ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
PMCを整地した後とは思えないほどピシッとした姿でてくてくと歩いてくる空崎ヒナさん、うーん、迫力がえぐい。シナシナ度は前会ったときより更に下がってる気がする。事務処理機械はかなり役に立ってるっぽいし、万魔殿への牽制もちょっとは効果があったのかな。無表情をほんの少し柔らかくして、イヴちゃん達を見てちらりと左手を挙げる。
後方で臨戦態勢のままの風紀委員会生徒を銀鏡イオリさんが整列させている。ちらちらとこちら、というか、先生が地下に降りていった建物の方を見ているから……やったのかな、先生、あれを。まあ今は重要じゃない。
周囲への警戒は怠ってないが、少しリラックスした雰囲気の空崎ヒナさんが口を開いた。
「レイサ、イヴ、お疲れ様」
「はい!ヒナさんもお疲れ様です!!」
「……お疲れ様です……」
同じ体育会系の部活の先輩後輩っぽくてちょっと可愛いやり取りだな。
「先生から通信で聞いてるわ。小鳥遊ホシノの迎えが終わったら撤収しましょう。別に長居したい場所じゃない」
カイザーPMC理事含めすげー目で見られてるしね。向こうにはまだ若干だけど残存戦力があるらしい。
「とにかく広い基地なので、風紀委員会の皆さんが来てくれて助かりました!」
「歩兵がいないと制圧はできないものね。砲兵の援護は助かったけど、アビドスとあなた達2人だけでは、実力はともかく手数は足りてないわ」
下江コハルさんと阿慈谷ヒフミさん、それと師団砲兵の皆さんはちゃんとゲヘナの援護もしてくれたらしい。よかったよかった。
「ティーパーティーにはもちろん、私からも礼を言っておくけど、よろしく伝えておいて」
「わかりました!!!こちらからもちゃんと伝えておくので!」
ニコニコ了承する宇沢レイサさんと、こくりと頷くイヴちゃん。
「あなた達とのこの間の訓練の時には私は用事があったから、次は……」
言葉を切る空崎ヒナさん。一瞬理由がわからなかったが、地響きと小さく身体が揺れる。
(イヴちゃん、耳鳴り?体調大丈夫?)
(……多分、体調と違うと思う……)
「地震ですかね?」
「弾薬庫が爆発したとかじゃないわよね……先生?」
空崎ヒナさんが無線に話しかけた。
『"みんなも私も無事だよ。今、ホシノの私物を回収したところ。すぐ地上に戻るね"』
カイザーの仕込みかと思ったが、カイザー側も何だか慌ただしい動きをしている。イヴちゃんのスマフォが音を立てた。着信の音楽はDream Thea4erの"I Walk Beside You"……っぽい曲だ。下江コハルさんからだ。あれ、番号言ってたっけ。
『イヴ?先生に中継してもらってるから、後で番号教えて。ってそれはいいけど、ゲヘナの突入してきた方向から砂煙があがってるから気をつけて。切るから』
慌ただしく電話が切れ、ヘリが高度を上げていく。
「……ヒナさん達が来たほう……」
「そうみたいね、風紀委員会、注目!」
一瞬で全員の雰囲気がガラッと変わる。小鳥遊ホシノさんを先頭にしたアビドス勢と、息を切らした先生が建物から出てきたと同時に、基地の外周で爆発したかのような音と、小さなビルほどはある砂柱が立ち上がった。いや、砂柱じゃないな。こっちから見ると11時方向、白い機械仕掛けの大蛇が鎌首をもたげた。
「……アビドスの大蛇……」
「カイザーの兵器ですか?」
宇沢レイサさんの疑問にイヴちゃんは首を横に振った。
「……多分、違う……この基地を襲いに来たんだと思う……」
溜息をついて
「実物は初めて見たわね。全部隊6時方向、基地内部に後退!アコ、イオリの補助をして。イオリ、指揮を任せる。できるわね?」
『委員長?!』
「訓練はしてるでしょう?頼んだわよ」
「"みんな、一旦後退!"」
先生の指揮下に入っているイヴちゃんの視界に後退方向と目的地を示す矢印が出る。先生指揮下の子は重砲で叩かれてもまだ原型を留めている掩体豪(飛行機用の壕)の後方に下がるらしい。先生の指示に従い、空崎ヒナさん、宇沢レイサさん、イヴちゃんが指示されたポイントに走り出す。
あー、そうか。カイザーにしか興味ないならあのクソ蛇無視して撤収してもいいのか。でも、ゲヘナ勢には悪いけど、今あのクソ蛇をぶち○せたらアビドス的にはとても助かるんだよな。
お返しとばかりに撃たれたVLSはカイザーだけを狙う、わけではもちろんなく、風紀委員会やアビドス勢も攻撃対象に含んでいた。空崎ヒナさんが
「あ、風紀委員長ちゃん、イヴちゃんと、えーっと……」
「宇沢レイサです!」
「レイサちゃんって呼ぶね。ありがとうね~」
「礼は後にして。先生、どうする?」
「"放っておいて逃げるのも一瞬だけ考えたけど、逃がしてくれなさそうだね"」
「ん、あいつはここで叩こう」
「ちょうどいい遮蔽物もたくさんあるし」
「皆さん、面倒をおかけしますが……」
「"ヒナ、レイサ、イヴ、コハル。悪いけど頼めるかな"」
「構わないわ。部下には私抜きでもやれるように、実戦経験を積ませていきたいし」
宇沢レイサさんもイヴちゃんも頷く。先生の無線から漏れる声的には下江コハルさんも多分大丈夫そうっぽい。
「よ~し、じゃあさくっとやっちゃおっか~。え~と……」
小鳥遊ホシノさん、宇沢レイサさんが前に。黒見セリカさんが真ん中辺り、十六夜ノノミさんとイヴちゃんが後方に。機動力の高い空崎ヒナさんは動き回りながら奴を叩くことになった。
「あいつは口からビームを吐くのと、さっき見た背中からミサイルね。あと、砂の津波みたいなのもしてくるから気をつけて」
宇沢レイサさんはぷるぷると震えている。イヴちゃんがそっと握りしめた宇沢レイサさんの拳に触れた。
「……レイサちゃん、私とホシノさん、ノノミさんは去年あいつと戦ったことがある。大丈夫……」
イヴちゃんの手を握り返してにっこり笑う宇沢レイサさん。あれ、怖がってる感じじゃないな。
「はいっ!こんなすごいのと勝負できるなんて……!」
あっ何、武者震い?イヴちゃんもほっと安心したらしい。ええ、まじかって思ってるの僕だけ?キヴォトス人は鎌倉武士だった……?
「……ビームとのしかかりは、本当に気をつけて……」
「わかりました!!!!!」
ニッコニコで走って行ってぶんぶん手を振る宇沢レイサさん。ええ……。まあ怖がって動けなくなったりするよりいいか。
再び重砲の雷鳴のような斉射音が響く。ティーパーティーの砲兵、1斉射目から近弾を出してて練度の高さを感じさせるね。ミサイルを警戒してか、弾着観測ヘリが更に高度を上げた。
「"行こう、みんな"」
全員が頷いた。効力射により重砲弾で叩かれ、苦悶か激怒の咆吼を上げるアビドスの大蛇に向けて全員が走り出す。VLSハッチが再び開かれ、あ、不味い。ヘリを狙ってる。
(イヴちゃん、バイク!)
イヴちゃんが急ブレーキをかけ、右手に止めたままのバイクに走り出す。
「……先生、一旦離れるけどすぐ戻ってくる……!」
「"気をつけて"」
ヘリは急上昇しながらフレアとチャフを撒き散らしているが、ミサイル2発が操縦席に突き刺さった。バイクにまたがったタイミングでイヴちゃんと交代して、上空で小爆発が起きるのと同時にバイクのエンジンをかけて勢いよく飛び出す。大蛇は地上の先生指揮下の生徒達と、建物を使って飛び上がった空崎ヒナさんに意識を割かれヘリへの追撃を諦めたようだ。
ヘリが落ちないならそれに越したことはないが、誘爆で操縦席から操縦士さんらしき人が放り出された。空中で落下傘が開いたのであっちは大丈夫だろう。
(……ジル、お願いね……)
(任せてよ。僕は昔サーカスにいたからね)
(……???)
まあこれは冗談だけど。アクセルを全開にしてふらふらと高度を下げていくヘリの方へ。スピードメーターを振り切るほどの速度を出しているが、遅く感じて仕方がない。高度と距離はまあこんなもんか。ヘリが更に火を噴いたタイミングで、アサルトブーストの片方だけを起動し、僕はバイクの座席に立ち上がって(身体を鍛えておいたお陰か驚異的なイヴちゃん体幹とバランス感覚がある)ジャンプした。空中でブースタが作動し、ヘリが見る見る迫ってくる。まだ少し足りない。モビーディックワイヤー左を作動、ヘリの扉に突き刺して巻き取り、墜落していくヘリの機内に入り込んだ。
「コハルさん」
「ぴっ?!」
必死で半壊してる副操縦席の操縦桿と格闘していた下江コハルさんがこっちを向いた。無理もないが半泣きだ。まあこんな状態なったらそら泣くわな。僕だってアサルトブーストとウケミの技能無い状態でこれなったら泣くわ。むしろこの状態でヘリを不時着させようとしてるのに尊敬しちゃって普通に言葉に出た。
「ヘリの操縦もできるんだ。凄い」
「できるわけないでしょ!?」
いや、見よう見まねでもこんだけ粘ってくれただけありがたいよ。お陰で間に合った。
「もうこの機体は駄目だから、行こう」
「ちょ、行こうってまだこんな高度、あっ」
副操縦席側のドアが曲がっていたので蹴り開け、下江コハルさんの手を強引に引っ張ってお姫様抱っこして飛び出した。制御を失ったヘリは僕達と反対方向に落ちていくから気にしなくてよさそうだ。
「きゃあああああああああ!!!!!」
涙と涎ですごいことになってる下江コハルさんの顔をなるべく見ないようにしながら、落下地点直前でアサルトブーストの残り片方を垂直に吹かし、落下エネルギーを相殺、両足を開いて踏ん張り、重低音を立てて着地した。
「し、しし、死ぬかと思った!!!!ばか!ばかイヴ!!!」
ぽかぽかと胸を叩く下江コハルさん。
「で、でも……ありがと……」
小さく呟く下江コハルさんに僕は首を横に振った。
(……ジル、ありがと)
(怪我とかさせなくて済んでよかったよ)
「大丈夫。歩ける?」
ゆっくりと下江コハルさんを地面に下ろす。砂漠の地面の感触を確かめるように叩いてから、手をこっちに伸ばしてきた。
「……起こして」
可愛いな~!!僕は手を伸ばして、こっちにすがりつくように立ち上がる下江コハルさんを助け起こした。
数100m先でヘリが墜落したが、無事着地できたらしいヘリの操縦士さんがこっちに手を振ってからヘリに向かったので、消火作業は任せてよさそうだ。バイクは……あああった。あちこちがひん曲がっているが下が砂地だったからかまだ何とか動きそう。
「動けないなら、待っててもいいけど」
「わ、私だって正義実現委員会のエリートなんだから!」
交戦中の大蛇と皆の方に向けてバイクを起こして、今度は下江コハルさんを後ろに乗せる。
「かなり揺れると思うから、ちゃんと捕まっててね」
「ふ、ふん。こんなの……きゃああぁ?!こ、これ大丈夫?!」
うわまじでとんでもない揺れだな。明らかに鳴ってはいけない音がしてるし、まじで動いてるのが奇跡って感じだ。持ってくれよ、バイクちゃん。
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