ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
お祈りの最中、イヴちゃんも宇沢レイサさんも寝てしまった。それまで2人は手を繋いでお祈りしていたので気付いた何人かにはまじまじと見られてしまったが、不純同性交友じゃないのでセーフです。いやまじで呼吸をするようにいちゃつくっていうかさあ……。まあ僕が2人分強祈っておいたからヨシ!百合はきっとおおいなるものも喜ぶし。いや百合じゃないぞこれは友情だからノーカン!ノーカンです!
ともあれ、部活で来られない朝吹ソフノさんと報野モユルさんはちょっと残念だと思うけど、いつもの新規開拓。
今日はどちらかというと肉派の宇沢レイサさんの要望で焼肉屋。2人とも食べる量が半端ないので割と評判がいい食べ放題のお店。見てると気持ちよくなるくらい凄い勢いで肉が溶けていくなあ。宇沢レイサさんがサンチュを使う派、イヴちゃんはそのまま派。うめ、うめ……。
2時間の枠中、ほぼ2人とも食べっぱなしだった。元気だなあ。デザートのチョコアイスとバニラアイスを半分ずつ交換しながらにこにこと話している。ずっと一緒にいるのによく話題が尽きないものだなって感心するけど、仮にも友人、本来そういうものなのかも。輝くような笑顔、
さすがに身体にも焼肉の匂いがついてしまったしたくさん食べたので今夜はちゃんとトレーニングして汗をかいてからちょっと丁寧めに流す。運動量から言えばあんだけ食べても誤差なんだろうけど。健康で良いことだね。
(……お肉も、たまにはいいね……)
(そうだね~。たんぱく質大事だしね)
「毒も喰らう、栄養も喰らう。両方を共に美味いと感じ血肉に変える度量こそが食には肝要だ」ってどっかの地上最強の生物も言ってたしね。
翌日、いつも通りの授業で4時間目が終わってお昼、宇沢レイサさんグループが集まった。今日のお昼は報野モユルさんチョイス、なんだけど。何だか顔色が悪いというか固い感じ。
「モユル、昨日は部活出たんだ?」
「あー……うん……」
歯切れが悪い報野モユルさん。
「昨日、不味かったですか?」
心配そうに見る宇沢レイサさんとイヴちゃん。報野モユルさんは問いにかぶりを振った。
「あーうん、いや違くて。別に昨日自体は楽しかったし、晩ご飯も美味しかったんだけどさ」
すーはーと深呼吸して、ぎゅっと握りしめた手を開いてシャツで掌を拭っている。
「ちょっと、聞いておいてほしいっていうか」
「……うん、聞くよ……?」
しっかり頷く3人。
「実は、いじめがあって……」
報野モユルちゃんを?虐める奴がおるってか?は?○すか?
「えっ、何で相談してくれなかったの……?!」
「……弾がなくなるまで撃ちに行く……」
「犯人はどこですか?!」
「あっ、私じゃないよ?!加害者も被害者も私じゃないんだよ!」
そこから訥々と語り始める報野モユルさん。冬休みに気まぐれで部室棟3階一番奥の純文学部に顔を出したとき、部室棟裏で囲まれている生徒を見かけたこと。加害者も被害者も面識がない顔触れで安心してしまったこと。被害者の子と目が合ったけど、何かをする勇気が出なかったこと。荒事には不慣れな先輩達にも相談できなかったこと。自分を責めてしまって、彼女にも、正義実現委員会にも自警団にも、幼馴染みの友人含むみんなにも言えなかったこと。
「トリニティではよくある話。ただそれだけの話でさ。あれ、何で私……」
抱え込んでいたものを下ろせたからだろうか、それとも自責の念だろうか、しゃくり上げて大粒の涙をこぼし始めた報野モユルさんの周りに集まって抱きしめる3人。泣き止んで照れ隠しのように報野モユルさんが「暑い!!」と言い始めるまでみんな無言だった。ご飯はカツカレーだった(イヴちゃんのはカレイ唐揚げ載せカレー。意外と合う)美味しかった。
食べ終えてすぐ、自警団のナンバー2と3でもある2人は胸を張って宣言した。
「モユルちゃん、ソフノちゃん!忘れてませんか!私達は自警団ですよ!」
「……うん……いじめる子を、見つけ次第撃つ……」
まあ張って2人あわせても朝吹ソフノさんよりは無いんですけどォ……。
(ジル?)
(何でもないっす!!!!)
放課後、とりあえず部室棟の周りを巡回しようということになったのだ。純文学部に先に顔を出すのは単なるアイサツがてら。荒事はできないけど心配だからと陸上部を休んだ朝吹ソフノさん含め全員でお邪魔した。もちろんイヴちゃんと宇沢レイサさんはしっかり手を繋いでいるけど、学園内でも大体いつもの事だしもう誰も気にしない。いや部員の皆さんに結構ガン見されてるわ。教室1室丸々を与えられている純文学部は大手部活ではなくて中堅どころらしいけど、可動棚まであってみっちり詰まった本の山を見るとそうは思えない。トリニティ自体の安定経営のお陰だろうな。特に後輩に語り継ぎたいというもの以外の購入書籍は翌年には図書館に納められるとのことで無駄もない。
まーでも確かに相対的にはアクセス面倒臭い場所ではある。エレベータももちろんあるけど、上がった後は歩きだし。部室棟のでかさが裏目に出ているというか。まあ純文学部以外にもこういうアクセス悪い部活なんぼでもあるんだろうが。
「ごきげんよう、あら、昨日の。いらっしゃい」
「報野さんのお友達?入部希望者かしら?」
「あらあら嬉しい」
「あっ、えっと、アハハ、見学です……」
「……ソフノちゃんは陸上部だから、冷やかし……」
「私も自警団なので冷やかしです!」
「うふふ、いいのですよ。本が好きな方なら大歓迎です」
昨日の副部長と、恐らく部長らしい最上級生。うおでっか。金髪セミロング、右側だけ三つ編みの巨乳のお姉さん、昨日迎えにも来ていた1年生らしき子、別のクラスっぽいから顔合わしたことないんだよな。あと、自警団は補助団体だから実際は他の部に入れなくもない。
純文学部は部員がそこまで多くないし、内容的にバリバリ文系室内型だし運動や戦闘が得意な人が多いわけではもちろんない。キヴォトス人なので当然ふつーに銃撃戦くらいはやるらしいが。
「部室棟自体は出入りしてますけど、こっち来ないので……」
朝吹ソフノさんは体育会系の子が珍しいのかこの部室内では圧倒的少数派だからか囲んで可愛がられている。何となくまんざらでも無さそうなのがちょっとウケる。20分くらい本の話をして普通に楽しんでしまった。宇沢レイサさんは小説も読むけど最近は漫画の方が多いという話をしても漫画を排斥しない純文学部いいね。あっ、奥に座ってた子が杉浦日○子の『百物語』っぽい本の表紙を見せてアピールしてる。イヴちゃんは怪談が苦手なのでちょっと嫌そうだったけど。
イヴちゃんはちょっと前に読んだアンナ・カヴァンの『氷』っぽい小説の話をして割と食いつかれていた。純文学部と言いつつみんなばらばらなジャンルのファンが集まっているらしく、実態としては読書部に近いらしい。ティーパーティーのウケが良いからこの名前なのだとか。
(僕も普通に楽しんでたけど、イヴちゃん、何しに来たか忘れてない?)
(……忘れてた……)
正直に気付いてえらい!お手洗いと称してお茶とお菓子攻めされている朝吹ソフノさんを除いた3人で部室を出る。
「ええと、あそこ……うわいる」
いかにもスケバンや不良、という感じでもない生徒しかいないのが逆に闇を感じるな。加害側が7人で被害者が1人か。いじめの原因の大半は容積比の人口が多すぎるせいという説があるが、トリニティは1クラスにそこまで詰め込んでるわけではないから多分当てはまらないだろう。
しかしあのしゃあっカツアゲ・ポイント、部室棟でも廊下の窓開けないと見えづらいし、多分地上からだと樹が茂ってて通りの逆側だし、伝統的なイジメやカツアゲの場として受け継がれてきたんやろうなあ。最悪すぎる。強化した聴覚には「お友達料がどうこう」だとか耳が腐りそうな話が聞こえてきた。リアルで言うやつおるんやな……。
「……レイサちゃん、行こ……」
「はい!!」
2人が窓枠を蹴って飛び降り、1発目を発砲する直前に、逆方向から銃声がした。
「な、何?」
動揺しているいじめっ子連中。理想のタイミングで横合いから殴りつけられたね。
「後ろからも!?」
「く、怯むな!」
「……あなたが、リーダー……?」
イヴちゃんが低く問うとリーダー格らしき子が悲鳴を上げた。
「ひ……」
「正義を求める人々のために参上!宇沢レイサ!と!」
「……と……?」
「イヴちゃんも名乗らないと!!」
「……えー、チョコ大好き……あっ……」
イヴちゃん自己紹介じゃないよ!いや自己紹介か?とかいうてる間に全滅した*1。この2人に加えて逆側からも撃たれたらそらそうやろなあ。全然同情にも値しないし幸か不幸かトリニティ仕草全然見てなかったから新鮮だわ。そのままドブか海にでも捨てたい系の新鮮さだけど。
「見知らぬ方、助けてくださってありがとうございます!」
「……白洲アズサ。たまたま通りがかっただけ」
「自警団の宇沢レイサとこっちは御蔵イヴちゃんです!」
あー白洲アズサさん。もう転校してきていたのか。まあ普通に考えたら年度頭からだよな。まだ立てこもりの話は聞いてないしやらかしてないからいるの知らんかった。
イヴちゃんは白洲アズサさんにぺこりと頭を下げた後、ヘイローがまだ残って呻いてる子に近付いてこめかみに前蹴りを入れる。よしよし。ちゃんと気絶したね。
「ひ、あ、あの……」
「Vanitas vanitatum et omnia vanitas.」
ぷるぷる震えている被害者の子に目を合わせて話しかける白洲アズサさん。
(……ばに、ばに……何?どういう意味……?)
(『なんという空しさ、なんという空しさ、すべては空しい』だっけ。人生はいつでも空しく、全ては唐突に終わるものとかそういう意味)
(……でも……)
「全ては空しい。でも、だからといって抵抗しないと駄目だ。……と、私は思う」
「か、格好いい……!あ!」
宇沢レイサさんが謎の感動をしていると、囲まれていた子はそのまま走り去ってしまった。
「変わることは難しいけど……。それじゃあ」
白洲アズサさんも去って行った。確かに仕事人的な格好良さがあるね。中身割とポンコツだとは思えない。窓からこわごわ覗いていた報野モユルさんがくしゃりとした笑顔で手を振る。みんなとっても嬉しそうで何よりだ。暴力というキヴォトス共通言語によってトリニティ仕草を上書きできたから、悪はいい感じに滅びたしね。
前話、同じ話(ちょっとだけ細部が違う)を2話投稿してしまいました……済みません。
担当者はケジメし西に向かいましたのでご安心ください。
アズサ、どこのタイミングで転校してきたのかわかりませんが(転校してきた「ばかり」の幅をどれだけ取るかによるので)、1学期始め転入が普通に合理的かなと解釈しました。
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赤帯大変有難い。励みになります。嬉しい。