ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです!   作:三山畝傍

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 レイサとイヴが部室棟裏で最初にしばき倒した不良の被害者目線の話です。


閑話1:時にはドブの中で

 彼女はどこにでもいるトリニティ学園の高等部1年生だ。周りと少し違うのは、同級生や上級生によるイジメを受けていたこと。

 初等部の頃の彼女は、自身を含めて4人のグループを率いていた。

 中等部2年次に土日を含む6日間、インフルエンザで寝込んでから学校に行くと、自分のグループが同級生の22人からなるグループの下部グループに組み込まれた事を知った。特に不満はなかった。イジメから身を守るという現実的な理由もあったにせよ、それなりに友誼を感じていた3人と離ればなれになるわけではない。自分がいなかったのだから、圧力に抗しきれなかったのも仕方あるまい。それに、新しいリーダー格の上昇志向と権力欲がむしろ新鮮に映り、これはこれで興味深いと思ったのだ。協力してやってもよい、とも。

 中等部3年の時、それなりの家格を持ってグループの人数も30人にまで増やしていた新リーダーは、ティーパーティー加入に向けた運動を始めた。いきなりティーパーティーの役員を狙うなどでもなく、グループ内外ともから見ても無理の無い運動に見えたのだ。だが、組んだ企業がよくなかった。

 元々ティーパーティー中等部・高等部のある派閥を支援していたその企業がティーパーティー内部の権力争いの一環で不正を暴かれ、一時的に権力が退潮したのだ。その煽りを食って、彼女達のリーダーは人身御供として1週間の停学処分という、普通の生徒であればともかくティーパーティー加入を目指す身としては重大過ぎる処分を受けてしまった。

 時期外れのクラス替えがリーダーのグループに行われ、彼女自身の小グループはあっという間にバラバラになってしまった。クラス替えは徹底したもので、リーダー自身は1人で問題児が多いクラスへ、残り29人は小グループ構成員が全て別のクラスになるように分散させられた。

 彼女は孤立し、新しいクラスで既に出来上がっていた人間関係の輪に入る事も難しく、浮かび上がっている、あるいは沈み込んでいる彼女に対して不良グループのイジメが始まった。

 

 トリニティにももちろん不良グループはある。判りやすいファッションをしているかどうか、上品か下品か程度の違いはあるが、やることはそうは変わらない。学業や他の実績も大して望めず、他校生ほど不良として強くない不良グループでも、自衛する術を持たない生徒にとっては大きな脅威である。

 結果、中等部3年生から高等部に上がった現在も、食費と最低限の生活費を除いた学園から支給される生活費の大半を搾取され続けていた。

 今月の上納日が今日であり、部室棟裏にまるで羊のように連れて行かれる彼女。部室棟の平和で温和なさざめき、笑い声がまるで別世界から伝わってくるようだ。

(ああ、嫌だな。どうしてこんなことになっているんだろう)

「だからさ、今月も悪いけどお願いね?」

「そうそう、これもお友達料金だから……」

 嫌らしいクスクス笑い。上納金、みかじめ料。このグループに金を払っていれば、確かにそれ以外の被害は出ない。加害主体が彼女達なのだから当然といえば当然かもしれない。だが、自分を騙す材料にはなった。

(毎月の事だし、もういいかな……)

 足下を見ると、くすんだローファーが見える。もう半年近く新しい靴も買ってない。ああ、嫌だ。本当はとっても嫌なのに。抵抗できない自分が嫌い。震える手でバッグを開いた。

 

 銃声が右から響き、嫌らしい笑みを浮かべていた1年生がこめかみに何か――銃弾に決まっているが――を喰らって倒れる。

「な、何?」

 左側からも、ショットガンの2連射音と、お腹に響くような重低音の銃撃、砲撃だろうか、の音が響き渡る。

「後ろからも!?」

「く、怯むな!」

 あんなに強く恐ろしそうに見えた不良グループがあっという間に数を減らしていく。右手から撃っているのは銀髪の長い髪、白い羽が美しい、花の髪飾りをした人。

 左手からはショットガンを持った元気そうなリュックを背負った紫とピンクの髪のもふもふツインテールの人と、白髪サイドテールで身長より大きい盾と大砲が一つになった金属の塊を持った、金属の鈍い輝きの羽の人。

 何度か廊下で手を繋いで歩いているのを見たことがある、同じ学年のカップルの人達だ。どうしてこんなところにいるのだろう、とぼんやり彼女は思った。

「……あなたが、リーダー……?」

 白髪の子が、ぼそりと不良グループのリーダーに問いかけた。

 あっという間に不良グループの構成員が倒れ伏し、残るはリーダー格だけ。

「ひ……」

 無様なほど慌ててがちゃがちゃとリロードをするリーダー格。

 場違いなほど陽気かつ大きな声で、ツインテールの人が名乗りを上げた。

「正義を求める人々のために参上!宇沢レイサ!と!」

「……と……?」

「イヴちゃんも名乗らないと!!」

 ツインテールの人は宇沢レイサ、機械の羽の人はイヴというらしい。

「……えー、チョコ大好き……あっ……」

 銃口に彼女の手が入りそうなほど大きな砲が再度工事機械のような唸りを上げると、リーダー格は地に倒れ伏した。急に色々な事が起こりすぎ、彼女の頭は思考停止してしまっていた。

 

 機械の羽の人がポーチから何かを取り出して、手際よく倒れた不良グループの上で作業をしている。

 ツインテールの人は銀髪の人に話しかけている。

「見知らぬ方、助けてくださってありがとうございます!」

 そうか、本当は自分が言わないといけないのに。と、ぼんやりした彼女の頭に思考が浮かんでは沈む。

「……白洲アズサ。たまたま通りがかっただけ」

「自警団の宇沢レイサとこっちは御蔵イヴちゃんです!」

 銀髪の白い羽の人は白洲アズサというらしい。自警団も名前は聞いたことがあった。

 ああ、羨ましい。こんな力があれば、搾取され続けなくて済んだのに。嫌だぞ、ふざけるな、って言えたのに。

 機械の羽の人は銀髪の人にぺこりと頭を下げてから、倒れていた一人の頭にキックを入れた。驚きで喉から音が押し出されてしまった。

「ひ、あ、あの……」

「Vanitas vanitatum et omnia vanitas.」

 目を合わせてちゃんと話しかけてくれる。腫れ物を触るような、あるいは無関心なクラスメイトとは違う、達観したような、意思の強そうな瞳。

「全ては空しい。でも、だからといって抵抗しないと駄目だ。……と、私は思う」

「か、格好いい……!あ!」

 3人のあまりの正しさと、美しさに耐えられなかった。

 抵抗しないといけないのはわかっていたのに。

 助けてくれたお礼もちゃんと言わないといけないのもわかっていたし、そのためにどうすればいいか聞くべきだと彼女の理性は叫んでいた。でも、あまりの羞恥心と安堵感がその場にとどまることを許してくれなかったのだ。

 

 正義実現委員会で1日収監されたらしい不良グループはちょっかいをかけてこなくなった。

 正義実現委員会に通報する、それとも自警団に相談する。そんな当たり前のことも思いつかなかった。自分で自分が助かることを諦めていたとしか思えない。辛かった日々の思い出と、解放された安堵感、自分に対する恥じらいの気持ちが、彼女達のいるクラスへ足を運ぶことを許さなかった。銀髪の人に至っては学年すらもわからない。きっと、彼女達は正しいから、強いから、優しいから。対価を求めたりはしないだろう。

 それに甘える自分が、何より情けなかった。




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