ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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読まないといけない本なんてこの世界には一冊もないよ

 無事3年生に進級して中間テストも乗り切ったイヴちゃんと安いおまけソウルことジルです。成績については微妙に向上、って程度だけど良かった良かった。こんばんは。

そうそう、宇沢レイサさんと同じクラスになったので体育の時に「2人1組作って」で怯えなくて済みそうです。良かったね。

 

 先日の図書館は何の成果も得られなかったし、トリニティ図書館の司書の人も特に言及してなかったので忘れてたけど、ある黒髪ロング眼鏡のしょぼくれ系美少女生徒とクソ美麗な噴水横ですれ違って気付いた。古書館だ!

 

 古書館はもちろんイヴちゃんも行ったことが無く、学園地図で見てやってきたものの。

(……入れない、ね……?)

(いや何やこれ。バリケード???)

 古書館の周りを柵めいて遮るガラクタや廃材の山。そういや円堂シミコさんだったかがゲーム内のイベントで私物化しとるってキレてたな。これか~。

よじ登れないこともないが、多分普通に入れてはもらえないだろうし、無断侵入して目当てのものを見付けられるわけでもなし。

(とりあえず、図書館に行って相談しよっか)

(……うん……)

 

 図書館司書はこの間相談しに行った時とは別の子、円堂シミコさんだった。名札をつけてるし見覚えがある。うーん、顔が良いな。

 金髪ツインテがふりふり揺れて可愛いし、眼鏡の親近感もある。

「……し、『神秘』について調べたい……です。か、か、貸出してない本とか」

「神秘とは何の神秘についてですか?!」

 文言とは真逆の食い付き最強爆釣って感じのキラキラした目で身を乗り出す円堂シミコさん。

「ミ゚」みたいな声を出して硬直してしまったイヴちゃんをそっちのけというか凄まじい勢いでべらべら喋り始めている。え、何、呪文高速詠唱してる???

「すなわち神秘というのはある学説によるとですね」

 すうーっと深呼吸。イヴちゃんがびっくりしてしまった身体の震えを抑えて、息をふーっと吐いて僕と交代する。主導権交代の時のルーティンとしてやってるんだけど、切替えしやすい気がするんだよな。

「お話を遮って済みません。聞き方が漠然としすぎていました。それと、遅くなりましたが私は御蔵イヴと申します」

「失礼しました!御蔵さん!私は円堂シミコです。同級生ですよね?シミコと呼んでください」

「ではシミコさん。イヴと呼んでもらったら」

「はい、イヴさん。それで、神秘について知りたいことというのは?」

「回りくどい話になってしまって恐縮なのですけれども。シミコさんは銃弾の効果が発砲者によって異なることについて、考えたことがありますか?」

「ええ。トリニティだと正義実現委員会の現副委員長、それとティーパーティーの新2年、聖園ミカさん、救護騎士団の蒼森ミネさんの銃弾は『凄く痛い』と聞いたことがあります」

 流石ゴリニティ、武闘派多いな。しかも今名前挙がった面々、現時点でまだ2年のはずなのにね。僕は頷いて続ける。

「強装弾を皆さんが使っているなんてことはないでしょう。それに、キヴォトスの人間は外の人間と比べると頑丈で膂力にも優れていますから、弾種の違いで常に劇的に効果が変わるとは思いにくくて」

「それも『神秘』というものが関わっているのでは、ということですか?」

「そうです。ああ、そもそもその概念が『神秘』という言葉で定義されてるかもわからないのですが」

 喋ってる途中に気付いた。全然違う言葉かもしれないものな。オーラとか、念能力とか、カラテ粒子とか、コジマとか、オフチョベットとか……。

 

 やっぱり円堂シミコさんにもすぐにはわからなかったらしく、実働率の低い図書委員会の次期部長と目されている人に連れ立って聞きに行くことになった。

こんなにデカくて立派で綺麗な図書館は来訪者も少ないらしく、緊急連絡先の書いた『臨時閉館』の札をかけて施錠しておくだけで大丈夫だそうだ。

元たぶん本の虫としては残念なところがあるが。

 

 今日は晴れていて気温も良く、過ごしやすい日だ。

 まだ怯えているイヴちゃんはそっとしておきながら、お嬢様然とした生徒達とすれ違いつつ、お勧めの本の話を聞きながら歩くことしばし。例のバリケード前にやってきた。携帯端末では連絡しても返事がなかったそうだが、やっぱり古関ウイさんかな。

消波ブロックじみた鉄骨を組み上げたバリケードのうち1つを轟音を立てて蹴り飛ばす円堂シミコさん。フィジカルつえー。内緒ですよ、と恥ずかしげに笑うのは可愛い。イヴちゃんはもっと怯えちゃったけどね。

じゃらじゃらとぶら下げた鍵束を使って古書館の鍵を開けて僕も招き入れてもらった。

「古関さん、いませんか?」

 力ないLEDが闇を払い切れてない薄暗く埃っぽい古書館内は静謐に包まれている。うーん、古びた紙の匂い、好きだな。携帯端末を鳴らしっぱなしだがそれも無反応。

ずんずんと奥に進んでいく円堂シミコさんにキョロキョロと面白そうな本の背表紙を見ながらついていく僕。

『パテル写本』『苦みの地』『ロールケーキ化石』『サンクトゥス・クランと神話伝承における精霊について』『ペリ・ゴリアテ』『トリプル・ピッグス』『プレ・連邦生徒会の葬儀』『物語構造からタペストリーめいて導き出す天使実在』『ユスティナ・ウォリアーの禍』『百花戦争』『失われた湖』『流離した天使』『生命の実』『欺騙に対す』『狂気から心を守る』『完治』『歪んだ苦笑い』『ネームリアル・パターンに隠された精霊』『銃撃政治』『ニューロノミコン』『疫病と悪魔』『蹴り技の源を辿り天使を見出した女』『猫退治の書』『現代ミレニアム史の再検討』『救護騎士団を再び読み解く』『ユスティナ聖徒会の秘密』『布仮面について』『さまよえるワイルドハント生』『百物語の畏れについて』

(な、何だか……気分悪い……)

 ウープス。僕は凄く面白そうだと思ったけど、イヴちゃんがかなり眩暈しているらしい。

これは正気度チェック判定入るやつか。なるほどこんな本ばっかり読んでたら陰謀論に染まっちゃってもおかしくないのかもな。

 でも後で読ませてもらおう。イヴちゃんが寝てるときとかにね。

「あっ、古関先輩!起きてください!お客さんですよ!」

 本棚に気を取られてる間に円堂シミコさんが見付けてくれたらしい。割とあられもない格好でベッドになるソファで寝ている古関ウイさん発見。何がとは言わんけどちょっとにおいますね……。まあ言わんけどや……。

 

 起きしなに知らない人こと僕に会わされて滅茶苦茶キョドっている古関ウイさん。自己紹介をして手短に用件を伝えた。

「つまり、ええと…御蔵さんは、キヴォトス人の身体構造と力の投射について知りたい?」

「ええ。お医者さんに聞いてもキヴォトス袋はないらしいですしね」

 ドヤ顔で渾身のギャグだったがイヴちゃん含めて3人とも???って顔になってしまった。辛い。ド派手に滑ったぞ。

「結論から言うと、私は知りません……。全ての本を読めているわけではないですから、ないとも言い切れませんけど……」

 無いか~。まあそんなにあっさり見つかったら苦労せんか。

「そもそも、どうしてイヴさんは知りたいのです?」

「例えばですけど、筋力は筋肉の断面積に比例したものしか出ないのはお2人ともご存じだと思います。さっきシミコさんがされたみたいなことは、シミコさんの脚の太……失礼。脚の筋肉では無理なはずなのです」

 それをやってのけるのがキヴォトス人だし、多分神秘はそれに関わってるというのが僕の推測だ。

「頭の片隅に留めておいて、何かわかったらお伝えするということで……」

 部外者というか同じ図書委員すらいてほしく無さそうだし、2人まとめて追い払われてしまった。モモトークの連絡先は2人とも入手したし手ぶらってわけでもないが、駄目か。

まあ部外者の質問を頭の隅に置いておいてもらえるだけでも良しとしよう。

 固く閉ざされてしまった古書館ドア前で僕に深々と頭を下げる円堂シミコさんと慌てる僕。

「ごめんなさい、本の扱いは素晴らしいのですけど、色々問題がある人で……」

「とんでもない。忙しい中ありがとうございました」

「また本の話をしましょう!絶対ですよ!」

 逃がさん……お前だけは……みたいな圧を感じるな。でも本は好きだし喜んで。イヴちゃんの友達にもなってくれたらすっごく嬉しいしね。




 シミコ→ウイの呼び方はシミコ高校進学の頃にこなれて名前+さんのゲーム通りになります。

 評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。

 紙での小説の書き方に基づいて書き続けていたロートルとしての改行等を改めつつ、同時に加筆修正を行いました。話の本筋には変更ありません。2025.01.19
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