ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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第0章 本編開始-1年 火を付けろ 燃え始めた全てに
交通事故があったときは(略)運転者(略)負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない


 ぼんやりして歩いていたのが悪かったのかな。

授業が終わって、買い物に出かけて大きな交差点の横断歩道を渡っていたはず。

信号は間違いなく青だったのに。ああ、右の翼が痛いや。

オートマトンの運転手さんの驚いたような顔、2階建のお家みたいな大きな真っ黒なトラック、カイザーなんとかって書かれたロゴ。

いつものように青くて、雲一つ無い青空。大きな光輪が眩しい。

私の身体は宙を舞っていた。

(力が欲しいか?力が欲しいならグワーッ!?)

 誰?何の声?男の人とも女の人にも聞こえない不思議な声が頭の中から聞こえた。

 その直後、今度は左側から、白いトラックに跳ねられた。左の翼も凄く痛む。右、左と飛ばされてバレーボールみたい。

(オイオイオイオイヤバイヤバイヤバイ!言うてる場合じゃないだろ?!)

 また頭の中で知らない声がして、身体が勝手に動いた。

 空中で背中を丸めて右腕を道路に叩き付けて、真っ赤な火花と陽炎が道路に軌跡を描いたのが視界の隅に入り、私は意識を失った。

 

 目が覚めたら消毒液のツンとする臭いが鼻を突いて、真っ白な天井が見えた。

知らない病室だった。

(知らない天井だ……)

 ……誰の声?あの時にも聞こえた気がする。

「……誰……?」

(僕かい?僕は君のトーテムだ。汝に啓示を与えん……。何てね。信じてないよね?頼むよ?)

「……ああ。私は、御蔵イヴ。トリニティ中等部の2年生だよ……」

 

<???→ジル視点>

 これまた景気良く滑っちゃった。

 自己紹介が欲しかった訳じゃ無いんだけど、いやこのボケ自体が判りづらいか。

まあいいや。僕自身名乗ってなかったし、丁度良いから自己紹介といこう。

いや、待て。僕は何だ?誰だ?えっ、ヤバいな。何もわからん。

つかまえた なぞのソウルに ニックネームを つけますか?って感じ。

まー、取り敢えず自分で名前決めるか。

(僕は……そうだなあ、ヘンリー……いや自分でも性別わからんし、ジルでいいや)

「……そう、ジル。あなたは……何……?」

(自分でもよくわからないんだよね。君に憑依した魂か何かだと思う。病気とか事故のせいじゃないとは思うよ。多分ね)

「……うん、よろしく……」

(よろしくでいいの?!大丈夫?!)

「……?大丈夫じゃないのは私……?」

 うん、ブルーアーカイブだこれ。憑依(?)した時に衝突したのか流れ込んできたこの子の記憶の様子でも多分ビンゴっぽいそうだし、ベッドの横の小さな鏡にもバッチリヘイロー付の眼鏡っ娘美少女が写っている。

銀髪というかこれは白髪かな?セミロングで左サイドテールも可愛らしい、赤い瞳も宝石のよう。

ニューロンの同居人びいきを差し引いても美少女オブ美少女と言って良いだろう。

ベッドに腰掛けてるから目視はできないけど、記憶に基づくと背は低くぺたんこ、ほっそり、ちいさい体型。

可愛いね♥いやこれは愛玩動物的な感じの可愛さだけど、一目惚れと行っていいかも知れない。滅茶苦茶好みだわ。

 

 宿主が美少女なのは嬉しいけど、体力と筋力、あと多分神秘的なものも足りてない状態できららグランドセフトオート、在住は毒蛇の巣かあ……。

(ねえ、トリニティ高校のティーパーティーって誰かわかる?)

「……うん、ちょっと待って……」

 スマートフォンを取り出して何かを検索し始めて結果が見える。

どうやって僕に見せたらいいのかわからないのか固まるイヴちゃん。

(大丈夫、君の視界を共有してるから見えるよ)

 見せてもらったけど知らない子だね……えー、1年生に桐藤ナギサさん……あー今冬っぽいから来年プラス何ヶ月か?そっか~。

先生が来たりするのはだいたい来年。マジかよ。ブッダファック。

 

 疑われたり怯えられなかったのは良かったけどさあ。これは……守護らねば……。

(僕はどうも、自分の記憶が一部、っていうかかなり無くなってるみたいなんだよね。こうなる前に自分がどんな生き物だったかすらわからない。人間だったのか、神か悪魔だったのか、それとも名状しがたい何かだったのか)

「……そうなんだ……」

 基本的には本当のことを伝えていく。でも、「この世界をゲームとして見たことがある」なんてことは言えない。

転生者の基本としては、記憶が衰えるまでにメモを作ったりした方が良いんだろう。

これからの契約でイヴちゃんが同意してくれれば、イヴちゃんが寝た後の時間は自由に使える。でも、それがもしイヴちゃんに見られたら。

2人の間に発生したり存在するかもしれない信用や信頼はぶち壊しになる、かもしれない。そう思うと怖くてとても無理だ。

まだ未来視や予言・預言の方が遙かにマシ。この解像度で言えば、多分ゲームの中に入ってる、なんてことはないと思うし、一笑に付されて終わりになるかもなんだけど。

 しかし、ゲームの中、って雰囲気は多分違うと思う。頼りない僕の推測でしか無いが。

この超絶美少女イヴちゃんにもよくよく見ると普通に毛穴とか、探さないけど探せばムダ毛とかもあるだろうし、ゲームならその辺の情報はそぎ落とされてると思うんだよな。多分だけど。

(まー、君にとっては迷惑だと思うんだけど、今のところ君の身体を出て行く方法がないから、僕と契約して……もとい、しばらくは居させてほしいんだけど)

 ふるふると首を横に振って「迷惑なんかじゃない」と呟く彼女。可愛い。

(ありがとう。せっかく君という同居人の寛大さに甘えられるんだから、僕はできる範囲で君の幸福追求に協力したいんだ。それで、僕が君の頭の中にお邪魔する条件を打ち合わせたいんだよね。あ、あと、イヴちゃんって呼んでいい?)

こくりと頷いて「イヴちゃん」と何回か口の中で転がす彼女。

呼び方不味かったかな?無表情気味だから判りづらいけど。まあ駄目なら駄目で後で変えるか。

(まず、君、イヴちゃんが思ったことで「僕に伝えたい」と思った事だけを僕に聞こえるようにする。

入浴、着替え、お手洗いの間は全ての感覚を遮断する。記憶を勝手に覗かない。逆に、僕の記憶も覗いてほしくない。

身体の主導権はあくまでイヴちゃんにあり、双方の同意の要請で代わることと、使ってない時間には君の尊厳を失わない範囲で身体を使わせてほしい。

緊急時に僕が動かすことで安全を保障できる時は動かす許可を予め欲しいけど、それ以外は君の意思を無視して身体を動かさない。

他に、禁止したいと思ったこと、逆にやって欲しいと思ったことは後からでもいいから相談しよう)

(…………こうかな?聞こえる?……条件は、それでいい……)

(うん、わかるよ。ありがとう)

 僕の思考を垂れ流してもいいんだけど、多分それだと幻聴的な何かが喋り倒しててうるせ~~~~~知らね~~~~~BlueArchiveみたいになりそうなんだよな。

僕は独立した意識と記憶を持ってるはずなんだけど……。

(早速だけど、試したいことがあるんだ。ちょっと代わってもらっていい?身体の左半分でいいから。スマフォ借りるから、見て欲しくないとこに触りそうだったら止めてね)

 了解を得て左腕と左目だけを使ってスマフォを見る。左半身の制御だけ僕がするのはできるな。よしよし。

 どうせベッドの上からまだもう少しは動けないし、色々実験しよう。

 

 術後は良好だったが、イヴちゃんは友達が少ないらしく初日に1人見舞いが来てくれただけで、ほぼ4日の入院中には誰も来てくれなかった。

 あの交通事故で保存が効かないレベルで翼がぐちゃぐちゃになってしまい、失われてしまったけど、イヴちゃんにはそれ以外の目立った影響はない。

魂なるものが明確に存在する世界で、その所在が体内のどこかはわからないけども、少なくともイヴちゃんと僕に関しては翼ではないのだろう。

(機械の翼、僕的にはすげ~格好良いと思うけど、彼女はどうなんだろうな)

 白い天使の羽が機械の羽に置き換えられることになってしまった。

記憶でも生徒手帳でも髪色は金髪だったのが白髪になってしまったし、瞳の色も緑だったのが赤になっている。

恐怖で髪の毛が一瞬で白くなる、なんてのは与太話らしいから、これは僕が憑依(?)した影響なのだろうか?

それとも、翼が失われたせいで神秘が変質した?わからんな。

 

 イヴちゃんはトリニティ中等部の生徒ではあるが、今入院してるここはミレニアムにある病院らしい。

 高度な技術力で脊椎に接続された機械の翼は意思を反映してちゃんと動く。とはいえ、元の翼であろうがなかろうが筋力が足りないし重量的に飛べはしない。

神秘がもっとあれば飛べたのかもしれないが、ゲームプレイヤーの僕の記憶にはいないイヴちゃんは多分未実装か、モブの子だろうしね。

 いや、でもよく考えたら4日でここまで怪我回復するのって早くない?

(……ジル、起きてる?……)

(うん、起きてるよ。僕はあんまり寝なくていいらしいからね)

 脳が100%使われてないってのは嘘っぱちらしいけど、とにかく僕の思考は彼女のリソースを奪ってはないようだ。

 イヴちゃんは良く言えば純真でおっとり、悪く言っちゃうとウスラボケの平和ボケで反応も遅い子なんだけど。

 睡眠は脳自体の疲労物質を洗浄する効果があるという説を聞いたことがある。知りたいこと、やりたいことは山ほどあるけど、脳を彼女が寝た後もフルタイムでず~~っと使ってると不味そうなので、軽いストレッチや筋トレをしてから断続的に寝るようにしている。

(……私ね、学校に友達がいないんだ……)

 う、うん……スマフォの連絡帳見たけど誰も登録されてなかったしね……モモトークも入ってないし……。「学校外にもいないんじゃないの?」ってツッコミは可哀想過ぎるからよう言わんけど。

 ま、まあ毒蛇の巣だし?イヴちゃんは良い子だけど大人しくて友達グループできるタイミングに乗り遅れただけでしょ多分。へーきへーき。

(……だから、ジルが来てくれて嬉しい。ありがとうね、ジル……)

 え、ええ~~~~。マジか。温かい感謝の気持ちが伝わってきて、逆に困惑しちゃうな。

 いや「こんなドブカス脳内から追い払うしかねえ!せや愛銃のショットガン口に咥えて撃ったろ!!」とか脅されるよりは良いけどさあ……。

(……明日明後日は休みだけど、週明けから学校、行きたくないな……って思ってたの。でも……)

(うんうん、僕は君から離れないし、君が幸せになる手伝いをするから。だから今日はちゃんとお休み。傷に障るからね)

(……うん、お休み、ジル……)

 参ったなあ。期待が重い。とにかくお医者さんから許可も出たし、日課の筋トレとストレッチをちょっとだけ。

 キヴォトスは暴力に始まって暴力に終わるからね。他人より優れた暴力が無ければ踏みつけられるだけだ。

 見た目もだけど、僕はこの心根が優しくて穏やかな家主を悲しませたくない。

人の身体を借りるなんて、小説の一節を借りると『体を奪われ、全くの赤の他人がわたくしとして生きて、体を操り、喋っているだなんて。それを見ているだけで何もできない状態で怒りを感じない者がいたら聖人を通り越してとんでもない愚か者である。幼いながらにわたくしはわたくしの奪われてはならない尊厳を無理やり取り上げられた事に憤慨した』*1なんてなりかねないからね。

 

 ハッピーエンドは大好きだけど、まずはこの愛らしい彼女を守らないと。仮に他の誰を悲しませたり、踏みつけることになろうともね。

僕の最初の大切な、最優先目標が決まった。

*1
まきぶろ『悪役令嬢の中の人』




 神秘って何なんスかね。何もわからん。
 評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。

 紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.19
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