ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
イヴちゃんが戻ってから、建物1階をクリアリング。チームを2つに分け、月雪ミヤコさん、イヴちゃんの2人で地下のクラフトチェンバーをあっさり奪還できた。公安局が建物外、後ろを守ってくれていたのも大きい。
「ぐっ、なぜだ、PMCの精鋭部隊であるはずの我々が……」
イヴちゃんが容赦なく側頭部に横蹴りを入れてカイザーPMC将兵の意識を奪う。何か精兵らしいけど、1年のRABBIT小隊より動きが悪かったような。SRTの教育って質が高かったのかな。
「RABBIT1、クラフトチェンバー、確保。怪我人、不明者無し」
月雪ミヤコさんが無線に告げる。先生の率いる残りの面々も無事七神リンさんを確保できたらしい。
先生と七神リンさん含む、再合流した皆が、シャーレのオフィスに集まる。
「RABBIT1、敵指揮官を捉えました」
「RABBIT2も視認。お前がカイザーPMC指揮官か?諦めろ、お前等の計画はこれで終わりだ」
シャーレオフィスに1人残された軍服を着た偉そうなオートマタがやけくそ気味に叫ぶ。
「笑わせるな!これを押したらどうなると思う?この建物は一巻の終わりだ!下がれ!」
月雪ミヤコさんが指示を出す直前、射撃音が響く。
「RABBIT4、起爆装置を狙ってください」
「う、うん……もう撃っちゃったけど……」
「ぐっ?!」
あっさり切り札の起爆装置を取り落とすカイザー指揮官。イヴちゃんが素早く床から拾い上げ、バックステップで下がる。
カイザーPMC指揮官*1を鎖で縛り上げ、先生達と七神リンさん、通信で繋がっている連邦生徒会の生徒達がシステムを復旧しようとしている。
「"システムが復旧したみたい。うわ、凄い数の不在着信だ。270件……?"」
苦笑いする先生の向こう、空が赤く染まっていく。
(……ジル、何、あれ……)
(わからない……)
あー、僕の馬鹿!イヴちゃんを信じてちゃんと話して、原作の記憶があるうちにメモしとくんだった!まあ、原作と現実がどこまで一致しているかわからないから、何の役にも立たなかった可能性もあるけど。
そして気付くと、コートを着て叫ぶ男の肖像画を持った不気味な首無し人間が立っていた。
「先生、貴方の力は、これ以上作用しない」
声は肖像画の方からしている。首が無い以上当然、なのだろうか。
月雪ミヤコさんとイヴちゃんが先生を庇う位置に立つ。
「"あなたは……ゴルコンダ?"」
先生の知り合いらしい。先生も顔が広いな。あー何だっけ、黒服?あいつのお友達だった気がする。となるとろくでなしには違いないだろうが。
「ゴルコンダはもういない。私は『フランシス』だ。デカルコマニーと共に新たにお前を見守る者。最後の宣告を傾聴せよ」
フランシス、と名乗る不審者は言葉を続ける。
「この物語は、1つのジャンルを掲げていたが故、『先生』が主人公でいられた。物語であったから、無敵だった。これはそういう物語だった。だが、この物語は覆され、脈絡、構成、ジャンル、意図、解釈、全ては破壊され、意味が攪拌され、統制できないほど褪せてしまった」
フランシスを掲げる首無し人間が外の赤い空を指さす。
「先生よ、これまでの物語は全て忘れるが良い。これからお前の身に起こることは最早物語ですらないのだから」
先生は沈黙し、困惑しながらも話を聞いている。危害を加える意図は感じないので、イヴちゃんも月雪ミヤコさんも銃口は下ろした。しかし、警戒は続けている。
「全てが分解されもつれ合い、脈絡も構成も必然性も無くなる。そして意味を失い、力が暴れ回るだけの理解不能で不条理な元々の世界へ。我々はそれを忘れていただけ。学園と青春の物語は幕を下ろした。お前の価値は無に等しくなる」
「"それは違うよ。沈みゆく物語だとしても、歪な創作だとしても、そんなことはどうでもいいし、ジャンルの解体なんて好きにすれば良い。宇宙戦艦や巨大ロボットが登場したって構わない。どんな未来でも、私達は乗り越えて行くんだ"」
フランシスは数秒間沈黙し、再度口を開く。
「であれば、それを見守るとしよう。先生、いや、主人公よ。絶望と破局を迎え、結末へ走り出すエンディングを!」
言うだけ言って、不審者2人(?)は姿を消した。
(……そもそも先生は、無敵じゃ無い……怪我もする……)
(そうだよね、ま、気にしないのが一番かな……)
不審者が見守ってくるのはちょっと嫌だなあと思うけど。
「……先生、今の人?は……?」
「"何というのかな、たちの悪い知り合い?うーん、友達って訳でも無いし、敵かっていうとそれもわからないんだよね"」
先生は困った顔でかぶりを振ってから、話を切替える。
「"アロナに頼んで、私と面識のある生徒皆に連絡を頼むね。今回も、また一緒に乗り越えていきたい。皆、手伝ってくれるかな?"」
先生は七神リンさん、RABBIT小隊、中務キリノさん、合歓垣フブキさん、そしてイヴちゃんに声をかける。皆、重々しく頷く。
「"ここからは、シャーレの番だよ"」
先生、そしてイヴちゃんのスマフォに同時に連絡が入る。黒服からだ。
指定されたシャーレの屋上に向かうと、スーツが破けて煤けた黒服がいた。スーツ以外は普段と余り変わらないように見える。
「お見苦しい姿で失礼します。ゲマトリアは壊滅的な打撃を受けて活動を停止するので、ご挨拶に伺いました。最初の追放者の手が、我々を守ってくれましたがね」
スマフォに映った写真には誰かの手首を透明な標本瓶の薬液に漬けたもの。黒服の手元には恐らく同じ標本瓶。ラベルに「sample:Eve Mikura」と書かれている。
「……私……?」
「クックックッ、ええ、あなたの手です。手であった、と表現すべきでしょうか。我々を護るために使わせていただきました」
ああ。エデン条約調印式の時に無くしちゃった左手か。
(……人の手を勝手に使ったってこと……?あんまりに厚かましくて、怒る気にもなれないけど……)
(いや、僕が腹立ってきた。ぶん殴ろうかな)
「おっと、あなたを怒らせるために来た訳ではありません、イヴさん。あなたの目をお返しに上がったのです。十二分な調査はさせていただきましたがね。クックックッ……」
イヴちゃんは怒りを通り越して呆れているようだ。
「……先生、この人、今捕まえて矯正局に送っていい……?」
「"止めないけど、話だけは最後まで聞かせてくれるかな"」
標本瓶に、赤い瞳孔、視神経らしきものが少し。これにも「sample:Eve Mikura」と貼られている。黒服からイヴちゃんがおずおずと受け取る。
(……元々は自分のものだったのに、何だかぞわぞわする……)
(わかるよ)
きょろり、とこっちを見そうな気がするんだよな。可愛い可愛いイヴちゃんから離れてしまうと、その綺麗なお目目もただのモノになってしまっているというか。眼球が再生してるから、こんな暢気なことを思えるんだろうけど。
「……この目が、先生を護ってくれるの?……」
「ええ。ですが、先生には恐らく必要無いでしょう。シッテムの箱がその代わりをしてくれます。あなたが持っておくのをお勧めしますよ」
イヴちゃんはおずおずと内ポケットにその標本瓶をしまった。
「"それで、イヴに目を返して終わり?"」
「いいえ。この現象について少々説明差し上げた方が良いかと思いましてね。『色彩』がキヴォトスに侵略してきたのが現状です。『色彩』が狼の神と接触し、
(……色彩って、何……?)
(旧支配者とか旧神とか、そういう感じの奴なんだろうな)
こいつの話はムカつくけど聞いとかないと、多分、先生が困るんだろう。
「『色彩』はそれを理解していたからこそ彼女を最初に確保したのでしょう。『色彩』は意思も欲望も目的も無い不可解な観念であると解釈していたのですが、誤りだったようです。『色彩』はキヴォトスのありとあらゆる神秘と恐怖、そして崇高の概念を吸収し自らのものとしようとしています。キヴォトスに出現した6つの塔は、反転した『サンクトゥムタワー』です。太古、史前に『名もなき神』が築き上げた技術の1つ。『色彩』の光を世界中へ伝播させ、キヴォトスに存在する全ての神秘を恐怖へと反転させるでしょう」
(……どういう意味……?神秘って、ジルが座禅の時に言ってるアレ……?)
(そう。神秘っていうのはイヴちゃん含めたキヴォトスの生き物大体に宿ってるもので、それを反転させておかしくしちゃう、って事かな)
「"それなら、私達が食い止めるだけだ"」
黒服は少しの間沈黙した。
「『色彩』が『終焉をもたらす神』を使ってゲマトリアを襲撃したのは、秘儀と検証結果を奪うためだったのでしょう。デカグラマトンの
「"嚮導者?"」
「ええ、『色彩』の意思を代弁し遂行する実行者、その名を『プレナパテス』」
「"この言葉が正しいかわからないけど、ありがとう、黒服。イヴ、ここからは
先生は
黒服が心配げにすら聞こえる声で囁く。
「1つ、忠告をしましょう。そのカードを乱用すれば、あなたは私達と同じ結末を迎えることになりますよ、先生。クックックッ……」
話に一区切りついたと判断したイヴちゃんが素早く黒服の襟を取りに行くが、黒服の姿はもうそこには無かった。
(……逃げられた……)
(話の最中にふん縛っておいたら良かったね)
先生も黒服の逃げ足の速さに呆然としていたが、かぶりを振ってキリッとした顔に戻る。
「"イヴ、悪いけど、これから会議と、場合によっては泊まる子もいるだろうから手伝ってくれるかな?"」
イヴちゃんはこくりと頷いた。
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