ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
高等部編入・入学試験、成績上位者3名にはティーパーティーにご褒美を貰える権利があるらしい。
らしいというのは、事務局に提出する書類を、イヴちゃんが『頼む物をもう書いたから見ないで』と見せてくれなかったからだ。かなしい。
イヴちゃんが寝てる間にこっそり見られなくもないが、信頼は極力裏切りたくない。
イヴちゃんが大事なのはもちろんそうなんだけど、頭の中の逃げられない場所に折合いの付かない2人がいたらどうだろうか。最悪じゃない?
っていうことで、始業式兼入学式を無事に迎えたイヴちゃんと泣き真似をしたけど教えてもらえなかったのでちょっと寂しいおまけのソウル、ジルです。
中等部からの内部進学生が大半だけど、何しろクソデカ学校なので、外部からの入学生も勿論人数的にはそれなりにいるね。今日も良い天気で、まだ春とはいえ肌寒いけど過ごしやすい日。
複数ある講堂に別れて、更に時間をずらして*1式を行うという時点でトリニティの生徒数の多さが判ると思う。
今はイヴちゃん達が式に割り当てられた時間ってわけだ。ここは第1講堂。嘘か本当か、編入・入学試験の成績上位順から順にいい講堂に割り振られるなんて噂がある。
第1講堂が一番いい講堂かは意見が分かれそう。古いしその分隙間風が凄いっていうか、肌寒い。けど確かに格式高い造りだし内装はボロいって訳でも無く、ちゃんと綺麗に維持されている。講壇は人1人分くらいの高さで、床は板張り。椅子はトリニティでもこういう場だとパイプ椅子なんだなあ。2階もあるけど、イヴちゃんは最前列。
しかし、新入生代表挨拶、もうちょっとでイヴちゃんだったのにな~。
(次は前で挨拶したいね)
(……ジルがやってね……?)
あっ、イヴちゃん興味無い?そっか……そうかも……。
ティーパーティー、桐藤ナギサさんのホストとして『トリニティの品位と地位向上、学業に励んで、学生生活を楽しんで欲しい』という趣旨の長い挨拶に続いて、新入生代表の挨拶と、つつがなく式は終わり、お楽しみのクラス分け発表です。
「「「「あ~!!」」」」
宇沢レイサさんグループ全員同じクラスだ~。事前にちょっとした意見聴取があったから、『皆で一緒のクラスにしてください』て書いておいた甲斐があったかな。嬉しそうな面々が可愛い。
「ちょっと、どいてくれる?」
「あ、ご、ごめんなさい……」
教室内で集まって喜んでいると、邪魔そうに怒られてしまった。
そんな別に真ん中でもな……あっ下江コハルさんやんけ!!同じクラスなんだ!エ駄死言われたいな~。
伊落マリーさんも同じクラス。楚々とした姿が眼福。めっちゃ豪華だな。
無事クラス分けをクリアしたイヴちゃんは、ご褒美の受取りにティーパーティー本部にやってきた。
ん?去年のトリニティ新聞の記事をネットで見たけど、学園事務室で受取りじゃなかったっけ?
(イヴちゃん、行き先ここで合ってる?)
(……うん……時間も、場所もあってる……)
白い服にベレー帽のティーパーティー委員がしずしずとイヴちゃんを案内してくれる。
あれっ、今ほくほく顔で紙袋抱えてた、用事が終わって帰るらしい、すれ違った2人のうち片方、壇上で挨拶してた成績1位の子じゃなかった?
(……先に終わったのかな……?)
(嫌な予感がする。アレだったら代わるからね)
流れるように案内されて、盾と
時計塔が向かいに見えて、その更に向こうに青空と光輪が広がっていて良い眺め。
目の前に座っているのは紅茶と阿慈谷ヒフミ先輩大好き桐藤ナギサさんと、素手でゴリラと遊べる女こと聖園ミカさん。
ティーパーティーのマークが入った紙袋を持ってきたティーパーティー委員に礼を言って、外すように指示する桐藤ナギサさん。
「こんにちは。ティーパーティーのホスト代行、桐藤ナギサです。御蔵イヴさん、まずはおめでとうございます」
紙袋は割とさらりと、桐藤ナギサさんから直接イヴちゃんに授与された。中身なんだろうね。うーん、凄い軽い。イヴちゃんが頼んだもんなんだから、重かろうが軽かろうが別に良いんだけど。でも、全然推測材料にならんな。
まあ、中身まで見せてくれないって事は無いだろう。無いよね?気になるけど後のお楽しみだな。
校内のお偉方と対面するのは初めてで、がっちがちに緊張しているイヴちゃんが頑張って言葉を絞り出す。
「……あ、ありがとうございます……み、御蔵イヴです……」
「うん、すごいよね。私、前回の期末の成績あんま良くなかったしな~。あ、私はパテルの聖園ミカだよ、よろしくね」
ニコニコと微笑む聖園ミカさん。うわ、顔がいい。顔の暴力だな。明るく、軽い、けど粗野や下品で無い美しさが溢れ出てる。
桐藤ナギサさんも美人だけど、何というか陰というか棘があるタイプの美人なんだよな。
「ミカさんも仮にも領袖たるもの、せめて上位5位の中にくらいは入っておいてほしいものです。さあ、御蔵さん、紅茶を召し上がれ。ケーキもありますよ」
「……は、はい……。い、いただきます……」
「ここのケーキ美味しいよねー☆」
気軽な雰囲気のティーパーティーの2人に対し、イヴちゃんはガチガチに緊張したまま。
一応授業でこういう時の作法も習ってるはずだけど、まあ無理もないよね。
2人からは、少なくとも無作法を責めてやろうみたいな雰囲気は感じられないし、僕も黙って見ている。
聖園ミカさんの台詞を借りるとアイスブレイクという奴だろうか。他愛も無いお喋りが続く。
でも何のためにイヴちゃんをわざわざそこに混ぜる必要があるのか。記念品贈呈なら3人まとめてやって終わりだろう。
「さて、御蔵イヴさん。あなたをお呼びしたのは、お詫びしたいことがあるからです」
「あれっ、ナギちゃん、もう言っちゃうの?」
茶化すような発言はスルーして鋭い目をイヴちゃんに向け、目を伏せるように視線を落として言い辛そうに言う桐藤ナギサさん。
「あなたが昨年カイザーグループと思しき企業に事故に遭わされた後、トリニティとして強く出られなかったこと、前代のホストに代わりお詫びいたします」
「訴訟くらいやったらよかったじゃんね」
「カイザーという進出してくる大企業に対する扱い、内部で相当揉めていたのをミカさんも見ていたでしょう」
「そうだっけ?☆」
気軽な発言を咎められて、てへぺろ顔をする聖園ミカさんと、深い溜息をつく桐藤ナギサさん。
「はぁ……ともあれ、内部の事情で申し訳ありません。埋め合わせというわけではありませんが、過日の自警団と正義実現委員会経由で入手された大型機銃の書類不備……本来は正義実現委員会に保管されて一定期間経過後、拾得品として処理が必要なのですが、証拠品の返却希望者もいませんでしたし、特別にティーパーティーとして対応しました。また、希望されていたクラス分けには配慮させていただきました」
あんなに書類書いたのに駄目だったのか〜。自警団と正義実現委員会の権限とかもあるんかな。単に遺失物の拾得が学校法で決まってるだけかも。
まあでも
後者についてはカイザーと生徒の生命を天秤にかけられたってとこで割とムカっとしてはいるが、当代のティーパーティーが決めた話でもないしなあ。カイザーは自力救済でしばいていくしかないか~。
「私もイヴちゃんにお願いしたいことがあるんだ。パテル分派に入らない?」
((えっ?!))
お前もティーパーティーにならないか?唐突極まる発言だけど、ティーパーティー的には普通なのか?聖園ミカさんは普通に笑顔。
あっ桐藤ナギサさんが紅茶噴きそうになった。ティーパーティーでも普通じゃ無いんだ。
「ごほっ、ごほっ、ちょっ、ミカさん?!」
「成績いい上にすっごく強いんでしょ、イヴちゃん。今年はエデン条約で荒れ「ミカさん!!」」
エデン条約の話、一般生徒のイヴちゃんにはまだ到底話せないはずだから、桐藤ナギサさんがぶち切れるのはまあ判る。
おどけて驚く仕草をして、上半身をのけぞらせる聖園ミカさん。
「おっと。ナギちゃん怖いなー。でも、イヴちゃんが欲しいのは本当だよ?」
「前例がありません。失礼ですが、中等部3年後半より前の成績は普通ですし……」
まあそれはそう。それに良家の出でもないし、ってところかな。言わないのは流石の分別というか。
政治的な実績も全然無いんだよなあ。別に欲しいわけじゃないけど。
「うーん、じゃあ後援会に参加ってことでどう?今なら私とツーショットも撮れるよ?」
(えっそれはちょっと欲しいかも)
(……ジル……?)
(おほん。冗談冗談。条件聞いてからだよね)
「あの……後援会って、何をするのですか……?」
「んー?連絡先を私、っていうか後援会事務局があるから、そこと交換してー、年1回、初等部から高等部までのパテルの皆が出るお茶会に参加するだけ☆」
(……それくらいならまあ、いいんじゃない?)
(……う、うん……)
「じゃ、じゃあ……参加します」
「やったあー☆今年のお茶会は来週だからよろしくね☆」
「……えっ」
早えーよホセ。
時間が来たらしく、優雅に退室を促されるイヴちゃん。
パテル分派の何か末端的なところに入る羽目になったのは……うーんどうだろう。大して何も影響ないのか?
今のところフリーのイヴちゃんに鈴でもつけておくかくらいのところかもしれんけど。扉が閉まる間際、強化している聴覚に2人の声が入ってくる。
「……を、聞かなくて良かったのナギちゃん……」
「あなたのせいで御蔵さんに……が……」
という小さな囁きが入った。
ええ……なに……?
帰り際、スマフォで検索したところ、トリニティティーパーティー各派閥の後援会は
1.他の派閥の後援会に入ってないこと
2.トリニティに居住もしくは勤務していること
3.氏名と住所と連絡先を提供すること
4.トリニティの体制を武力で転覆させることを主張している団体に入ってないこと
の条件を満たせば誰でも入れる団体だって事が判った。条件意外と軽いな。
何なら会費も無いらしい。小派閥だと結構『寄付のお願い』とかが多くて鬱陶しいらしいけど。
家に帰って最低限の身支度をしてベッドにダイブするイヴちゃん。おつかれさま……。
(……つ、疲れた……)
(イヴちゃんお疲れ様。よく頑張ったね。あっ、ところでそのお土産何だったの?)
(……ふふ……ご褒美で頼んでたやつ……見る?)
(見る見る~!)
じらしプレイで僕の中の好奇心がこんなに大きくなっちゃったからね。ってこれは。
宇沢レイサさんグループのSDフィギュアだ!!可愛い~!!!全員よくできてるな~。
前からだけじゃ無くて前後左右しっかり作ってあり、みんなの特徴を捉えて可愛く仕上がっている。うーん、凄く匠の技を感じる。
(……しかも、5セットある……みんなにあげる……)
あれ、4人なのに、って思って、僕は再度フィギュアを注視する。あ、いや待て。
このSDイヴちゃん何か抱っこしてると思ったら、ちっちゃいぬいぐるみイヴちゃんだ。
(えっ、まさか、これ、僕?!)
(……うん……ジル、いつもありがとう……)
あれっ?帰ってから2時間くらい経ってるな?あまりに嬉しいことがあると人間(僕は人間じゃ無くて何かのソウルだけど)意識飛ぶんだなあ。
イヴちゃんは「頭の中がうるさい(怒った顔のイヴちゃんの似顔絵付)」というメモ書きを残して寝ちゃってたけど。
嬉しすぎて滅茶苦茶はしゃいじゃったらしい。明日、埋め合わせをしないとね。
ありがとう、イヴちゃん。僕も君の身体を貸してくれる寛容さと優しさに自分を肯定されて赦されてるなって、助けられてるよ。大好き。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.22