ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
寮の自室、ベッドの上でごろごろしながら、スマフォを眺めて小首を傾げる愛らしさ1,000億点のイヴちゃんと、そのおまけ、ジルです。
(……どうする?)
(うーん……ジルは、どうしたい?)
モモトークには「急募!シャーレ部員!!」という先生からのメッセージ。
半分冗談めいた文面には、先日先生を手伝った首席行政官以外の面々に声を掛けていること、遊びに来てくれるのはいつでも歓迎、欲をいうならちょっと手伝ってくれないかな的な文言。
シャーレが開設してまだ数日だろうけどえらいことになってるんやろうなあ。
(僕は、手伝ってあげたい。何でかは今は言えないけど……先生が導いてくれることで、この世界はより良くなるし、イヴちゃんの幸せにも間違いなく繋がるから)
(……ジルは、いつも私の事を考えてくれるよね。ありがとう……)
ひえ~~~~~嬉死してまう!!!!あかん!その感謝されかたはあかん!!イヴちゃんへの好きがこんなになっちゃったらもう……ネってしちゃう。
イヴちゃんが頷かないけど、肯定してくれた。
(……いいよ。先生のお手伝い……やろう)
(ありがとう、イヴちゃん!!)
話は決まった。我々は紙の海に乗り出すのだ。
先生に『シャーレの部員として参加したい』とメッセージを送ってから圧倒的感謝のメッセージをもらって、その翌日。
今日、授業後の放課後、早速D.U.のシャーレに行くことにした。
宇沢レイサさんグループのメンバーも誘ってみたけど、宇沢レイサさんは多忙で保留。他の2人は『なんか怪しいし……』と芳しく無い手応え。まあまだ開業したばっかだし、無理にって訳にもいかないしな。
トリニティ、ゲヘナ、ミレニアム3校から連邦生徒会本部には直通列車が出ている。
再開発中のシャーレ本部にも来月には直通列車が延伸されるのだが、現時点では連邦生徒会本部駅で乗換え、連邦生徒会直営の鉄道で数駅。
放課後に先生の好きそうなお菓子を買って、真新しいオフィスに無事到着。
連邦生徒会が鳴り物入りで準備してたであろう新部活の開業直後に、マスコミに流れ弾でボロボロになっている玄関を撮影されるのが嫌だったのだろうか、オフィスビルの1・2階は綺麗に修理されていた。
ついでにエンジェル24もオープンしていて、オープニングスタッフ数人に混じって背の低い金髪、天使の羽のおでこガールがいるのが見えた。あっ、ソラさんだ。まあ、そらおるか……。ブラック連勤術師伝説が見られるんかな。見たくはないけど。
シャーレのオフィスは新築の建物の香りがした。既に疲弊の兆しが見える先生はイヴちゃんが来た時点で飛び上がらんほど喜んでくれた。壁掛けのガンラックに
先生の机と、その横の机に建造されている紙のサンクトゥムタワーを見て、イヴちゃんの頬が引きつる。
「……今日は、私だけですか……?」
「"いや、ユウカも来てくれてるよ"」
先生の台詞に答えるように、ちょっと席を外していたらしい早瀬ユウカさんが戻ってきた。
「あら、イヴ。来てくれたのね」
「……ユウカさん、こんにちは……」
早瀬ユウカさんもニコニコ、イヴちゃんも顔見知りの優しい先輩に会えて凄く嬉しそう。
トリニティで今流行っている紅茶を3人分淹れて仕事に手をつけた後は阿鼻叫喚だった。
紙の銃弾が飛び交う
(……うんって言うんじゃなかった……)
(ごめんて。明日ちゃんと埋め合わせするからさ)
2徹らしい先生は夕方から完全におかしなめつきだし、モモトークのメッセージを見て早めにやってきていたという早瀬ユウカさんが、イヴちゃんにお姉さん風をふかしつつ先生を説教する余裕があったのも数時間前まで。
イヴちゃんが右目と右手、僕が左目と左手で2.5人分くらいの仕事をこなす――見てくれが悪すぎるので人前で絶対やりたくなかったのだけど、手段を選んでいられなかった――傍ら、1人なのに3人分をこなすミレニアムの事実上の代表の力を発揮してくれたお陰で、忌々しい白いタワーを破砕し終えた。
2人がかりで、意識を半ば以上失った先生のメイクを最小限落として、服をある程度剥ぎ取り、イヴちゃんが片手で抱き上げて仮眠室のベッドに突っ込んでから、イヴちゃんと早瀬ユウカさんは肩を落として最寄り駅から連邦生徒会本部駅へ。
流石の早瀬ユウカさんもイヴちゃんもくったくたでしおれてる感じ。
トリニティ、ミレニアムへの直通特急最終便はまだもうしばらく先で、2人ともぐったりと待合室のベンチに腰掛けていた。
魂が口から出てそうな早瀬ユウカさんが、時刻表と乗換アプリを交互に睨んでから、何か愚痴か溜息を言いたそうにもにょっとして、多分『頼れる先輩』として相応しくないと思ったんだろう。ぐっと飲み込んだみたい。
(あ、イヴちゃんごめん、ちょっと代わってくれる?)
(……いいよ……)
でも、シャーレ奪還と、紙仕事と戦った同志としては認めてくれたんだろう。早瀬ユウカさんは飲み込んだ愚痴の代わりに現状分析の言葉を吐き出すように呟く。
「連邦生徒会の『何でも紙でやる』悪癖がシャーレに直結してる上に、はっきり言って自治区内で片付く案件まで先生に持ち込まれてるから、このままだと先生は過労死直行ね……」
「ユウカさん。ちょっとした提案があるのですが」
威力偵察か本来の窓口を知らないだけなのか単に勘違いしてるのか、早瀬ユウカさんが言うとおり、先生が関わる必要のない案件も山ほどある。
本来シャーレという組織ではなくて連邦生徒会の他の部局、あるいは学園という別の官公庁だったり、民間ができる、やるべき案件もだ。
先生が持ち前の人の良さと生徒の頼みを断らないという原則を発揮するのは民業圧迫にも繋がり、却ってキヴォトス全体の支持を得づらくなる。
必要なのは誰がどのようにいつやるかの仕事の仕分け、可能であれば返事の補助も。先生が手作業の温かみを大事にしたいだとか、見落としが不安ならそこを補助である当番生徒にやってもらえればいい。
キヴォトスの危機が来る前に先生が死んだら終わり(ミヤモトマサシもそう言っていた)だし、先生の手が本当は届くところが、先生の過労や多忙、そこからの疾病なり何なりで手に負えないなんてことがあったら洒落にならない。
……というのをいい感じに早瀬ユウカさんに吹き込む。
「つまり、OCRと自動仕分けと回答ができたらいいってわけ?」
「いささか原始的ですが、ハッキングが怖いですし、メッセージは外部端末で運んで、スタンドアロンにするしかないでしょうね」
本当はネットワークに繋いで先生が不在や入眠中も自動でばりばり仕分けしてほしいのだが、デカグラマトンやミレニアムの白兎などの厄ネタが多数あるし、他学園の運営状況だとか、生徒の個人情報とかやべー情報も必然的に入ってくるだろうしな。
アロナちゃんバリアで概ね大丈夫だとは思うのだけれども、安全策は取るにこしたことはない。
早瀬ユウカさんはイヴちゃんの意見に深く頷いてから、頭を横に振る。ツインテールが左右に揺れて可愛い。右こめかみを右人差し指でぐりぐりしながら答えてくれる。
「本当は、連邦生徒会というか、シャーレっていう組織に、ミレニアムだけが肩入れするのは不味いのよね。政治的に」
「デモンストレーションと売込みということにしては?シャーレに使わせて、連邦生徒会にも伝播させ、トリニティとゲヘナにも売る。それぞれの学園が寡占している市場に食い込む金目当てというのを大々的に表に出して……」
うーん、と上を見て考え込む仕草。
「機密情報の扱いで反対してこないかしら?」
「スタンドアロンでメンテナンスはあくまでそれぞれの学園の要員がやって、ミレニアムで研修を受けさせたらいいと思います。後はミレニアムの商道徳があるから、という線でアピールですかね。それに、『シャーレのは仕様が違うからミレニアム生徒が常駐する必要がある』といえば……」
仕様を頭の中で素早く整理したらしい早瀬ユウカさんがパッと反応する。
「となると、安くて丈夫でメンテナンスも容易、しかもネットワーク接続不可か。イヴ、結構無茶言うわね。って、何で私が常駐しないといけないの?!」
言いながら、早瀬ユウカさんはどこかにスマフォでメッセージをぽちぽち。
回答が即返ってきたらしく、僕に画面を見せてくれた。エンジニア部の白石ウタハさんからだ。
『そんなつまらないものでいいのかい?』
とだけ。
いや、別に僕はミレニアム生誰かが毎日当番枠に入るようにしたら早瀬ユウカさんが来られる率も上がって美味いよねってだけで、あなたが常駐しろとは……まあ先生とくっついてくれるなら全然ありですけど。
先生という高身長美女と、ふともも真面目きつめ美少女のカップル、最高。グフフ。
(……ジル……?)
(ごめんて)
百合はこんなにいいものなのにね……悲しいねイヴージ……。
翌日の午後、シャーレに顔を出したイヴちゃんと、昨日はちゃんと寝たけどまだ疲労が取り切れて無くて目の下にある隈を誤魔化す化粧が逆にえろい雰囲気を溢れ出させている先生、ふんすというドヤ顔を目一杯している早瀬ユウカさんが一同に会していた。
シャーレオフィスにはヴェリタスとエンジニア部の合作、先生を過労死から解放する福音が届いていた。
(……コピー機……?)
(コピー機だねえ)
仮にもエンジニア部製なので、不細工という訳では無いのだが、明らかにそこらに転がっていた減価償却もとっくに終わってそうな複合機*1とラップトップパソコンの本体と液晶モニタを良い感じに組み合わせた、元のガワが見え見えの代物が鎮座していた。
OCR精度を上げるためか、元のスキャナ部分に加えて、これまたどっかから持ってきたっぽいスキャナが追加でぶっ刺してある。その分設置面積は取るけど、まあ誤差だろう。
先生は早速使ってみたらしく、凄く喜んでいた。無邪気な笑顔が美しいというか、可愛らしいかな、これは。
「"ユウカ、イヴ、ありがとうね"」
「いえ!これくらい当然です!」
「……私は何も……ミレニアムの皆さんが、やってくれました……」
ドヤァ、と胸をもっと張る早瀬ユウカさんと、首を横に振るイヴちゃん。
ジェバンニもびっくりの製造と納品速度ややで。
メールをそのままUSBメモリにコピペしてUSB端子に挿すことで、紙以外も対応する素敵仕様。
「紙はなるべく対応してますけど、破れそうなのは蓋を開けてここでスキャンしてください」
使い方も普通のプリンタやスキャナと変わらないらしい。
ソフトウェアは流石にそのままって訳にいかないからだろう、見覚えの無いUIになってるし、右下で白石ウタハさんをデフォルメした2頭身の可愛い3Dキャラが踊ったりスキャン作業をするアニメーションが表示されている。エンジニア部の他のメンバーと、早瀬ユウカさん、後、イヴちゃんにも変更出来るらしい。無駄機能来たな。
まあ可愛いし良いんだけど。っていうかイヴちゃんもいるんだ?!
自分のタブレットに表示されたマニュアルを見せながら先生に機能説明を続ける早瀬ユウカさん。
「えーと、後は……このボタンとこのボタン、それとこのボタンは自爆ボタンです」
「"なるほど自爆ボタ……自爆ボタン?!"」
「エンジニア部が自爆ボタンを付けないと引渡しに同意しなくて……絶対に触らないでくださいね!」
あかんやつや。
激安高性能に仕上がって即日納品の代わりに、生きているスイッチ10個中6個が自爆ボタンという驚異の高性能機。何でやねん。
結局、自爆装置は久々に機械を触るという早瀬ユウカさんが全部解除してくれました。絶対に遊びに来た生徒誰かが悪気無しか悪戯心かで触るしね……。
赤帯になっている!嬉しい!有難う御座います!
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.22