ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
和楽姫の公演後、抽選の直前に、僕は浅ましくコネを使って「同じ俳句でいいなら」と、並幅サイズの短冊色紙に和楽チセさんのイラスト付俳句散らし書き8枚をもらった。
「抽選が全員外れるのおかしいと思ったら、こんなことしてたの。ま、まあ、ありがと」
下江コハルさんを始め、口々にイヴちゃんにお礼を言う皆。イヴちゃんは小さく首を横に振って微笑む。*1
「……チセさんが無理を聞いてくれたお陰だから……」
(……帰ったら、チセさんに何か贈ろう。何贈るか、一緒に考えよ、ジル……)
(もちろんだよ)
「モユルと青竹さんの分は帰ってから渡したらいいかな」
「綺麗な色紙。図書館の受付に飾ろうかな」
「銃撃戦に巻き込まれたら悲しいですから、やめておいた方が……」
円堂シミコさんの良案もキヴォトスの治安の現実に冷水を浴びせられてしまう。一番治安がいいトリニティでこの心配しないといけないんだもんな。
和楽姫の後は、飲食店は屋台でも行列ができるほどの人混みで、僕達は早々にご飯を諦めた。今回のイベントに多大な功績があったことから陰陽部に呼ばれた忍術研究部の皆と、万魔殿代表として陰陽部と会食があるという棗イロハさん、丹花イブキさん、そして同じく陰陽部と話があるという先生とお別れ。ご飯は帰りも駅弁にしようと帰りの電車に乗ることにした。
「イヴお姉ちゃん、また会えるよね?」
「……いつでも会えるよ。ビデオ通話もできるし。イブキちゃん、風邪ひかないようにね……」
お別れが寂しくてちょっと涙目の丹花イブキさんをイヴちゃんが抱きしめて頭を撫でて、背中をポンポンと優しく叩く。その様を宇沢レイサさんがちょっと羨ましそうな目で見ているのに気付いたイヴちゃんが、右手を伸ばして宇沢レイサさんの背中をポンポンと叩いてあげる。
今日は泊まって、明日に百鬼夜行の図書館と資料館を明日見ていくという円堂シミコさんとお別れ。
帰りの電車は、百鬼夜行で夕飯を食べて帰ろうという考えの人が多いお陰か指定席列車はガラガラで、4人がけシート2つを並んで抑えられた。
「行きは7人だったのに、帰りは5人ってちょっと不思議ですね!」
「……明後日には2人とも帰ってくるから……」
「せっかくだから、私とイヴ、レイサも泊まって百花繚乱の訓練も見せてもらえばよかったわね」
あっ、という顔をするイヴちゃんと宇沢レイサさん。
「……うん、でも急に押しかけられても困るだろうから、またの機会に……」
それもそうか、と頷く下江コハルさん。確かに訓練見せてもらうのは勉強にはなると思うけどね。この海のジハクの目をもってしても思いつかなかった。
帰りには皆で松花堂弁当*2を食べた。その場で食べるのが前提だから、お刺身や煮物がしっかり入っており、ご飯も温かい赤飯で皆で舌鼓を打つ。
晩ご飯を食べてから、今日の楽しかった出来事に会話に花が咲いていたものの、最初に伊落マリーさんが寝落ちし、次に対ティーガー戦で奮戦した下江コハルさんが寝落ちした。
2人が寝たのに気付いて、朝吹ソフノさんが下手なウインクを宇沢レイサさんに何回か送ってから、目を閉じる。
宇沢レイサさんは皆を起こさないよう、静かに、でも熱っぽくイヴちゃんに話しかける。
「いつもの、最初の2人になったみたいですね」
「……うん……」
「友達がこんなにたくさんできるなんて、思ってもみませんでした。今日は忍術研究部の2人とも仲良くなれましたし」
「……そうだね……」
朝吹ソフノさんは寝たふりをしてるのが本気で寝てしまったようで、小さく3人分の吐息が静かな列車内に流れる。
宇沢レイサさんが押し黙る。顔が耳まで真っ赤だ。列車の揺れる小さな音が場を支配する。
こ、告白しちゃうのか?!ついに?!寄生虫の僕は何を思えばいいんだろう。祝福すべき、なんだろうけどな。何だか複雑だ。そうか。僕からしたら一番一番大事な友達であるイヴちゃんが誰かに取られてしまう、そんな大それた思い。イヴちゃんはどう答えるんだろう。
「……どうしたの……?」
「いえ、その、これからも一緒に、大切な、こ、こい、こういう、その」
宇沢レイサさんの瞳に、まっすぐ彼女を見つめるイヴちゃんが映る。
「と、友達として。そう友達として一緒にいてほしいなって」
「……うん、ずっと一緒だよ……」
へ、へたれた。今凄くいい流れだったのに、宇沢レイサさんは完全にへたれてしまった。イヴちゃんは凄く小さくだけど、慈母のような微笑みを浮かべて頷く。
イヴちゃんの視界を借りて見る宇沢レイサさんは、顔まで真っ赤なまま、安堵と言うべき事が言えなかった悔しさが入り交じったような表情に見えた。
イヴちゃんは宇沢レイサさんも和楽姫の後の余興で疲れたんだなと判断したらしく、自分の膝をぽんぽんと叩く。
「……レイサちゃんも休憩……しよう……?」
「はっ、はい!」
イヴちゃんは膝枕してあげると、宇沢レイサさんの頭を撫でながら子守歌を歌い始める。
「"Black tarantula. Time fi di massive come sing 'ere. Black tarantula. Don't play with my style, I might sting ya.Black tarantula. You want mi inject mi bacteria.And if your body goin' stiff and your spine goin' numb. Now come fi get some"」
Pendulumの"Tarantula"か。今日はイヴちゃん、Pendulumづいてるな。イヴちゃんの中でブームなのかもしれない。イヴちゃんの可愛いソプラノで小声で歌われると、本当に元々こういう子守歌だったのかなという気持ちになる。
なんて思っていたら、これまた本気で寝落ちてしまった宇沢レイサさんについで、僕も眠たくなってきた。
(イヴちゃん、ごめん、僕もちょっと寝るね)
(……いいよ、私は起きてるから、お休み、ジル……)
イヴちゃんの子守歌を聴きながら寝る贅沢を味わえる2人目だと思うと少し嬉しかった。
イヴちゃんの"Tarantula"に影響を受けたのか、僕は夢を見た。タチコマをACⅤ系列のデザインで作ったような防錆塗装だけされている無骨な四脚戦車が、器用にアームを使ってカイザーの重トラックの荷台を破壊して、巨大な筒を取り出す。筒には原子力のマーク。恐らく原子炉だろう。*3
それよりも驚いたのは、カイザーの黒ずくめの重トラックが明らかに人を撥ねたか轢いた跡があることだ。ボンネットのうっすらとした人型のくぼみと、べったり張り付いた黒い血痕からは、背が低い子であることしかわからないけれども。
ミレニアムの制服を着崩した、深い青のボブカットの女の子が四脚戦車の上に立って哄笑する。
「トリニティの子を轢いたせいで、あやうくこのトラックも中身ごとアビドスの砂漠に埋められるところだったんだってさ。被害者が亡くなったから、うやむやになってここにあるんだけどね!」
青髪の女の子は知らない子だ。夢の中の僕は呆然と立ちすくみ、アームが四脚戦車の後部に筒を差込むのを見守る。思い出した。あの青髪の子ではなくて、カイザーの重トラック。あれはイヴちゃんを撥ねたトラックだ。
横に立っていた早瀬ユウカさんが、呆けた様子で重トラックを眺めている僕に、慌てた様子でしがみつく。まるで頼りは僕しかいないような、すがるような目。
僕がイヴちゃんほど強ければ、何とかなるのだろうか。早瀬ユウカさんが口を開き、僕に――。
ぴろりろ、と間抜けなアラームの音が響き、トリニティまであと少しであることを伝える。皆が眠い目を擦って起きてくる。イヴちゃんはずっと起きていたらしい。
「……おはよう、みんな……」
とてつもない悪夢を見た気がする。でも、忘れちゃったな。イヴちゃんを轢いたトラックが出てきたような。初めて会ったときの夢だったのかな。まあ、覚えてないってことはたいしたことじゃないんだろう。
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キヴォトス、管理も結構ガバそうなので、原子力関係の研究は厳しく規制されてそうです。