ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

61 / 209
温泉開発は重機材も必要なので、精強な戦闘工兵が集まってる感じ やることはテロ

 完全にナイフの取説の事を忘れてたのを思い出したのは、宇沢レイサさんグループのみんなで合流して晩ご飯に家庭ワイルドハント料理(要はフランス家庭料理)の店で美味しく楽しくご飯を食べて帰ってきてトレーニング込みで寝る支度を全部済ませてからだった。まあ別に急いてないし、また行くからええやろ。

 毎日の習慣に当分の間の部室棟裏の巡回が加わったけど、誰もいなかったらまあそれはそれでヨシだし、トリニティ仕草してる奴がいたら撃ってぶちのめすだけだから簡単。一応正義実現委員会というか羽川ハスミさんにメッセージはしておいて校内の巡回も強化するようにしてくれたけど、人間が社会的動物であってマウントを取り合う性質がある以上、抜本的ないじめの根絶は無理だしな。

(……いじめって、難しい……)

(まあ人間も所詮猿から進化した生き物だからね。毛が三本多いだけ)

(……人間が、猿から……?)

 あっ、やば。イヴちゃん、ひょっとして進化論論争(モンキー・トライアル)で否定派だったりする?カトリックっぽいしなトリニティ。僕はかなり新ダーウィン主義(ネオダーウィニズム)に影響受けてるっぽいからいらんこと言うたかも。脳内ライブラリの本もちょっと気をつけないとか?

(いやイヴちゃんごめん、もしイヴちゃんが進化論否定派ならそれはそれで……)

(……今の猿と人間の進化がわかれたのは、もっと前じゃない……?)

(アッハイ、その通りです)

(……ニャドンから別々に進化したニャドランとニャドキングくらい別、って聞いた……)

 1,400万年前くらいに分かれた説を見たのが直近だった気がするけど、キヴォトス人はどうなんだろう。ホモサピエンスから更に分かれたりしてるのか?っていうかポケモンっぽいゲームあるんだな……そらあるか。そのうち買うか。

 

 今日もいつもの授業、楽しいお昼の集まり、放課後は昨日と別のグループ*1を部室棟裏で叩きのめした直後に、正義実現委員会から応援要請が入った。不良グループが暴れている案件に対処中に、大型土工機械*2を大量に装備したゲヘナ生徒と思しき集団が破壊工作をしているのを見つけたとか。あー聞き覚えあり過ぎる。

「行きましょう!」

「……うん、行こ……」

 報野モユルさんの「がんばって~」という声援に手を振り返してから駆け出す2人。ファン・レイン号(自警団の自走砲)の砲声が遠くに聞こえる。

 

 出動する正義実現委員会のオースチンK5っぽいトラック*3の車列に遭遇したので便乗し急いで到着した時点で鉄火場になっていた。再開発もされないまま放置されている廃墟の住宅街でゲヘナとの境界エリアだからか、風紀委員会も出動しているようだ。向こうはいいところ小隊程度の人数*4しか出せてないらしい。

「どうして温泉開発を理解しない?温泉は無限に拡大し続けるのに!」

「拡大させるか!規則違反者どもめ!」

 あ、銀鏡イオリさんがいる。かなり劣勢で押し込まれているようだ。トリニティ側の先遣は自警団の子が1人だけなので、攻撃をせずに偵察連絡に徹していたらしい。向こうの持ち込んでるブルドーザーやボーリングマシンはそこらからガメてきたっぽい鉄板を溶接してキルドーザー*5みたいにしてあるから苦戦しているっぽい。上に据えてある機関銃がのこぎりのような音を立てて軽快に温泉開発部を支援している。もう1両は撃ってないが無反動砲を積んでるな。っていうか多いな!2~300人は最低でもいそう。戦闘しながら温泉開発も平行しているらしく、多分もっといる。ゲヘナ側は風紀委員会、トリニティ側は正義実現委員会と自警団で挟み撃ちになるから、まあ何とかなるだろうが。

 交戦区域の手前ブロックで正義実現委員会及び応援の自警団員が降車する。こっちも小隊相当くらいの人数しかいない。

 あっ、こっちの指揮は静山マシロさんか。臨時で指揮を任されたらしく、同学年のはずなのにすごいね。あっ下江コハルさんだ。ちっすちっす。イヴちゃんが小さく目礼して宇沢レイサさんが挨拶したけど硬い表情で顔を逸らされた。緊張してるっぽいなあ。

「ゲヘナの風紀委員会とはトリニティ領域内での活動許可を臨時発行済です。敵ではないので、誤射に注意してください」

「わかりました!」

「……かなり、押されてるみたい……」

迫撃砲(L61)2門とPIAT(対戦車擲弾)4基があります。用意次第攻撃しましょう」

 よかった。「ゲヘナ嫌いだから削りきれるまで待とう」とか言わなくて。PIATの弾頭を押し込むのに苦労してる子に宇沢レイサさんとイヴちゃんが手伝ってあげる。硬いんだよなこいつ。

 

「行きましょう!」

「……自警団が、先頭を切ります……」

 ホッとしたような顔の静山マシロさん。

「正直なところ、今の正義実現委員会は、先頭にツルギ先輩ありきなので助かります。もちろん、できないという訳ではないですよ?」

 まあ剣先ツルギ先輩一人しかおらんからな。

「わっ、私も行く!」

 えっまじで。ちょっと震えてない?無理しなくてもイヴちゃんと宇沢レイサさんおったら先頭のタンク的には充分だけど。

「コハルさん、お願いします。私は後方で指揮と支援射撃をします」

「……行こう……」

「せ、先陣は私なんだから!」

「はいっ!よろしくお願いします!」

 あと1人、お願いできますか?と静山マシロさんが声をかけて正義実現委員会の子が1人加わってくれるらしい。楽しい遠足の始まりだ!

 

 しゅぽ、しゅぽと気の抜けた音で迫撃砲の火蓋が切られ、イヴちゃんがクラリオン(STG)下につけてあるグレネードランチャーを撃つ。無造作とも見える、けれどもちゃんと遮蔽物を意識しながらの駆け足で宇沢レイサさんが先陣を切り、イヴちゃんが後ろをカバーしつつ続く。

「自警団の正義の審判者、宇沢レイサが参上しましたよ!!」

 イヴちゃんは無言で後方のブルドーザーにウッドペッカー(30mmMG)をぶち込む。即席の機銃座が座席ごとへし折れ支援射撃が止まった。車両破壊よりもう1台の火力減殺を狙ってイヴちゃんは無反動砲搭載車両を撃つ。温めたナイフでバターをそぎ落とすように無反動砲が吹き飛び、ウッドペッカーがつつき続けると増設装甲に穴が空き、火を噴いて行動不能になった。宇沢レイサさんはいつものように堂々と、無人の野を行くように振る舞いつつ、使えそうな遮蔽物もしっかり見ているようだ。もちろん冷静に射撃はしているが。下江コハルさんは実戦慣れしてないようで、おっかなびっくり追いかけてくる。宇沢レイサさんもイヴちゃんも遮蔽物を譲ったり手で示したりしてるけど、緊張し過ぎてかいまいち上手く隠れられてないな。

「トリニティだ!トリニティの連中が来たぞ!」

「温泉はまだか!?」

「思ったより釣れてないね?部長はこっちは陽動って言ってたのにね~」

 あっでっか倉、じゃない、下倉メグさんだ。どことは言わんけどめっちゃ揺れてるし、煤や泥で汚れてはいるが綺麗な肌が白く目立つ。一番目立つのはおっぱ……じゃなくて火炎放射器だが。キヴォトス人は死ににくいが、火炎放射器は肌に軽度のやけどを負わせて肌荒れの原因になるので、僕のいた世界同様、狙撃兵の次くらいには滅茶苦茶嫌われるし火力が集中する傾向にある。かなりテロ慣れ(最悪な慣れだ)強者だからか銃撃を躱したり弾いたりしているようだ。っていうか陽動なのか?他にも温泉開発部員おるんか?デカ部活すぎんだろ。

 大体半分くらいがこっちに向かって撃ち始め、風紀委員会への圧力はかなり減ったようで息を吹き返した風紀委員会側の射撃音も聞こえる。下倉メグさんは震えながら走ってきた下江コハルさんに目をつけたらしい。

「通しませ、っ?!」

「班長!こいつは任せて!」

 宇沢レイサさんが見事にヘイトを集めすぎたのか、温泉開発部員5人が一斉に飛びかかった。

「ありがとうね!そこの子、寒そうだからあっためてあげる!」

 かなり距離があるが相手は射程を見誤ったりはしないだろう。

(イヴちゃんごめん、代わって!)

 僕は盾を下倉メグさんめがけ投擲した。鎖のこすれる音をさせながらかっ飛んで行く盾を半身でかわす下倉メグさん。

「おおっと?」

 撃ち出された燃料を追って伸びる炎の舌と下江コハルさんの間に割込み、三戦(サンチン)の構え、右手を上に、丹田に力を込めて息を深く吸う。回し受け。()ッ、と息を吐き出す。

「ええっ?!すご!初めて見たよそんなの!」

 炎をかき分け、火勢が散り逸れていく。手と腕がちりちり痒みくらいの痛みがあるけど、他はノーダメージ。いや火炎放射器の射程限界近かっただろうとはいえ、ここまで上手く行くと思わんかった。盾でガードして銃弾全部暴発したら却って後ろの下江コハルさんが危ないかなと思っただけなんだけど。矢でも鉄砲でも持って来いやァ……とはよう言わんな。

「大丈夫ですか?!」

「わ、私も援護するから!」

 3人をあっという間にぶっ飛ばした宇沢レイサさん、下倉メグさん、盾を鎖で引き戻しつつ戻して叩きつけようとした僕の間に手榴弾が転がる。

「まず……?!」

「うえっ?!」

「わ!……あれ、痛くありません!」

 あっ、これ下江コハルさんの特殊能力か。下倉メグさんには爆風と破片のダメージを、僕と宇沢レイサさんには傷の回復を。腕の軽い痛みが消えた。誤爆を一切恐れずに手榴弾投げ込めるというだけでも素晴らしいよな、これ。

 引き戻した盾の角が側頭部に命中し、「あったあ?!」と叫んで下倉メグさんは倒れた。クラリオン(STG)を念のため燃料タンクに撃ち込んでから、イヴちゃんに主導権を戻した。

「熱!熱っ!!」

「班長わっ!?」

 下倉メグさんが地面に転がって火を消そうとしているが、とどめのウッドペッカー撃ち込みで大人しくさせて、事実的な戦闘不能で動揺した温泉開発部員を容赦なく撃ち倒す。念のため正義実現委員会の衛生兵を呼んでおいて進撃再開。

 

 温泉開発部員を掃討し終えて、トリニティ側に入った辺りで正義実現委員会と風紀委員会が対峙した。やや冷ややかではあるけど敵対的な雰囲気ではない。お互いぼろぼろだ。

 捕縛者はゲヘナの生徒なので、記録写真を撮ってから全員この場で風紀委員会に引き渡すらしく引渡し作業が進んでいる。下倉メグさんは服はセクシーで済まない感じになって髪もちりちりになっちゃってるけど、全身軽いやけどだけらしい。火炎放射器爆発して燃料引火してもそれで済むの、キヴォトス人こえ~。

 水のペットボトルを持ってきてくれた正義実現委員会の子が、その場にいる正義実現委員会、風紀委員会全員に渡していく。

「助かった、正義実現委員会と自警団。お、レイサとイヴじゃないか」

「こちらこそ助かりました。お知り合いですか?」

「一緒に訓練をしたこともある」

 なるほど、と頷く静山マシロさん。おずおずと宇沢レイサさんが声をかける。

「あの、さっき、あの班長?ですか?『陽動』って言ってましたが……」

「ああ、ゲヘナ側が本命だったようだ。今、風紀委員長が制圧したところだ」

「……良かった……」

「ゲヘナの生徒が、手間をかけたな」

「いえ。こういうときはお互い様ですから。車両はトリニティ側で擱座したものはトリニティが回収します」

 頷く銀鏡イオリさん。引渡し作業も終わって風紀委員会は撤収するらしい。つつがなく進んだ打ち合わせのお陰かお互いの表情も柔らかくなった。

「またゲヘナに遊びにきてほしい。これもご馳走様」

 空になったペットボトルを掲げ小さく微笑む銀鏡イオリさん。うーん可愛い。トリニティ側も頷いて頭を下げた。

(イヴちゃん、お疲れ様)

(……うん。下江さんの、ありがとうね……)

(いや~、ごめんね。ちょっと慌てちゃったけど)

 咄嗟にやっちゃったけどまあ上手く行ってよかった。穴の埋め戻し作業を一応するらしく、辛うじて動くブルドーザーが1台残っていたので正義実現委員会の子が集まって装甲板を剥がしてから乗り込んでいる。正義実現委員会もやっぱり正規軍なんだな。色んな技能持ちがいてすげー。

*1
無限湧きしてほしくない案件

*2
ブルドーザとかボーリングマシンとか

*3
『スクリーマー』とかいうあだ名が付くほどなので、まじでうるさい車両だ

*4
50人くらい

*5
わきまえない解体屋ではなくて装甲車両




 評価、感想、ここすき、お気に入り、しおり有難う御座います。皆様の反応が書き続ける力になります。
 赤帯大変有難い。励みになります。嬉しい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。