ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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タペストリが落ちてくる

 ローカルコトダマ空間の扉を開ける。普通の、中等部とも高等部の寮とも違う、僕がイヴちゃんの記憶でしか知らない廊下が広がっている。

 百合園セイアさんは外に出て行ったというか自分の肉体に帰ったのだろうけど、もちろんそこには繋がってない。

まあ、僕、あるいはイヴちゃんの側にユメアルク・ジツ的なテレパスの力は無さそうだからわかってたけどな。繋がってたら打ち合わせの続きはできるにしても反応には困るけど。

 

 テクスチャ、あるいはサーフェス(上っ面)、それともマテリアル(表象)か。僕そのものは正直言って心底どうでも良いんだけど、どうでもいいやで切り捨てて、後でイヴちゃんに関わっちゃうと困る。

僕そのものは異物、或いは何らかの補助輪、補助装置の類なんじゃないかと思ってる。

で、イヴちゃんの名前がなあ。アダムの妻として肋骨より作られた最初、場合によっては2番目の女性。

「呼吸」「生きる」の意味がある語由来らしいけど、後者は正直怪しいもんだと思ってる。イヴちゃん死にかけてたし。それとも、「生きる」を満たすために僕を呼んだのか?まあ保留だな。

僕がアダムってのはまあ、無いだろう。イヴちゃんの肋骨から僕が作られたとかならともかく、順番が逆だから。

 で、知恵の実、かあ。僕のぼんやりブルアカ知識ではもう全然思い出せないけど、それっぽいものは無い、ような……。

ゲマトリアが持ってる?あるいはテトラグラマトンの何か?いやー、後者は食えそうなもの無さそうだけどな。イヴちゃんは機械部品ばっかだし、天使の可愛さを持つ、天使を越えた天使ではあるけど、ガジ○じゃあるまいし、金属は食べられない。

唆したのは蛇だからビナーがドロップするのかもだけど。あるいはサタンなら、羽沼マコトさん?まさか羽沼マコトさんからリンゴをもらったらアウト、みたいなガバ判定は無いとは思うが。

 

 考え事をしつつ、扉を出て右側はすぐ行き止まり。

 左側に、下に続いているコンクリ製ぽい階段がある。僕は特にためらうことなく階段を降り始めた。

首元のLANケーブルが外れると不味そうなので、そこだけは気をつけながらね。

喋ってる時には気付いてなかったけど、僕の左腰にナイフが差してある。イヴちゃんと一緒に選んで腰に差しっぱなしだけどキャンプの時と料理の時くらいにしか使ってないやつ。

気に入ってはいるんだけど、現状はナイフより正直マグライトの方がありがたいんだが。

まあ、階段薄暗いとはいえ蛍光灯みたいなのがついてて視界には困ってないから取りに戻らなくてもいいか。

イヴちゃんか僕の目覚めっていうタイムリミットもあるし。

 

 下に降りると、窓も扉も家具も無いコンクリート打ちっぱなしの殺風景な部屋があり、突き当たりに赤黒い色で統一された、輪郭が黒、他は全部血のような暗い赤で織られた、イヴちゃんを象ったタペストリがかけてある。

目を瞑って古代ギリシャ風のドーリス式キトーン*1だったかを着ているイヴちゃん。

確かコトダマ空間内のイヴちゃんはヘイローがなかったはずだけど、このタペストリにはあるな。

描写がとんでもなく精密で、リアルというかまさに本人という感じで美しさは損なわれてないものの、色のせいなのか、本来イヴちゃんが持つ、ほわほわした可愛らしさではなく、両目を固く閉じているだけなのに、何となく危険な威圧感がある。

何じゃこりゃ。イヴちゃんは滅茶苦茶可愛いけど、自分で自分の美しさを称えたりするタイプじゃないからなあ。タペストリの裏に何かあるのかとてくてくと近付く。

厚みがほとんど無い、ペラッペラのタペストリだ。裏に仕掛けだのボタンだのはないな。

タペストリを戻して、本人には劣るものの美しいイヴちゃんを眺め、ん?目が開いてる。

さっき目を閉じてなかったか?と思った途端、ぺらぺらのタペストリから手が伸びてきて、僕が掴み上げられた。

は??視線からは敵意というか、何か強烈な欲を感じる。何何??……あ、これは空腹だ。

イヴちゃんがお腹ペコペコの時の顔から、恥じらいと文明人としての余裕を捨てたらきっとこうなるだろう。

抵抗すべきなのか?ナイフはあるけど、イヴちゃんの姿をした子、あるいはイヴちゃん本人を傷つける?僕が?ありえん選択肢だ。

普通に押しのけたり逃げたりしようか、どうすべきか迷っているうちに、タペストリちゃんは僕のお腹にかぶりついた。

結構頑丈な布地らしく歯で少々やったところでどうにもならないだろうし、痛くも無い。

戸惑ったような表情を浮かべるタペストリちゃん。

 

 数秒の間抜けな間があった。いや、どっちが正解かわからないけど、ナイフがあるし、イヴちゃんのローカルコトダマ空間内にいるんだから、これもきっとイヴちゃんなんだろう。

 なら、僕がイヴちゃんの望みを叶えない理由は何も無いな。

ほんのちょっと覚悟して、僕は自分のお腹に軽くナイフを突き刺して横に軽く割く。

ああ良かった。痛くは無い。綿を中から取り出してタペストリちゃんに渡す。

布なんだから綿を食べてもおかしくはないだろうという怪しい直感。ほんまか???

 ともかく、彼女はむしゃむしゃと綿を食べ始めた。この布、あとでちゃんと補充できるんだろうな??僕はもうちょっとつかみ出す。

美味しそうに、でも手づかみでかなり下品というか、動物じみた仕草で食べるタペストリちゃん。

 うーん、これ以上はもう中身無くなっちゃうかも。少なくともお腹の部分はもうほとんど残ってない。

僕がこれ以上は駄目、という仕草をすると、不満そうな表情をしながら、一応は了承したらしく、そっと下ろしてくれた。

うわ、綿無くなったから胴体ベコベコになっちゃって歩きにくい。参ったな、と思っていると、意識が保てなくなってきた。眩暈がする。

初めての症状だけど、これは多分ローカルコトダマ空間から一旦ログアウトしないといけないということだろう。後で綿を足しておくのを忘れないようにしないと。

 

 起きたら美少女が美少女を抱っこして寝ている最高の暮らし、抱っこしてる側の美少女イヴちゃんのおまけで良かったなあ。

しかし、宇沢レイサさん本当に体温高いなあ。しかし変な夢というか、まあ大切そうな夢なんでイヴちゃんと共有しておくとして。お、イヴちゃんも起きそう。

 ごそごそとイヴちゃんが身じろぎし、軽く全身の伸びをして、可愛らしい欠伸をした。

(イヴちゃんお早う)

(……ジル、お早う……)

 今日は自由登校日なのでお休みする予定。昨日、宇沢レイサさんグループには伝えている。

宇沢レイサさんはまだすやすや中。最近お疲れだったみたいだしね。

(……気持ちよさそう……起きようかなって思ったけど、やっぱり寝直すね……)

(そう?ま、お休みだし、ゆっくりお休み)

(……うん、起きたら、パン焼こうかな……)

(あのパン賞味期限まだ大丈夫だっけ?)

(……後で……見る……)

 もう寝ちゃった。僕ももうちょい寝る――いや、ローカルコトダマ空間で自分の綿を詰めるか。

 

 何故か知らないけど、ローカルコトダマ空間にログインできなくなっていた。ナンデ?綿を上げちゃったからか?あの選択は間違いだったのかと思うが、よく考えたら別にそんな困らんな。

いやこれで百合園セイアさんのジツ効果範囲外になると打ち合わせではめっちゃ困るか。困りはしたけど、とりあえず原因の確かめようがないのでちょっと寝ることにした。

 

 隣で身じろぎする気配で目が覚めた。

 あっ、ちょっと良いこと思いついた。イヴちゃん寝てるし身体を借りよう。そーっと宇沢レイサさんの頭を持ち上げて、膝枕よしと。

(イヴちゃん、宇沢レイサさん起きるよ。起きて)

(……う、うん……)

 もにゃ、と眠そうなイヴちゃんが超絶可愛い。

(じゃあ交代ね)

(……膝枕……?)

「……よく寝ました……今日のベンチはずいぶん柔らか……柔らか?」

「……レイサさん、おはよう……」

「……イヴさん?!おはようございます!えっ家?!イヴさんが?!ベンチが家に?!こ、公園は?!」

 ガバッと跳ね起きる宇沢レイサさん。キョロキョロ辺りを見渡している。

 そんな王大人の幻覚に負けた人みたいな……。*2

 イヴちゃんは何事も無かったかのように告げる。

「……寝てたから、連れてきた……。シャワー、使う……?」

「は、はい!」

 昨日から今朝にかけてシャワー浴びてないってだけだろうけど、何だかえっちな雰囲気の発言だったね。

いかんいかん。イヴちゃんはそういうことないから。ないよね……?いや僕に性欲がないんだからイヴちゃんにはある……?わからない!アーッ!

 

 煩悶している間に(最近煩悶してる時間が長い気がしてきた)さっとシャワーを浴びてきたらしく、イヴちゃんの部屋着を借りた宇沢レイサさんが戻ってきた。

いや時計見ても結構烏の行水だな。

あと宇沢レイサさんが今着てる部屋着、Cxncerの1stアルバムみたいなだっさいジャケがでかでかと描かれてて――流石に鉈で頭割られては無いけど――ダサい。メタルってどうしてこんなにダサいジャケ多いんだろうなあ。好きなんだけど。

宇沢レイサさんも色んな意味で困惑しているっぽい。

「あの……昨晩はパトロールを終えてベンチで寝ていたはずなのですが……」

「……宇沢レイサさん。座ってください……」

 イヴちゃんは宇沢レイサさんがシャワーを浴びている間に予め出しておいた椅子を勧め、これまた手早く支度しておいた食パンを皿に載せた。

「えっ、はい……?」

「……まずは、ご飯にしましょう……?」

 まあご飯ていうかパンだけど。イヴちゃんはバター少しとはちみつたっぷり、宇沢レイサさんはバターもたっぷりイヴちゃん厳選のすももジャムたっぷり。

「美味しいですね!」

「……よかった……」

 さくさくと心地よい音を響かせてパンを食べる2人。

紅茶もパックのではあるけど良い感じの匂いがしている。イヴちゃんはこれにもはちみつたっぷり。はちみつください。宇沢レイサさんはミルクと砂糖たっぷり。

 

 紅茶も飲んで皿とジャム類をさくっと片付けて一息ついてから、イヴちゃんは本人の全力の重々しい声を出した。

「……宇沢レイサさん。私は怒っています……」

「えっ」

「……レイサさんが夜パトロールして人を助けるのは……すごい。えらいと思います」

「えへへ、ありがとうございます!」

 照れて頭をかく宇沢レイサさん。

「……でも、そのためにレイサさんが健康を害してしまうのは、とても良くないことです……」

「えっ、いえ、私は元気ですよ?」

「……元気な人は、授業中に寝て、お昼休みに寝てもまだ眠いことはない……はず……」

 本当に良くないなあって思ってるのがわかるなあ。なんかちょっと最後弱気になったけど。

「……とにかく……レイサさんの健康はとっても大事。眠くて辛いのに一緒にいてくれるのも、私は悲しい……。私だけじゃ無くて、他の2人もきっとそう……」

「うっ……で、でも、そのう……。イヴさんも、連邦生徒会が大変な事になってから、治安が悪くなってるのはご存知ですよね?」

 イヴちゃんは頷く。

「……対策を、考えた。ので、一緒にしよう……?」

「えっ、な、何をですか……?!」

 良いことだよ、とってもね。まあ賛同が得られるかわからないけど。

 

 シャーレの先生と、宇沢レイサさんに頼んで守月スズミさんに連絡してもらって集まってもらった。

日程の都合がつかなかったら後日にしようかと思っていたけど、たまたま都合がついてよかった。

さっき食パン食べたのに、カフェで宇沢レイサさんと美味しいアイスをつつきはじめたので女の子は甘い物は別腹なんだなあって感心してたら先生がやってきた。

この間より全然血色もいいし体調も良さそうだ。挨拶する2人に手を上げて応える先生。

「"レイサ、この間はありがとう。イヴもこの間の新機材のお陰で、すごく仕事が楽になったよ。今日も急ぎの案件は全部片付いたしね。『各学園で対応出来そうだけどやっぱり駄目だった』みたいな案件が戻ってくることもあるから、完全にフリーハンドとはいかないけど"」

 業者にやってもらうにしても業者に足下を見られたり、逆に相場を全然知らない学生が悪気ゼロでふっかけちゃったりしてトラブる案件がシャーレに連絡来たりもしてたしね。

まあその辺の対応もおいおいだなあ。

とにかく、先生がパンクしないように気をつけないと。

 先生はコーヒーを注文した。

「"あ、スズミも来たね。スズミ、この間はありがとう"」

「こんにちは、先生。いえいえ、治安回復のためですからね。それで、レイサさん、イヴさん、どうしました?」

 守月スズミさんはちょっと悩んで、2人と先生の注文を見てから小さいアイスと紅茶を頼んだ。

「……相談があります……。自警団の活動について、ティーパーティーの承認を得たいと思って……」

 イヴちゃんの提案に、守月スズミさんは眉を上げ、宇沢レイサさんは固まり、先生は興味深そうに頷いた。

*1
古代ギリシャ人が来ていた1枚布を身体に巻き付けてるやつ

*2
「今まで読んでたエ○マンガは?」のコラの元ネタ。




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 紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.27 
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