ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
神に近い彼らの、失われた智慧の断片
使用により多くの啓蒙を得る
かつてビルゲンワースのウィレームは喝破した
「我々は、思考の次元が低すぎる。もっと瞳が必要なのだ」』
(Fromsoftware『Bloodborne』)
一週間後。
シャーレの当番生徒として事務仕事を済ませた後、先生がコーヒーを淹れてくれる間、僕はイヴちゃんから身体を借りて、時間に余裕がある時かつ高いところにいる時には必ずする座禅をしていた。まだ啓蒙を高めて瞳を得るのを諦めて無いんだよね。生命の実の効果が得られたんだから、神秘の智恵を大量に得られる『血によらない瞳』だってあってもおかしくないよね。
コーヒーの良い香り、
「"イヴ、瞑想の効果はどう?"」
(……特に、効果はないような……)
(まあ、僕がちょっとリラックスするくらいかな)
「……あんまり……?」
イヴちゃんはちょっとだけ困ったような顔をして首を傾げた。*1
「"あんまりか~。落ち着くなら私もやろうかなと思ったけど"」
苦笑いする先生。コーヒーの香りと共に流れる、他愛もなく楽しい時間。
今日は子ウサギ公園の近く、再開発予定地域ギリギリ外の商店街にやってきていた。
護衛をつけたがらない先生の悪癖に反して、最近子ウサギ公園の近くに行くときには当番生徒、というかイヴちゃんを連れて行ってくれることが多い。先生の意識では多分護衛では無いだろうけれども。1度RABBIT小隊に関わったから、話が早いというのもあるのだろう。
先生はぶらぶらと買い物をしながら、子ウサギ公園やこの辺りの様子を聞いている。今日も良い天気だ。イヴちゃんはひらひらと飛ぶ茶色いタテハチョウを眺めながら、耳での警戒は怠ってない。
「あっ、先生!」
ヴァルキューレの制服を着た、三つ編みの快活そうな少女が人懐っこい笑みを浮かべて駆け寄ってきた。一瞬先生の顔を見るイヴちゃん。先生が笑顔を浮かべたことで警戒を解く。
「"やあ、キリノ。今日はパトロール?"」
「はい!あ、初めまして!本官は中務キリノ、ヴァルキューレ警察学校1年です!」
イヴちゃんに気付いて敬礼してくれる中務キリノさん。イヴちゃんは帽子を被ってないので、気をつけをして相手を見て答礼する。*2
「……トリニティ総合学園、1年、自警団の御蔵イヴです……」
「自警団の御蔵さんというと、あの災厄の狐さんを捕まえた御蔵さんですか?!」
キラキラと尊敬のまなざしでぐっと間合いを詰めてくる中務キリノさんにイヴちゃんは内心怯んだみたいだけど、それを表に出さずに対応しようとかぶりを振る。うーん、日々イヴちゃんも成長してるね。
「……私だけではなくて、頼れる友達と、先輩と3人の協働の成果です……」
「握手してください!本官も射撃が上手になりたいので!」
そんな爪の垢を煎じて飲むと効くみたいな。大体、イヴちゃんの武器は
ひとしきり喜んだ中務キリノさんは、先生に嬉しいときの子犬のように話しかける。
「先生と御蔵さんも巡視ですか?あそこの惣菜屋さんは美味しくて、おまけもよくつけて下さるから――と、失礼しました。あくまでパトロール。パトロールです」
「"覚えておくよ。キリノもパトロール頑張って……あ、そうだ。この辺りで変わったこととか起きてない?"」
「そうですね……。そういえば、新型の武器を持った見知らぬ浮浪者集団が最近この辺りに住み着いて、廃材を盗んだりしているそうです」
「"ん?"」
「先生、心当たりがありますか?」
「"い、いや、気のせいだと思う"」
わざとらしい先生の目逸らしと下手な口笛。RABBIT小隊の事かな。
商店街を通り抜け、住宅街に入ったところで、眼鏡をかけてヒッピーとかが好きそうな布を羽織った*3見知らぬオートマタに声をかけられた。
「近頃この辺りに住み着いた、ラビット小隊を指揮している先生ですかな?」
「"指揮はしてませんけど、私は先生をしています"」
イヴちゃんが2人の間に半身を割り込ませる。
「そうですか。私は所有せずとも確かな幸せを探す集い、略して所確幸のデカルトと言います。お話が――がっ?!」
「"イヴ?!"」
イヴちゃんがデカルトと名乗ったオートマタの右腕を蹴り上げた。金属同士が激突するような轟音と共に、宙にデカルトが先生に突きつけようとした何かがくるくると舞い上がり、ジャンプしてキャッチしたイヴちゃんの手元に収まった。
「"霧吹き?"」
イヴちゃんは右手に腰から抜いた
「……これは何ですか?……」
「ま、麻酔だ!危険性はない!」
更に一歩すり足で踏み込んだイヴちゃんが、跳ね上がるように右肘打ちをデカルトの顎に叩き込んで意識を奪った。
イヴちゃんがデカルトの全身を鎖で縛り上げ*4先生が中務キリノさんに連絡して到着を待つ間に、デカルトが意識を取り戻した。
「わ、私が先生に話したかったことは、ラビットだかバニーだかの小隊が廃棄弁当全てを持って行くことに抗議したかっただけだ!」
「……弁解は、矯正局の中でしてください……。なるべく重罪になるよう、口添えします……」
先生を誘拐しようとしたのは、かなりの重罪になると思う。キヴォトスの司法、特にD.U.絡みはガバガバだから、「未遂だし釈放、ヨシ!」になりかねないのが難だが。ここがトリニティなら、政治的圧力ももっとかけられたのだろうけど。
「"ま、まあまあ、キリノには引き渡すけどさ、それならRABBIT小隊に連絡してみるから"」
どこか諦めたような顔の先生がRABBIT小隊に電話する。月雪ミヤコさんが出たので、事情を伝えてデカルトに代わると、月雪ミヤコさんは一言。
『先生が仮に誘拐されたとしても我々には関係ありません』
電話が切られた。唖然とするデカルトと、ちょっと寂しそうな先生。
デカルトと証拠品の霧吹きは無事に中務キリノさんと、もう1人やってきたヴァルキューレ警察学校の子に連れて行かれた。
イヴちゃんは相当頭に来てるみたいで、防衛室宛に電話を掛ける。門前払いされるかと思ったが、イヴちゃんが名乗ると対応している職員の反応が変わった。防衛室長は不在とのことで、先生の誘拐未遂は重大な案件であることを防衛室長に伝えてもらうよう再三念押しするイヴちゃん。
ちゃんと捕まってくれてると良いんだけどな。無理な気がする。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり、誤字報告本当に有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
先生の誘拐、キヴォトス的に相当重罪だと思うのですが、本編では先生が阿呆臭くて通報しなかったのでしょうか。
ちなみに作中で取り上げているArch Enemyのロゴは
Arch Enemy Logo
でググると出てきます。