ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
私は報せ
御心のままに
私は天使
赤、白、緑のコンテナを積んだ船が出る
鉛色のイブを迎える子供たちのもとには
泊まらぬ船が出る
見知らぬ船乗りへのあらぬ義憤に震えた』
(明日の叙景『天使』)
翌日、イヴちゃんと先生は子ウサギ公園に来ていた。今日の午前中、連邦生徒会の力で子ウサギ公園の復旧を何とか出来ないか頼んだがけんもほろろだったそうだ。先生のお願いで、スケルチを低速で、公園の周囲を回ってからの到着。
「"イヴ、ありがとう"」
「……カイザーの社章がたくさん見えました。ここの再開発は、カイザーグループがしてるんですよね……?」
「"そうだね。連邦生徒会に確認したけど、再開発事業それ自体は特に問題無さそうだった。立ち退きでトラブルがいくつかあったみたいだけど"」
ネットで僕達も調べたけど、立ち退き補償額が折り合わないとか、そういう話くらいしか出てこなかった。まあ、先生が関わる話ではないだろう。
子ウサギ公園に着くと、古い浸水した弾薬類が撤去され、新しい弾薬類が運び込まれていた。
「いや~、私がVVIPの『カイザーインダストリー』と物々交換する予定だったんだけど、カイザーインダストリーの在庫はちょうど全部誰かが買い占めたところだったらしくてさ。代わりにフリマサイトで募集したらあっさり買い手がついて、新しい、っていっても結構年季の入った型落ちだけど、ミサイルとか買えたってわけ」
風倉モエさんがどこか得意げに説明する。
「最初にミサイルを買おうとする奴があるか。燃料がなかったら飯も炊けないしヘリも飛ばせないのに」
「で、でも、あの買いに来た人、値切り交渉も状態確認もしなかった……」
「顔も厳重に隠してましたし、胡散臭いような……」
「ま、もうお金使っちゃったからどうこう言ってもしょうがないよ!返せって言われても返せないもん、くひひ」
「ま、それはそうだ。そうだ、VVIPといえば、RABBIT小隊の帳簿が合わなかったところは確認しとかないとな」
空井サキさんが意地悪げな顔でRABBIT小隊全員を見渡す。風倉モエさんだけが慌て、他の2人は頷く。
「ち、ちゃんと後で補填してあるから帳尻は合ってるってば!最後から遡って見てよ!?そ、それと、ターレットとか地雷の補充もしないと、侵入者が――」
その言い方だと横領自体はしてんじゃん。キヴォトスの倫理観終わってんな。必死で話を逸らそうとする風倉モエさん。
言っている傍から侵入者が現れた。デカルトに似た服装と飾りのオートマタ。
「た、助けてください……」
「出た。何だっけ、小確幸だっけ?背格好だっけ?」
「所確幸*1です!我々はリーダーをあなた方の先生により失ったものの、力を合わせて生活しています」
「私達は原則的に、市民間の私的な紛争には介入しないのです。先生は……関係無いとは言い難いのですが、その件については我々は関わっていません」
月雪ミヤコさんが冷静に言う。
「せ、せめて話を聞いてください。同じ浮浪者仲間のよしみとして情報をお伝えするつもりでもありました。ヴァルキューレの公安局が押し入ってきたのです。見慣れない武器を持ち、我々の集う場所で暴れるあの『狂犬』を!」
同じ浮浪者仲間扱いされ、むっとする、「やっぱり世間的には同じ浮浪者なんだ……」と寂しげに呟いた霞沢ミユさん除くRABBIT小隊。
「どれ、弾痕を見せてみろ。……発火具合、角度からして硬度も高いし、
イヴちゃんが盾の内側、30mm機関砲弾の詰まった一角を指さして首を傾げた。空井サキさんが即答する。
「それは徹甲榴弾だろう。機能的には似たようなものだけど」
「そもそも、この口径だと焼夷効果も小さいしあまり生産されてないよね」
イヴちゃんの
「強いてこの手の弾薬を作ってるとすれば『カイザーインダストリー』くらいかな?私も買って試したことあるし。ってなると、武器を買い占めたのはヴァルキューレ?」
「ヴァルキューレ警察学校に、そんな余裕あるかな……?」
「"私もシャーレの仕事を手伝ってくれた子に『ヴァルキューレの財政状況はよくない』って聞いたけどね"」
「ともかく、公安局の件はご愁傷様でした。情報提供に感謝します。もやし弁当くらいは出しましょうか?」
「公安局のターゲットは我々だけじゃないんですよ。この周辺をパトロールして片っ端から追い出そうとしてるんです!今ここに来たとしても――ぐはっ?!」
オートマタが話の途中で撃ち倒され、ヴァルキューレの公安局の生徒達が展開する。
「野生動物は危機に瀕すると一番強い群れにすり寄るものだ」
尾刃カンナさんが現れた。尾刃カンナさん含めて、確かにヴァルキューレ警察学校制式採用ではない、見慣れない銃器を持って皆武装している。
先生と月雪ミヤコさんが自然と先頭に立つ。イヴちゃんは、ヴァルキューレが先生に何かするとは考えがたいものの、流れ弾などの万が一を考えて先生の横に。
「"やあ、カンナ。お疲れ様"」
「あなたは、ヴァルキューレ公安局の『狂犬』……」
「先生、お疲れ様です。尾刃カンナだ。せめて公安局長と呼べ。嫌いなあだ名ではないが、あだ名で呼び合うほど親しい間柄でもないだろう」
「公安局長、こちらには何のご用ですか?」
「自分達の置かれている立場を理解しているか?この公園を撤去する日取りが決まったから、退去通告に来た。それだけだ」
「公園の使用期限は『公園の撤去まで』でしたね。私達に立ち退きを要求することは正当である。ということでしょうか?」
「厳密には『再開発が開始するまで』だ。合ってますね、先生?」
先生が
「"その通りだよ。カンナ、その日取りはいつになる?"」
「今月末です」
「無理矢理居座ることだってできるんだよ?」
挑発的な風倉モエさんの言葉に、ふんと鼻を鳴らして笑う尾刃カンナさん。
「言葉は慎重に選んだ方がいいぞ、風倉。RABBIT小隊の装備はほとんど浸水したんだろう。機材のグレードを落として再購入したところで、公園全域をカバーできるのか?」
尾刃カンナさんは手元の銃と部下達に目線をやってから、重苦しげに言う。
「公安局は今回、スポンサーの許可を得て大量の火器を確保した。貴様らがエリートなのは知っているが、数的優勢を覆せるかは別だ」
優位に立っているのに陰鬱にも聞こえる溜息をついてから、尾刃カンナさんは続ける。
「さあ、早めに決めろ。大人しくこの公園を去るか、それとも試しに粗悪な火器で我々に挑むか」
「本当にやる気みたいだな」
「帰る先がないのを知ってて、嫌味なやつ。一泡吹かせるくらいはやってやるけど?」
「で、でも、どうしよう。ミヤコちゃん……」
RABBIT小隊3人の目が月雪ミヤコさんに集まる。イヴちゃんは変わらず周囲を警戒しているが、視野の端で月雪ミヤコさんを見ている。
先生がぱちん、と軽く手を叩く。場の緊張が一気に霧散した。
「"今月末まで日はあるんだよね、カンナ"」
「え、ええ。しかし、RABBIT小隊の待遇はシャーレに一任すると防衛室長から聞いておりますが、この公園に関しては別件です。先生の指示でも、決定は覆せません」
「"もちろん、それは判ってる。でも、今、ここでやりあう必要は無いよね?月末まで、皆が考える時間をくれない?"」
尾刃カンナさんが考え込む。
「稟議の内容から言っても、正当な申込なのは確かです。今日は引き上げることにしましょう。しかし、月末のタイミングでまだこの公園にいるのであれば、こちらも武力行使をせざるを得ません。私達にも『守るべきライン』があります」
最後の一言だけはまるで恥じるかのような小声だった。
「……スポンサーがついたなら、銃器にはっきりと書いておいたらいいんじゃないですか……?」
一瞬だけ尾刃カンナさんの動きが止まり、苦笑いが浮かぶ。
「考えておこう。撤収!」
尾刃カンナさんの一言で、ヴァルキューレ公安局の生徒達は一斉に撤収していく。
RABBIT小隊の皆が安堵の溜息をついた。
「やっぱりヴァルキューレには前回カマしとくべきだったんじゃないか?」
ジト目で先生とイヴちゃんを見る空井サキさん。イヴちゃんがかぶりを振る。
「……前回の十全な状態で勝ってても、今の装備とは状況が違う……」
「それより、さっきの銃器はカイザーインダストリーのもので間違いありませんか?」
「うん、間違いない。あのケチなヴァルキューレがどうしてカイザーのを買えたのかはわからないけどね」
「そういえばさっき『スポンサー』って……」
「"リベート、かな?"」
「割り戻しのこと?カイザーインダストリーが何の得があってヴァルキューレにそんなことを?」
一同が首を傾げる中、先生と僕、イヴちゃんは何となくピンと来ていた。
(……立ち退き協力の代わり、かな……?)
(だろうね、十中八九)
先生も同じ事を考えていたのだろう、皆に考えている事を説明し始めた。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり、誤字報告本当に有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。