ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
ヘリの中、爆音と振動が凄いけど、もう3人とも慣れたようで結構くつろいでいる。
「今日の目的地はアビドス砂漠って聞いたけど、詳細はあんた達に聞くようにって言われてる」
「……アビドス高校にいる友達が、カイザーグループに攫われたから助けに行く……」
「カイザー??」
まだ電波が通じるし別に機体内で使っても問題ないと言われているから、宇沢レイサさんがスマフォでWikipediaっぽいサイトを開いて下江コハルさんに見せる。
「あー、ロゴ見たことある。大企業じゃない」
「……カイザー、嫌いだから撃てるのちょっと嬉しい……」
「あ、あはは。まあそうですよね……」
「何?不良品でも買わされたの?」
「……トラックに轢かれて、翼がなくなった……」
「犯人はわからないままですしね……」
「……『該当する社員はいない』ってとぼけられた……」
絶句する下江コハルさん。視線がイヴちゃんの顔と機械の翼を行ったり来たりしている。カイザーの連中絶対許さん。今回えらい目に遭わせたいね、是非とも。
「えっ、噂は嘘だったんだ……」
「何の噂ですか?」
「何でもない!それで、私は何をしたらいいの?」
「……それは私達も聞いてなくて、命令書がある……」
ティーパーティーの多分桐藤ナギサさん、ヘリ操縦士さん、イヴちゃんと回ってきたらしい封筒を下江コハルさんに渡す。戦地に向かってる途中でやってるって以外は授業中にこっそり手紙回すみたいでほっこりするね。
「『1回目の降着後に開けること』って書いてますね!映画みたいです!」
「っていうか、1回目って何?」
「……私のバイクを持っていきたくて……正義実現委員会とかから借りてもよかったけど、塗装変える時間なさそうだし……」
「イヴちゃんのバイク、実物見るの初めてですね!」
「バイクどこに置いてるの?」
「……南北線*1の端の、ペロポネソス駅前……」
「はあ~~?!何であんな変なとこに?!」
「……アビドス高校に行く時に、電車だと乗り換えが不便だから……。ペロポネソス駅からアビドス線のアレクサンドリア駅にバイクで行けば、すごく早い……」
「「へ~」」
などとわちゃわちゃ喋っている間に着いたらしい。特急より巡航速度で言えば遅いけど、鉄道と違って直進距離だものな。
(ヘリポートがあるけど、ラペリングで引き上げた方が早くない?)
(……そうしよ……)
ロープを下ろしてもらい、イヴちゃんが
ノートンWD16Hっぽいバイクは見たところ無事だった。素っ気ない塗装がとってもよい。閉切ったヘリ内でエンジンをかけるわけにいかないので、操縦士さんに断ってサイドドアを開け、エンジンをキックでかける。一発で掛かった。とりあえずは大丈夫そうだな。ブレーキとかは下ろしてからしか確かめようないし。
「おおー!格好良いです!」
目を輝かせる宇沢レイサさんと、興味深そうにバイクを眺めている下江コハルさん。
「……こういうの、好き……?」
「べっ、別に!でもそのうち、免許は取るから!」
エンジンを切って換気できたかなって頃にサイドドアを閉めたところで、下江コハルさんが指示書を開封した。
「……何て……?」
「『操縦士と協力して、空中から射弾観測をすること。砲兵連隊の無線周波数は次の通り』……」
「弾着観測ですか?!下江さん、そんなのもできるのですね!」
凄いな~と素直に賞賛の目を向ける2人と、浮かない顔の下江コハルさん。砲兵の弾着観測班にこの機体を使えば一石二鳥ってことか。キヴォトスで空を飛ぶ機体は少ないけど、カイザーの連中が何か飛ばしてきたら優先的に食わないと不味そうだな。
「この前の春休みに、正義実現委員会に入る前に訓練は受けたけど……」
「訓練でできたなら大丈夫ですよ!」
「うるさいなあ……」
そう言いながら、ちょっとだけ緊張はほぐれたっぽい。
「……どういう訓練……?」
「ふふん、知りたい?」
「知りたいです!」
「……ちょっとだけ……」
「振っておいてちょっとだけなんだ……。ま、見せてあげる」
ドヤッ、という顔でスマフォに入っている資料を見せてくれる。部外秘って書いてあるけど自警団だから大丈夫なのかな?
「『現在、トリニティにおいては組織管理、技術・整備・補給上並びに火力集中の観点から正義実現委員会に火砲を配置せず、ティーパーティー隷下*3に砲兵連隊を複数編制*4しています。
近年トリニティの戦略家である振句フラコ氏(正義実現委員会)、理出ココロ氏(帰宅部)などより提唱された機動戦理論と、過去のトリニティ統一時の紛争経験における砲兵の火力集中並びに機動の戦訓と吻合させるため、上級組織である近衛師団に師団砲兵指揮官を設置し、あわせて実際に現地で支援を受ける正義実現委員会実働部隊側に前線観測班員の養成を行います。航空隊の空中観測要員も追加訓練を行い、より前線に
「……どういう意味?……」
「わからないですね!」
くすくす笑いながら聞く2人に釣られて笑った下江コハルさんはそのまま固まり、頑張って言葉をひねり出す。
「つ、つまり……その、要するに、大砲で撃つ指示を出す人を増やして、実際に戦う正義実現委員会から、大砲をうまく使えるようにするってこと!」
(補足するなら、偉い方にも現場の方にも撃つ場所を指示できる人を増やして、飛行機と大砲と現場の連絡も上手くやろうね、ってことだね)
(……ふーん……何でこんな難しい書き方するんだろ……)
(言葉の慣れの問題かなあ。慣れてくると段々難しく思わなくなるから)
操縦士さんの「目標到着まであと5分。2人は降着して下ろすので、準備してください」という言葉にわたわた支度しはじめる宇沢レイサさんとイヴちゃん。可愛いね。
小さな窓からアビドス砂漠の黄色一色のど真ん中に灰色の長方形、でかい基地がぽつんとあるのが見えた。あれがカイザー基地か。もう黒煙が上がっているし、銃火器の閃光が見えるから、交戦は始まっているらしい。ヘリは手前の砂丘に下ろすようで、忘れ物がないか確認した宇沢レイサさんとイヴちゃんが肘膝にプロテクターをつけヘッドセットを外して、ヘリ降着と同時にバイクを引き出した。
「じゃあ、行ってきます!ありがとうございました!」
「……ありがとう、ございます……」
2人ともヘリ操縦士さんに対して頭を下げる。宇沢レイサさんは勢いよく頭を下げるぴょこんとした90度の礼、イヴちゃんはゆっくり45度の礼。爆音で聞こえてなさそうだけど操縦士さんはにっこり手を挙げた。
「下江さんもまた後で!」
「……コハルよ!」
「何ですか?!」
「コ・ハ・ル!コハルって呼びなさい!私もあんたらをレイサとイヴって呼ぶから!」
「はい、コハルさん!」
「……わかった、コハルさん……」
バイクのエンジンをかけ、宇沢レイサさんを後ろに乗せた。
(バイクの運転代わるね)
(……うん、今度練習、付き合って……)
(もちろん!)
アクセルを捻ってクラッチをつなげ、猛然と加速する。
「レイサちゃん、しっかり抱きついて!」
「は、は、はい!!」
なんか遠慮しがちに脇腹触ってるから振り落としかねないんだよな。ぎゅっと抱きついた宇沢レイサさんの体温高くて気持ちいい。暑いが。
先生は黒服と接触し情報提供を受けていますが、黒服が身柄を抑えてないので原作のアビドス校舎でなく基地にホシノが連れて行かれています。オフィスで死んだ目で新人研修を受けていたところ。
振句フラコは勿論J・F・C・フラー、理出ココロはリデル・ハートです。
イヴと中等部別のクラスの子の間で囁かれていた噂には「もともとサイボーグだった」「力を手に入れるために強化手術をした」の2つがあります。「翼が本体でボディはインターフェイス」説は慣れると表情が割とわかりやすかったので廃れました。
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