ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
スケルチで先生と子ウサギ公園に向かう。公園に近付くにつれ、空き店舗や廃屋が目立つようになってくる。事前に七神リンさんから「そもそも地域全体が再開発エリアに指定されている。該当する生徒の所属するRABBIT小隊はそれを踏まえて選んだのだと思う」と教わった通りだ。
目当ての公園はすぐ見つかった。ヴァルキューレの盾を構えた生徒達がずらりと包囲しているからすぐわかった。
荷物を下ろしたのだろう、比較的広い公園からオリーブドラブ色の大型トラックが出てくる。ヘルメットは黒の猫(?)モチーフで、兎モチーフの装備をしていると教わったRABBIT小隊とは別の小隊の子らしい。
「ありがとうね~。ご苦労さん」
トラックの公園出発を誘導して手伝っていたらしい生徒がこちらを見る。眼鏡のいたずらっぽい表情を浮かべ飴を咥えたその生徒は、ヴァルキューレ警備局の包囲の圧も全く気に留めてないようだ。下ろした荷物を点検し終えたらしき生徒も近寄ってくる。なるほど、2人とも兎をモチーフにしたヘルメットを被っている。
「ん?どちら様?」
「モエ、どうした?」
バイクを路肩に止めてヘルメットを脱いだ先生が、生徒2人に挨拶する。イヴちゃんもヘルメットを脱ぎ、七神リンさんから預かった書類をヴァルキューレ警備局を指揮している*1尾刃カンナさんに渡す。書類に目を通した尾刃カンナさんが指示を出し、包囲網を構成しているヴァルキューレの生徒達が一歩後に下がる。
「"初めまして。シャーレの先生をしているよ。こっちは今日の当番生徒で一緒に着いてきてくれた、トリニティの御蔵イヴ"」
「……御蔵イヴです。こんにちは……」
「トリニティの御蔵だと?」
「何、有名人?」
「FOX小隊の先輩の前に、狐坂ワカモを捕まえた、トリニティ自警団トップ、三角の1人だ」
「ああー。凄いね、有名人じゃん。あ、知ってると思うけど、私は風倉モエ、こっちは空井サキ」
「各学園の要注意人物リストは見てないのか?」
呆れる空井サキさんに、「あんなの真面目に見てるわけないじゃん」とけらけら笑う風倉モエさん。え、何それ。また変なあだ名ついてるし。
「"連邦生徒会側から見た事情は聞いてきたけど、君達の話をちゃんと聞きたいんだ"」
「……その前に、狙撃手に先生を狙わせないで、私を狙わせるように指示してください……」
「先生が銃弾に耐えられないって噂は本当なのか」
言いつつも、素直に無線に標的変更の指示を出す空井サキさん。イヴちゃんの視界を借りた僕が、ほんの一瞬、木の上でキラリと光る反射を捉えた。
(イヴちゃん、左手借りるね)
イヴちゃんの許可を取り、盾を持ち上げてキラリと光った辺りに
「"イヴ、撃たないでね"」
「……わかってます……」
あくまでこっちは狙撃手の位置を把握しているという威嚇に過ぎない。僕もぶっ放す気は全く無い。30mm機関砲の砲口を羨ましげに眺め「何だ、撃たないのか」と呟く風倉モエさん。
「"『SRTの廃校撤回デモ』って聞いたから、デモの内容はわかったけど、公園1つを使うなら、デモと公園使用許可の申請書を出してほしいんだ"」
その言葉に、空井サキさんが反応する。
「モエ、書類は作ったって言ってなかったか?」
「くひひ、作ったよ。出してないだけ。その方が面白くなるかなって」
「面白くって、お前な。まあ、SRTの力を示す舞台が向こうからやってきたみたいだけど」
一瞬、風倉モエさんに喰ってかかろうとした空井サキさんはあっさりと矛を収めた。
「でしょ。ヴァルキューレと一戦交えて蹴散らすのもきっと楽しいよ?」
困った顔をする先生。
「"そんなことしなくても、書類を今、私に出してもらえたらすぐ連邦生徒会に許可してもらうよ"」
「くひひ、興味無いかな」
「ああ、必要無いね」
それを聞いたイヴちゃんが公園につかつかと入る。公園入口の辺りの土に、盾の角を使って、半径5mくらいのややいびつな円を描いた。
「……武器なしで私と、3本勝負しませんか。ルールは『足の裏と髪の毛以外が地面に着くか、この円の外に出たら負け』……」
「撃ち合いならそっちが有利だから、って思ってるのか。情けでもかけてるつもりか?」
「……自信、ありませんか……?」
イヴちゃんの素直な問いかけを挑発だと思ったのだろう、空井サキさんが「ボクシンググローブを2セット出せ」と言い、風倉モエさんが笑いながらほとんど使われてないボクシンググローブを投げて寄越す。
イヴちゃんは即席リング外に盾を置いて
「何だ、大口叩いた割に素人臭いな。これでもSRTのボクシングの授業だとトップクラスだったんだ」
「何事ですか?!さっきから無線に応答しないと思ったら――」
青みがかった灰色の長髪の少女が駆け寄ってきて声を空井サキさん、風倉モエさんにかける。その言葉が合図となり、空井サキさんがボクシングの構えから様子見のジャブを連打する。空井サキさんの方がイヴちゃんより大柄*3だからリーチは長い。イヴちゃんもボクシングの構えで、空手の受けでなく、パリングとスウェー、ウィービングで攻撃を躱す。
「ちょっとは囓ってるのか?民兵!」
イヴちゃんが反撃の左フックをわざと手前で空振りして視界の下を塞ぐ。
「何、痛っ?!」
左フックを空振りした勢いをそのまま使って、イヴちゃんはしゃがみ込んで水面蹴り。蹴りを全く意識してなかった空井サキさんの右足首を払う。慌てて転ばないようたたらを踏んだ空井サキさんの顎に、イヴちゃんが立ち上がった勢いを乗せて跳ね上がるようにアッパー。お、小さく空井サキさんの身体が浮いた。
前に倒れて膝を着いた空井サキさんの身体をイヴちゃんが支える。
「くひひ。やるね。さすが有名人」
空井サキさんが意識を取り戻すまでの短い時間で自己紹介を交わす。長髪の少女は月雪ミヤコさんと言い、行きがかり上、リーダーを務めているそうだ。話を聞いて、月雪ミヤコさんは即座に書類の提出を決意したらしく、口を開いた。
「待て、まだ勝負は終わってない……卑怯な手にやられただけだ」
ベンチに寝かされていた空井サキさんはまだやる気満々のようだ。
イヴちゃんは組手立ちで構える。今度は様子見ではなく、本気の右ストレートを叩き込んで来る空井サキさん。イヴちゃんは空手の内受けで右腕で受け、そのまま手首をまるで白蛇のように相手の腕に絡め、手首の凹んだ部分と手刀の部分で掴み、そのままぐいっと引っ張る。
「は?!引っ張るのは禁止、まず……」
イヴちゃんの怪力で引きずられて態勢を崩さないのは相当難易度が高い。案の定体調を崩した空井サキさんは蹴りと顎への攻撃両方を警戒して中途半端に両腕でガードした姿勢になる。イヴちゃんはするりとガードの下にタックルで潜り込んで、
「ぐっ……!」
「……私の勝ち……」
「待て、卑怯だぞ!足払いの次は引っ張ったり投げたり!」
「……武器なしで勝負、としか言ってない……」
ぐっ、と悔しげにほぞを噛む空井サキさん。プライドが許さないのだろう。
「わかった。書類は出す。だが、あと1戦、1戦させてくれ」
イヴちゃんは頷いた。
「……じゃあ、足技は使わない……」
敵(?)から塩を送られて悔しそうだが、ちょっと安堵したかのように頷く空井サキさん。
空井サキさんは変わらずボクシングの構え、イヴちゃんはどっしりと足を大きく開いて低く構える。向こうはジャブで遠距離から攻めるつもりらしいが、ボクシングと違って判定勝ちがあるわけではない。イヴちゃんのパリングと空手の受けで有効打を与えられないまま、イヴちゃんのすり足でのじりじりとした接近を許してしまう。イヴちゃんは左手のボクシンググローブを眼前に突き出し、目の前で拳を開いて破ってパーで相手の視界を塞ぐ。*4
飛びかかったイヴちゃんはそのまま右ストレートを空井サキさんの顎に叩き込んだ。スリッピングも間に合わず、倒れ込む空井サキさんを再度支えるイヴちゃん。
うんうん、夢の中とかイヴちゃんが寝てる間に練習したりしてるのが役に立ったね。
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サキの扱いが悪いですが、作者はサキ好きです。融通が利かない割に「撃ちたい」という欲望には負けたりとか、教本に載ってない事は苦手そうなところとか。
1年生はSRTのカリキュラムにある軍隊格闘技はまだやっておらず、その手前のボクシングの授業だけしか受けてないという前提で書いています。
今日はParadise Lostのライブで、書き溜めがないので数日空きます。