極の職権乱用と至高のコネ乱用勝負しようぜ!いやしないけど。
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作中では触れられませんが、宇沢レイサさんグループ全員分が最初のグループに入ったのはニヤの仕込みです。万が一先生達が失敗した場合や、さらに戦力が必要になったら百花繚乱か修行部の誘導で先生達の増援になる予定でした。