ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
ゲーム開発部で盛り上がって終電ぎりぎりで戻ってきて、寮に戻る時間が惜しいのでネットカフェで一眠りしたイヴちゃんとドリンク飲み放題で糖分キメッキメのおまけ、ジルです。
さっきまでゲーム開発部で一緒に遊んでたけど、イヴちゃんは滅茶苦茶ゲーム下手です。知ってた。怒り出さないのが不思議なくらい勝ててなかったな。まあそれもイヴちゃんの良さなんだけど。
今日やるのは簡単、GPSアプリで多分公園とかで寝てる宇沢レイサさんを見つけて確保、ちゃんと布団でスヤァさせる「
ええ……まあやることは一緒なんだけど。時間は朝3時過ぎ。まだちょっと眠そうなイヴちゃんに激励を送る。
そう、今日はあくまでイヴちゃんが友達のためにやることだ。危ない時以外は手を出すつもりはない。
眠そうではあるが、とりあえずスマフォをぽちぽちしてGPSアプリを起動、宇沢レイサさんの現在位置を照会。自動的に回答許可設定になっているのだろう、答えはすぐ返ってきた。
もちろん、相手のスマフォにも照会されたという通知は行くので、眠りを破らないようにサイレントモードになっていることを祈るばかりだ。
宇沢レイサさんは自警団の仕事はベテランだし大丈夫……かなあ?目覚まし的に使ってたらわからんけど。
(場所わかったし、行こう……ねむ……)
(そうだね。ほら変な漫画に惹かれないの)
レジ横の棚に並んでいる新刊の『レンコンの全て』全巻入荷に興味津々のイヴちゃんに……いや確かに内容気になるけどさあ。急がなきゃ。
春になったとはいえトリニティの真夜中、いや早朝は寒い。流石に白い息が出るほどではないけども。
星が美しく輝き、月も凍えるような光で早朝のトリニティを照らしている。イヴちゃんはほんの少しだけ空を見上げてから、目的地の公園に歩き出す。
物資輸送のトラックや疎らに通る車両の他は誰とも会わなかった。静かでご機嫌、イヴちゃんも少し楽しげ。
(……あっ……いた……)
目的地の公園はそれほど大きくない。端に置かれているベンチで宇沢レイサさんが爆睡していた。
代謝が高くて体温も高いのだろう、寝るときには羽織っていたであろう薄手のコートを足下に蹴飛ばし、お腹丸出しでふともももあられもなく開いていて、うーん、せ、せくしぃ……?
なんて考えているうちに、イヴちゃんが右手でそっと抱き上げる。起こさないようにというのもあるのだろうけど、とっても優しく大切に思っているのがわかる抱き上げる仕草でのお姫様抱っこ……脳が破壊されてしまう……!
いや僕の脳じゃ無いから壊れたら困るんだが。
イヴちゃんが小さく微笑んだ気配。
(……じゃあ、連れて帰ろ……)
(そうだね~。一応、周りの警戒はしておくから)
イヴちゃんは力持ちなので、大して重くない宇沢レイサさんは右手だけで余裕で抱っこできる。
とはいえ、
トリニティ学園近くの繁華街や寮へ近づいているから、人通りもぐんと増えている。
徘徊するチンピラや治安組織*1の巡回を躱し、無事に寮の自室に到着。
イヴちゃんがそっとベッドに横たえた宇沢レイサさんの服を手際よく剥……ごうとして、手をうろうろ彷徨わせている。
新しく準備してある来客用パジャマ*2があるからさっさと着替えさせたら良いのに。
(僕は今視覚共有してないよ。大丈夫)
(……う、うん……。でも、な、なんだか……脱がせたらいけない気が……する)
え、ええ~~~~。これはもしかして……うう~いやだ~~。
イヴちゃんは着替えさせるのは諦めてシャワーを浴びることにしたらしく、引き続き感覚共有は切ったままイヴちゃんと喋る。
(……疲れた……)
(来客用のマットレス出さなくて良かったの?)
(……もう、一緒に寝たらいいかなって……)
セミダブルサイズのベッドはイヴちゃんが拘って選んだ一品。折畳みできるのに寝心地はほぼ通常品と同等。もちろん、小柄な女の子2人が寝るのは造作もない。
そっかあ~~~。宇沢レイサさんめっちゃ優しいし強いし超美少女だし優良物件なの間違いないんだけどな~。
僕が勝手に嫉妬してるだけでさ~。くっついてほしいけどくっついてほしくね~~。心が二つある~~~~。
なんて煩悶している間にイヴちゃんも寝る支度済ませてベッドに潜り込んだ。温かい。宇沢レイサさんまじで体温高いな。イヴちゃんと違うシャンプーの匂いがまだほのかにする。気がする。
(……お休み、ジル……)
(お休み、イヴちゃん)
煩悶してるけど、煩悶してもしょうがない。僕も寝ることにしよう。イヴちゃんの脳の疲労を減らしておかないと。
燃える。トリニティが燃えてしまう。これは面倒な事になった。
「速報です。シャーレの先生の死亡が確認されました。エデン条約調印式時のアリウス分校を名乗るグループの攻撃に巻き込まれたものと見られ――随行していたトリニティの御蔵イヴさんも死亡が確認されてい――同校正義実現委員会はテロ行為により機能停止しており、またゲヘナ風紀委員会も――只今入りました情報によると、『アリウスが今後トリニティ並びにゲヘナの統治を行う』と声明が――」
この状況で増援が来るはずもない。1人ずつ潰す。現実それくらいだ。
「相手はたった一人だぞ!全力で押せ、ぐあっ!」
「剣先ツルギはミサイルで瓦礫の下、少なくとも今日中は動けまい。空崎ヒナは戦線離脱。先生の死体を回収して晒す余裕はあるだろう。自警団はどうだ?」
「守月スズミ含め外郭地区でマダムが雇ったごろつきに拘束されてる。宇沢レイサが失探、情報なし」
「こちらに向かっている可能性があるか。あの白髪頭は早急に始末する必要があるな。ヘイロー破壊爆弾を使う」
波を押し返そうと考える者はいるだろうか。あの少女がまさにそれだ。
30mm機関砲とショットガンを乱射し、アリウス生徒もユスティナ聖徒会も寄せ付けない血みどろになった白髪の小柄な少女。
鬼神の如き憤怒を曝け出し、戦場を圧す銃声にも負けず響き渡る、復讐の雄叫びを上げている。
足下には大柄な女性が倒れており、豊かで美しかったのであろう黒髪が血と泥と肉に汚れぴくりとも動かない。
「あれが死兵ってやつか……先生を始末できたのは僥倖だったのかな。御蔵イヴ、厄介な奴だった」
「辛いですね、苦しいですね。でも、人生はそういうものですものね。さようなら、白髪頭……いえ、白髪鬼さん」
会話しながらも対物狙撃銃とロケット砲で援護する少女達の火網の下、機関砲弾を被弾し、きりきり舞いしながらも突っ込むリーダーらしき黒髪のマスクをした少女。
転倒しかかった手元から何かが投擲され、奇妙な破裂音と禍々しい光を撒き散らす。
直後、銃砲弾や手榴弾にもびくともしていなかった白髪の少女は糸が切れた人形の如く崩れ落ちた。
酷い悪夢だった。イヴちゃんの見ている夢に影響されたりすることはあるけど、こんな具体的で未来に関わってそうなものは初めてだ。
僕だけならまだいいけど、イヴちゃんうなされたりしてないかな。
と思って部屋を見渡す。後ろに2人で選んでベッドの上に敷いた上質なマットレスを床に直接敷いて寝ているイヴちゃんがいる。すやすやイヴちゃん可愛い~♥え?ベッドは?あと宇沢レイサさんは?
いや、部屋に置いてあるものも全然違う。コトダマ空間か。寝てる間に自分の意思に無関係で入ったのは初めてだけど、何しろ勝手知ったる自分とイヴちゃんの家みたいなもんだ。
ついでだし探索でもするかと、僕はすくっと立ち上がった。
同時にかちゃりとドアが開き、金髪狐耳のやや小柄な少女が入ってきた。その胸は平坦だが横乳がむき出しになっている。
頭脳派の子は横乳むき出しにして冷却すると思考能力上がったりするの?Sexyで済まないさんこと百合園セイアさんやんけ~~
「お邪魔するよ、御蔵イ……ヴ?」
僕の姿を見て固まる百合園セイアさん。今すぐ後ろに倒れ直すか、動かずにぬいぐるみのフリをすべきか?今立ち上がったのに?見られてるんじゃないか?
「御蔵イヴはぬいぐるみなのか?いや、後ろに本人が寝ているが……」
きょとんとした顔で僕とイヴちゃんを交互に確認する百合園セイアさん。
僕がイヴちゃんを名乗るのはおこがましいし、恐らく、この空間は名乗りが己を定義するだろう。イヴちゃんを上書きしてしまうのは絶対に不味い。きっと、不可逆で僕もイヴちゃんも望んでない変化が起こる気がする。
もうやけっぱちになった僕は、めっちゃ明るいマスコット的な感じで名乗りを上げた。ハハッ。いやそこまで高い声は出さないけど。
「僕は御蔵イヴの代理人、ジルだよ。よろしくね」
一瞬、新しい偽名をひねり出そうかとも思ったけど、イヴちゃんと僕という別個の存在を認識された時点で、偽名を使う必要自体が無くなっているし、信用を得るために不要な嘘はやめることにした。
不思議そうに首を傾げる百合園セイアさん。
「代理人……?ああ、いや、本人がいるなら、本人と話がしたいのだけどもね」
「見ての通り、イヴちゃんはお休み中だし……多分だけど、起こしても見えないんじゃないかな?」
とは言ってみたものの、あるいはこれを機会にコトダマ空間認識能力に目覚めたりするのか?
でも今日は特に疲れているだろうし、今日はなるべく起こしたくないというのも確かなのだが。
ふぅーむ、と唸りつつ首を捻り、思索に耽っているらしき百合園セイアさん。
「この空間で、他者を認識する能力を持っているのは君であって、御蔵イヴ本人では無いと?」
「うーん、将来的には見えるようになるかもしれませんが、訓練か何かのきっかけが必要かなって。ところで、あなたの……えーと、百合園セイアさんで間違いないですか?」
新学期の説明会で配られたパンフにもティーパーティーの3人がお茶会してる写真がしっかり載ってたから、顔を見る機会はもちろんあったんだよな。
一応whoisコマンドも念じたり指(腕?)で書いてみるけど特に頭上に名前が出てきたりしない。
「ああ、名乗ってなかったね。すまない。私は百合園セイアだ。よろしく、ジル」
小さく笑う百合園セイアさんが手を伸ばし、僕の伸ばした手(?)を掴む。ん?ああ、握手?僕は小さく手(腕?)を振った。
満足したらしく優しく握られていた手が離される。合ってたらしい。
しかし、この夢で接触するのは、未来視とセットのジツなのか?
強い感情をぶつけたりすると危ないかもしれないな。うっかり腹立てたりめっちゃ喜んだりとかも駄目かもだから気をつけよう……。
「そう、あなたのジツが、僕のローカルコトダマ空間にアクセスを成功させている状態なのじゃないかな。多分。前回試したときにイヴちゃんは何も見えなかったので、多分、僕もあなたも見えないと思います。声は聞こえるかもだけど。申し訳ないけど、イヴちゃん本人には日を改めてもらえるとかできますか?今日は凄く疲れてるので……」
「なるほど?その……コトダマ空間?はわからないが、わかった」
「まあ、IPアドレスが僕と同一だろうからまた僕の方に来ちゃうかもですけど……その時は起こすかあ……」
「IP?」
「ああいえ、こっちの話です」
怪訝な顔をする百合園セイアさんに僕は手を振る。
コトダマ空間、何か違う言い方あるのかなやっぱり。無難に精神空間とかそういうの?
「そうか。さて、君というか、御蔵イヴに頼みたいのはエデン条約調印までの先生の護衛だ。私は未来がある程度予知できる。エデン条約調印式までに先生が狙われる未来が見えた。先生は極めて重要な人物であり、また未来をよい方向に変化させる因子でもある。もちろん、御蔵イヴ以外にも依頼はするつもりだが……」
「はい、そのつもりです。ただ、イヴちゃんにも授業も予定もあって24時間張り付きっぱなしというわけにはいきませんけど」
いけるな、フラジール(薄い的な意味で)?ともあれ、先生を危険に晒したくないのはもちろん僕もそうだし、きっとイヴちゃんも反対はしないだろう。
「わかっている。御蔵イヴ自身も危険に晒される公算が高いから、こんなことを頼んで申し訳ないが……」
眉を寄せる百合園セイアさんを見て、その時ふと閃いた!厚かましいかもしれないけど、厚かましいのは僕であってイヴちゃんじゃないから、ヨシ!
「あっ、そうだ。それならご褒美を欲しいのですけど。実際に動く、僕からしても大恩あるイヴちゃんに」
「褒美?私にできる範囲なら構わないが」
「じゃあお金ください!」
即答してくれる百合園セイアさんに、これまた僕も即答する。もっと眉を寄せる百合園セイアさん。
「事態を収拾できたなら確かに功績十分だろうし、ティーパーティーの機密費から工面はできるが……御蔵イヴは大金をもらって喜ぶタイプなのか?事前の情報とは一致しないが」
反射的に言っちゃっただけで突っ込まれると確かに。まああったらあったで嬉しいだろうけど『金や金!』みたいな感じじゃないよなあ。
「じゃあ権力をください!」
「これもティーパーティーの行政官くらいになら推挙できるだろうし、認められるだろうが、彼女は嬉しいのか?権力欲のあるタイプとは聞いていないが」
「絶対嫌そう」
ティーパーティーのおえらさんにある日突然ならされてすげー渋い顔で目を回しているイヴちゃん、秒で想像ついたわ。
百合園セイアさんが呆れた顔で溜息をついて、言葉を続けた。
「君はあれか?自分の好きな人に特に欲しがらないものをプレゼントして困った顔を見たいタイプなのか?」
正論ですまないパンチやめてくれ~~~。イヴちゃんにはいつも笑顔でいてほしいに決まってますやん!
まあ、イヴちゃんが欲しくてなおかつ折角ティーパーティーのトップに頼むんだからこれ!みたいなものはパッと出せなかったんですけど。無能。僕は無能です……合掌ばい!
「じゃ、じゃあ保留で!終わってからイヴちゃんと相談するので!」
「構わない。あくまでできる範囲だから、そこは後で、現実でも相談も頼むよ。おや……そろそろ君も御蔵イヴも覚醒しそう、か。話が逸れすぎたな。とにかく、くれぐれも気をつけてくれ。君を含むトリニティ自警団の戦力評価は過去より高くなっているはずだ。正義実現委員会同様、何らかのアクションを取られる可能性もある」
「イヴちゃんは自警団じゃないですけど……わかりました」
「それでは、また。失礼するよ」
優雅な一礼をしてから、かちゃりとドアを開けて出て行く百合園セイアさん。
僕がうっかりして先走ったせいで具体的にどうこうみたいな話聞けなかったけど、大筋は同じでいいんだよな?次のタイミングで聞いておこう。あーあと、イヴちゃんにも説明しておかないと。
あっ、もう一つ気付いた。百合園セイアさんあの鍵掛かってたドアから入ってきたんだよな。
今、目が覚めるまでの時間を使って、扉の外が見られるんじゃないか?僕はウキウキで扉に手を掛けた。
評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.23