ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
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朝一番、無事に宇沢レイサさんの顔を見られて一安心。何だかちょっと寝不足そうな顔をしていたけど大丈夫だろうか。イヴちゃんが聞いても「大丈夫です!!!」ってめっちゃ大声だったけど。
午前中はいつもの授業、お昼休みに宇沢レイサさんグループのメンバーに加えて今日は伊落マリーさんが来てくれた。下江コハルさんは正義実現委員会の会議だそうだ。
今日のご飯は宇沢レイサさんチョイスのプラウマンズランチセット。パンがチーズ載せのピザパンっぽい感じで、スライスオニオンもちゃんと炒めて味付けされていて、サラダもレタスとトマトたっぷり、追加のチーズとオニオンスープもあって美味しい。主菜はローストビーフかフライの白身魚で、朝吹ソフノさんとイヴちゃんのが魚、他の皆は肉だ。場所は大噴水が見られる木の下。
伊落マリーさん曰く、シスターフッドもお昼に会議が入ったりすることも増えているらしく、そんな時間まで仕事しなくていいのにねって気持ちになる。下江コハルさんも似たようなことを言ってたし、どこもまあエデン条約絡みで忙しいけど事務仕事は激減して定時に帰れる状態だったから、定時を維持するための策なんだろうけど。
「爽やかで良い風ですね。お外で食べるのも気持ちいいです。色々なところで召し上がってるのですね」
「私達はお昼ご飯に探究心を欠かさないからね~」
「やってみて駄目だった、みたいなのも割とあるけどね。運動場横とか」
「砂が多かったですよね」
「……どこで食べても、みんなといると、美味しい……」
ふふっと皆の笑みがこぼれる。と、ぴろぴろと伊落マリーさんと宇沢レイサさん、イヴちゃんの端末が通知音を鳴らした。
緊急ニュース速報の通知だ。災害なんかの時が多くて、皆が一瞬ちょっと緊張した顔をしたが、通知を見て緊張が解けた。
『カイザー系列企業に連邦生徒会財務室主導の強制捜査。実働にヴァルキューレ出動、シャーレも関与か』
ウケる。連邦金融法違反でカイザーのあちこちの企業と部門に捜査が入っているらしい。シャーレが直接動くのはちょっと意外だけど、アビドスの生徒に関わることだからかな。この書き方だとシャーレが不正したみたいな見出しにも読めて二度ウケちゃうね。本文ちらっと読むともちろんシャーレが捜査側としてって書いてあるけど。
「な~んだ。どうでもよかったね」
「そうですね!」
うんうんと頷きながら、ランチを再開する面々。それこそアビドスなんかみたいにカイザーが学園経済のほとんどを掌握してしまっている中小学園なんかもあるらしくて、世間的にはでかいニュースなんだろうけど、トリニティはそこまで進出進んでないしね。
「それで、私もシャーレの部員募集に応募してみようかなと、サクラコ様に相談してみまして」
「あの人、すごい圧があるよね」
「ちょっと、モユル」
「とても真面目で、優しい方ですよ」
(……怖い人だよね……)
(うーん、違うはずなんだけどなあ。僕も自信ないわ)
お祈り行くと2回に1回は顔を合わせるんだけど、毎回すげー怖いんだよな。伊落マリーさんはちょっと困った顔の苦笑いをしている。
「誤解されやすい方なのは確かですけど。そうそう、『トリニティのみならず、キヴォトス全体のお役に立てることはとても誇らしいことです』と背中を押してくださいました」
ほーん、やっぱ悪い人じゃないんだな。歌住サクラコパイセン。悪い人じゃないんだよね?
何も疑問が解けないまま、お昼ご飯が終わり、宇沢レイサさんといつもの校内パトロールで部室棟裏。性懲りも無くまた……いやあれ、様子が変だな。
(イヴちゃん、ちょっと撃つの待って)
(……うん……)
「……静かに、レイサちゃん……」
当然のように繋いだままの宇沢レイサさんの手を引っ張って、聴力を強化しなくても会話が聞こえる程度に近くの低木の陰に隠れる2人。1人が壁際にいて、もう1人の子がそれに向かい合っている。その後ろに、僕達と同じように低木の陰というか葉っぱの中というか、隠れてしゃがみ込んでいる子が2人。緊張した顔ではあるものの、どの子も悪意や害意のようなものがなく、銃にも手をかけてない。あれ、向かい合ってる子と壁際の子、2人とも同じクラスの子だな。
「……だから、あなたのことが、好きなの!」
「嘘、そんな都合のいい話、あるわけないよ……。私も好きなのに」
ほんと?ほんと!って2人とも繰り返して、真っ赤な顔をしてどっちもこくこく頷く。あっ、抱き合った。キ、キマシ~~~!!!!
(……ジル……)
(ごめんて。あっ)
2人は抱き合ったまま、興奮してとろんとした顔で会話している。
「からかわれたりしないかな……内緒にしてね」
「宇沢さんと御蔵さんも堂々と付き合ってるし、自慢したいくらいだけど……内緒にしたいなら、うん……」
「他の女の子の名前、こういうときに出さないで」
え、いま何て?って思った僕の疑問は一瞬で吹き飛ばされた。
お互いに我慢できなくなったのかキスしてる!小さな動きだけどお互いの気持ちが可視化されそうなめっちゃ熱烈なキス。ついばむようなキスだけどむさぼるようにしている。のが見えなかったのかタイミングがめっちゃ悪かったのか、隠れてた2人が飛び出してきて「やったじゃん!」「よかったね!」って言った瞬間に固まる。キスしてた2人も唇を合わせたまま固まった。
「「……見てた?」」
「お、オメデト」
「ご、ごめんね?なんか」
「……さ、早速バレた……」
「……どこから見てたの?」
「「ご、ごめーん!!」」
キスしてた2人が照れ隠しなのだろうかな?銃の安全装置を外した。わーっと声をあげて逃げた2人を、じゃれあうように明らかに当たらないように撃ちながら走って行く2人。うーんキヴォトス。
そうそう、鏡がないとイヴちゃんがどういう表情をしてるかわからないの不便だから、僕が主導権一切持ってない状態でも邪魔にならないようにしつつイヴちゃんの表情がわかるように頑張って身体モニタリングできるように練習した。
イヴちゃんは予想外過ぎたのか宇宙猫みたいな顔になっている。ちょっと情報量多すぎたかな。
向かい合ってる宇沢レイサさんは顔が真っ赤。
「あ、あはは……凄かったですね。それに、私達が付き合ってるって……」
「……う、うん……。え、えっと。邪魔しなくて……よかった……」
あれ撃ってたらえらいことになってたね。危ないだったわ。しかしめっちゃ真っ赤で顔がいい宇沢レイサさんが近い。これはもしかして、もしかしちゃうのか。吐息がかかりそうなほどだ。宇沢レイサさんはイヴちゃんの右手を両手で握る。顔が更に近くなった。イヴちゃんは動かない。あわわわ、ぼ、僕の*1イヴちゃんが大人の階段一歩登っちゃうのか……と思ったところでスマフォの通知音が鳴って、しゃがんだ体勢のまま宇沢レイサさんが飛び上がる。毎回器用だよね。
メッセージは守月スズミさんからだった。
『カイザーの件について、ティーパーティーが1時間後に緊急の会議を開催するそうで自警団にも出席要請がありました。私が出るつもりですがお2人も出席希望でしたらあわせて回答します。基本的には出席不要です』
宇沢レイサさんにはちょっと申し訳ないけど、そういう雰囲気ではなくなったので真面目な顔で目をあわせる2人。
「……私は、一応、出たいかな……」
「私は今日はこれから自治区内のパトロールの当番なので、やめておきますね」
(カイザーしばける話が出たらいの一番で出たいもんね)
(……期待……)
ちょっと、いやかなりがっかりした顔を隠しきれてないというか隠す発想もなさそうな宇沢レイサさんと別れて、ちょっとだけ大聖堂でお祈りをしてからティーパーティー主催の会議に出席した。
ティーパーティー本部の大会議室で、プロジェクタにノートPCの画面が映っていて施設の古めかしい厳かさとのギャップがちょっと面白い。
出席者はティーパーティーの桐藤ナギサさんと聖園ミカさん、当然プロジェクタスクリーン前の主催側席。シスターフッドから傍聴人として若葉ヒナタさん、正義実現委員会からは羽川ハスミさん、自警団からは守月スズミさんとイヴちゃん。救護騎士団からも人が出てるけど面識がない子だな。あ、主催席の後ろに多分資料調査担当としてなんだろうけど円堂シミコさんが出席してる。桐藤ナギサさんはちらっとだけこっちを見てノーリアクション、聖園ミカさんはニコニコ顔で自警団2人に対して手を小さく上げた。羽川ハスミさんは小さく微笑んで目礼、円堂シミコさんは一瞬だけ満面の笑顔になって目を合わせてから、真顔になって資料に目を落とした。
「皆様、お集まりくださりありがとうございます」
桐藤ナギサさんの発言を引き継いで、定刻になったので会議を始めるとのティーパーティー委員、トリニティ財務室長だかのめっちゃえらい子の言。実際の説明はこの子がやるらしい。手元のA4裏表一枚物のペーパーに現状のまとめが書かれていて、裏面にティーパーティーのロゴと図書委員会、トリニティ新聞部作成の文字。*2
実のない会議だった。まあカイザー系列の金融機関が進出しているとはいえ、カイザーローンに実際に借りている自治区内企業はそんなに多く無いし、違法性がない限りは当然学園としても関わるつもりはなく、今回は連邦金融法違反だから連邦生徒会かシャーレの要請でも無い限り、正義実現委員会が捜査に直接加わることはないそうだ。
一応義理でカイザーバンクからトリニティ学園としていくらかは借りてるらしいが、もちろんそれは合法な利息でトリニティ側が有利と言ってもいい条件だったらしく、何も影響がなかった。
(……わかってはいたけど、面白くなかった……)
(ワンチャン無いかなって思ったけどね~)
イヴちゃんの表情は判りづらいといわれがちだし、あまりイヴちゃんを知らない子から見るとスンとした顔にしか見えないだろうけど、イヴちゃん検定2級持ってる僕からすると、全力でぶー垂れてる感じ。ここに報野モユルさんがいたら「イヴちゃんご機嫌斜めじゃ~ん」ってほっぺた揉みに来るくらいには不満そう。
会議室後方でスマフォの着信音が鳴る。誰も非礼を咎めない辺り、情報収集要員の子なのだろう。その子が立ち上がって会議室入口の扉を開くと、ティーパーティー制服の子達が10人近くしずしずと入ってきた。
説明している子と、桐藤ナギサさん、聖園ミカさん、他ティーパーティーと各組織の代表の後ろから、入ってきた子達がメモを差し出して囁く。イヴちゃんの隣の守月スズミさんにも当然メモが手渡され、それを見せてくれる。
(……『カイザーへは連邦金融法違反で5億6千万円強を罰金とする』……?)
(ふーん、大炎上して手がつけられなくなる前に罰金っていう落とし前で消火しちゃおうってことか)
罰金はアビドス高校の債権を金額分接収して、連邦生徒会が利息0%の200年返済にするので事実上返済不要、今まで知らん顔してた分もこれで許してねてへぺろ、ってとこか。残りの債権も4億円になったうえに年利2.2%になるらしく、あほが一瞬イキって利息3,000%とか言った代償はそこそこ高くついたな。まーアビドス高校に対するとりあえずの着地点としてはいいところなんじゃないか?買い漁られた土地に関しては埃が出なかったってことは、ふつーに路線価(そもそも道路無い土地すらありそうだが)的には妥当な価格だったんだろう。それともよっぽど水面下でカイザーがごね散らかして妥協として借金側は諦めたかだ。確かなんか……なんだっけ?アポカリプティカの箱船?だかマッポーカリプスの運び手*3だかが埋まってるんだよな。今カイザーが持ってる土地にあるんだろうな~。横からかっさらいたい。
まだ殴り足りない感を持ってるのはこの場だとイヴちゃんと僕だけなんだろうな。もちろん、僕達の戦場はここじゃないってだけなんだが。強制捜査と称してカイザー所有のビルでだるま落としとかしたかったな~。
(……段ボール運び出すのしたかった……)
(あー、うん。ちょっとわかる)
押収した書類運び出すやつね。
連邦生徒会とカイザーの間で一種の手打ち的な決着がついた今時点でこの会議は半分以上意義を失ったので弛緩した雰囲気が漂い始めた。桐藤ナギサさんは超然としてお茶を飲み、聖園ミカさんはわざとらしく小さなあくびをする。司会の子の「それでは今日は以上で……」という決まり悪そうでしまりのない言葉で閉会が告げられ、最後に「近衛師団と正義実現委員会は基幹要員のみ、本日は各本部で宿泊してください」という一言。「以上で」の直後、この後何食べに行こうかなという顔をしていた羽川ハスミさんが凍り付いた。南無。
自警団の2人はもちろん、シスターフッドも独自の情報収集を重視しているので、シスターフッドの子のスマフォには有料の政治・ビジネス系ニュースアプリが経費で落ちていてインストールされています。
罰金刑が被害者の救済に使われるのは法解釈的にはおかしいと思うのですが、これは宝探しを諦めたくないカイザーとカイザーとの現行関係を治安維持上失えない連邦生徒会の政治的取引によるものです。
昨日書きました。今日は習い事があり恐らく明日~土曜はお休みかもしれません。書きたいこと、続きは色々考えているので続きが投稿出来たら嬉しいのですが。