ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
空井サキさんが驚愕の余りか、時間稼ぎか問いかける。
「いや、10階越えてるな。そんな訓練、ヴァルキューレにはないだろうに、ハーネスも無しで上がってきたのか?」
「犯罪者を捕まえるためなら公安局は何でもする。まさかヴァルキューレに押し入っておいて帰れると思っていないだろうな?無駄な抵抗は止めろ」
RABBIT小隊もイヴちゃんも沈黙を貫く。
「今のキヴォトスは貴様等を必要としていない。こんんあ犯罪まがいのことをして、今度こそ学籍データを抹消されても――」
「公安局長、そちらの犯罪についてはいかがお考えですか?公安局の取引記録を発見しました」
「……データについては、既に電子化してオペレータに送信済……」
「『子ウサギタウン』の再開発のために浮浪者達を追い出して、代わりにカイザーインダストリーとの間で違法リベートが発生していた」
「更に言うと、それを誤魔化すための契約を今日準備してたな?」
「なぜ、それを……?」
「懐の厳しいヴァルキューレの装備が急に新しくなったら、疑うのは当然だろ」
「ヴァルキューレ警察学校が特定の私企業の利益のために行動する。これは確実に問題でしょう。連邦生徒会の規則を公安局長のあなたが知らないはずがありません。ヴァルキューレ警察学校の理念に反する重大な犯罪です」
尾刃カンナさんが口ごもる。
尾刃カンナさんが反論をするが、言葉は弱々しく、目も泳いでいて、自分の言葉も信じられないようだ。
「貴様達は本当に言いたい放題だな。ヴァルキューレは公的な規則に従い、公正であるべきだ。しかし、世の中はそうではない。貴様等の特権の上で論じる正義の間に、私達が何をしていたか。汚い現場で、妥協にまみれながら公務を処理していたか。手を汚さずに、正義を掲げ続けることはできなかった!貴様等にはわからんだろう、その判断をした私の気持ちが!」
イヴちゃんの持ってるスマフォ*1に、先生が電話を掛けてきた。ビデオ通話モードでイヴちゃんが尾刃カンナさんに差し出す。
「"カンナ。信念を貫くのは大変だろうと思う。最終的に自分の未来は、自分で判断していくものなんだよ"」
「信念に従っていれば私は全てを失う。私には何もできない!」
「"RABBIT小隊の皆は、ほぼゼロからのスタートだったよ"」
意表を突かれ、尾刃カンナさんが黙り込む。
「"大丈夫、状況は大変で辛いだろうけど、行き先は自分で決められるよ。そのための手伝いを、私もするから"」
「そうだな、最後は自分で決めていくものだ」
空井サキさんが微笑む。
「ず、ずっと不安で怖かったけど……」
『自分達で決めたことだからね』
「ありがとうございます。先生」
「"カンナ、ヴァルキューレの現状と課題を、聞かせて欲しいな。そのための時間を、私も作るからさ"」
その言葉に尾刃カンナさんは瞑目して考え込み、スマフォをイヴちゃんに返す。
「公安局長、あなたの『正義』は間違っていないと思います。私の思うものとは違うというだけで。ですが、判断の根っこを誰かのせいにするかどうか。それが私達と、ヴァルキューレの違いです」
ヘリ*2が上空に到着した。
『RABBIT1、お待たせ!ポイント上空に到着!』
「RABBIT2、RABBIT4、No.9。ハーネスを装備。順番に離脱します」
イヴちゃんも正義実現委員会の訓練でハーネスを使った事はある。他の3人に比べると少しもたつきながらも装着する。霞沢ミユさんがそっと手伝ってくれた。
「全員装着完了。上げて!」
霞沢ミユさん、空井サキさん、イヴちゃんの順番で上げられる。
「それでは失礼します。公安局長。今度はもっと良い形で」
最後に月雪ミヤコさんが言い残し離脱。
苦笑いした尾刃カンナさんが何かを呟いたが、ヘリの爆音で僕達には聞こえなかった。
ヘリは無事に子ウサギ公園に到着した。
「こちらRABBIT1、現在時刻0345、キャンプRABBITに到着。負傷者、離脱者、不明者無し。『クローバー』も無事確保。作戦を終了します。お疲れ様でした」
「御蔵……じゃない、
「えっと、い、イヴちゃんによろしくね……」
「"皆お疲れ様。お風呂の用意をしてあるよ。ハジメはどうする?"」
イヴちゃんはかぶりを振る。
「……私は後方で待機している御蔵と交代します……先生の護衛は必要ですから……」
「"わかった。じゃあ、私はイヴが戻ってくるまで待ってるよ"」
「水臭いな。それなら私達も待ってる。良いよな、ミヤコ」
「もちろんです」
「じゃ、その間に軽くヘリの整備だけしようか。皆手伝って」
「先生に『クローバー』を渡して報告してから行きます!」
イヴちゃんが変装を解いて着替えてスケルチと共に戻ってきたら、皆装備を外して待っていてくれていた。
「遅いぞ、その、イヴ」
「そうだよ、
「その、イヴ、さん。ありがとうございました。RABBIT小隊を代表してお礼申し上げるのと、これからはお名前でお呼びしても?」
イヴちゃんは頷いて、小さく微笑む。*3
「……ありがとう。私も、名前で呼ぶね。……
小さなくすくすとした笑みの共有。先生が「"みんな、お風呂入って今日はもう寝よう"」と言うまで、小さなじゃれ合いが続いた。
翌日、イヴちゃんは早朝にシャーレに先生を送り届けてから、トリニティにスケルチで帰還。
昨日の大立ち回りの疲れがやっと出てきたのか眠いのでイヴちゃんは宇沢レイサさんグループと事務局に連絡を入れて自主休校。
イヴちゃんがゴロゴロしながら眺めているテレビでは、クロノス報道部のアナウンサーがヴァルキューレ本館前にやってきていた。
『カイザーグループとの癒着問題が噂になっているヴァルキューレ警察学校、本館前からお送りしています!匿名希望の方からの情報によると、公安局の生徒達がカイザーグループから金品を受取り、権力をその代わりに行使したのだとか!』
『市民を保護して正義を守るヴァルキューレが私企業と癒着していたのはかなり衝撃的です!更に追加すると、謎の集団が昨晩ヴァルキューレ本館に押し入ったとの情報が――あっ、尾刃公安局長です!』
『お前達、撮影の許可は取ってるのか?さっさと出て行け!』
尾刃カンナ公安局長に敷地内での無許可撮影を咎められ、報道陣は敷地外に追い払われた。
先生からのモモトークが届いた。
『"ヴァルキューレの体制に関しては、予算の見直しなども含めてまずはカンナに話を聞いてから、連邦生徒会にも相談する予定です。追伸:リンちゃん情報ですが、子ウサギタウンの再開発計画は日程が白紙に戻る見込"』
イヴちゃんは『応援しています』というスタンプを送る。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり、誤字報告本当に有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
イヴは火力提供の傭兵に徹しているのと、SRTの生徒でないのでカンナとの会話ではほぼ無言でした。
原作では皆疲労困憊で眠気に負けて倒れていますが、本作では交戦時間が原作より遙かに短いのでお風呂に入るくらいの余裕はあります。