ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
<<先生視点>>
牢の中にいる自分に気がついた。最低限のマットレス、毛布は用意されているが寒い。どうしてこうなったのだったか。眠気で頭がふらつく。身体には寒さと眠気以外の違和感は全く無い。シッテムの箱もスマフォももちろん取り上げられているようだ。
眠気、そうだ。記憶を遡る。
午前中にヴァルキューレ警察学校で、先日のカイザーインダストリーとの癒着の一件をカンナと話してきたのだった。「一旦精算すべきか、それとも現状を認めるのかを内部で協議したうえでまた答えてほしい」と、宿題を残した。
その後、シャーレに戻ったらリンちゃんから連絡があって、高濃度エネルギー体現象への非常対策委員会に呼ばれた。当初、車で迎えに行くという案内だったのが、まだスポンサー契約を切られていないカイザー系列のヘリの便乗者として案内されて、戦術輸送ヘリに乗った。そこでヴァルキューレ警察学校の生徒に「カイザーのお陰でずいぶん財政が改善されました」という言葉に「そんなすぐに効果が出るものだろうか」と疑問を持ちつつも、出された真っ青なサイダーを飲んだ。
そこから眠気に負けて全然記憶が無い。ヘリなら数分で着く距離なのにあっという間に寝落ちしてしまった。薬を盛られたのだろう。この眠気もそのせいに違いない。
外にはヴァルキューレ警察学校の服を着たカイザーPMC(推測)と、オートマタのカイザーPMCが立哨している。
どうしたものか、と思った途端、上から銃声が響いた。小さな悲鳴を上げてくずおれる2人。
「先生、助けにあがりました」
「"カンナ、さっきぶり……ってボロボロじゃない!大丈夫?"」
主観時間では数時間くらい前に会ったばかりだ。
「私は平気です。それより早く脱出しましょう」
ボロボロのカンナを助けるつもりが、冷えて足が痺れてしまっていて、逆に助け起こされて牢から脱出する。ついでに、パンプスのヒールを折ってもらう。大事な会議に履いていくくらいのお気に入りの靴だけど、生徒の命より大切なものではもちろんない。でも、直せるなら直したいので折ったヒールはポケットに。
「"どうしてカンナはここがわかったの?"」
「私は汚職警官ですからね。私が調べてもカイザーに繋がっていると思われているからでしょう、誰も不審に思いませんでした」
自嘲しつつ言うカンナにどう声をかけたものか考えながら着いていく。牢から上がると、まるで、というよりヴァルキューレ警察学校のオフィスそのものの風景。
「ここはヴァルキューレ警察学校の分校だったのですが、いつの間にかカイザーの手に落ちていたようです」
「"私を攫ったのも、やっぱりカイザーだったんだね"」
小さく溜息をつく。
カンナは窓越しにライトを向けて、数秒間隔で外を照らす。
「信号を送ったので、増援が来るはずです。もう少しご辛抱を」
カンナの先導で、物陰、茂みを伝って見張りをすり抜けていくが、遂に警戒線に引っかかってしまった。
「誰だ?!ぐあっ!!」
再度の銃声。歩哨の2人が倒れた。
「どうですか?!今回は見事に当たりましたよ!って、公安局長!?ボロボロじゃないですか!」
「や、先生、それと狂……公安局長。大変だったみたいだね」
キリノとフブキが助けに来てくれた。ほっと溜息が出る。カンナは強いかもしれないが、こんなに怪我だらけで戦わせるわけにはいかない。
「銃声がしたぞ!」
「敵か、確認しろ!」
怪我でもう歩けなさそうなカンナを背負う。カイザーPMCの気配に追い立てられるように警察学校の別の施設に入った。
「"ここは……射撃場?"」
「懐かしい。私がヴァルキューレに入学した時と全く変わってません」
カンナが懐かしさにだろう、目を細める。
「へ~、公安局長の新人時代か。想像つかないね」
「下らない事を言ってる場合か」
そう叱咤するカンナは明らかに疲労困憊だ。本当は喋らせずに黙って休ませてあげたいが、事情の確認は必要だ。
「"休憩がてら、私がいない間に起こったことについて、知ってる事を教えてくれないかな"」
「もちろん、私の知る範囲でですが」
カンナの説明は端的でわかりやすかった。連邦生徒会の各学園代表を呼んだ非常対策委員会がまともに機能しなかったこと。私と
「今の連邦生徒会は、室長もおらず、戒厳令下にあり、ヴァルキューレ警察学校も命令を待っている状態です。生活安全局の2人を連れてきたのは、異なる局の上司の誤った命令に逆らえなかった、体を取るためでもあります」
「本官は大丈夫ですよ?」
「私もドーナッツもらえたらいいかな」
「ドーナッツなら公安局にいくらでもあるはずだ。後で取りに来い」
そうだ、と気がつく。
「"私が持ってたタブレットとスマフォ、どこかに無かった?"」
「ああ、これですね。大切なものなのですか?ですが、戒厳令が敷かれているから、長距離の通信はできませんよ」
礼を言って受け取ったスマートフォンを見る。確かに電源は入るが、アンテナは圏外だ。ついでシッテムの箱を起動する。
「"我々は望む、7つの嘆きを。我々は覚えている、ジェリコの古則を"」
『先生!無事でしたか!良かった!』
「アロナも無事でよかったよ。ありがとう。何とか近くにいる誰かに連絡を送ったりできないかな?」
『やってみます!むむむ……』
アロナの声は他の人には聞こえないので、3人には「音声認識で動くOSなんだ」と軽く説明だけしておく。
『1秒だけですがネットワークに繋がって、生徒さん達に連絡を送りました!』
後は祈るだけだ。
「ドアが開いてるぞ、調べろ!」
「げ、カイザーPMCに気付かれた」
「私はここまでです、先生……。これが現実だと妥協して腐敗しきった警官の私に出来る最大限の抵抗でした。先生の教えがなければ、今も妥協して待機していたでしょう」
「"カンナは立派だよ。自分の信念に基づいて、ちゃんと行動してる。それに、これがあれば何とかなると思う"」
私はシッテムの箱を抱え直した。
「"それじゃ、指揮を始めよう"」
キリノとフブキ、それと時折カンナの援護射撃を挟みながら、何とか射撃場の上の階にまで逃げられたが、挟まれてしまった。
「げ、凄い数……」
「くっ……」
「これまでか……」
指揮官らしきオートマタがこちらに呼びかける。
「速やかに投降しろ。投降しないのであれば掃射する」
青と白、小型のドローンが間に割り込んできた。
<<ジル視点>>
RABBIT小隊はヘリに乗って飛び出したので、僕達はバイクで現地に向かう。
月雪ミヤコさんと空井サキさんがラペリングで窓を蹴破って突入し、イヴちゃんは建物にそのままスケルチで突入、下りずに階段を上る。体重をリアにかけてアクセルを絞らず、階段を駆け上がってカイザーPMCのオートマタを轢き倒す。
(……遂に、轢き逃げの復讐ができたね……)
(全くだよ。最高だね!)
僕達は脳内でグータッチ。
「今の煙幕射撃は効いたろ?!RABBIT2、現場に到着!」
「RABBIT1、先生と要人を確保。RABBIT3、敵ターゲットの位置を確認してください」
「……No.9、現場に到着……」
「RABBIT3、受信完了!今ポインターで座標を送る。RABBIT4、敵指揮官から処理をお願い!No.9、先生達は退避済、火力支援よろしく!」
先生達は壁際に退避済なのを確認し、スケルチ横の盾を外して、
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり、誤字報告本当に有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
触れる場面がひょっとすると無いかもしれないので後書きに書くという(筆力不足…)ことをしますが、カヤは今回のクーデターには時期尚早かつ「このまま順当に推移すれば暴力無しでカヤ派が多数になって代行の立場を得られる」という判断から反対し、かつ、FOX小隊による反対派の排除は行っていません。