ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
中学生最後の期末テスト、引き続いてトリニティ高等部への編入テストも無事終わり、イヴちゃんと高等部の寮に引越した魂のおまけ、ジルです。
毎日1時間の予復習と過去に躓いていたところを初等部まで遡って潰したイヴちゃんの頑張りと睡眠学習の効果があったのか、期末テストも編入テストも学年2位の壮挙を達成できた。すげーよイヴちゃん。
イヴちゃんが本番に滅茶苦茶弱くなかったら首席もいけたかもしれないけど、まずはこの凄い結果を褒めなきゃね。えらいっ!!ってずっと褒めてたらちょっと照れすぎてか軽くぷんすこしちゃったけど。
いやでも優しくて可愛い上に賢いてもう天使じゃん。元から天使だったわ。
宇沢レイサさんとお友達2人も無事高等部編入を果たしたので、ともあれお祝いと引越しお疲れ会を兼ねて(みんな寮の部屋は全然遠かった。残念)ファミレスでランチして駄弁ってきた。
宇沢レイサさんグループ(仮称)はみんな忙しくて部活もバラバラ、帰る時間も違って個人主義的傾向もあるし、平日お昼休み以外は集まる機会がちょっと少なめなのだよな。
春夏冬休みは割と集まってる(彼女がいる報野モユルさんは欠席多め。交尾してるんだ!(?))けど、週2〜3くらいだし。
モモトークはもちろんくだらなくて可愛らしい話が飛び交ってるし、通話とかもしてるんだけど。
ともあれ集まりとご飯を満喫したイヴちゃん、晩ご飯までまだかなりあるけど、ちょっとおねむらしい。新居も快適で温かいしね。エアコンと加湿器が良い仕事をしてくれていて、夕方前の陽光とセットでねなさ~い!!ってしてくる。
(イヴちゃん、寝てていいよ。荷解きやっとくから)
(……ん、ありがと……)
本当はイヴちゃんにやってもらった方が経験的にいっかなと思ったけど……いやこの分類してない何だかわからんもんが一杯入った箱以外は僕がやっちゃお。
大した量でもないし、家電やらクローゼットの荷物とか靴は業者さんがやってくれたし。さっさと片付けよう。
まじで速攻で終わった。夕ご飯まで半端な時間だな。トレーニング軽くして瞑想でもするか。
日課のストレッチと腹筋背筋腕立伏せ各500回ずつ――最初は100回もすると次の日に響いてたから、随分いい感じだ――やってシャワーを浴びて髪の毛乾かしてベッドの上で座禅を組んだ。
鼻で吸って口からゆっくり吐くチャドー呼吸。目を閉じる。
瞑想の最中に寝落ちたのか。僕は新しく引越してきた部屋とよく似たような別の部屋にいた。いや、多分だけど夢だとか幻覚の類じゃなさそうな気がする。
っていうか、僕の身体がある。身体っていっても人体じゃ無くてぬいぐるみになっている。視界の左側に山のように本と
右側には可愛らしい服がシンプルなハンガーラックに引っ掛けてあったり、棚に食品サンプルが飾ってあったり教科書が並べられたりしている。
僕の首は動くし身体ももぞもぞ動くが、歩いたりはできない、のか?
「何だこれ」
背中側が温かいし、呼吸音もする。誰かいるのか。
「……んん……?もう起きた方が良い……?」
「イヴちゃん?!」
背中の方からイヴちゃんの声がする。今までの思考のやりとりじゃ無くて声が聞こえる。
ぬいぐるみの自分をよく見ると肩口から脇に括り付けてある紐がある。腕を内側に窄めて紐の下を通すと普通に抜けて着地できた。
振り返るとイヴちゃんが立ってキョロキョロと周りを見渡している。
うお~生(?)イヴちゃんだ!!!可愛い~~~!!!!!!
後ろ姿ってほとんど見ること無いから新鮮過ぎる。服装は普通にさっき着てた部屋着だね。
スカート履いてなくてよかった……。覗き込む衝動と戦わずに済む……。
イヴちゃんの前にはデスクトップパソコンとモニタが2枚、スピーカも左右のがある。
「イヴちゃん、ちょっと視界と音共有させてね」
頷くイヴちゃんが見えるの本当に良いな。まじで愛くるしい。天使かな?天使だったわ。
あ、モニタがついて外が見えて音がスピーカから聞こえてくる。
イヴちゃん本人が目の前にいるのに、そのイヴちゃんの呼吸が小さくだけどスピーカから聞こえるの不思議だなあ。モニタ左右は視覚、スピーカは聴覚が判りやすくイメージ化されたものであってるっぽい。
右側に大きな鏡が立てかけてあるのでそっちにてくてく歩みよって覗き込む。
ばかでかい3等身くらいのイヴちゃんぬいぐるみがそこにいた。いや元のイヴちゃんがちょー可愛いっていうのはもちろんだけど、造形もいいし、可愛いな。中身が僕なのが割と最悪って感じではあるけど可愛い。
大体、背の高さ的にはイヴちゃんの8割くらいか。
背負い紐抜けたんだから間違いないんだろうけど、最初はイヴちゃんに背負われる形になっていたらしい。
ん、ぬいぐるみ僕のうなじとイヴちゃんのうなじが頑丈そうなLANケーブルで繋がっている。
イヴちゃんから離れるように歩くと普通に伸びるし、すっぽ抜けたりはしなさそうだ。えーと、カテゴリ8のケーブル。いいの使ってる。
うん、コトダマ空間だこれ。イヴちゃんは僕の声は聞こえるけど僕の姿は見えないらしく、前に立っても僕を認識できないみたいだ。
ついでにモニタの前に僕が立って塞いだりするとイヴちゃんが見えなくなることがわかった。
多分、僕を視覚的に認識できないのは、イヴちゃんがコトダマ空間認識者じゃないからだろうな。
まあこの世界だと違う名前なのかもしれないけど、これはコトダマ空間。決まり。僕がそう判断したからだ。
で、そうなると気になるのが窓の外。外は現実とリンクしているのか夕方の空模様、晴れ。
窓を開けてでっかい顔を突き出して外を見る。家の外は水が浅く張った地面が地平線まで続いていて、空に黄金立方体――はない。ニンジャ存在可能性は減ったかな。コトダマ空間ではないからという可能性もあるけど。
窓の外には他に、ア?!D.U.を走っているピカピカの列車、それも2両だけという変な編成のものが200mほど遠くを横切っていくのが見えた。
オイオイオイ。あれはアレじゃないのか。先生と連邦生徒会長(推測)が引き継ぎをする一番最初のイベントの「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況。大いなる力には、大いなる責任が伴う」だっけ?
目をこらしても小さな人影しか見えない。でも、見えないはずなのだが、僕は列車内にいる誰かと目が合った気がした。
列車はあっという間に見えなくなり、僕は外に出る意思もないので部屋の中をもう一度確認しておくことにした。
ぬいぐるみだから水に濡れたら重たくなっちゃいそうだし。水の見た目は綺麗だけど海水とか訳わからん組成の水で腐食し始めたりしたらちょー嫌だし、どんな悪影響があるかわからんしな。
部屋を探索してわかったこと。
窓はイヴちゃんの背中側のさっき開けてみた一つだけ。外に線路があったはずだが、目を離した隙に通り過ぎた列車どころか線路も今は見えなくなっている。接続が切れた?観測をする条件がある?これは考えてもしょうがなさそうなので棚上げ。
デスクトップPCにモニタ2枚にスピーカ左右、マウスとキーボード、USBカメラ。無理矢理解釈すると、多分だけどモーションキャプチャでイヴちゃんの身体が動いている。といっても、WSADとマウスでも身体を動かせるようだ。
PCに向かって右側が多分僕、左側がイヴちゃんの脳内で占めている位置。
何も考えずにイヴちゃんの身体を半分使わせてもらうと左手左目側を使うのは、脳の左右が身体の反対側*1を支配しているからだと思う。
まあ脳のモジュールは適当に分かれてるから、役目的に完全に右脳左脳片側ずつ占有している訳では無いと思うけど。尻尾切るやくめとか出来ないからね。
どこに行くのかわからないけど、イヴちゃんから見て4時方向にドアがある。鍵がかかっていて開けられない。どこへ行こうと言うのかね?
破ったりして出られないかなと思って体当たりしてみたけど、ふわっふわのぬいぐるみが体当たりしても焼け石オブファイアでどうしようもなかった。あほかな?
LANケーブルの端子に関して、触るのは本当に怖かったので鏡と近付いて観察した結果、外し方がわからなかった。
イヴちゃんのうなじしげしげ眺めて、ばり愛らしか~♥って考えてたらコトダマ空間内のイヴちゃんが顔をしかめて「臭い」って言ったので、下劣な事を考えるとこのぬいぐるみボディが異臭を放つらしい。何やねんこのクソ仕様。要らんやろ。いやまじで要らんやろ。
コトダマ空間から出るのは出たいと強く念じるだけで大丈夫だった。入り直すのもできた。イヴちゃんが寝てないと入れないということもないようだ。
……ということを大興奮してイヴちゃんに話したのだが、イヴちゃんの反応は素っていうか。
『ふーん……ジルがすごく推してたニンジャスレイヤーとかSF映画みたいな……?よかったね』
と、結構フラットな対応だった。悲しい。まあそうか。自分が見た訳でも無いし、これの凄さがわからないだろうしね。いや凄いんだよこれ。
……何が?コトダマ空間見えて何かある??ハッカーでもないし生体LAN端子もないのに?イヴちゃんにつけてくれっていうのはちょっと無理だろう。
維持と更新のコストが重すぎ……いや翼につけたらいけるんか??ちょっと今度エンジニア部に相談してみよう。
ハッカーの真似事が出来れば、きっとイヴちゃんの役に立つ。かも。立たないかも。
晩ご飯はお昼を重めに食べたので麻婆春雨を一緒に作って食べた。市販のキットだけど一手間加えて美味しい。
地上派で放送されてる僕もイヴちゃんも大好きな、筋肉モリモリマッチョマンの変態がドンパチ賑やかにやる映画を見ながら食べていると、羽の生えたカヌーを飛ばす辺りでクロノススクールからの速報が入った。
『連邦生徒会長、行方不明か?!』
警報音とテロップ。いや何で緊急速報で?!マークが入るんだよ。
マガジンか。マガジンだったら!?だっけ。どうでもええわ。
ともかく、飛ばし捏造誤報当たり前のクロノス、特にテレビ部は本当に酷いけど、これは多分当たりだ。
ちゃんと先生が来てくれるのか、さっき僕こと可愛いぬいぐるみと目があった人なのか全然関係無いのか。一般生徒だとこの辺伝わってこないものなあ。
連邦生徒会長がもういなくなってるのも全然気付かなかったし。情報入手もちょっと考えないといけないかもな。
っていっても、何も思いつかんけど。えらい人とコネ作る?どうやって?うーん、無能で無策な寄生虫の悲しさ。
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紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.20