ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
のどかで晴れた日の午前中、イヴちゃんは普通に授業を受けていた。BDの内容に沿ってオートマタ講師が解説をする。とっくに予習したところで難しくはない。イヴちゃんも授業に集中できている。うんうん、良いことだ。
と、授業中であるにも関わらず呼出チャイムが全校放送で鳴らされる。
『ティーパーティー、シスターフッド、救護騎士団、正義実現委員会、自警団の構成員は至急各団体の本部に出頭してください。繰り返します、ティーパーティー――』
うちのクラスだと、伊落マリーさん、下江コハルさん*1、イヴちゃん、宇沢レイサさんが該当する。他に、あんまりイヴちゃんと関わりの無いティーパーティーの子もいるが。
伊落マリーさんは元々荷物が少ないようで、拳銃とバッグを持つだけ。下江コハルさんは何だかわちゃわちゃガチャガチャしながらも一式調えたようだ。イヴちゃんも基本的な荷物は盾のハードポイントに引っ掛けてあるので、盾を持つだけでほぼ準備が調う。宇沢レイサさんも鞄に荷物を全部突っ込んであったようで、銃を持っただけでイヴちゃんの右手を取って廊下を駆け出す。廊下は基本的には走らないけれども、今は『至急』なので例外。あちこちのクラスから同じように準備を調えた生徒達が飛び出してくる。
ローテーションで顔を出している自警団本部は正義実現委員会建物の一番手前の一室だ。自警団全員が集まることは当然想定されていないし、連絡は治安維持アプリで行えるので、今日初めて来たという自警団員もいるくらいだ。何も考えずに入っちゃった生徒達は満員の通学電車に乗り込んだみたいな状況に目を回しそうになっている。
(……自警団員、名簿では知ってたけど、全員集まるとこんなにいるんだね……)
(そうだねー。これ入りきらないよね。会議室借りよ、イヴちゃん)
イヴちゃんが集まっている自警団員に声をかけてから正義実現委員会の事務局に宇沢レイサさんと行き、一番手近な会議室を借りる。
あ、守月スズミさんがやってきた。
「イヴさん、ありがとうございます」
イヴちゃんはかぶりを振って小さく微笑む。*2
守月スズミさん、宇沢レイサさん、イヴちゃんの幹部3人が揃い、狭い会議室は立ったままの自警団員で埋まっている。*3
ノートパソコンを持った守月スズミさんが説明し、イヴちゃんと宇沢レイサさんがホワイトボードに要旨を書いていく。
「本日、連邦生徒会より、『非常対策委員会』の出席依頼が届きました。これは自警団全員の出席を求めるものではもちろんありません」
続いて、非常対策委員会の内容が説明されていく。不明な高出力エネルギー源が各地で観測されたこと、それを各学園への調査協力を依頼するとのこと。会議の集約にあたりシャーレの先生の出席を仰いでいること。また、トリニティに対しては集団指導体制状態であるからか、ティーパーティーのみならず、自警団、シスターフッド、救護騎士団、正義実現委員会に対して要請が送られていること。
「ですので、この会議は出席者を決めれば終了です。会議の結果については治安維持アプリにて皆さんに共有します。もし希望者がいるのであれば、連邦生徒会の会議に出席していただきますが、いかがですか?」
静まり返る室内。自警団員は基本的に会議が嫌いだ。*4今回は未曾有の呼出だったから集まっただけで、皆が皆嫌そうな顔をして、幹部の3人を見た。
苦笑いした守月スズミさんは、では、と一声置き。
「イヴさん、お願いできますか?今回はETOとしてトリニティ、ゲヘナが同時に出席するようです。私も顔合わせ等はしていますが、より親しいイヴさんの方が話がスムーズかなと」
「はい!じゃあ私も――」
「レイサさんは残ってくださいね。正義実現委員会も羽川ハスミさんが出席するでしょうから」
まあ、強い子がいなくなると途端に治安悪くなるからな。キヴォトスで一番治安がマシなトリニティでも、中心部はともかく辺縁の事情は変わらない。
あからさまにがっくりとした宇沢レイサさんの落ちた肩を、他の自警団員が慰めるように叩いた。
ティーパーティーが各団体のための事務員と連邦生徒会への足を準備するとのことで、イヴちゃんは1人でティーパーティー本部へ向かった。今日は自動車で移動するとのことで、ロイド・キャリアの歩兵輸送車仕様が4両と、護衛用だろう、クルセイダーが1両止まっている。ティーパーティーの生徒達が乗り込むのに続こうとしたイヴちゃんが後ろから呼び止められ、同時に凄まじい力で右手を掴まれた。
この世の終わりを見に行く、みたいな絶望的な顔をした桐藤ナギサさん、イヴちゃんの腕を掴んでやけくそ気味な笑みを浮かべている聖園ミカさんと、得意げで楽しそうな百合園セイアさんがいた。
「イヴちゃんはこっち☆」
「来週、もとい、今日は私達と地獄に付き合ってもらいます」
「失礼だな。ティーパーティー一番の運転の腕前を知ってるだろう?イヴ、少し想定が違ったが、約束通りドライブに迎えに来たよ。私の華麗なドライビングテクをイヴに見せられるのが楽しみだ」
百合園セイアさんの尻尾がぶんぶん揺れていて、本気で楽しみにしているのがわかる。同時に、明らかにヤバいネタで、逃げ場がどこにもないことも。ティーパーティー生徒達の同情的な目線が百合園セイアさん除く僕達3人に集まっていた。
(……これは、「詰んだ」っていうやつ……?)
(そうだね!まあ、三半規管のダメージは僕が引受けるから任せてよ!ははは!)
銀色に美しく輝くジャガー・Eタイプ ロードスターが、地獄行きの火車に見えた。
法律違反ではなくて、かつ交通マナーはぶっちぎる凄まじい運転だった。ある意味「華麗」なテクニックではあったかもしれない。周りの車も、クラクションを鳴らすのをティーパーティーのナンバーだからか遠慮するので、何となくこの無茶苦茶な運転が許される雰囲気になっているのが更に最悪さに拍車を掛ける。無限に続く割込み、加速、ドリフト、急減速、更に割込み、加速――うぷ、思い出したらもっと気持ち悪くなってきた。
護衛車両も兼ねてる車列も完全に視界の外にぶっちぎって置き去りにして、百合園セイアさんは得意満面だった。まあ、全速力を出したこの車に当てるのは下手くそには無理かもしれないが。でも公道レースじゃないんだからぶっちぎっても何の意味も無いんだよな。下手くそというか乱暴に過ぎるんだよ運転が。
(うぷ、おえ……)
(……ジル、ありがとう。……大丈夫……?)
(い、生きてる……僕が意識無くなるとイヴちゃんが酔っちゃうから頑張る……)
桐藤ナギサさんは膝に顔を埋め、聖園ミカさんは最初は嫌味を飛ばしていたのが途中から遠くを眺めて静かになっていた。2人とも顔色が悪い。*5
「どうだい。3人を感嘆の沈黙に置かせる、素晴らしい腕前だったろう?」
「……は、はい……」
どうしてこんな酷すぎる運転でそんな得意げな顔ができるんですか?車酔いでティーパーティー派閥の長2人と自警団幹部を始末するつもりだったのかな???
いつもは退屈な事務処理、あるいはお小言しか聞かないのでうんざりする連邦生徒会本部ビルが救いの糸に見えた。
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