ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
真夜中、どん、という鈍い音と、ベッド側に寝ていた
「ふ、不審者?!」
「……敵……じゃない……?」
鍵はかかったままだし窓も開いてない。4人以外の気配はなさそうだ。
「ぐ、ぐええ……いいから助けてくれ~」
報野モユルさんのうめき声。宇沢レイサさんがベッドから床に、頭から転落して報野モユルさんのお腹に突っ込んだらしい。全然気になってないのか大股を広げて爆睡している。
「レイサちゃん、こんなに寝相悪いんだ……」
「どうする……?」
「……壁側に、寝かせよう……」
「それでも落ちてきたら床に寝かせるか~。ソフノ、代わってよ、場所」
「ちょっと怖いけど、しょうがないわね……1回は受け止めてるし」
「……陸上部の実力を見せる、時……?」
「受けたっていうの、これ」
「陸上は関係無いかも」
イヴちゃんはお姫様抱っこで寝てる宇沢レイサさんを抱き上げ、優しく寝かせてあげる。
「力持ちがいると助かるねえ~」
「いいから、場所代わるんでしょ」
「レイサちゃんまだ起きてないの?」
「……寝てる……」
「静かにしないと。起こしたら可哀想でしょ。ふふ」
穏やかな笑い声。箸が転んでも楽しいというのはこういうのなんだなあ。再び、1人寝息になり、2人寝息になり、みんな寝直した。僕もまた寝直すとしよう。
起きたら宇沢レイサさんはイヴちゃんで暖を取るようにしっかり抱きついていた。両足も絡めていて完全にイヴちゃんは身動き取れない状態になっている。皆に朝ご飯を作ってあげようと思っていたので、そっと――まあ乱暴に外しても起きなさそうだけど――抜け出て、誰も踏まないように静かに静かに冷蔵庫を開けてトースターを余熱し、昨日買っておいたトマトスープの素に具を足して電子レンジで加熱する。自分で味噌汁か何か作ろうかなって思ったんだけど、不審者がうろちょろしてるかもだしなあっていう。まあ僕とイヴちゃんいなくても宇沢レイサさんがいたら少々の不審者なんか粉みじんなんだろうけど。
香ばしく甘やかな美味しそうな香りで、朝吹ソフノさんと報野モユルさんが目を覚ました。
「イヴちゃん、モユル、お早う」
「お早う~。いい匂い。イヴちゃんご飯ありがとうね~」
僕はかぶりを振った。
「起きま、起きる?食べられる?」
「余裕余裕」
「レイサちゃん起こそっか。朝だよ」
「うむむ、むにゃむにゃ……ナマコは、炭酸が……」
まだ時間がかかりそうなので、僕は昨晩畳んだテーブルの脚を広げて配膳を始めつつ、イヴちゃんを起こした。イヴちゃんもまだちょっと眠そう。順に顔を洗って僕もイヴちゃんに交代し、宇沢レイサさん以外が軽く身支度を済ませた。2人が洗面所空き待ちの間に交互に揺すったりしていたのに、まだ宇沢レイサさんは寝ている。イヴちゃんが手を伸ばして、肩を軽く揺すり、耳元で囁く。
「……レイサちゃん、起きて……」
「むにゃ、イヴちゃん……むむ……」
寝ぼけているのだろう、手首を捕まれてベッドに引っ張り込まれた。ぬいぐるみか抱き枕のようにまたぎゅ~っと抱きつかれる。胸元に顔面をすりすりして宇沢レイサさんはご満悦という感じだ。
「いいにおいします……」
「……こまった、起こしちゃう……」
「いや困ってないで、起こすんだから」
イヴちゃんもまだ眠いんだなあ。そうだった!ってなったイヴちゃんが、抱きついた宇沢レイサさんをゆっさゆっさする。起きない。早々に諦めたイヴちゃんは宇沢レイサさんに抱きつかれたままベッドの縁にごろんと転がり、抱き上げて起き上がる。
「……レイサちゃん、ご飯できてるよ。お顔、洗おう……」
そのまま洗面所に連れて行って顔を代わりにイヴちゃんが洗ってあげたら目が覚めたようで、ちょっと小さめの声で皆に挨拶した。
「おはようございます!」
「お~、やっと起きた」
「おはよう、レイサちゃん」
「イヴちゃん、もう歩けますよ」
「……抱っこ、いや……?」
「お願いします!!!」
即答だった。欲望に素直だなあ。コアラみたいにぎゅっと抱きつく宇沢レイサさんと微笑ましいものを見ているような報野モユルさん、ちょっと呆れ顔の朝吹ソフノさん。可愛いね。
食パンとスープ、昨日の残りのサラダに紅茶を淹れての朝食も楽しかった。ブルーベリージャムとコケモモジャム、はちみつを適宜使って食べている。報野モユルさんだけジャムハーフアンドハーフとかしてて面白。
「パン3枚は多いかなって。でもせっかく3種類あるから」
「まあ好きにしたらいいんだけど……」
「……そうか、ジャムとはちみつを組み合わせてもいい……」
「あ、どうぞ!!!!」
宇沢レイサさんがすっと全部の容器を取ってくれた。酸っぱいコケモモに足すんじゃなくてブルーベリーの方にかけるんだ……。まあイヴちゃんが美味しいならいいか。
みんな一旦部屋に帰って、制服に着替えて寮の出口で集合した。
「みんなで登校するの珍しいですよね!嬉しいです!」
「レイサちゃん結構ギリギリだし、ソフノは朝練多いしね」
「……今日は、ソフノちゃん、大丈夫……?」
「事情を説明して今日だけ休みにしてもらってるから平気よ」
話が弾む穏やかな朝の時間。小鳥のさえずりも朝の穏やかな空気も平和でとってもいいね。あっ、信号待ちで立ち止まってるイヴちゃんの盾に小鳥が止まった。みんな笑顔になって写真を撮り始めたのでちょっと遅刻寸前になってしまった。間に合ってよかったね。
いつも通りのお昼、いつも通りの放課後。ふつーに部室棟裏でまーた溜まってるいじめっ子グループをしばき回してから大聖堂に礼拝に行き、今日は用事があるので皆の晩ご飯をイヴちゃんに我慢してもらった。
で、1回家に帰って着替えてからやってきたのはD.U.とゲヘナの境、ぼろっぼろのネットカフェ。身分証提示なんかかけらも求められない。僕もばっちり変装して盾もスマフォも置いて、新しく組み直した
まず連邦生徒会の防衛室にシュウーッ!不知火カヤさん宛に「カイザーともう組んでるんでしょうけどあんま深入りしない方がいいですよ」的なコメントを一言添えて。不知火カヤさん、有能なのは確かだし、防衛室の置かれてる環境に同情できるとこもあるしな。まー、この程度のことで考え直したりはせんとは思うが。コーヒーのお礼と、イヴちゃんを評価してくれたお礼はこれで充分やろ。
セイント・ネフティスはじめカイザーと競合してる企業とかなんか意識高そうなこと書いてる金融機関とかNPOだとかついでにヴァルキューレとか連邦生徒会財務室にも送っておく。人道だのコンプライアンスだのはまあどうでもいいし、慈善事業でやってるわけじゃないだろうが、とにかくどっかが「タダでカイザーの足を引っ張れるなら激アド」って思ってくれたらいいんだけど。
後は適当な動画サービスとかSNSとか掲示板とかにバラバラっと撒いてヨシっと。これでいい感じにカイザーが炎上してくれたらいいな~。
ヴェリタスあたりに頼んでもっと直に企業だの何だののえらいさんのメアド割ってもらって直接送って~みたいなことも考えたんだけど、正直そこまで労力裂いても効果出るかわからんしね。広報担当者が弾くリスクは下げられるだろうけど、その後どう評価されるかだし。
よーし。スパム疑われる勢いでぶんぶんあちこちに送り付けた。先生も元々カイザーの基地更地にした翌日には連邦生徒会に連絡はしてくれてたらしいから、これでちょっとは連邦生徒会動いてくれるといいんだけど。このレベルの話になると全然期待できないけど連邦生徒会くらいしか頼む場所がない矛盾。
これだってどれくらい効果あるかわからんけど、ケオスの種、バタフライ・エフェクトの種くらいになってくれればと思う。
イヴちゃんに身体返したあと、帰りに因縁をつけてきたチンピラを余裕でなぎ倒してるのを見て一安心。得物が普段と違うから危なそうだったら代わるつもりだったけど。あ、白石ウタハさんからメッセージが来てる。
『バイクの現物を見たよ。これは修理というか、どんな形になってもいいかな?』
(イヴちゃん、オッケーって言っておいて)
(……わかった……)
期待7割、残り不安3割ってとこだな。
(そうだ、バイクの名前考えておかないとね)
(……私、トラックに轢かれたから……)
(あっ、ごめん、嫌だった?)
(……ううん、そうじゃなくて、何か「轢き殺された」とかそういう名前のが良いなって……)
(皮肉が効いてるなあ。その線で考えようか)
(……うん……)
まあそんなすぐには出来ないでしょ。次ミレニアムに行く時くらいには考えておこう。
先週土曜は外出が長引いてストックがないので、多分今週はあと1話くらいしか投稿できなさそうです。1週間連載続けたいのですが時間と気力と体力が足りない。
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