パンパカパーン! 魔法使いと合流しました!   作:尻尾の抜け殻

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とあるゲーマーの生活

「パンパカパーン! 魔法使いと合流しました!」

ミレニアム郊外、公園のベンチを贅沢に使ってぼんやりと空を眺めていると唐突にファンファーレが鳴り響いた。

いや、鳴り響いたというのは違う、大音量で叫ばれた。耳元で。

片耳を押さえながらベンチから転げ落ちた。

 

「魔法使いは10のダメージを受けた。

スリップダメージですね!」

 

上手いことでも言ったつもりなのか元凶はこちらを見下ろして誇らしげに微笑んだ。

 

「こんにちは、魔法使いのおじさん。

さあ、冒険を始めましょう!」

 

面倒な勇者に絡まれたな、と心の中で舌打ちをした。

 

 

 

「なあ、すぐに稼げる仕事があるんだが。前と同じでさ」

 

ブラックマーケット内某所、普段通りに仕事をしていると唐突にそんなことを仕事仲間に言われた。

ここに来てまだ数年ほどだが、そんな提案は例に漏れず厄介事だ。

だが、戸籍も身分証明もできない自分にはそれくらいの危ない橋を渡らなくては日々の生活はともかく、趣味に使う金を確保するには難しい。

二つ返事で承諾するとブラックマーケット内の職業安定所へと足を運んだ。

 

「またアンタか、今回も紹介か?」

 

機械兵らしい職員に仕事仲間の名前を出すと、用意していたとばかりに引き出しから契約書類を取り出した。この後仕事仲間には紹介手数料が支払われ、俺は彼の名義で仕事ができる。

仕事仲間には小遣い、俺にも小遣いというわけで一応win-winの関係を築けていると思う。

戸籍のない自分がまともな定職になど就けるはずもなく、表には出ていないちょっとした日雇いとちょっとした小遣い稼ぎで生計を立てているわけだ。

 

「なあ、前から気になってたんだが…」

 

仕事仲間の名前を契約書類に書き込み、職安を後にする。

機械兵のおっさんは席を立った自分に言葉を投げかけた。

 

 

「どこか穴場があるんだろう?

その情報を売った方が稼ぎになるんじゃないのか」

 

――穴場と言えば穴場だが。

 

「いや、気を悪くしたならすまない。

ただこんな仕事、今までほとんど達成できてなかったんだよ。

アビドス砂漠には相応のリスクがあるんだ。今日だったら砂嵐とか。

命を懸けるリスクに値段が見合ってないというか」

 

 

一見心配しているように見えるがそれは違う。

ここ、職業安定所は外の世界にあるようなハロワというよりも情報屋に近い。

情報を多方面に売れば稼げると小さなビジネスチャンスを感じているのだろう。

遠回しに仕事の価値を理解していないと言われているようなものだが。

 

 

 

滞りなく仕事を終え、報酬を受け取る。

もらえる額が高額ではないのは承知している。

貰いすぎると多くから目をつけられる、というか今回も尾行されてた。

真っ直ぐ砂嵐に突っ込んでいったから撒く必要もなかったが、尾行者がどうなったかは知らないし自己責任である。

命をかけるほどの仕事ではないはずだし程々で打ち切っているだろう。

 

 

「ご苦労様でした」

 

 

おそらく尾行を依頼したであろう職安の機械兵の声色は固かった。

嫌なら仕事を回さなければいいし、気に食わないなら消そうとすればいい。

このブラックマーケットではよくある話だ。必ず報復をするが。

そのどちらもしないのはこの採掘が彼らにとってそこまで貴重ではないということだろう。

変に価格を吊り上げようとするとどこかの企業に潰されるのがオチだし。

今くらいの報酬の仕事が丁度いいのだ。

 

さて、金も稼げたし、今日は金曜日、土日は休みだし。

 

 

明日は始発でゲーセン行くか。

程々稼いで趣味に全振りする。

それが俺のローテーションだった。

 

 

やったことのないゲーム、やり込みたくなるゲームがこの科学の町ミレニアムにはたくさんある。

一つや二つではない、探せば何百と存在するゲーム、これから何十と発売していくゲーム、それら一つ一つ数分で終わるものもあれば数日要するものもある。

 

アナログゲームが好きだ。

例えば昔ながらの温泉宿にあるようなビー玉を使ったレトロなスロットゲーム。どこかの古いデパートにあるようなガムボールをゴールに入れる筐体。正月しかしないベーゴマから面子まで、環境さえあれば熱中できる自信がある。

中古の本屋で見つけたTRPGのルールブックは未使用のまま埃が被っているが、世界観が好きなので気にしたことはない。

テレビゲームが好きだ。

最新から最古まであらゆるゲームはプレイできずとも見るだけでも価値があると思っている。プレイできるなら是非もなし。

良ゲ―から神ゲ―は言わずもがな、クソゲーこそ金を払ってでもやるべきだと思っている。

袖食う虫も好き好きで、味のしないガムも人によっては何度も噛み締める。

 

それらに費やす金ならある。時間なら捨てるほどある。

生活の基盤となるような戸籍や身分証明もないのだ、すべてが保証のない生活、安定のない世の中。

 

だったら好きなことを好きなだけするというのが大人の遊びというものだ。

俺はゲーマー、生涯ゲーマーなのだ。

 

 

ミレニアム某所、ゲームセンター。電車で移動したら到着はゲームセンターの開店時間をとうに過ぎてしまっていた。

視界の端でミレニアムのこの地域にしては珍しくドンパチしている学生や機械たちがちらほら見えるが目的はゲームなので問題ない。

 

コンビニでゼリー飲料や携帯食を買い込んでゲーセンに突入した。

 

 

――は?

 

どうやらドンパチの規模が大きかったようでゲーセンの内部にまでその被害が及んでいた。

ゲームの筐体から煙が立ち昇っていた。

先週やりこんでいたカード排出式のトレカ要素もあるゲームだ。

金だけガンガンかかるため一部から猛烈に非難されている。

大人なんで札束でガン殴りできる俺からすると場所取りに競合も少ない神ゲーだ。

 

「………」

 

煙を吹く筐体の前で呆然と立ち尽くしていると向かい側で遊んでいる学生がじっとこちらを見ていた。

横目でそちら側を見ると流行りの格ゲーの筐体で遊んでいる学生たちのようだ。

双子の片割れなのか軽く叫びながら後ろ姿の似た妹っぽい子が筐体でレバガチャしている。負けそう。

 

さて、今日はここらのカプセルホテルに泊まるつもりだし時間はある。

別のゲームをするか同じ筐体のあるゲームセンターを探すか。

考えていると機械の店員が壊れた筐体を撤去していった。

暴れていたのがどこの学生なのかによるが大体ここミレニアムことミレニアムサイエンススクールに請求が行く。

この壊れ方だと直すよりも新台を入れた方が早いだろう。

 

「あぁ困ったな…」

 

 

撤去している最中の店員が何かぼやいていた。

 

 

「この台、もう入って来ないんだよな…

代わりの台どうしよう…」

 

なんだって!?

 

「うわっ! お客さん、もしかしてこの台で遊ぶつもりだったんですか!?」

 

そうだとも、これで遊ぶためゲヘナ地区からわざわざ出向いてきたと言ってもいい!

 

「えぇ、そうなんですか…あのゲヘナから。

先月からやたらとお金入ってたのはもしかしなくてもお客さんが連コしてたからですか」

 

あぁそうだ。

…他に遊ぶ人がいないから連コしていただけだ。

遊ぶ人がいるならきちんと順番にしている(殴りかかってきた輩を除く)

 

「ああいや、過疎ってるから全然OKですよ、問題さえ起きなければ。

そういうのはプレイヤー間で解決してくれたら店としては大丈夫です、問題さえ起きなければ」

 

 

自分も身元確認や警察に突き出されたらアウトなので極力トラブルは避けるつもりだ。

 

 

「あと、別にこれは独り言ですが、食べ物持ち込んでずっとゲームするのは極力避けて下さいね。

他の人からも苦情は出ますから。

お金を降ろしてくれるのはとても良いことではありますが、貴方一人の場所ではありません。場合によっては出禁です」

 

…すんませんっした。

 

 

しっかり釘をさして店員は筐体をバックヤードへ運んでいった。

彼はバイトだったんだろう、おそらく上の人からも同じ風に思われているに違いない。

うん、出よう。

 

 

「……いやぁ聞いてたけど災難だね機械のおじさん」

 

効率を求めた結果飲食をここでやっていたが駄目だったか。

ゲヘナではいけたんだが。

 

「普通はどこもダメだと思うけど。

ゲヘナには地元ルールっていうのがあるんだと思うよたぶん」

 

 

向かい側で遊んでいる学生が聞いていたのか声をかけてきた。

選手交代で緑の子が今度は筐体で遊んでいる。

彼女は声少な目で遊んでいる。

 

ゲヘナとの治安の差ァ…ですかねェ…

その言葉をぐっと飲みこんだ。

 

 

見苦しいところを見せたなお嬢ちゃんたち。

別のゲーセンで同じ筐体を探すことにするよ。

これからは公園かどこかで飯を食べるようにする。

 

 

自分に言い聞かせるように言ってその場を去った。

 

通っていたゲームセンターから結構離れた位置にあった店で同じ筐体を見つけた時にはもう夕方だった。

結構歩き回ることになった、ミレニアムの地理に少し強くなった気がする。

普通はネットで検索すれば一発だが戸籍と身分証明の都合携帯電話そのものを契約できない。

フィールドワークは元々の職業の都合で得意だったが都会では同じようにはいかないらしい。

 

時間の浪費と達成感を感じつつ筐体の椅子に座る。

人気な筐体ではないので空いていた。

一時間くらいそのままプレイして既に一万を使いそうになっているわけだが。

レアカード掘りは辞められねぇぜ。

ワンプレイに金を払いカード印刷で金を払う。

卑劣な大人の集金方法だがこれは実は無駄が少ない。

白紙のカードを筐体にセットして筐体そのものが印刷機となっているのだ。

かつてあった100円でカード一枚出てくるトレカは出てくる順番という名の限界があったために卑劣な大人の手によって加速度的にオークションでの値段が釣り上がっていった。筐体に残ったのはレア度の少ないカードのみ、そんな悲劇は印刷する筐体では起きない。

なお印刷確率は人の尊厳を貶めるものとする。

大人しか勝たんのだ、この世界は。

ともあれ俺もそこまでガチガチにやってるものではない。

執着がそこまでないと言えばそれまでだが一通りイベントが終われば引き上げるつもりだ。終わらねぇからずっとやっているわけだが。

トレカ要素はあるが店ではもうレアカードですら売れない始末であるが、売るためにはそこでも身分証明は必要となる場合が多いため、ゲヘナにある自分の仮住まいに平置きしている。

 

筐体に取り付けられた船の舵をぶん回し、この世界では進行方向を運で決めるのかと憎しみの目を持ちながらゲーム内の妖精を睨んでいると、反射した画面から後ろに誰かが立っているのがわかった。

画面が暗転し、ばっちり目が合った。

 

 

「あっ」

 

あーすまんねお嬢ちゃん、今の周回が終わったらすぐ代わるよ。

 

「いえ、アリスはたくさんお金を持っていないので、見ているだけで大丈夫です。

あのっ、見ていても大丈夫ですか?」

 

いいよー気がすむまで見ていきなー

 

 

どうやら一見客のようだ。

見られるのは少し恥ずかしいが慣れている。

見たところ彼女も例に漏れずミレニアムの学生のようだ。

あまり人に見せたくないゲームキャラを愛でる行為も一通り終わっているし、今日はもう作業ゲーの段階に入った後だ。

それでも初めて見る人には興味をそそられるのだろう。

それから更に一時間、日が沈んで夜の時間帯となった。

学生はそろそろ帰る時間…と思ったが土日はそうでなかったらしい。

 

「気になったのですが、どうして同じカードばかり出てくるのですか?」

 

確率でレアカードが出てくるんだ。

そのレアカードの中に更にレアリティが設定されていて、俺の目的はレアカードの中の更にレアリティの高いやつってこと。

確率に負け続けているのさ。

 

「どうしてボスのマスに行けないのですか?」

 

それに関してはあえて行かないようにしている。

目的のカードはボスじゃなくても出てくるから、より戦闘回数が少ないルートを通ってるんだ。時短というか負担が少ないからな(金はかかるが)

キャラを変えれば確実にボスに行けるルートを取ることもできる。

 

 

作業に入ってる分後ろの子にも返事をする余裕も生まれてくる。

ディスプレイに反射してたまに移る少女の姿にも慣れ始めた。

 

 

お節介だが、お嬢ちゃん、家には帰らなくていいのかい。

もう夕飯の時間だろう。

いや、邪魔とか思っているわけではないんだが。

 

「アリスは待ち合わせをしているので大丈夫です。

知っていますか、学生には日曜日という回復ゾーンがあるので土曜日は無敵なんです!」

 

なるほどね、昔は金曜日を花金(華金)と言っていたが学生の場合は土曜日もか。

 

 

バイトとかしない子なのかな?

 

 

「ところで、ええと…」

 

あぁ悪いね、おじさん名前は名乗らない主義なんだ。

みんな機械顔やら機械野郎やら言ってるから好きに呼んでくれ。

それくらいしか区別できないだろ。

 

「えっ」

 

俺も君のことはお嬢ちゃんとか好きに呼ばせてもらうからさ。

 

 

アリス、と一人称でそう言っているが生憎下の名前で呼ぶのも慣れていないし。

おっ!レアカード出た!けどキラじゃない…一瞬期待したんだが。

 

 

「再スキャン完了、貴方は先生と同じヘイローを持たない外から来た人間ではないのですか?」

 

 

入れるつもりだった硬貨が落ちる。

初めてディスプレイ越しではなく彼女の方に振り返って顔を見た。

髪の長いサイドテールの学生だ、この世界の住人特有のヘイローも少し特徴的な気がする。

 

 

わかるのか?

 

「はい。アリスはおじさんのステータスを確認したのです。

着脱できる機械の装甲は防御力が高いものですが、下の肉体は人間そのもの。

さてはおじさんは全身鎧の戦士ですね!」

 

………マジかぁ。

 

「アリスは…もしかして悪いことをしましたか?」

 

いや、いいよ。お嬢ちゃん、別に生活してたら遠からずわかってたと思うし。

それが少し早まっただけだ。

しかし、もしかしてミレニアムはそういうのわかる人ばかりなのか?

 

「アリスにはわかる人ばかりなのかはわかりませんが、スキャンは容易だと思います」

 

容易かぁ………

 

「戦士のおじさんは何か悪いことをした人なのですか?」

 

まぁ生きてたら何かしら良いことも悪いこともするけどさ。

ああ、そうか、一応訂正しておく。

俺は戦士じゃなくて魔法使いだ。

よろしくなお嬢ちゃん。

 

「魔法使いですか!

ならアリスは勇者と呼んでください、魔法使いのおじさん!」

 

おっけいよろしく勇者のお嬢ちゃん。

さて、俺は用事を思い出したから今日はもう帰るとするよ。

さらばだ勇者、次に相まみえた時は共に冒険しよう。

 

そそくさとカードをスリーブの中に入れてから旅行鞄に放り込む。

背後でわあ、とかやりました、とかイベント実績解除です、とか聞こえるが言葉もそこそこで手を振って彼女と別れた。

ゲームセンターを出る前に目立つジャンパーを着た子供とすれ違い遠くから勇者の興奮した声が聞こえるのを最後にゲームセンターを後にした。

 

その日泊まるはずだったカプセルホテルは都合よく埋まっていて、公園で野宿する羽目になった。

考えすぎかもしれないが、作為的だと思わせた。

 

 

翌日、ミレニアム郊外、公園

 

「パンパカパーン! 魔法使いと合流しました!」

 

 

えぇ…人祓いしてたのになんで真っ直ぐここに来れるの…?

人なら確実に効くものなんだけどさ。

何…野生の勘? 嗅覚?

 

 

「昨日別れる前にアイテムでマーキングをしておきました!

私のマップには常にパーティの現在位置がわかります!」

 

 

想像以上にヤバい子だった。

もしかするとこの子がかなり特殊なのではないだろうか。

変に警戒する理由なかった?

後ろに続いてください、と某RPGのように昨日のゲームセンターへと連行されるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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