ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
車の外で辛うじて威厳らしきものを保とうと努力している*1桐藤ナギサさんと、駐車場の窓際に座り、遠くを眺めている聖園ミカさん。まさに深窓の令嬢というところだが、その顔は車酔いで青ざめている。それにしても、500kgの銃と盾を積んでても全然加速に支障が無いジャガー・Eタイプ ロードスターくん凄いね。
「イヴの盾と銃を乗せても速度が落ちないよう足回りと出力をチューンしておいてよかったよ」
ようやくクルセイダーとロイド・キャリアが追いついてきたのを得意げに見ながら、嬉しそうに言う百合園セイアさん。
(……ドライブは勘弁してください、ってお願いが正しかったんだね、きっと……)
(そうだね、ぅぉぇ……)
始まる前に倒れそうになっている2人*2が息を整え終わるのを待ってから、トリニティの一団は非常対策委員会に出席した。トリニティ側の着席順は桐藤ナギサさん、百合園セイアさん、聖園ミカさん、歌住サクラコさん、蒼森ミネさん、羽川ハスミさん、そしてイヴちゃん。後方に事務方のティーパーティーの生徒達が立っている。
ゲヘナ側は万魔殿の羽沼マコトさん、丹花イブキさん、京極サツキさん、棗イロハさん、空席の順。空席は、あちこちをうろうろしながら撮影している元宮チアキさんのだろう。他は後方に控える親衛隊以外の人員が出席していない。風紀委員会は万魔殿の統制下だから出席不要ということだろうか?丹花イブキさんはイヴちゃんの姿を見てパァッと顔を明るくし、笑顔で手をぶんぶん振ってくれる。イヴちゃんも小さく微笑み*3小さく手を振り返す。
羽沼マコトさんは既に資料を読み終えたらしく、退屈そうに話を聞いている。
七神リンさんが説明を終えた。
「――以上が、キヴォトス全域に出現した、超高濃度エネルギー体現象の全貌です。アビドス砂漠、D.U.近郊の廃墟遊園地、ミレニアム郊外の閉鎖地域、トリニティとゲヘナの境界付近、ミレニアム近郊の新築都市、そしてD.U.のサンクトゥムタワー。この現象を解明するためには、各自地区の協力が必要不可欠です。何卒ご協力のほどお願い致します」
羽沼マコトさんがパラパラと資料をめくりながら端的に問う。
「連邦生徒会は人員と予算をどれだけ出す?」
「予算については事業終了後の精算になりますが、50%を。人員は、連邦生徒会長捜索班をそのまま業務を振替えます」
「ん?待て。例の業務自動化装置で浮いた人員を、連邦生徒会長の捜索にそのまま回しているのか?」
「もちろん、業者やヴァルキューレ等への依頼は行っていますが」
ええ、という顔をする羽沼マコトさんと京極サツキさん。
「――困窮した小学園の救済に回した方が有意義ではないのか。まあ、貴様等がどういう人員と時間の使い方をしようが我々には関係無いがな」
モモトークで、アビドスからは『会議を緊急の用件で欠席する』と連絡があったけど、まさかとは思うけど、まさに助けてもらえなかったアビドスにも同じ条件でやらせるつもりだったのかな。
意思統一がなされているゲヘナに対し、トリニティ側は何というか浮き足立っているというか、発言がバラバラまちまちだ。本来は車両で移動中に打合せしておくべきだったのだろうけど、百合園セイアさんがわんぱくフォックスしちゃったからな。
歌住サクラコさんが帝国のマーチを背景に*4連邦生徒会側に問いかける。
「その前に、先生はどちらに?『シャーレ』もこの非常対策委員会に参加すると伺っておりました。本件以上に急を要する案件で『シャーレ』と話し合わねばなりません」
蒼森ミネさんが眉をひそめる。
「これよりも急を要する案件?それはどのような?」
「それは、この場でお話しするには少し――」
「シスターフッドにはまだ隠し事があるというのですか?!」
2人のやり取りを制さずに、百合園セイアさんが後を続ける。
「ティーパーティーも、先生に伝えたいことがある。本件と密接に関係することだ」
羽沼マコトさんがわざとらしい溜息をついて小さく笑う。
「キキキッ、トリニティは意見のすりあわせもせずに来たのか?ゲヘナは基本的に、ETO同盟校としてトリニティの意見を聞く用意がある」
羽沼マコトさんがまともなこと言ってるけど、トリニティ側の意見が大渋滞してるんだよな。
本来会議を統制する進行役の七神リンさんは無言のままだし、ホワイトボード前にいる連邦生徒会の書記2人が完全に固まってしまっている。
っておいおい、書記が何も書いて無いからホワイトボードが真っ白やないかい。せめて今トリニティが出した議題くらい書いてくれ。
(イヴちゃん、ごめん、ちょっと身体貸してくれる?)
「とにかく、『シャーレ』の先生はどちらにいらっしゃるかお答えください。どの議題より優先する、喫緊の事態なのです」
小さく愉快げに羽沼マコトさんが笑う。何か決定的な一言を言っちゃいそうな気配だ。
僕は会議資料最後の1枚の余白を破り、「トリニティ側、ゲヘナ側の議題をとにかく箇条書きして」と書いて、紙飛行機にして完全に固まっている連邦生徒会の書記の子に投げる。
(イヴちゃん、一曲歌ってくれる?)
(……い、今……?で、でも、必要な事なんだよね……?じ、じゃあ……"Riff Man"がいいかな……)
羽沼マコトさんが会議の閉幕を宣言しそうなところで、僕はスマフォのギターシミュレータを起動し、最大音量で曲のリフを弾く。俺の歌を聴け!みたいなやけくその気持ち。まあ歌うのはイヴちゃんなんだけど。
固まっていた書記の子達が慌ててさっきまでの議題を箇条書きし始める。トリニティ側も一瞬緊張が走るが、優先議題の打合せを始めた。イヴちゃんの美しいソプラノの声が会議室に響き渡る。
「……打ち鳴らす
ああくそ、難しい。本物のギターと違ってタッピングだけでピッキングがない分リズムが取りづらいし、スマフォの画面一杯に使っても24フレット表示されないから滅茶苦茶難しい。おまけに選曲が難曲だ。恨まないけどヤバいよ、イヴちゃん。
「……打ち砕かれる自意識のディフェンス 点を撃つ今、はっきり見える音場 脳内世界のインナーフィールド 現れる己の実像……」
視界の隅でようやく書記が課題を書き終えた。赤線で「先生の居所」と書かれている。
(イヴちゃん、もう良いよ。ありがとう!)
(……き、緊張した……)
眉間を揉んだ七神リンさんが険しい顔で問いかける。
「御蔵さん、一体どういうおつもりですか?」
「済まないね、我々の側の意見すり合わせの余興を私が頼んでいたんだ」
百合園セイアさんがしれっと言う。
「キキキッ、自分の部下の仕事ぶりも把握していなかったのか?お前達の新人書記どもの尻拭いをしてやった恩人に拍手するんだな」
そう言いながら、羽沼マコトさんはホワイトボードを指さしてから、小さく拍手をしてくれた。イヴちゃんは小さな礼で応える。
キラキラした目で拍手してくれる丹花イブキさんにイヴちゃんは小さく手を振る。
ホワイトボードが黒色に埋まっていく、精神が浄化される錯覚。実際には話はややこしくなる一方だ。
七神リンさんは渋々答える。
「先生の行方は、私達も現在探している最中です」
「ならばシャーレの出ないこの会議にもう意味は無いな。ナギサ、『トリニティとゲヘナの境界付近』の現象についての調査班の編成を、風紀委員会から連絡させる。合同調査以外に情報共有すべき点はあるか?」
羽沼マコトさんからの質問に考え込む桐藤ナギサさん。百合園セイアさんが代わって口を開く。
「先生が『世界の破滅』の予知夢を見たのは知っているかい?」
かぶりを振る羽沼マコトさん。
「その点について、先生に確認してから、必要そうなら情報共有する。シスターフッドの一件については我々も把握してないからまだ何とも言えないが」
「キキキッ、同盟校にとて言えん事があるのはわかる。愉快な話を待っているぞ、ティーパーティー。経費は後日連邦生徒会に100%請求するからな。イロハ、イブキ、サツキ、チアキ、帰るぞ」
連邦生徒会を蚊帳の外に置いて、トリニティとゲヘナ出席回の会議はあっさり幕を閉じてしまった。まあ僕らも轢き逃げされた後の塩対応もあって連邦生徒会頑張って助けないとナ~なんて気持ち欠片も湧いてこないからね。書記助けただけ偉いと思って欲しい。
(イヴちゃん、子ウサギ公園のRABBIT小隊に差入れ持っていかない?スケルチは自動操縦で連れてきてるし、それに帰りも百合園セイアさんの運転は僕が保たないよ)
(……そ、そんなに……?でも、差し入れはいいね……)
この後の予定も決まったし、コンビニで弁当とかおやつとか買っていこう。
帰りに連邦生徒会のフロアで調月リオさん(横領都市の後始末が終わったのか、顔色も悪くない)、早瀬ユウカさん、そしてセミナー何人の生徒の一団と出会い、早瀬ユウカさんに会議の内容をかいつまんで教えて、褒めて頭を撫でてもらいイヴちゃんが喜んだのは余談。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり、誤字報告本当に有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
マコトは資料ちゃんと読んでいたり、自分が注目される場ならしっかり仕事をするし、かき回した方が面白いなら躊躇なく場を乱すタイプだと解釈しています。
設定資料集末に少しだけ用語集を追加しました。独自設定と独自解釈で書いている部分です。
今日はHarakiri For The Skyのライブで書き溜めが無いので明日は多分お休みになります。