ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
イヴちゃんは折角だから、と2人の歩き方や周囲の監視の仕方を3歩下がった後ろから観察している。イヴちゃんが自分で申出たコードネームは『No.9』だ。
(……折角だから、勉強しよう……)
(そうだね、イヴちゃん)
と意気込む僕達の前。忍び込んで数歩は良かったものの、あっという間に雲行きが怪しくなった。
「RABBIT2、そろそろ時間です。突入前に偵察を」
「っていうかミヤコ、何でお前が普通に指揮をしてるんだ?」
「作戦中はコードネームを使ってください」
舌打ちした空井サキさんが反論する。
「正論だけど、何でお前が指揮してるんだって聞いてるんだ、RABBIT1」
「それは、私が隊長だから――」
「上からそう指示されただけだろ?SRTを閉鎖させた連邦生徒会の指示だ。今の状況なら、誰が指揮を執ってもいいはず」
「皆は、どう思いますか?」
『別に私はどーでも良いかな。どっちでも変わらないよ」
「私は、えっと……」
風倉モエさんは無線で、霞沢ミユさんはその場で答える。
イヴちゃんはコードネームこそあれ部外者だ。内輪揉めには加わらずに沈黙している。「――わかりました。では今回は指揮をお任せします。RABBIT2」
「……You have control.……」
イヴちゃんの小声で呟いた冗談は、剣呑な雰囲気の2人にはあっさり無視された。
「こんなの普通の警備員相手に朝飯前だ。目を瞑っていてもできる」
「えっと、サキちゃん、じゃなくてRABBIT2、私はどこで待機すれば……?」
「は?えーっと……ちょ、ちょっと待った。市街地戦での狙撃手の位置は確かノートに」
誰かの足音が近付いてくる。イヴちゃんが「……静かに……」と囁いて全員を物陰の暗闇に引きずり込む。
「うー、飲み過ぎた。トイレトイレ」
千鳥足の非番であろう警備員が目の前を通り過ぎていく。
「……私は先生の下に戻るから、皆静かに、動かないで……」
「No.9、どこに行くんだ?!」
混乱してノートを開きつつも、器用に小声で叫ぶ空井サキさんをイヴちゃんはSRT式のハンドサイン「静止」で制止する。SRTのハンドサインを見て空井サキさんは少しは落ち着いたようだ。とはいえ、夜闇の中でノートをめくるのは変わらない。
イヴちゃんは物音一つ立てずにパルクールで門外で待っている先生の下に戻った。
「……先生、私達は『通報を受けて指名手配犯を追ってきたシャーレの先生と生徒』ということで……」
「"逆方向に警備員を誘導するんだね。わかった"」
無線で状況を聞いていた先生がインターフォンを押し、出てきた警備員に嘘の理由を吹き込む。シャーレの先生は有名人だし、生徒を相手にする可能性がある警備業界にいるということで、イヴちゃんの名前くらいは知っている人がいて、話はスムーズに纏まった。立て板に水の先生の案内で、逆方向に誘導される警備員達。イヴちゃんは小声で無線に囁く。
「……こちらNo.9。警備員を
「こちらRABBIT2、了解だ……」
悔しそうな空井サキさんの声が無線機越しに帰ってくる。
指名手配犯は逃してしまったけれども、協力に感謝する旨を先生が並び立てている間に、ドラム缶6個を持ってRABBIT小隊の3人は脱出できたようだ。
侵入企業の正門から見えない路地裏で、先生、イヴちゃん、RABBIT小隊4人*1の全員が合流した。
「キャンプRABBITも含めて全員合流できましたね」
「くそっ、何がいけなかったんだ?理論は完璧だったのに」
「ま、サキが隊長って時点で無理なんだろうなってのは判りきってたけど。実際にやると失敗ばっかりだし」
「うるさい!モエだって、実技の演習は駄目駄目だったろ!」
「あ、あの……No.9、いえ、御蔵さん、ありがとうございました……」
実戦寸前の緊張からだろうか、指揮の混乱からだろうか、まだ脂汗をかいている霞沢ミユさんがイヴちゃんに礼を言う。
「……イヴで良い、ミユさん……」
「"実際にやってみると、上手く行かない事って多いよね"」
先生がしみじみ呟く。
「こそ泥みたいな動きの民兵に助けられるなんてな。シャーレにも民兵にもSRTの実力を見せつけるチャンスだったのに」
「あれほどの数の警備員です。相手にすると苦戦した可能性は高かったでしょう」
「隊員に怪我がなかっただけよしとするか。助かった、民兵」
「……私の名前、民兵じゃない、空井さん……」
「助かった、御蔵!」
礼の言葉とは反面にぷいとそっぽを向く空井サキさん。
ドラム缶を持帰って火を焚いて底にすのこを沈め、ようやく待望の入浴タイム。先生とイヴちゃんもご相伴にあずかるということで、RABBIT小隊とは別の仕切りで先生と一緒に入るイヴちゃん。
先生の裸体は初めて見るけど、イヴちゃんの目線はうおでっかな恵体ではなくて、エデン条約事件での時の脇腹の、薄い傷跡。
何だかんだ言いながらもきゃあきゃあ楽しそうなRABBIT小隊と違い、こっちの仕切りでは静かで落ち着いた時間が流れる。
「……先生、その傷跡……ごめんなさい、守れなくて……」
先生はにっこり微笑んで、イヴちゃんの頭をわしわしと撫でる。
「"そんなことないよ。イヴのお陰でこれだけで済んだんだよ"」
イヴちゃんは照れてお湯に顔を沈める。可愛い。
「"ありがとう、イヴ。今日もだけど、いつも助けられてるよ"」
イヴちゃんは首を横に振る。
「……先生、私の方こそ……」
「先生、御蔵、そっちの湯加減はどうだ?」
「くひひ、温かったらテルミットでもかけてみる?」
「止めてください、公園の装備ごと吹き飛びますよ」
「さ、サーモグラフィで監視してるから、ちょうど良い温度のはず……」
「"後は誰か来ないか、順番に見張りを立てた方がよかったね"」
「隊員同士は裸を見せ合うなんて今更だし、再開発予定のこんな公園に、この時間に来る奴なんていないって。もし誰か来たとしても地雷とターレットが反応するはず」
「"そっか、それなら安心だね。後でジュースくらいならご馳走するよ。みんな、ご苦労様"」
「実際には御蔵さん以外はドラム缶持帰りしかしていないのは反省点ですね……」
「一応、それも含めてサキの指揮ってことでいいんじゃない?No.9を指揮したってことで。くひひ」
「くそ、嫌味ばっかり言って」
ぐちぐちと言いながらも、隊員を無事に帰って来られさせたのと、お湯に浸かれた事による緊張を緩めた空井サキさん含めた全員の、安堵の吐息が夜の小ウサギ公園に流れた。
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全然関係ないんですが、ツムギのジャンルがデスメタルかブラックメタルか気になります。デスメタルバンドがコープスペイントしてはいけないということは無いですし、家具にもきっちり「デスメタル」と書かれてるので、デスメタルなんでしょうが…。パロディの元ネタがDMCだから?それはそう。