ハッピーエンドさんが好きです!でも家主さんがもーっと好きです! 作:三山畝傍
エンジンをかけるととんでもない轟音が響き渡る。いやもうこれバイクの排気音か?って笑っちゃった。この排気量、4tトラック用のエンジンと変わらんらしい。怪獣の咆吼のような轟音がテストコースを支配している。これでも静音性にはかなり配慮しているそうだ。ちなみに、このテストコース自体は楕円形だけど、横に伸びる馬鹿みたいに長い直線の終端は廃墟の柵*1らしい。そこまで行く予定はないけど。とりあえずイヴちゃんから僕に変わって、バイクのテスト走行。
ちょっとアクセルを開くだけであっという間に加速する。1秒でメーターが80km/hから160km/hへ。過給器もついてるそうで、エンジンの轟音に過給器が作動しているっぽい音が混じる。モンスターバイクだからおっかなびっくりだったけど、全然運転しやすいな。音声認識も当然ついてるのでオートバランサーをオフに。すると、途端に重心が左に寄る。やっば。オートバランサーを慌てて再度オンに。これはつけっぱなしでも良さそうだな。コースを増速しながら流し、410km/hまで出してから3周ほど流す。
やべー。これは楽しい。オートクルーズ*2もあるし普通に運転楽すぎて速度出てる認識ないくらいだ。流石エンジニア部、まともな仕事してるときは最高だなあ。盾につけたままの
速度をある程度落として、イヴちゃんに交代。事前に教えておいたし、一応予復習もしていたから、イヴちゃんも問題なく運転出来そう。流石に最高速度出すときは結構緊張してたみたいだけど。
イヴちゃんが速度を落としてテストコース横で見守っていた白石ウタハさん達の前で止める。
「どうだった?」
「……最高、です……」
「次!次私も乗せて!」
「あっ、お姉ちゃんずるい」
ヘルメットとプロテクターをしっかり装備して、曲がるときの身体の倒し方を説明するイヴちゃん。うんうんと頷く才羽姉妹。結局じゃんけんで才羽ミドリさんが勝ち、先に才羽ミドリさんが後ろにまたがった。
才羽姉妹を乗せてコースを何周かし、最高速度まで上げて歓声をあげてもらったあと、無人走行の確認。
鍛えたお陰か、走行中のバイクのシートに立ち上がってイヴちゃんも突きや蹴りができた。うーん凄い安定性。
「……すごく、良い感じです……」
「体幹すごいね?!」
「バイクには立って乗ってもいいんだ……」
「良くは無いと思いますよ?!」
バイクの上でカラテラリーはきっと必須技能だからなあ。
一通りテストしたところで、テストコースにもう一台バイクが運び込まれた。
「これは本来そのバイク、スケルチに組み込もうと思ったけど我慢した機能を全部積んだ2台目だ。いわば姉妹機だね」
コースを無人のまま軽快に走っていくバイク、見た目は似ているけど重心は中心だし、色は濃いめの赤に塗られている。
「ふふ、この機体の一番のポイントをお目にかけよう。ポチッとな」
ポチッとなって言ったー!!!!!!!!!!!!!!!??!??!?
コース上ではもっとぶったまげたことに、バイクが変形してロボットになった。
うわー!!
色んな兵器を積んでるらしく、宙に向けてデモンストレーションするロボ。あっこけた。内部からあっという間に火が出て大爆発。
「……自爆装置が仇になったか」
「……何で、自爆装置を……?」
「そこに浪漫があるから」
イヴちゃんと白石ウタハさんがハイタッチ。ええ……って顔で見ている才羽姉妹。
豊見コトリさん、猫塚ヒビキさん、他エンジニア部員さん達が消火とデータ記録媒体回収のために走って行く。
「本当はスケルチにももっと色々な機構や火器を満載したかったのだけれども。ロケット加速装置だとか、飛行ギミックだとか」
白石ウタハさんはテストコースというか、鉄屑の山になってしまった姉妹機の方を向いて目を細める。
「バイクの一番の浪漫は、スピードかなと思ってね」
熱に浮かされたような表情。うーん、技術に狂ってる目をしている。いい目だ。
「……速さは、いいもの……スピード、ぶっちぎる……」
イヴちゃんの発言もかっ飛んでるなあ。まあスピードの向こう側までは見られなかったけど、いいもん見たしね。
「スケルチには、ハードポイントも拡張性もある。いずれ変形合体機構も、飛行機能も、自爆装置も全部積むさ。ふふ、エンジンは普通の水冷V8だけど、ガスタービンに積み替えてもいい。キヴォトスのバイクで最高速度は600km/hだけど、この重量級のバイクでそれを塗り替えるのも悪くない」
「……楽しみ、です……」
にこにこする2人。いやまだこれ上があるのか。やべーな。
そうそう、バイク楽しすぎて忘れるところだった。
(イヴちゃん、前に古関ウイさんに聞いた話、確認しておかなきゃ)
(……そうだった……)
イヴちゃんがスマフォの画面を白石ウタハさん達に見せる。
「……14年前か、ずいぶん前だね」
「エンジニア部の資料ならすぐ見つかるはずです!」
「衛星?」
「ロケットなんてやってたんだ」
才羽姉妹だけでなくて、エンジニア部員さん達もへーって顔をしている。
ロケット開発事業に一番熱心なのはゲヘナ、かつてはレッドウィンターがそれに続いていたそうだ。*3
レッドウィンターは学校経済が大幅に悪化して、既存のロケットを他校の依頼によって打上げる事業だけに絞っているらしいが。
何しろ、宇宙開発というのはとにかく金がかかってしょうがない事業なのだ。いかに3大校が大きくても、単独で宇宙開発を継続するのは無理がある。ゲヘナのは採算完全度外視らしい。
「……あった、これだね」
「へえ……この軌道なら次に上空を通過するのは9時間後か」
タイミング悪かったなあ。
「衛星のアクセスと制御ができるかはちょっと調べないと駄目だけど、これは面白そうだ」
「……レーザー攻撃衛星……」
「こんな昔の衛星、ちゃんと動くのかな」
「とにかくやってみよう」
びっくりすることに5年のリース契約で、所有権自体はミレニアムにあるけどみんな忘れてたということらしい。結果はまた後で教えてくれることになった。
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