ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
シャーレ周りの掃討もあらかた片付き、灰燼燻る中シャーレに護衛無しで踏み込もうとする先生を慌てて捕まえて同行するイヴちゃんと、再度M113を転がして戻ってきた七神リンちゃんさん、のおまけ、ジルです。
他の皆さんは残党掃討漏れ確認と警備ということで表に残っている。爆薬処理とかはあんま知らんし、正直僕達でなくても良いんだけど……成り行きかなあ。
(……中、まだ人がいるかもだしね……)
(いや~、いるんじゃないかな。イヴちゃん、悪いけど先生のことお願いね)
多分まだ狐坂ワカモさんがおるはず。電気を付けたら誰かが来たのが丸わかりなので、マグライトをつけて地下を先導するイヴちゃんと、特に警戒する素振りもなくついてくる七神リンちゃんさんと先生。
「地下に連邦生徒会長が運び込んだものがあり、その使用権限は先生が持っており……」
何しろ相手が相手なので、ピリピリしているイヴちゃんの後ろ、まじで無警戒で先生に説明を続ける七神リンさんに流石にイラッとしたのか、イヴちゃんが釘を刺した。
「……ちょっと、静かにして、ください……」
その地下、階段を降りた天井が馬鹿みたいに高い部屋に狐坂ワカモさんの後ろ姿が見える。
こんだけのんびり喋ってふつーに歩いてきてたらもう気付かれてるとは思うけど。
「うーん……これが一体何なのか、まったくわかりませんね。これでは壊そうにも……あら?白髪頭?もう表の連中はやられたのですか。罠を仕掛けておいてあっさり全滅とは。使えない人達です」
こちらを振り返り銃を構えた狐坂ワカモさんから凄まじい殺意が伝わってきて、イヴちゃんは内心半泣きっぽい感じ。
とりあえず先生をカバーする位置には立てたのでイヴちゃんえらい。
(……ぴ、ぴええ……)
(だ、大丈夫……前引き分けたし、最悪僕が代わるから)
先生が狙われそうならもう代わった方が良いんだけど、と思う間も無く、先生がイヴちゃんの前に無造作に出て挨拶した。
「"やあ、狐坂ワカモ。私はこの度着任した先生だよ。よろしくね"」
「「「……は?」」」
普通ににこやかにアイサツする先生にちょっときょとんとする3人。まあアイサツは大事だけど。古事記にもそう書かれてるし。
数秒の沈黙。狐坂ワカモさんがだらりと銃を下ろした。仮面の下なので確証は無いけど、視線が先生を捉え、また左右に泳ぎ、先生に捉えられている。みたいな気がする。
「し、し……」
「"……?"」
「失礼いたしましたー!!」
着物を翻し、色つきの風のごとく素早い早さで、盾を構えたイヴちゃんの横をすり抜けて走り去っていった。
「……交戦せずに済んで助かりましたね。私は戦えませんし」
「……こ、こわかった……」
「"イヴ、ありがとうね。守ってくれて"」
「……ううん……」
自然に頭撫でるなあ。イヴちゃんの頭、僕も撫でて~~~。
咳払いをして、一刻も時間が惜しいという表情を隠しもしない七神リンさん。
「おほん、さて。ここに連邦生徒会長の残した物があります」
「……あ、爆発物とか……大丈夫、ですか……?」
そこも全然考えていなかったらしく、七神リンさんにきょとんとされた。
「……私はヘイローがありますから。確認してから、先生に渡しましょう。それと、爆発物処理班も呼びます。が、まずはこちらを」
机の上に無造作に放り出されていたタブレットを先生に手渡す。あれがシッテムの箱か。
見たことないモデルだけど、別にガジェットオタクって訳でも無いから既製品でなくてもわからんな。
「"タブレット端末?"」
「『シッテムの箱』と言います。製造会社、OS、システム構造、動く仕組みの全てが不明。連邦生徒会長はこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。先生ならこれを起動させられるのでしょうか」
「"試してみよう。……起動させるよ"」
「離れていましょう、御蔵さん」
(イヴちゃん、爆発物とかなんかトラップが無いか気をつけてね)
「……はい……」
無造作に下がる七神リンさんと、一応、爆発物が無いかを見ながら後ろに下がるイヴちゃん。この動作でブービートラップに引っかかって先生が爆死、なんてしたら洒落にならんからな。
先生はタブレットを起動させたらしく画面を凝視しているが、イヴちゃんからも、僕も当然何も見えない。
先生が再び画面に触れたので、多分アロナちゃんが出てきて指紋認証をしているのだろうな。
七神リンちゃんさんにも何も見えないのだろう。完全に興味を失ったのか忙しいのかスマフォを弄っている。
(イヴちゃん、僕が他の時限式の罠がないか探しておくから、寝るか漫画とか読んでてもいいよ。こないだ読みさしだった『○獄甲子園』読む?)
(……うん、じゃあ交代……読む……)
クソ漫画好きだなあ。僕も好きだけど。まさかとは思うけど、念には念を入れた方が良い。
時限式の爆弾だとかガスだとかがないかを確認しておくことにしよう。
部屋の隅を占める馬鹿でかいオブジェクト、浮かび上がっていて下の方が欠落してるのか、浮かんでいる石碑のようなもの。あれがクラフトチェンバーだっけ?なんか物質転換だか生成だかするすげー道具らしいけど、そもそも浮いてる石って時点で気になってしょうがないんだが。
ちらちらと石碑を見る僕に対し、キヴォトスではありふれているのか、説明する気が無いのか、或いは何も聞いてないだけなのか、七神リンちゃんさんは完全にノーリアクションだった。
けったいなもんやなあ。なんて思いつつ、とりあえず気をつけては見たものの、それらしき罠は無し、と。
非常用でない電源が復旧したらしく、シャーレ地下室の明かりが付いて、連邦生徒会同様、どこか病院、あるいは研究室的なイメージを想起させる室内の姿が照らし出された。
同時に七神リンちゃんさんの電話連絡があり、タワーの制御権が連邦生徒会に無事返還されたらしい。
起動しないとか、先生が独裁を選ぶとかも考えてみたらあり得たのかな。まあ何事も無くて良かった。イヴちゃん、終わったから交代ね。
(……ん……。また読み終わらなかった……)
(3巻しかないのにねえ)
(……変な内容が濃いから……好き……)
気に入ってくれたならまあ良かった。僕も好きだよ。犬の名前が決まる巻とか、感動的だったしね。そうか?
「キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して感謝します。御蔵さんもご苦労様でした」
言葉とは裏腹の割と気のない感じの七神リンさんに、イヴちゃんも慣れたのか諦めたのか、小さく首肯してからはたと気がついた。
「……あ、あの……そういえば、あと5分後くらいに、防衛室長の不知火カヤさんから呼び出されているのですが……」
「はい?ああ……そうでしたか。では、私から連絡しておきましょう。連邦生徒会本部に向かってください。防衛室長室は6階です。戻る車両は手配できませんが。先生はこちらに。シャーレをご案内します」
「"リンちゃん、ありがとう"」
「誰がリンちゃんですか」
「"イヴ、今日はありがとう。車手配してあげたいんだけど、こっちのお金をまだ持ってなくて……ごめんね。気をつけて、またね"」
「……はい。先生も……」
連邦生徒会、こんだけ協力したのに車の1つも手配してくれねえのかよ!!!
歩きかあ。絶対間に合わんじゃん。やだもー。筋力に物を言わせて走ったら相当早いかもなんだけど、汗だくで不知火カヤちゃんさんに会いたくねー。
明かりが灯って自動ドアも息を吹き返したシャーレ地下から廊下を経て出てくると、ようやくやってきたらしきヴァルキューレの人員に引き継ぎが終わっていたみたいだ。
緊張感が霧散した皆が楽しげにかしましく駄弁っていた。
シャーレビルから出てきたイヴちゃんに、宇沢レイサさんが最初に気付いて、輝くような笑顔を浮かべる。
守月スズミさんと早瀬ユウカさんもイヴちゃんに声をかけてくれる。タイミングがたまたま被っちゃってほぼ同時に。
「イヴさん、お疲れ様でした!!!」
「狐坂ワカモには逃げられてしまいました。残念です。先ほど首席行政官から連絡がありましたが、中には先生と行政官しかいないのですよね?」
「イヴ、お疲れ様。タワーの制御権を連邦生徒会が回復したのは確認したし、あとは先生に挨拶だけして帰るわ。ミレニアムでまた会いましょう」
待ってくれないか。言葉の洪水を一気に浴びせかけるのは。イヴちゃんがわたわたしてる。可愛いね。
「……あっ、はい……えっと、レイサさんもお疲れ様でした。狐坂ワカモさん、また……はい……先生は、シャーレ?の中を見に行くのだとか。ユウカさん、また……」
遠くでまだヴァルキューレに引き継ぎをしている羽川ハスミさんに軽く頭を下げるイヴちゃん。可愛さ。
とにかく急がないと、という事に気付いたイヴちゃんが周りを見渡す。
「……と、とりあえず……連邦生徒会本部に戻らないと……」
「あっ、そういえば15時から用事でしたね!えっと……」
といっても、再開発中だし、鉄道や地下鉄、バスもない。タクシーをアプリで呼ぶしかないかな。
守月スズミさんが助け船を出してくれた。
「私も連邦生徒会本部に顔を出して、出向している友人に挨拶するので、ヴァルキューレの車両に便乗させてもらいましょう。ユウカさん、先生によろしくお伝えください」
守月スズミさん、流石。イヴちゃんも宇沢レイサさんも知らんヴァルキューレの子に声掛けるのはまだ大変だし、そもそも声掛けても相手にしてもらえるかわからんしな。
トリニティ自警団の顔役、助かる。
10分程して、3人を便乗させてくれたヴァルキューレのパトカーで戻ってくる最中、ちょっとした雑談に興じる3人の話を聞きながら、僕は大事なことを思い出した。
青輝石、神名文字とカケラがまだわかってないけど、まあ、ここはゲームじゃなさそうだからもう無いもんはない、って感じかな。
それと、もっと大事なのが、シャーレに加入するかどうかをイヴちゃんに聞けてない。ちょっとこれはこの後にしよう。まだ嬉しくないイベントが残ってるしな。
シャーレビル襲撃とは特に関係無さげに慌ただしい雰囲気が溢れている連邦生徒会本部ビルに戻ってきた。
あんまり速度が出ない気がするエレベータに一緒に乗って、防衛室長室前にまで宇沢レイサさんはちゃんと手を繋いでついてきてくれた。
ただ、警備他に立っているのであろう従卒の生徒さんはけんもほろろ。
「呼ばれているのはお一人だけですので」
とのことで、一緒には入れないので、廊下の待合スペースで待っていてくれるらしい。流石。
しかし、あちこちの部屋にパーテーション壁が多用されてて安っぽいし落ち着かない雰囲気がする*1のはいかにも役所って感じの構成だな。
気ぜわしげに歩き回る連邦生徒会白制服の子達の間を縫って、イヴちゃんは『防衛室長室』と掲げられた部屋のホワイトパネルにアルミフレームの扉をノックし、了承の声を聞いて部屋に入る。
(イヴちゃん、ヤバそうだったり困ったら代わるから)
(……う、うん……)
(これも練習と経験だからね)
今日はまあ、初対面だし、ジャブくらいだろう。だよね?振り返って閉めようとした扉は従卒さんが閉めてくれた。
遠くから官衙のざわめきが聞こえる静かな空間に、コーヒーの良い香りが鼻をくすぐる。
「御蔵イヴさん、よくお越しくださいました。全く、下らない用件に巻き込まれて大変でしたね?」
「……はっ、はい。はじめまして……御蔵イヴです……」
高そうな椅子から立ち上がって、全然目が笑ってない笑顔でこちらに歩いてきて手を差し伸べる不知火カヤ防衛室長。
控え目に握手に応じるイヴちゃん。『下らない』というのは多分七神リンちゃんさん絡みだからなのだろう。ああ~派閥抗争の音ォ~。
身振りでソファを示されて座るイヴちゃんと不知火カヤさんの前に、従卒さんがコーヒーを置いてくれる。ミルクたっぷりと砂糖4つ入れるイヴちゃんに一瞬眉を上げる不知火カヤさん。*2
「本来30分程度時間を取っていたのですが、予定が変わってしまい、時間がないので単刀直入に。たいほったーは連邦生徒会長肝煎の事業でしたが、会長失踪に伴い事業そのものが整理廃止される見通しです。元々、『不良生徒の人権を無視しているのではないか』という批判もあった事業ですしね」
「……はい、なる、ほど……?」
「御蔵イヴさん。あなたはこの事業で一番活動頻度が高く、また著名な実績をあげた1人です。もちろん、報奨金対象、つまり、治安組織に加入していない人の中でという意味ですが」
きびきびと有能な官吏という感じで解説してくれる不知火カヤさんに、何だかよくわかってないからこくこく頷くイヴちゃん。目を回してないだけえらいレベル。
ちょっと無茶振りだったかな。いや経験値経験値。少なくとも敵対的な相手じゃないんだし。
しかしそんなに稼げてたんだな。まあ割と毎日しばいて回ってたし、相当自由になるお金貯まったからなあ。
「さて、あなたの目的について教えてくださいませんか?連邦生徒会と、というよりは私、不知火カヤと契約すれば金銭的な願いは叶いますよ。そして、暴力を振るいたいならそれもですね」
相変わらず目は笑ってないけど、口元に笑みを浮かべる不知火カヤさん。
あっこらあかん。そもそも夜中の不良しばき上げパーティは僕が金欲しさでやってただけで、情報の共有はしてたけどイヴちゃん聞かれてもわからんし。交代交代。
(イヴちゃん、僕がやってた案件だわこれ。代わるね)
(……う、うん……)
鼻から吸って口から吐いて、コーヒーを一口。良い香りはするけど滅茶苦茶甘い。
さて、どう答えたもんかな。ややこしい話をしながら似てないと酷評され続けてるイヴちゃんの真似はちょっともう無理かもしれない。
「契約の内容次第でしょうか」
「私が呼び出したときに、必要な場所、必要な時に暴力を振るってくだされば大丈夫ですよ。そうですね、期間は1か月。延長の時は追加費用を出します。ちょっと急ぎの案件ですので、契約書は準備できていませんが」
いやいやいや、絶対嘘やろこれ。クーデターなり、都合の悪い案件のもみ消しなりの時に、FOX小隊の他に使いたい戦力にコナ掛けておきたいってところじゃないか?
「相手が誰かというのがわかれば……」
「秩序に逆らう反乱分子ですが、詳細はお話できません。機密事項ですからね」
うーん。機密なのはそうなんだろうけど、誰から見たどういう機密って話だよな。
正当性云々で言うたら、クーデター成功側の権力に反するのは当然反乱分子だし、ぶっ叩いて構わん的な話になるんだろうし。
契約が軽い世界なら、前金で半分取っておいて『騙して悪いが』できるんだがな~~~。先生に頭ごなしに命令してもらうことで契約を交しつつ契約金巻上げとかも考えたんだけど、この世界で気軽に契約ふみふみするのは怖すぎる。
「残念ですが、お断りします。友人と、戦うことになったりしたら困るので……」
「そうですか。残念です。このことは他言無用でお願いしますね。連邦生徒会の実働戦力を司る防衛室が、追加で各校の実力者に声をかけてるなんて噂になると、SRTとヴァルキューレの実力を疑われかねませんので」
くすりと笑うが、やっぱり目が全然笑ってない。半分は本当だろうけど、さっき個人として兵力を求めてるみたいな話してなかった?防衛室の問題じゃないよね。
僕はコーヒーを飲み干し立ち上がる。甘さの後ろの苦味と砂糖のジャリジャリ感。
「ご馳走様でした。敵を事前に明確にした依頼なら、私も引き受けられます。それと」
「それと?」
「『銃剣で王座を作ることはできる。だが長くは座っていられないだろう。』という、私の故郷で良く知られた警句があります。防衛室の方は大変でしょうし、とっくにご存知だと思いますが」
「……覚えておきましょう」
要らんこと言うたかなあ。でも大量殺人計画は本当に止めて欲しいのだよな。他はまあ好きにしたらええんちゃうか。
正直、七神リンさんちゃんのあのやり方は内からも外からも反感を買いそうなのは判るし、少なくとも現段階の不知火カヤさんちゃんの正当性や立場に疑問があるわけではないし。
それに、うんざりすることにキヴォトスの共通言語は暴力だからね。連邦生徒会みたいな理性で動いてる筈の場でも、多分そうだろう。
防衛室長室を出る直前、僕はもう一つ大事な事を思い出した。
「アビドスの事について、先日、報告資料を連邦生徒会宛に送ったのですが、ご覧になりましたか?」
「いいえ、私は見てませんね」
連邦生徒会内での脅威評価はそんなところか。これも時間があれば共有出来たんだろうが。
もう時間がないとばかりに、入れ替わりに連邦生徒会の子が入室してきたので、諦めて退出した。
実際のお話タイムは15分程だった。見送ってくれた従卒の子は、胡乱な人を見る目を隠さない。いや、入りたてで不慣れっぽい雰囲気だから、新1年で隠せなかったって感じか?
途中から代わったけど、聞いてるだけで疲れたらしいイヴちゃんに身体を返して、待っていてくれた宇沢レイサさんと一緒に美味しいご飯を食べて帰ることにする。
今日はお茶漬けと味噌汁の専門店。足りなかったらスイーツ買って帰ろうということで話が纏まった。
美味しい食べ物はいい。味気ないレーションと泥水のようなフィーカより、イヴちゃんにはそれが必要なんだ。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
ビナーの装甲板と動画は、公聴広報担当で仕分けされ、山ほど送られてくる『下らないイタズラ』のうち一つとして評価され、翌週の産業廃棄物として回収されてこの世から消えています。防衛室にすら届いていません。
カヤちゃんさんは有能なので、一応、届いた書類の確認を部下に指示しますが、データベースに記載すらされていないので空振りです。
殺人的な業務量と、過去の同様の事例で言えばやむを得ない処理ではありますが。
紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.22