ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
夜中まで待って、01:00、問題無くヴァルキューレ本館に侵入が成功した。
静かなヴァルキューレ本館裏口は、誘導灯と監視カメラの明かり以外は何も灯っていない。
「こちらRABBIT2、本館に侵入成功」
『監視カメラは無視して構わないから。ハッキング済。でも、30分で別のコードが生成されちゃうから、作戦時間は30分でよろしく。これは多分、ヴェリタスの副部長辺りの仕事だな。厄介な』
「哨兵はなし。RABBIT小隊とNo.9はRABBIT2に続け。ったく、楽させてくれるのはいいけど、これがキヴォトスの治安を守る同僚だと思うと不安になるな」
「ポイント
「RABBIT4、了解……」
「……No.9、了解……」
イヴちゃんは3人の足捌きや周囲の警戒方法を勉強がてら見ながら、自身も自警団で培った技術で周囲を警戒しながら着いていく。無言の4人は静かな影のように、物音をほとんど立てずに流れるように移動する。
誘導灯の明かり以外はついていないルートを通り、地下3階の文書保管庫には誰も遭遇することなくたどり着いた。銀行の金庫、というほどではないがかなり頑丈そうな円形の扉が僕達を阻む。
「この扉どうするんだ?ブリーチング*2用の資材は一応あるが……」
『ちょっと待って。電子ロックだからハッキングで開ける。3分ちょうだい』
「その3分も30分に含まれるのか?」
うんざりした様子の空井サキさんとカリカリする風倉モエさん。
『急かさないでってば!これでもかなり早いんだから……よし、開いた!』
小さな電子音と共に、解錠音が響く。物音がない静かな中で、かなり大きく響き、霞沢ミユさんは思わず周りを見渡す。イヴちゃんは耳を澄ますが、特に自分達以外の気配はない。
「証拠文書を探しましょう。RABBIT小隊がこれを行い、一番火力があるNo.9は扉の外で周辺警戒」
公文書に明るいイヴちゃんが捜索に当たった方が無難かもしれないが、見つからない時の最終手段でいいか。
「……No.9、了解。念のため、昨日付の文書も探して。証拠隠滅を図ってるものがあるかも……」
イヴちゃんがポロッと言った「スポンサーを公的につけたらどうか」って奴だな。
「今年度の文書は特に少ないな。電子データ化が進んでるからか。ええと、公安局……」
「逆に見られたくないものは紙で決裁している可能性が高いです。念のため、取れそうな電子データもコピーしておきましょう」
数分ほど、空井サキさんの小さな独り言の他は静かに書類を探すRABBIT小隊。イヴちゃんは左開きに開いた扉の外側で膝立ちで警戒している。
「あった。1週間前の日付、カイザーインダストリーとの取引内容が記載されている」
「もう1つ、日付が変わってるので昨日付、カイザーインダストリーを正式にスポンサーにする追加契約の決裁文書が電子データの方にありました。公安局長の決裁が済んでいます。紙の契約書は見つかりませんが、まだカイザー側が持っているのかもしれません」
明日以降だったらシラを切られてたかもしれないのか。危ないところだった。
「念のため、もう一度内容確認だけ――」
月雪ミヤコさんが話している途中に、文書保管庫の扉が閉められた。静かな重低音が響く。
『RABBIT4、なんで扉を閉めたんだ?』
『め、目立つかなと思って……』
『外にNo.9がいます。確認を先にしてから開けましょう』
『あ、こ、この扉、中からは開けられないんだ……』
『はぁ……次からはドアストッパーを用意しとかないといけないな』
『ご、ごめんね……』
『いえ、屋内行動に不得手なRABBIT4に確認を怠った私にも責任があります』
「……No.9了解、必要あり次第すぐ開ける……」
結局、他に必要な資料はなかったようで、イヴちゃんが扉を開けた。
「RABBIT3、監視カメラのハッキングはまだ有効ですね?」
『後14分有効だよ』
「では、No.9、残置物を確認してから扉を閉めてください」
イヴちゃんがマグライトで中を照らして残置物がないことを確認したうえで文書保管庫の扉を再度閉める。
『RABBIT3、念のため文書保管庫の扉の電子ロックを再施錠』
「RABBIT1了解。では、再度東側の階段を使い、脱出経路を目指します。ポイント
撤収途中、1階の自動販売機のあるところでイヴちゃんが全員を制止。
「……No.9よりRABBIT小隊、角を曲がった先でスリッパの足音……」
「RABBIT1了解。RABBIT2、慎重に角を確認してください」
「了解、っと、うわ」
空井サキさんの足下に丸々太った立派なゴキブリがいて、空井サキさんに驚いたゴキブリが角を曲がって猛スピードで走って行く。
数秒後、角を曲がった先で、絹を裂くような悲鳴と、拳銃の発砲音。
「嘘だろ」
呆然と小声で呟く空井サキさん。あちこちの扉が開き、夜間当番や非番らしきヴァルキューレの子が出てくる。
「何、どうしたの?!あっ、えっ、し、侵入者!」
「RABBIT1よりRABBIT小隊、No.9、Weapons Free*3!No.9はRABBIT1を援護して後方の敵を排除!RABBIT2、RABBIT4は前方の敵を排除次第伝えて下さい!」
実戦慣れしているイヴちゃんが真っ先に発砲する。7.62x51mmの汎用機関銃の2脚を右手で持ち、左手で指切り射撃し圧倒していく。
「RABBIT4、9時方向に狙撃兵!」
「RABBIT4了解、リロードするから……」
「……No.9、RABBIT4、リロード援護する……」
イヴちゃんが振り向きざまにGP30で擲弾を射出して敵狙撃兵を仕留める。RABBIT小隊の連携に、イヴちゃん個人、あるいは少数で大多数を相手取ることが多い自警団の経験が上手く生きて噛み合っていて、熱したナイフでバターを切るように敵を薙ぎ倒していく。
「なんでホームで押されてるんだよ!」
「わかんない!でももうすぐ警備局の増援が来るから……痛!」
「……No.9よりRABBIT1、6時方向より多数の足音を確認……」
月雪ミヤコさんが一瞬考え込む。
「RABBIT3、火災報知器のハッキングは可能ですか?」
『できる!何度にする?』
「摂氏900度で!」
スプリンクラーが作動し、防火扉が閉まり始める。
「RABBIT2、ブービートラップを」
「……No.9、RABBIT2を援護する……」
空井サキさんの本命のC4爆薬で作られたトラップから一瞬目を逸らすような簡単な手榴弾とワイヤのトラップをイヴちゃんが設置していく。
トラップを設置次第即座に離脱したRABBIT小隊+1は生活安全局のフロアを通り抜ける時に、ドーナッツとC4爆薬を使った簡易罠を作る。
「いやいや、さすがにこれは引っかからないでしょ……」
そう言いつつ一瞬考え込む、合歓垣フブキさんに、逃げながら空井サキさんが口を開く。
「それ、マスタードーナッツの限定品、マシュマロ入」
「マジで?いただきまーす」
あ、本当に引っかかった。黒焦げになって倒れる合歓垣フブキさん。
「フブキ!くっ、大人しく投降しなさい、撃ちますよ!」
中務キリノさんが拳銃を構える。銃口が既に誰を狙っているのかレベルでふらついている。イヴちゃんがあっさりと汎用機関銃の銃撃で撃ち倒す。
「や、やっぱり、ヴァルキューレの装備は貧弱なのでは……?」
気絶間際の中務キリノさんには同意しちゃうな。
屋上にたどり着いたところで月雪ミヤコさんが風倉モエさんを呼び出す。
「RABBIT1よりRABBIT3、脱出ポイントにたどり着きました。ヘリ到着まで何分ですか?」
『えっ、もう着いたの?!あと5分!』
「5分もかかるのか?!」
『しょうがないでしょ!このヘリも水に浸かって安いのに替えたんだから!』
屋上までの階段にはブービートラップを空井サキさんとイヴちゃんがしこたましかけてきたが、それだけで保つかどうか。
「だが、本当に行けるとはな」
「ミヤコちゃんの命令だったし……でも、成功だね」
「私以外の誰かが指揮を執っても、結果は同じだったかもしれません」
「いや、これは間違いなくミヤコが出した結果だ。誤魔化すな」
『そうそう、あんたの言うとおりに動いたお陰で何とかなったんだよ』
「今のお前は間違いなく隊長だ。今まで色々言ったのは……悪かった」
イヴちゃんは小さく微笑みながら*4沈黙している。
これで後はヘリさえ間に合えば大団円、そう思っていたら、屋上に更なる侵入者、もとい正当な住人が現れた。
「待て、RABBIT小隊……と、傭兵を雇ったのか」
尾刃カンナさんが壁の方から現れた。
「待て、どこから来た?」
「壁をよじ登ってだ」
空井サキさんと霞沢ミユさんがドン引きする。
「こ、ここ、10階なのに……」
手持ちの銃に『Kaiser industry』のシールがまるで言い訳のように貼られている。まるで頼りない免罪符のようだ、と僕は思った。
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