ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
トリニティに帰宅したその日の午後、イヴちゃん宛のモモトークや電話がひっきりなしにかかってきた。事件というわけでは無い。百鬼夜行からのお土産が届いたというだけだ。凄いね、キヴォトスの流通網。ダイエット中*1という羽川ハスミさんに送った低カロリー水羊羹は特に喜ばれた。
その日の放課後、イヴちゃんが自警団本部で事務を済ませてから、シャーレに当番として向かう。
今日の当番表を見ると、イヴちゃん1人だ。ガンラックにも他の誰の銃もかかってない。当番でもないのに何だかんだ理由をつけて来る生徒が増えていて、予定外に誰かと顔を合わせるのが多い最近のシャーレでは珍しい。
イヴちゃんは丁寧に盾を置き、ガンラックに
しばし黙々と手を動かす先生とイヴちゃん。イヴちゃんがそれとなく聞いてみたところ、事務仕事の自動化で、イヴちゃんや早瀬ユウカさんのような事務仕事ができる当番がいなくても問題無く定時で終われているそうで安心した。疲れ切って頭の回らない人と、ちゃんと休養を取って元気な人、どちらに頼りたいかという単純な話だ。
「……そういえば、先生は武道とか、運動とかはしてますか……?」
事務仕事が終わって、イヴちゃんの私物のマグカップ*2にコーヒーを淹れてくれる先生は、イヴちゃんの疑問に、あはは、と苦笑いして返す。
「"キヴォトスに来てから、時間がちゃんと空いたから、やろうと思ったことはあったんだけど三日坊主だったな。ランニングマシンも続かないしね。昔はこれでもバレー部で、エース、じゃなかったけど楽しかったよ。空手も経験したことあるよ。1日だけね"」
「……1日だけ……?」
「"5歳くらいだったかな。親に空手道場に連れて行かれて、体験入門したんだ。本当は怖くなかったのかもしれないけど、私には師範が怖く見えて、入門しなかったんだよね"」
お礼を言ってコーヒーを受取り、砂糖を山ほどとミルクを適量入れて混ぜながら、なるほど、と頷くイヴちゃん。ふーん。僕も確か同じくらいの頃に連れて行かれて、楽しくてそのまま入門した――気がする。もう何もかも記憶が曖昧なんだよな。ま、僕自体はどうでもいいや。
「……バレーボールをやる前から背が高かったんですか……?」
「"そうだね、元々高かったけど、中学からバレー始めたらもっと伸びたね。嘘か本当かわからないけど、踵への刺激は背を高くするのにいいらしいよ"」
言いながら、イヴちゃんの盾にちらりと目線を送る先生。重いものを持ち続けるのは背を高くするのに良くないというこれも俗信を思い浮かべているのだろう。
(骨端線っていうのがあって、15歳前後で身長が伸びるのは止まるんだって)
(……今から踵を刺激しても駄目かな……)
(気になるなら、カーフレイズ*3をトレーニングに組み込んでおくよ)
(……うん、お願い……)
イヴちゃん、身長欲しいんだね。ちょっと意外だった。背が伸びてシュッとした美女になるイヴちゃんも想像すると、それも良いかも、と思った。
事務仕事も全部片付いて、先生とイヴちゃんが談笑していると、シャーレのビデオ通話に着信が入った。連邦生徒会からだ。先生はイヴちゃんに断って電話に出る。
画面に映ったのは七神リンちゃんさんだ。
『先生、いまお時間は大丈夫ですか?』
「"大丈夫だよ、リンちゃん。どうしたの?"」
『誰がリンちゃんですか。事務の件で、いくつかお伝えしたいことがあるので、今日の当番は――御蔵さんですか。御蔵さんは、先生の事務仕事をよく手伝っていると聞いています。よかったら一緒にお越し下さると助かります』
先生のまなざしに頷くイヴちゃん。
「……
「"事務の件って何だろうね。お茶菓子とか、出してくれるかな"」
半分おどけて微笑む先生。うーん、ふざけてても先生は顔が良いな。
スケルチだと法定速度をちゃんと守ってもあっという間だった。シャーレから連邦生徒会には直通の地下鉄が通っているけど、電車を待つ時間すら必要無いからね。
連邦生徒会受付はいかにも暇そうで、事務作業の効率化が進んでいるのが手に取るようにわかる。先生は顔パス――とはお役所仕事の常で行かず、受付が七神リンさんに確認してから首席行政官室のある階の小会議室に通された。イヴちゃんは護衛として横に立っているつもりだったみたいだけど、先生に勧められて座る。まあ連邦生徒会本部内で先生を襲撃は、無いとは言えないのがキヴォトスの恐ろしいところだ。
数分して扉が開き、七神リンさんが入ってくる。先生が立ち上がって笑みを浮かべる。
「"リンちゃん、元気そうでよかった"」
「誰がリンちゃんですか。ですが、事務の自動化システム導入効果は、確実に連邦生徒会全体に浸透しています。残業もほとんど無くなりました。さすがに月の残業0時間はまだ無理ですが」
化粧で誤魔化しているという素振りもなく、血色が確実に良くなっている七神リンさん。うんうん、働き方の改善が進んでて何よりだね。
お付きの行政官がお茶とお茶請けのおかきを持ってきてくれる。
「"あ、本当にもてなしてくれるんだ。ありがとう"」
「来客にお茶を出すくらいの余裕は充分にありますから。ですが、本題はそれではありません」
イヴちゃんは僕と一緒に、書類仕事を始める前に連邦生徒会の事務取扱要綱と文書規定を読んでいたから指摘は比較的少なかったけど、先生は大字*4が使えてないこと、文書がくだけすぎていること、判子の角度*5に至るまで駄目出しが相次いだ。
七神リンさんは時間に余裕があるからだろう、先生への指摘事項一覧をA4裏表4枚ほどのページもので渡してくれた。
「"リンちゃんと楽しくお話する時間かと思ったのに"」
「申し訳ありません。リンちゃんではありませんが、さすがに就業中に雑談できるほどは余裕がなく――どうしました?」
苦笑いする七神リンさんがノックに反応する。調停室長の岩櫃アユムさんがタブレットを持って入室してくる。先生とイヴちゃんを見て、七神リンさんに目で問いかけ、頷きで続きを促されて話始める。
「失礼します。朝の子ウサギ公園での元SRT生徒に動きがあり、報告をと」
「"SRTって、廃校になっちゃった学園だったよね。私は仕事終わったから、様子見てこようか?"」
あまりに細かすぎるお役所仕草の山にうんざり飽き飽きしていたらしい先生も、七神リンさんも渡りに船という表情をする。
「助かります。SRTは仰る通り、
先生は頷いてからイヴちゃんを見る。イヴちゃんももちろん頷く。
あー、何だっけ、ヴォーパルバニーの兎編*6だっけ?
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本来のゲームでは『アビドスリゾート』~『出張!百夜堂海の家』が先らしいのですが、この世界線ではVol.3 4章『忘れられた神々のためのキリエ』が前倒しで終わっているので、トリニティとゲヘナという大学園を揺るがした事件に触発されてRABBIT小隊のデモが早く始まっています。
※更に厳密に言うとVol.2 2章『友情と勇気と光のロマン』はVol.4 1『RABBIT小隊始動』の後らしいのですが、この二次創作世界では先にカタがついています。