ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
更に数日後。雨が酷くなって来た中を、イヴちゃんは合羽を着て、同じく合羽を着込んだ先生とともに
トリニティは基本的に防災に関してもインフラがしっかりしているから、一部の避難所を正義実現委員会が開設するだけで済むので、よほどの大災害でもない限り、自警団の出番は特にないのだ。
「"皆、無事だと良いけど"」
「……誘拐されても関係無いって言い切る人達に、先生は何でそんなに心配できるんですか……?」
「"先生だから、生徒を心配するのは当たり前だよ。まあ、誘拐されても関係無いのはちょっと堪えたけどね……"」
当然、という感じで凜と答える前半と、しょんぼりした後半の落差に、イヴちゃんは小さく微笑む。
防水を想定せずにキャンプ地を設定していたらしい*1、子ウサギ公園で、先生とイヴちゃんは排水作業の手伝いをしていた。先生は大柄だけどキヴォトス人ほど力があるわけではない。先生がやったのは精神的なシンボル、折れない心の支柱の役割だった。
「先生、ショベルの使い方が下手か。貸せ」
「先生、そっちは良いから、こっち来て通信機材をブルーシートに包むの手伝って!」
「御蔵さんはこっちで排水口周りの土砂除去を手伝ってください」
「わ、私は逆方向の排水口見てくる……」
雨が上がるのを待つまでもなく、既に水に浸かった弾薬や通信機器を除き、子ウサギ公園のRABBIT小隊キャンプは復旧していた。RABBIT小隊の動きはもちろん良かったが、イヴちゃんがキヴォトス人基準でも3倍くらい働いたからというのも大きい。テント周りにはイヴちゃんが排水溝を掘って、水はけが圧倒的に良くなった。
「……通信機器は、民間でも買えるものですよね……?」
「ほんの少し仕様が違うけど、そう。でも、買ったり修理するお金なんか当然ないよ」
「……ミレニアムのエンジニア部に、依頼しましょう……」
「そんなとこにもツテがあるのか?!」
「……ミレニアムに中身を見られて、構わないなら、ですが……」
RABBIT小隊の喧々囂々の議論の末、「どうせ民生品の仕様が少し違うだけだし、やむを得ない」という結論になった。イヴちゃんは電話で白石ウタハさんに連絡して依頼する。
『SRTの装備となると、こちらが頼んででも見たいね。すぐ送ってほしい』
電話越しでも楽しそうな声で快諾してくれる白石ウタハさんに、電話越しに小さく頭を下げてお礼を言うイヴちゃん。
「その……先生、御蔵さん。どうしてここまでしてくれるのですか?」
月雪ミヤコさんがおずおずと訊ねる。
「"困ってる生徒は放っておけないから"」
「……先生が、そう言うからです。私は、先生に助けてもらったから、先生が困ってたら放っておけない……」
顔を見合わせて、小さく笑い合う一同。
その日のお風呂は、ドラム缶3つを並べて、先生とイヴちゃんも一緒に入る事になった。
「"いいの?"」
「認めたくはないが、諦めずに済んだのは先生と御蔵のお陰だ」
少しそっぽを向いて、空井サキさんが言う。
「あ、ありがとうございました。先生、イヴさん……」
「通信機器も目処が立ったし、助かったよ。くひひ」
「RABBIT小隊一同、改めてお礼を言わせてください」
今日のドラム缶風呂は、この間よりも温かい気がした。
<<先生視点>>
普段はシャワーで済ませているからか、ドラム缶風呂でも入ると身体が軽くなった、気がする。たまには湯船に浸からないと駄目だな、なんて思いながら書類に一区切りつける。外を眺めると良い天気だが、午前中で当番生徒はまだ誰も来ない時間なので、この風景を共有出来ないのは残念だ。
この間、不審者に襲撃を受けたばかりで、「護衛をつけずに外に出ないでください」とアロナに口を酸っぱくして言われたので、仕方なく電話で用件を済ませることにした。
ビデオ通話で行政官直通の電話をかけると、艶やかな黒髪、眼鏡に尖った耳の少女が映った。リンちゃんだ。
「"もしもし、リンちゃん?"」
『リンちゃんではありませんが、先生、何かご用ですか?』
「今、メールを送ったところなんだけど、見てくれる?」
『「子ウサギ公園における設備補修」の提案書、ですか……シャーレにとって必要なことですか?』
「"そうではないんだけど……"」
『SRTの生徒にとって必要なことと言う事ですね。先生、顔に出てますよ。我々連邦生徒会としては、公園に彼女達が居続けることを是とすることはできません』
「"あの公園は撤去予定なんでしょ?"」
『そうです。ですので、公園そのものが問題なのではなく』
リンちゃんは溜息を吐いて続ける。
『先生もご存知の通り、連邦生徒会内部ではSRTの武力そのものを恐れているメンバーも少なくありません。連邦生徒会が彼女達を公的に支援する動きに出た場合、行政委員会から強い反発が挙がるでしょう』
リンちゃんが周りを説得してくれたりはしないらしい。SRTの戦力がどれくらい凄いのか、RABBIT小隊を見ているとあまりわからないのだけれども、連邦生徒会役員からするとそうではないらしい。他の連邦生徒会メンバーに電話を掛けてみてもほとんど皆、取り付く島もなかった。
唯一話をまともに聞いてくれたのは、ピンク髪にアホ毛、ツインテールに糸目の笑顔、防衛室長のカヤだけだった。
『結論から申し上げますと、申し訳ないのですが、私の方もお手伝いはできそうにありません。公的な扱いとしてSRT特殊学園は既に閉鎖された学園です。名目はさておき、実態として「存在しない学園のために連邦生徒会が直接支援する」となります。公園を、という名目でも考えてみましたが、先生もご存知でしょうが、あの公園を含む一帯が再開発地域なのです。彼女達の学籍データを維持し続けるのが関の山ですね』
「"ううん、忙しい中ごめんね。それだけでも助かるよ。ありがとう"」
『いえ、連邦生徒会の事務は大半が自動化、合理化されて随分余裕ができていますから。ですので、私が独り言を言う余裕も充分あります。本来、SRT特殊学園の閉鎖そのものに私は反対でした』
私はカヤの『独り言』に耳を傾ける。
『シャーレが独立した軍事力を持つことになったとしても、大きな反発は出ないのではないかと思います。SRT以上の権力を持つシャーレが、という点は懸念材料ですが、実態としてはシャーレに所属する生徒という戦力、失礼、あくまで外から見た観点でですよ』
怖い顔をしてしまっていただろうか。眉をもみほぐす。
ちらりとメモを見たカヤが続けた。
『それは既にRABBIT小隊1つを越えているでしょう。例えば、先日も活躍された御蔵さんに緊急で召集依頼をすれば、トリニティ自警団と正義実現委員会の一部は動かせる』
確かにそうだ。同じようにヒナに頼めば、風紀委員会の一部が動かせるかもしれない。そんなことはしない、と言い切りたいが、エデン条約の一件を思い出してこめかみを押さえた。
思考が逸れてしまった。RABBIT小隊のシャーレへの編入か。それは彼女達が望むことだろうか。
『ですので、少なくとも彼女達の社会的な立場に関しては解決します。シャーレには空き部屋もたくさんあるでしょう。どうですか?』
「"部屋に関しては、説得してみたんだけどね……"」
おや、とカヤが残念そうな顔をする。
『そちらは駄目でしたか。私としては最善案だと思ったのですが。SRT特殊学園自体の復活に関しては、
私は頷いて電話を切った。話は振り出しに戻ってしまった。地道に当番生徒、特に事情を知っているイヴに頼んで、RABBIT小隊全員とDIYで何とかするしかなさそうだ。
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