ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
まっすぐ走るのが奇跡って感じのバイクをなだめすかしながら、出せる全速力で基地の方に戻る。カイザーの連中は整備途中っぽい片腕しかない
「で、でっかい……!」
「ああ、もう駄目っぽい。コハルさん、しっかり掴まって」
「え、何?」
ついにエンジンから火を噴いたバイクの席に立ち上がり、背負い投げの要領でまた下江コハルさんをお姫様抱っこして、席を蹴って左側へジャンプ。蹴っ飛ばしたので右側にまたコケて地面を滑っていき燃え始めた。実運転時間30分無かったんじゃないか。僕のバイク……。燃料そこそこ残ってそうだしもう完全に駄目かもしれん。悲しい。まあ今んとこ死人も出てねーから充分役目は果たしてくれたと思おう。保険下りるかなー。えっ、このあちこちひん曲がったうえに燃料に延焼しちゃった状態で入れる保険があるんですか?!下りないよなー。バイクを降りたのでイヴちゃんと交代。
最大の脅威は先生が率いる生徒達だと認識しているのだろう。口を開いてビームを放とうとしたところを、横合いから
「……コハルさんは、先生達の方へ……」
「イヴはどうするの?」
「……ヒナさんを手伝いたいから……近づいてみる……」
「っ!け、怪我とかしたら、許さないんだから」
「……ありがと……」
頷くイヴちゃんに真っ赤になってから先生達の方へ走っていく下江コハルさん。
(イヴちゃん、どうするつもり?)
(……このナイフ、獣に効くんだよね……?)
(ナイフとしてはかなりでかいけど、あいつからしたら棘にもならないサイズだけどね)
(……駄目かな……?)
(うーん、まあこんだけ上手くターゲット分散してるなら……危ないと思ったらラストのモビーディックワイヤーで絶対逃げてよ?)
(……ふふ、わかった……)
『"イヴ、大丈夫?"』
「……先生、近づいて刺してみたい……」
「"わかった。一番いいルートを指示するから参考にして"」
表示ルートはまっすぐ前進だ。カイザーの連中はもちろんイヴちゃんが射線に入っても気にしないだろうから、これが最適解なんだろうな。空崎ヒナさんめがけ後方の尾を振り回す大蛇の動きを警戒しながらウッドペッカーだけでなくて
イヴちゃんは全く気にせず傷だらけになった装甲を足がかりに駆け上がる。火砲、誘爆で背中のあちこちにでかい穴が空いて黒焦げになっているが、内部機構はまだ全然無事っぽい。身をよじって振り払おうとする大蛇にさっき飛ばしたワイヤーの残りを投擲して、強引に登るイヴちゃん。VLSの破壊跡にグレネードランチャーとクラリオンを叩き込みつつ、登る、登る、登る。
頭部の真後ろまでたどり着いた。重砲弾が直撃したのか自身のミサイルが誘爆したのか、イヴちゃんの全身が納まるほど白い外部装甲が吹き飛び、黒い内部構造材が露出している。めくれ上がった装甲板を掴んで体勢を安定させてから左腰に差したナイフを引き抜き、内部構造に突き刺した。かなり丈夫そうな構造物にやすやすと突き刺さるナイフ。
20cm少々しかないはずのナイフを刺された瞬間、大蛇が確かにびくりと震えた。何で効いてるかも全然わからんけど効いてるっぽい。だがこの長さじゃ駄目か?イヴちゃんは気にせずナイフを四角の形にすーっと動かして、ぐりぐりっと抉る。おっ、取れた。見た目は黒い金属製の羊羹みたいだが。
イヴちゃんをひとまず無視してか大蛇が再度ビームを放とうとしたところに、カイザー勢以外の全火力が集中され、衝撃が足下、大蛇の体内を伝わっていく。
震えた大蛇が、地面に緩やかに崩れ落ちる。慌てて再度突き刺そうとしたナイフをしまい、勢い余って掴んでいた装甲板の破片を引っこ抜いたイヴちゃんの背中から誰かが抱きついた。温かいし柔らかい感触が伝わる。
「飛ぶ。しっかり掴まって」
空崎ヒナさんがイヴちゃんを抱き上げたというか抱きついてとんと跳ね、宙に舞う。イヴちゃんの方が背高い(空崎ヒナさん142cm、イヴちゃん143cm)のに、さすがというか驚きの安心感だな。
轟音を立てて倒れ伏した大蛇への攻撃が止んだ。最後まで撃っていたカイザーも発砲を停止し、今度はヘリの音すらしない静寂が辺りを支配した。
「え、やったの?」
「"みんな、まだ油断しないで"」
「でも、先生……」
いや、内部から駆動音がした。こいつまだ生きてる。
「……先生、動く……!」
「"みんな、攻撃再開!"」
イヴちゃんの警告より一瞬早く気づいたのか、先生指揮下の生徒達と、宙を舞っている空崎ヒナさんとイヴちゃんも再度火蓋を切って、風紀委員会、カイザーの連中、重砲と続く。オレンジの光を纏い、大蛇が再び身をもたげた。再起動だと?有り得るのか、こんな預言者が……。と言ってる場合ではないはずだけど。こんだけ景気良く叩いてまだ動けるの、実際にいるデカブツの厄介さだな。
この場にいる全勢力の攻撃を振り切り、再び大地に潜る大蛇。地鳴りが小さくなっていく。
(……逃げた……?)
(こんだけ戦力があるチャンスの時にきっちりぶち○しておきたかったけど、駄目か)
あっ、でも頭から第5体節(っていうのか?)あたりより後は切り離して逃げたっぽいな。蛇っていうかトカゲみたいなことするね。こいつの構造を解析できればずいぶん参考になりそうだが。いや、待てよ。
「"みんな、離れて!カイザーも下がった方がいい!"」
先生を俵抱きした十六夜ノノミさんをはじめとした先生指揮下の生徒、風紀委員会が泡を食ったような勢いで大蛇の残骸から離れていく。空崎ヒナさんももちろん離れる方向に飛び上がる。
再び大地が震えた。閃光、轟音、爆風の順。さしもの空崎ヒナさんも空中で一瞬態勢を崩すがすぐ持ち直した。
砂混じりの爆煙が晴れた後には、地下に続く大穴が見えた。大蛇が侵入してきた側の地上構造物は完全に吹き飛んで更地になっている。カイザーざまあって気持ちになっちゃうね。とはいえ、振り回していた尻尾も含めての大蛇のサイズからしたら穴が小さい。あいつは生き物じゃなくて機械だから、尻尾側も無事な部分は地下を通って逃げたんだろうな。
「逃がしたわね」
「……残念……」
2人とも溜息をついた。本当にね。まあかなり損害を与えられたのは確かだろうけど。地下通って砂漠に逃げられるともう追跡のしようがないんだよな。砂漠の広さも含めて厄介だな。
まあでも、今度こそ片付いただろう。同じ判断をしたのか、便利屋68は全力で撤収していく。判断が早い、すごいね。風紀委員会はまだ気づいてないっぽいけど時間の問題だろうしね。
地上から大きくこっちに向けて満面の笑顔で手を振る宇沢レイサさんに、イヴちゃんも小さく手を振り返した。
Tips:理解者の骨髄(ローディング画面版)
ビナーの素材。主に剥ぎ取りで希に入手出来る品。理解力を付与する性質がある?
Tips:理解者の骨髄(アイテム解説版)
砂漠に棲む機械の大蛇を模した、預言者のにおいが染み付いた海綿状の機械部品。理解者は相違の観察者であり、全ての人間に見るべきでないものを見せるという。
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